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殺人鬼転生  作者: 裏道昇
第四部 青鬼と英雄
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第四部 91話 好機の終わり

 ミアが走り出す。

 確かにこちらが足を止めるべきではない。


 俺も後に続いた。

 ミアがスキル『引力』で白鬼を手繰り寄せたのが見える。


「……!」


 しかしスキルを使ったはずのミアが顔を歪ませる。

 ……あれはまずい。


 逆に白鬼は踏み込んだのだ。

 引かれる力を利用して、速度を上げる。


 白鬼が刀を抜いた。ミアが急いで屈む。

 さらにスキル『斥力』も使ったのだろう。


「あ、危ないっすねぇ」

「……戦いづらいですね」


 冷や汗をながしつつ、ミアはその一撃を避けていた。

 フレアの姿をした白鬼が不愉快そうに呟いた。ミアのスキルについてだろう。


 俺は一瞬だけ迷うが、その白鬼へと魔弾を放つ。

 これではミアの負担も重いだろう。


「無視はないじゃろ」

「……あ、ごめん。いたのか」


 すぐに黒鬼が割って入る。

 魔弾を弾くと軽口を応酬した。


 そこからは乱戦だった。

 二人と二匹が混ざり合うように戦い合う。


 白鬼がミアへと踏み込んだ。先の一刀から返す刃でミアの首を狙う。

 ミアは軽く身を屈めると、ギリギリで避けながら白鬼の手首へと手を伸ばす。


 白鬼が急いで刀を引いた。そこに俺が踏み込む。

 死角に回り込みながら、ナイフで斬り付けた。


 しかし、黒鬼が地面から槍を出して俺を牽制する。

 俺が急いで腕を引いた。ミアは手首を諦めて懐へと飛び込む。


 そのまま白鬼の腹へと肘を叩き込もうとする。

 だが、それよりも早く白鬼が後ろに跳んだ。当たってはいないだろう。


 俺の頬に風が当たる。威力を風で相殺して、そのまま逃げたのか。

 今度は黒鬼が大斧を俺へと振り下ろした。


 俺は急いで横に跳ぶ。

 さらに障壁を使って頭上へと回避した。


 黒鬼は大斧で叩いた地面から石槍を出してミアを狙う。

 ミアが嫌そうな顔をしながら、白鬼の方へと転がった。


 加えて『引力』も使って、受け身を取って白鬼へと迫る。

 白鬼も迎え撃とうと腰を落とす。


 俺は上空から一度で撃てる最大数の魔弾を放った。

 さらに『青い幻』でミアには当たらないように障壁を展開する。


「――――!」

「「魔弾よ、貫け」」


 ここでゼノが動いた。一言で無数の魔弾が放たれる。

 この瞬間のために集中を保っていたアリスと加奈が応じた。


 いくつかの撃ち漏らしはあるものの、俺たちには魔弾が届かない。

 結果、ピンボールのように俺の魔弾が跳ね回る。


 ミアは当たらないと知っている。迷わず白鬼へと向かう。

 対する白鬼は魔弾を一つ弾いて後ろに跳んだ。


 もう一度風を使って、白鬼はミアと距離を取る。

 俺は着地しようとするが、そこに黒鬼が踏み込んできた。


 大斧を短く持って、穂先で俺を突く。

 俺は障壁を斜めに張って、大斧を黒鬼の左側に弾いた。


 同時に俺は左足を軸にして、時計回りに回転する。

 自分の障壁を迂回するように、逆手に握った右のナイフを黒鬼の背中に突き込もうとする。


 そこに強風が吹き込んだ。

 俺と黒鬼が両方とも転がる。

 

 受け身を取って見れば、白鬼が刀をこちらに向けていた。

 不利と見て、黒鬼ごと吹き飛ばしたのだ。

 

 黒鬼も同時に立ち上がって俺と対峙した。

 迫る魔弾の一つを、黒鬼は左腕だけで弾いて見せる。


 ――?


