表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殺人鬼転生  作者: 裏道昇
第一部 兄弟
3/314

第一部 3話 アッシュ

 目を開くと、見知らぬ女の子が泣いていた。


「お兄ちゃん、死んじゃやだよぉ!」

「あ、あの……痛ッ」


 体を起こそうとすると、全身が激しく痛んだ。


「お兄ちゃん?」

「お兄ちゃん、なのか?」


 お互いに首を傾げた状態で三秒ほど沈黙した。

 金髪金眼。西洋風の顔立ち。随分とまあ美人だなあ。


「お兄ちゃんが生き返った!」

 大声で騒ぐ見知らぬ女の子。


 視界の端でメイドさんが走っていくのが分かった。

 本物のメイドさんだ、なんて場違いなことを考える。


 ……だから罰が当たったのかも知れない。


「やったぁ!」


 女の子が抱き着いてきたのだ。

 決して力は強くない。しかし全力のハグである。


「……痛、い」

 バタバタと慌ただしい足音が響く。


「アッシュ? 目が覚めたって……」


 恐らく母親のものらしき声は聞こえるが、答える余裕はない。

 がく、と全身から力が抜けて、意識が遠のいてゆく。


 妹に全身を締め上げられながら母親の金切り声を聞き――意識を失った。

 最初の記憶である。


「ああ、無事でよかった。

 もう意識ははっきりしているのですね?」


 幸いにも数分程度で目を覚ました俺は先ほどの女性と話していた。

 頷く。痛みはあるが、命の危険は感じていない。


「きっと奇跡ね。ナタリーにはきつく言いつけておかないと」

 ナタリーとは先ほどの少女だろう。


 メイドさんが羽交い締めにして、この部屋から連れ出していった。

 泣きながら俺に助けを求める少女は流石に哀れだった。


「一度は心臓が止まったのですよ。

 でもナタリーだけはそばを離れようとしなくて」


 バタン、と扉が開く音。

 続いて廊下を走る音が聞こえてくる。


「アッシュ!」

 二人の男性が部屋に駆け込んでくる。


 一人は整った身なりで、俺の感覚だと二十代後半というところか。

 もう一人は白衣を着ているが、こちらはもう少し年齢が高そうだった。


「本当に、目覚めたのですか」

 白衣の男性が呆然と呟いた。


 恐らく医者なのだろう。

 急ぎ足で俺の元までやってきて、脈を取り始める。


「お前は盗賊からナタリーを庇って大怪我を負ったのだ。

 一時は心臓が止まったのだが……よくぞ持ち直した」


 父親なのだろう。服を軽くはだけて、俺の胸元を確かめた。

 釣られるように目を向けると、胸には大きな傷跡があった。


 ――違う。

 この体の持ち主は死んだんだ。


 その後、俺の魂が入った。

 だから生き返ったように見えているんだ。


 この時、ようやく俺は今の自分の体をしっかりと見た。


 随分と小柄なようだ。まだ十歳前後か?

 前世の俺よりはがっしりとしているようだけど。


「驚いた。確かに心臓が止まっていたはずなのに、今は健康体です。

 体調が悪いなどはありますか? 目は見えますか? 私が誰か分かりますか?」


 ――最後の質問はまずい。

 ――普通に知らない。どうしようどうしよう……。


「見えます。でも、誰なのか思い出せません」

 パニックになった俺は『記憶喪失作戦』に出た。


 咄嗟の言い訳だったが、効果は抜群だった。


「ああ、そんな……」

 まず母親が崩れ落ちた。父親が支える。


「お前はハーフドワーフのアッシュ。私の息子だ」

 支えながら言うことじゃない気がする。


「お兄ちゃんはね、勉強は苦手だけど運動は学校一だよ!」

 妹がメイドを引きずって入ってきた。体力馬鹿、と言いながら。


「ごめんなさい、ごめんなさい、旦那様。

 止めたのですが……どこにこんな力がッ」


 最後にメイドの謝罪が続く。


 ――ああ、家族がいるとこんなにも賑やかなのか。良い人たちみたいだ。

 思わず笑ってしまった。


「うん。一時的な記憶の混濁だと診断します。

 今日はゆっくりと休ませてあげてください」


 医者の言葉を最後に、皆が部屋から出て行く。

 明かりが消える頃には眠りに落ちていた。


読んで頂きありがとうございます!

ブックマーク、評価など頂けると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

以下のサイトにURL登録しています。

小説家になろう 勝手にランキング
cont_access.php?citi_cont_id=669863801&size=200

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