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殺人鬼転生  作者: 裏道昇
第一部 兄弟
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第一部 30話 人でなしの枷

 姫は抜け出してきたパーティー会場へと慌てて戻り、レンに王子を案内するように言った。


「アルバート殿下。どうぞこちらへ」


 恭しく礼をして、王子を案内する。

 屋敷の廊下を歩いてゆく。屋敷の庭園が会場だった。


 レンがちらりと王子へ目を向ける。

 金色の髪に蒼い瞳。ミーシャ姫と違わぬ美貌だった。


 しかし、どこか翳ったような美貌に見える。

 疲れた表情のせいか、あるいは濁ったような瞳の輝きか、レンは少しだけ考えた。


 次に周囲へと視線を飛ばす。

 全員庭にいるのだろう。廊下には誰もおらず、自分と王子と側近一人。レンはさらに考える。


 ――殺すか?

 ――しばらく殺してないし。このままだと面倒に巻き込まれそうだし。


 手段をいくつか考え、すぐに止める。


 ――まただ。

 ――殺そうとすると、妙な抵抗を感じる。


 一瞬、レンは姫を思い浮かべた。

 しかし打ち消す。


 ――それとは別だ。

 ――そんなことで俺は止まれない。


 王子が庭園に着くと、表面上は温かく迎えられた。

 レンは王子へ一礼して下がった。


 仕事も一段落したので、庭の端で壁に軽くもたれながら、レンは姫の誕生日パーティーを眺めることにした。


 パーティーは立食風だった。

 姫らしく質素でありながらも楽しめるような工夫がされている。

 招待客も身分の高い人だけではなく、姫が世話になっている人を広く集めていた。


 姫は兄と会えたことが嬉しいのか、楽しそうに話していた。

 逆に周囲は王子が姫を敵視していることを知っているので、ピリピリと緊張した空気が漂っている。


 感覚的には一時間ほど過ぎた頃、それらは急に終わりを迎えた。

 王子への伝令がやって来て、整備中の都市地下道に異変があったので指揮を取ってほしい、と伝えたのだ。


「すまない、ミーシャ。仕事が入ってしまった」


「大丈夫よ、兄様。今日は来てくれてありがとう」


「ああ」


 レンは庭を急いで出て行く王子を眺めていた。

 扉付近の壁にいたから、王子の表情が見えた。


 ――笑顔?


 そして、王子は屋敷を出て行った。

 帰りの案内を務めた使用人が戻ってくる。

 気落ちした姫と、安心した従者一同が残された。

 そのタイミングだった。


「地震?」


 素早く反応したのはレンだけ。

 しかし、揺れは大きくなっていく。


 それはやがて地響きとなって、すぐに庭はパニックとなった。

 レンは理由も分からず姫を見る。

 直後、白い光が視界を埋め尽くした。




 その日。

 ハーフエルフの小国で、白い光が天へと立ち上った。

 森を越えた先の王都からでもはっきりと見ることが出来たという。




 レンが目を開けると、そこは真っ暗な空間だった。


「やあ」


 軽く混乱していると、レンと瓜二つの人物が影から現れて挨拶してきた。

 平和そうな笑みでへらへらと笑っている。


「ッ!」


「初めまして。本物だ。

 君にはこれだけ言えば分かるだろう?」


「……なるほど。まだいたのか」


「外には出れないんだけどね」


「はは、どうだった? 俺のレンは」


「駄目駄目、話にならない。

 君は悪い奴だ。本当に姫の教育に良くないね」


 はあ、と溜息を吐く。


「こんなに簡単に人を殺そうとしちゃ駄目だよ」


 本物が当たり前のことを言った。

 レンは思わず笑みを浮かべる。


「何度、俺が止めたことか。

 酷い人でなしがいたものだ」


「あれはお前だったのか」


「そうさ、他にいないよ」


 レンは「そりゃそうだ」と肩をすくめた。

 外からは止められない。


「……じゃあ、俺は行くよ」


「代わりに行こうか?」


 本物の言葉に、レンが割と本気で提案した。


「ははは、ふざけるなよ?」


 初めて本物が笑みを消した。


「この役目は譲らない――姫と一緒に行くのは俺だ」


 そして再び、へらっと笑って続ける。


「他はやるよ」


 そして本物は背を向けて、歩き始めた。

 その足取りに迷いはない。


「ああ、そうだ」


 本物は足を止めず、肩越しに振り返った。

 口元を歪めながら微笑んでいる。

 気のせいでなければ、心配しているように見えた。


「あんまり悪いことをしたら駄目だよ?」


「…………」


「俺がいなくても、君は人なんだから」


 本物が後ろ手にひらひらと手を振った。


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