第一部 37話 ミア
「ここだな?
間違いないな?」
「うん。ここだよ、お兄ちゃん。
間違いなく組合って書いてある」
俺とナタリーは組合までやって来ていた。
昨日の夜に使いの人が宿に来て、組合の窓口まで顔を出すように依頼されたのだ。
何でもブラウン団長に頼るわけにもいかないし、ナタリーを一人にするわけにもいかない。
そんなわけで、俺達は四番街までやってきた。
迷子になっても頑張ってやってきた。
「よし、入ろう」
最後にちらりと背後を見る。
護衛と監視を兼ねた騎士団員がこちらを見ていた。
……何度道を訊こうと思ったか。
組合の建物は特段大きいわけではなかったが、内部には組合員と思われる人が大勢いた。
あのテーブルは『商業組合』の話し合いに見える。
向こうは『冒険者組合』だろうか。
「あの、今日ここに来て欲しいと言われたのですが」
「はい。お名前を教えて頂けますか?」
受付嬢さんの質問に答える。
「アッシュ・クレフと言います」
周囲の空気が変わった気がした。
さりげなく目を動かす。注目を浴びているのが分かった。
「お待ちしておりました。
二階突き当りの部屋までお進みください」
にこりと微笑む受付嬢さんの言葉に従って、目的の部屋までやってくる。
ノックをすると、返事があった。扉を開ける。
「こんにちは」
「……こんにちは」
穏やかな声がした。
俺が答えると、ナタリーは不安そうに俺の足へとしがみついた。
部屋の中には執務机とソファーがあった。
執務机には誰もおらず、ソファーに二人腰掛けていた。
一人はよぼよぼのおじいちゃんだ。
プルプルと震えている。大丈夫だろうか?
「大丈夫じゃよ。
心配しなくても、危害なんて加えない」
いや、俺の心配ではなく――違う。
それはどうでも良い。
「儂は組合の王都支部長。
ノム爺さんで通っておる」
「よろしくお願いします」
「うむ。よろしくの」
「そちらの方は?」
ノム爺さんの隣に座っているのは少女だった。
俺よりも年上に見えるが、人間なので同じくらいの歳だろう。
全体的に軽装備という印象で、革の防具で急所を守っているようだ。
「お前さん達には護衛が付くことになった。
知っとるじゃろう?」
やはりその話か。
『スキルマスター』から言われていた内容だ。
「ほい、自己紹介」
ノム爺さんが隣の少女に声を掛ける。
「B級冒険者のミア・クラークっす。
お二人の護衛と連絡役を任されました」
「アッシュ・クレフです。
よろしくお願いします」
俺はナタリーに目を向ける。
「ナタリー・クレフです」
「はい。よろしくっす」
ミアはにかっと人好きのする笑みを向けた。
信頼は置けるように思えた。
「基本的にお二人の邪魔はしないっす。
同じ宿に泊まりますし、最低限の尾行だけさせて下さい。
万が一の場合は大声で呼んでもらえれば参上するっすよ?」
最後は冗談めかして、ミアは言う。
顔合わせだけ済ませると、俺達は一緒に組合を出た。
護衛の騎士団員が遠くから俺達を眺めている。
「何っすか?」
俺が何かを言うより早く、ミアが声を掛けていた。
「何だお前?」
騎士団員はやや喧嘩腰で応じた。
ミアは答えずに黙っている。
「おい!」
騎士団員がミアへと手を伸ばす。
ミアが半身をずらす。それだけで騎士団員が転んだ。
「!?」
騎士団員自身も何が起こったのか、分かっていない様子だった。
遠くから見ていた俺は摩訶不思議でしかない。
ミアが避けただけで相手が転んだようにしか見えなかった。
恐らくは、スキル。
だが、それよりも気になったのは――ひょっとして、騎士団と組合って仲悪い?
読んで頂きありがとうございます!
ブックマーク、評価など頂けると嬉しいです。




