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殺人鬼転生  作者: 裏道昇
第四部 青鬼と英雄
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第四部 93話 本当のお別れ

「腕が……」


 ナタリーはミアの様子に俯きそうになったが、どうにか堪える。

 セシルの治療が間に合えば良いが、今はその余裕がない。


 幸い、命に別状はないようだ。

 まずはゼノと黒鬼を倒さなくてはならない。


「……白」


 同時に黒鬼も呟いた。

 白鬼はすでにフレアの姿から元の白い鬼に戻っている。


 白鬼が倒れたことを確認して、アリスは強く踏み込んだ。

 ここで決めるしかないと直感している。


「氷よ、突き刺せ」


 アリスの氷魔法。

 黒鬼は迎え撃とうと、踏み込んで――


「黒鬼!」

 ゼノが慌てたような声を出した。


 ――黒鬼が急いで振り返る。


 見れば、真っ直ぐに刀が迫っている。

 黒鬼自身が打ったものだ。先ほどまで白鬼が使っていた。


 理由を考えて、黒鬼は馬鹿馬鹿しくなった。

 ミアが最後の力で刀を飛ばしたに決まっている。


 実際、刀の向こうでは「あー、もう動けないっすねぇ」と言わんばかりのミアがこてん、と体を倒した。

 

 黒鬼が大斧を振るい、刀を弾き飛ばす。

 続けて大斧の石突で地面を叩いた。地面から壁がせり上がる。


 背後のアリスへの対策だろう。実際、氷を防いで見せる。

 さらに、援護のためにゼノが両腕を伸ばした。


「――――!」

「地面よ、防げ」

「――焼き払え」

「……ぴ」


 合計、四つの魔法が同時に行使される。

 ゼノの魔法が巨大な青白い炎の束をアリス目掛けて放つ。


 アリスの魔法が地面から壁を作り出した。ゼノの魔法に対する盾とする。

 ……ただし、黒鬼が作った壁の土を使用して。アリスは自分が壁を作るついでに、黒鬼の壁を消したのだ。


「……なんと」


 自分が作った土壁が消えて、黒鬼はアリス――いや、加奈の顔を見た。さらに意外そうな声を出す。それは本当に『びっくり』というような表情だった。


「ぐぅ……」


 背中を向けた黒鬼に加奈の準備していた『黒炎』が直撃する。

 しかし、ゼノの強力な魔法はアリスの壁を削ってゆく。


 それでも、最後の最後で突破はさせない。

 いつの間にかやって来た小さな青い小鳥が障壁を張って、防ぎ切った。


「風よ、吹き飛ばせ」

「風よ、切り裂け」


 最後にアリスが移動を。加奈が斬撃を。

 一息で距離を詰めて、右手を払う。黒鬼の首を落とした。


 黒鬼は地面に転がった自分を不思議そうに眺めて、最後まで納得出来ないように鼻を鳴らす。その様子に、思わずアリスは「頑固者」と言いそうになった。


「青。せめて、鬼たちだけでも」


 やがて黒鬼が目を閉じる。

 最期の言葉は鬼たちの生みの親としてのものだった。




 残るはゼノ一人。

 しかし、アリスと加奈、加えてピノまでいては勝敗は決していた。


 ゼノは何度も魔法を放つが、全て打ち消されていく。

 魔法の技量では明らかにゼノが上である。


 しかし、相手は必ず二手以上使って確実に相殺してきた。

 ゼノの表情には焦燥が浮かんでいる。


 それはエルフとしての表情だった。

 ハーフエルフではなく、本来のエルフとしての肉体さえあれば、と。


 アリスとピノが迫ってくる。

 その向こうに見えるミアだって、今は倒れているが、どうせ機を見て動き出す。そういう奴だということは嫌と言うほど分かっていた。


 最後の嫌がらせとして、ナタリーへとありったけの魔弾をぶっ放す。

 それをアリスと加奈、ピノが弾いた。


 それを彼は悲しく思う。

 今の自分では、この程度の魔法しか扱えないことが悲しかった。


 やがて、アリスがゼノを組み伏せる。

 馬乗りになり、その右手が心臓に添えられた。


 ナタリーがゼノに歩み寄る。

 彼はその姿を忌々しそうに見た。


 本当のところ、彼は全てを利用していた。

 新国はもちろん、鬼もドワーフも。何もかも。


「また駄目なのか?」


 それでも、成功した試しがないのはどうしてか。

 何度やり直しても、上手くはいかない。


 運命の存在を知って、変えようとしても失敗した。

 結局の所、あの殺人鬼を制御し切れなかった時点で失敗していたのだと思う。


「……そうね。きっと駄目だと思う。記憶が残っていることが良くない。

 だって――あんたはもう、エルフじゃないでしょう」


 ハーフエルフの『ゼノ・イリオス』として生きれば良かったのだと、ナタリーは言った。前世のことなど忘れれば良かったのだと続けた。


 だが、頷くことはできなかった。

 それが出来れば苦労はしないのだ。


 ドワーフはすでに割り切っているようだが、彼は諦められなかった。

 この世界が人間のものであることを許せそうにない。


「……せめて、青鬼の成功を祈るとしようか」


 ゼノは目を閉じる。

 アリスが氷の魔法でその胸を貫いた。




 もう無理だ、とグレイとセシルが叫ぶ。

 今度はそちらへと戻りながらミアを回収した。


「……?」


 次は追ってきた兵との戦いだとナタリーは身構える。

 しかし、兵たちは一向に戦おうとしなかった。


 まるで自国の王が死んだというのに、戦う必要を感じていないような。

 どこか実感が湧かないような様子だった。責任者を呼んできます、なんて言い出す始末だ。


 きっと――それは運命の強制力だった。

 本来の歴史へと戻すための力だろう。


 ティアナを王にしようと動き始めている。

 ナタリーとしては首を傾げるしかないのだが。


 実際の戦闘時間は呆気ないほどに短かった。

 問題はティアナとキースを連れていかれたことだけ。


 他は完璧だったと言って良いだろう。

 しかし、それは致命的な傷になりえる。


 ……最終的な決着も持っていかれたことになるのだから。

 ゼノ・イリオスを倒しても、ティアナ・クロスが死ねば運命は変わる。


 要はティアナと青鬼のどちらが生き残るか、だ。

 キースと青鬼と言い換えても良いが。


 だが、やはりナタリーはそんなことは知る由もない。

 きっと、知ろうとすればいつでも知ることができた。


 幼い頃、加奈に訊ねれば答えは返って来ただろう。

 今までだって、深く考えればすぐに結論も出ただろう。


 だって余りにも本質が『似すぎている』のだから。

 いつまでも『変わらない』と言うべきか。あるいは『治らない』のか。


「……ふふ」


 彼女は自分の言い草に思わず笑ってしまう。

 今のはちょっと酷すぎた。これではあまりにも有名な慣用句ではないか、と。


 だが、答えに興味もない。

 本音を言えば知りたくもないのだ。


 だから彼女の感想は一つだけだ。ずっと隠してきた感情だった。

 あくまで彼は『キース・クロス』として接してきたのだから。


「これで――本当にお別れかな」

 悪戯っぽく呟いた。


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