 そこで、俺は違和感に気が付いた。

 エルの能力で強化している耳が想定外の音を拾ったのだ。


 まるで足音のような音は王城から聞こえてきた。

 俺は僅かに耳を澄ます。確かに足音だ。


「こっちだ!」

「……来やがった」


 とうとう王城へと続く道から声まで聞こえてくる。

 すぐにグレイが呟いた。城からの増援が来たということだろう。


「集中力が足らんな?」

「……!」


 俺が一瞬だけ気を取られた瞬間、黒鬼が大斧を上から叩きつけてくる。

 大きく後ろへと跳ぶが、例の石槍がいくつも迫った。


 障壁を幾重にも張って、何とか防いだ。

 しかし、障壁はすぐに砕けてしまう。


「ん?」


 そこで違和感に気が付いた。

 ちょうど正面に石槍がない空間がある。


 黒鬼が大斧を振り下ろしているのが良く見えた。

 それはまるで『道』のようで――。


「ッ!」


 黒鬼の意図に気付いて、急いで腕を交差する。

 首を守るように体を縮ませた。


「……ぐ」


 直後、大斧を引く力を利用して黒鬼が飛び込んできた。

 一直線に大斧の横を通って『道』を抜ける。そのまま俺を蹴り飛ばした。


 二度三度と転がって、どうにか受け身を取る。

 急いで体を起こすと、そこはティアナの隣だった。


「兄さん?」

「大丈夫……でも」


 ティアナが心配して詰め寄ってくれる。それを手で制す。

 しかし、今度は俺の首目掛けてナイフが飛んできた。


「鬱陶しいな」

「……酷い言い草じゃな」


 細心の注意を払って、俺はナイフを払う。

 間違ってもティアナに当ててはいけない。


 兄さん同様、俺も運命を変えかねないんだ。

 そんな結末はごめんだった。


 黒鬼が放ったナイフは俺のナイフに弾かれて、俺とティアナの足元に転がる。黒鬼は変わらず軽口を呟いた。


「襲い掛かって来たのはお前らじゃよ」

「…………」


 国ごと攻めておいて、よく言えるものだ。

 俺が言いたいことは分かっているはずだが、黒鬼は気にもしていない。


「……いつだったか。赤と青のコンセプトは伝えたな。

 当然、白と黒のシリーズにもコンセプトがある」


 白鬼と黒鬼が造られた目的ということか。

 赤鬼と青鬼は魔力の代用という話だったが……。


「白と黒のシリーズは汎用性を求めた。種としてのお前たち……人間のような。

 その上で、個体としての弱さを克服しようとしたんじゃよ」


 黒鬼はまるで講義でもするように淀みなく話している。

 人間が持つ数の強さを別のアプローチから持たせようとした、と。


「白は他者を模倣することで、あらゆるヒトを収集してゆく。

 人間が自身の外に増えるのだとすれば、白は自身の内を増やす」


 俺は黒鬼を観察する。

 その姿から感情は読み取れない。


 しかし、納得できる部分もあった。

 ……白鬼が姿を奪うのは他者の一部を取り入れていたのだ。


 それは、間違いなく自身の進化と言って良いだろう。

 化ける相手が増えれば増えるほど、出来ることも増えていく。


「そして黒……ようするに、儂じゃな。儂は人間同様に外を増やす。

 ただし、増やすのは儂自身ではなく、道具や武具の類じゃ」


「……!」


 やはりそうか。

 黒鬼の能力は『錬金術』なんかじゃない。あれは大斧の能力だ。同様に風は刀の能力だろう。能力を使ったんじゃない。能力を持った武器を使ったんだ。

 

「ははは! やはり気づいてたか。要は外付けじゃよ。

 儂は能力を持った道具が生み出せる」


 厄介な能力なのは間違いない。強力な魔法やスキルを武器に付与できるのだから。元々、アリスも魔道具は珍しいと言っていた。余程貴重なのだろう。

 

「中でも最高傑作はソレじゃ」

「?」


 そう言って、黒鬼は俺とティアナの足元を指さした。

 俺はちらりと目を向ける。そこにはナイフがあった。


 いつの間にかナイフは赤く光っている。

 それは見覚えがあるような光で――


「仕組みが複雑で、発動まで時間は掛かるがな。

 そのナイフには魂を入れることが出来るんじゃよ……誰の魂だと思う?」


 ――それは兄さんの魂が持つ『真赤』の輝きだった。


「やば――!」

「兄さん?」


 俺は急いでティアナの腕を引いて、後ろへと跳ぼうとする。

 青鬼の能力は自分の魂を消費すると聞いていた。


 そうなると、黒鬼の狙いは決まってる。

 しかし、黒鬼の時間稼ぎは成功してしまった。


「さあ、青のところへと『帰って』もらおうか」

 そうして、俺とティアナはナイフと一緒にその場から退場した。




「キース?」

「……うそ」


 グレイとセシルが呆然と呟いた。ミアが小さく舌打ちする。

 アリスが集中を解かなかったのは奇跡に近いだろう。


「……やられた」

「危ない危ない。これならばまだ戦える」


 ナタリーが歯を噛んだ。

 今のは自分が気付くべきだった、と。


 逆に黒鬼は安心したように笑う。

 肯定するように、背後から聞こえる足音がさらに大きくなった。


 ――撤退するべき?

 ――いや、大丈夫。来ている兵は多くない。

 ――グレイとセシルでしばらくは抑えられる。


 ――問題は?

 ――決まってる。キースとティアナがいないことだ。


 主力の一人と守るべき相手が消えた、とナタリーは分析する。

 さっきまでは明らかな有利だった。今は五分と計算する。


 ――それだけじゃない。

 ――この場にいない青鬼を活用された。


 これではもはや好機とは呼べない。

 対する黒鬼は快活に笑う。


「これであっちの勝敗次第じゃ。

 儂は青だけが生き残っても別に構わんよ」


 ――その通り。

 ――問題はあたしたちが勝っても、青鬼が大局を覆せることだ。


 相手の狙いがティアナだけだとすれば、青鬼がそれを達成することは不可能ではない。決着は向こうで付いてしまう。


 実際は青鬼以外ではティアナは殺せない。

 ナタリーは知らないが、敵は目的の達成に大きく近づいたと言って良い。


 ナタリーは改めて黒鬼を睨む。

 こういう場面のために、今まで手札を隠してきたのだ。


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