第四部 83話 英雄譚
出口の『扉』付近の広場でもう一夜明かすことになった。
明日はいよいよ戦うことになるだろう。
夕食を食べ終わると、俺は本を読み始めた。
いつの間にかグレイとセシルがやってくる。
「嘘だろ、キースが本を読んでるぞ?」
「……なるほど、明日の天気を操る作戦」
「ははは! 土砂降りの大雨だな? 災害の心配をした方が良いか?」
「……確かに。キース? 読みすぎには注意してね」
二人はまるで俺を心配する風を装って、喧嘩を売ってくる。
あまりの言い様に俺は二人をきっと睨みつけた。
「ティアナからもらった本だよ。別に良いだろ、俺が本を読んでも」
俺がしっしっと手を振ると、二人はしぶしぶと去っていった。
みんなが寝た後も、俺は見張りを兼ねて本を読んでいた。
ティアナがくれたのは英雄譚だった。どこか愛嬌のある英雄たちの物語。
それはきっと最後の夜。
僅かな明かりを頼りにして、俺はラスト一行を読み終えた。
ありきたりで王道な御伽噺だった。まさに英雄が大暴れするような。
俺はどこか懐かしいストーリーを思い返しながら周囲を見回す。
広場ではみんなが呑気に眠っていた。
寝息や寝言が聞こえてくる。
少しの間、その光景を目に焼き付ける。
もしも許されるなら、何かを持ち帰りたかった。
そして――柄じゃないな、と小さく笑う。
「……お腹すいた」
セシルの寝言が聞こえてくる。
「晩御飯なら食べただろ……」
思わず声の方向を二度見する。グレイが寝言で返事をしやがった。
「……いつもより少なかった。きっとキースが食べた――くぅ」
セシルがさらに答える。俺に冤罪が掛かった!?
「うぅ……ごめんなさい……それは私です……ごめんなさい……」
ティアナの呻きが聞こえる。犯人も見つかったらしい。空腹だったのか?
普段からセシルは食いすぎだから全然問題ないんだけどさ。
俺は思わず口元を押さえる。こちらの方が性に合っていた。
それに、持ち帰るならこういうのが良い。
俺は両手を口元へ添えると、隣のティアナへと近づいた。
「太るぞ?」
小さく囁いてやった。
「うぅ……うわーん……うわーん……」
悪夢でも見ているのか、ティアナは魘され始める。
俺はしばらくの間、その様子を眺めていた。
十分に堪能してから、俺は小さく礼を言う。
するとティアナは嬉しそうに笑った。
いつの間にか、今度は幸せそうに寝息を立てている。
俺は満足して軽く目を閉じた。
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