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殺人鬼転生  作者: 裏道昇
第一部 兄弟
31/314

第一部 31話 不殺の報酬

修正(※内容に関するものだけ記載します)

・2024/03/19 挿絵(※自動生成)を追加。

 レンが目を開ける。

 目の前に砕けた壁の破片があった。


 体を起こして、周囲を見回す。辺り一面は廃墟だった。

 屋敷は崩れ落ちて跡形もない。動く物は一つも見つからなかった。


「姫」


 レンは呟くと、最後に見た姫の場所へと歩き始める。

 レンの体には傷一つなかった。


 あちこちに事切れた姫の従者や関係者が転がっている。


 ――助かるはずはない。


 無意識に頭を動かしてしまう。


 ――ああ、レンの知識があるな。

 ――あいつは魔術が得意だったんだな。

 ――ずっと欲しかった、この世界の常識も手に入った。


 ――『影の精霊』は無事だな。

 ――なるほど、影の中までは焼き払えないか。

 ――あいつはリサと言うんだな。


 ――犯人は決まっている。

 ――自分の妹とその協力者を殺すために、この辺り一帯を焼き払ったんだ。


 ――地下道の整備で異変?

 ――テロリストが地下道を使って地上に大魔法を放ったってか?

 ――自分は阻止するために席を外して助かったと言うんだろう?


 ――はは、良く出来たシナリオだ。

 ――だけど俺は知ってるぞ、自作自演なんだろう? バレバレだよ。

 ――そりゃあそうだ、まさに俺の手口だッ!


 姫のいた場所までやってくると、レンは無言で瓦礫を退けていく。


「姫」


 姫が見つかった。

 心の底から驚く。姫は生きていた。

 いや――まだ死んでいなかった。


 近くにいた側近が幾重にも身を挺して盾となっている。

 魔術師たちが咄嗟に張った盾の名残がいくつもある。


 ――大したものだ。俺は反応すらできなかった。

 ――この人たちは全員、守るために動いたのか。


 レンは姫の側に座り、その顔を覗き込んだ。


「……ぁ、レンだ。

 良かった。無事だったんだね」


 レンには信じられなかった。

 恐らく姫が分かっているのは、突然自分が瀕死になったことくらいだろう。

 その情報を持っているから、レンの顔を見て安心したのだと。


「いえ」


 ――馬鹿か。もう少し気の利いたことも言えないのか。

 ――姫が瀕死で俺が無事。それで良いはずがない。

 ――それが一番悪いはずなのだ。


 でも、言葉が出なかった。

 時間はあまり残っていない。


「だけどね、レン。おかしいんだ。

 何度考えても、おかしいんだ」


 ボロボロに微笑んで、姫は首を傾げる。


「何が、ですか?」


「だって『兄様』なのにね。

 おかしいよね……?」


 思わず息を呑む。何も言えなかった。

 どうしても、言えなかった。


「おかしいなぁ……?」


 首を傾げるように、姫が息を引き取った。

 その頬に涙が伝う。


 レンは思う。

 聡明な姫だった。自分が兄に殺されたと正確に分かっていたのだ。

 ただ、兄が自分を殺す理由が分からなかった。

 よく分からない理由で兄を警戒する必要性も感じなかった。

 そのまま、最期の最期まで分からなかったのだ。

 自分が殺される理由が分からなかった。

 当然だ――そんなものはない。ただの猜疑心と嫉妬だ。


 レンは何度も姫の亡骸を眺めて、何度も死んでいることを確かめている自分に気付く。


 無駄だと分かっていながら、最後にもう一度だけ確かめて、諦めた。

 大魔法は屋敷のあった区画をすべて吹き飛ばして、瓦礫の山だけが辺り一面に広がっていた。


 苦鳴も尽きた静かな夜。

 死が闇に溶けていく様な気がして、美しいけど肌寒かった。

 両膝を突き、亡骸に囲まれ天を仰ぐ。


 ――ああ、本当だ。

 ――確かに綺麗な満月ですね。


 誰よりも優しい笑顔に叱られたとしても。

 人であるために必要な枷を引き千切ってでも。


「殺すべきだった……」


 元従者が呟いた。

 げしげしと彼を蹴りつけた、小さな暴君はもういない。


「……殺せば良かったッ!」


 殺人鬼が吠えた。

 人でなしの彼を止めてくれた、気高い魂も消え去った。


 主も枷も失って、彼は晴れて自由の身となった。

 それが何を意味するのか、正確に知る者は――決して多くない。


挿絵(By みてみん)

ここまで読んで頂きありがとうございます!

このシーンがちょうど『第一部 兄弟』の中間地点になります。


感想、評価、ブックマークを下さった方、本当にありがとうございます!

大変励みになっております。


死ぬ気で頑張りますので、よろしければお付き合いください。


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