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殺人鬼転生  作者: 裏道昇
第四部 青鬼と英雄
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第四部 99話 意思

 俺は蹲って、何度も荒く息を吐いた。

 すぐ隣には青鬼の亡骸が横たわっている。


 ゆっくりと真赤の魂は霧散してゆく。

 これで、全て終わったことになるのだろう。

 

 兄さんの魂は還した。ティアナも無事だ。ナタリー達は分からないが、結果は関係ない……きっと、勝ったんじゃないかとは思うけど。


 これで運命の通り『ハーフエルフの王族が新国の王になる』はずだ。

 兄さんがいないから、その運命が変わることもない。


「エル……ティアナを出してくれ」

「別に仕舞っていたわけじゃないわよ」


 俺が声を掛けると、頭上のエルが変わらずの憎まれ口を叩いた。

 分かってるよ。姿が見えないだけなんだろう?


 しかし「……怒られなさい」と言って、エルはティアナに掛けた術を解いた。

 まるで狙っていたように、俺が横に吹き飛ばされる。


「馬鹿じゃないですかっ!?」

「痛い! 放してくれ! 頭打った……」


 ティアナがタックルの要領で飛び込んできたのだ。

 俺が悶絶するのもお構いなしに、ただひたすらに喚き立てる。


「どうして突然、私の姿を見えなくするんですか!?

 一緒に戦えば良いじゃないですかっ!」


 いや、最初からその計画だった。

 なにせティアナは青鬼の標的そのものだ。


 ましてや、相手は瞬間移動してくる。

 場所が割れたら守り切ることは不可能と言って良い。


 しかし、そうとも言いにくい。どうしたものか……。

 仕方ないので、俺は左の手の平を右拳でぽんと叩いた。


「なるほど!」

「今、気付くはずがないじゃないですかっ!?」


 ティアナは俺へと馬乗りになって、めちゃくちゃに叩いてくる。

 顔だろうが胸だろうがお構いなしで、ひたすらに叩いて来た。


「それに何ですか、あの危ない戦い方!

 ずっとあんなことを繰り返してたんですか!?」


 いつの間にか俺の胸に乗って、ティアナ側に立ったエルが「うんうん」と首を上下に振っていた。お前はいつも俺の味方じゃないな。

 

「……いや、そんなことないぞ」

「……じゃあどうして?」


 俺が視線を逸らして、小さく答える。はっきり言って嘘だ。

 いつも通りとしか言いようがない。ティアナの追及も終わらない。


「ほ、ほら……ティアナが見てたから」

「私の目を気にして何の意味があるんですか!?」

「惚れ直すかなって」

「そんなわけないでしょう……?」

「だって、俺を見てドキドキしただろ?」

「ハラハラしましたよっ」


 ティアナがもう一度、俺を叩きつける。

 そう言えば、ティアナが俺の戦闘を見るのは初めてか。


 ……連合の統一学舎の時は背中合わせみたいなもんだったし、レンブラントでは馬車の中にいたもんな。


「しかも、こんなに好き勝手に暴れて! 私に当たったらどうしてくれます!? 

 何度かすぐ隣に飛んできたし! 叫んでも誰にも聞こえてないしっ!?」


 最後は個人的な恨み言に近かった。

 まあ、実際はティアナなら何とかできると思っていたわけだけど。


 魔法で回避も防御も出来るんだ。

 ……ティアナ自身も分かってるだろうけど。


「いやぁ、運が味方したのは間違いないな」

「……私がどれだけ怖かったと思います?」


 やれやれ、と俺が額を拭う素振りをした。

 まあ、刀やら魔弾やらが飛び交ってたものなぁ。


「もうっ」

「ははは……じゃあ、そろそろ行かないと」


 最後に、ティアナは俺の頭をぱんと軽く叩く。

 俺は笑って切り出した。


 結局はお行儀良く「……はい」と頷いて、ティアナは俺の上から退く。

 やっぱり俺は締まらずに「いてて……」なんて言いながら立ち上がる。


「はい、これ。青鬼が持っていた」

「?」


 俺はティアナに黒いナイフを手渡した。

 それは俺たちをここに飛ばしたものと良く似ている。


「多分、青鬼はこれを使って『ドワーフの大空洞』の中に入ったんだ。

 ……きっと、黒鬼の魂が込められているんじゃないかな」


「……!」


 鬼たちはこれを使って『扉』を開けていたのだ。

 ひょっとしたら、青鬼だけが持っていて、毎回移動して開けていたのかも。


「これがあれば『ドワーフの大空洞』から出られるはずだ。

 ナタリーの方へ行っても良いし、王都側に引き返しても良いだろ」


 ここからの判断はオリジナルの『キース・クロス』に任せれば良い。

 怪我はあるが、動けないほどではない。上手く立ち回ってくれるだろう。


「……それじゃあ、元気で。エルもな」

「はい」


 いよいよ言うべきことがなくなって、俺は下手くそに言った。

 エルは変わらずに足元でそっぽを向いている。


「皆には……上手く言ってくれ」

「…………」


 そう言って、俺は目を閉じる。

 体を返そうと意識を向けた。


「……私は王女になろうと思います」


 ティアナは最後にそう言った。

 俺は「知っているよ」と答える。


 伝わったかどうかは分からない。

 だけど、確かに知っていたんだ。


 あの小高い丘で、襲撃されたレンブラントを見た時からだろう?

 ティアナがそう決めたから、ただの『生き残った王族』が『新国の鍵』に決まったんだと、俺は思うんだ。


 兄さんが変えた運命は『ティアナが生き残る』ことだけだろう。

 そこから先は――きっとティアナ自身が決めたんだ。


読んで頂きありがとうございます!

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