第一部 28話 『誠意ある質問』と『勇気ある回答』
恐ろしい情報交換を終えて、俺とブラウン団長は宿へとやってきた。
立派な宿は数人の青いローブを着た魔術師団員が護衛していた。
その全員が緊張した様子でブラウン団長と話している姿を見て、今更になって「ああ、すごい人なんだなぁ」なんて思った。
部屋に入ると、リックとアリスが何か話していたようだった。
「おかえり!
良かった。無事だったんだね」
ベッドに座ったまま、アリスが俺たちに笑い掛ける。
「ただいま。やっと一段落だ」
俺はベッドの一つに倒れ込む。
ナタリーは隣のベッドで眠っていた。
すでに夜も深いから無理もないだろう。
「ははは、お疲れだな。
でも、すまない。少しだけ良いかな?」
ブラウン団長が小さく切り出した。
「え、それはもちろん。何ですか?」
「どうしても、今言っておくべきことがあってね」
ブラウン団長が柔らかく微笑んだ。
「アリスがあの村で過ごせたのは大きな価値があったと思っている。
改めて礼を言わせてほしい。ありがとう。君たちには本当に感謝しているんだ」
ブラウン団長が頭を下げる。
恐縮するが、何か言うより先に続ける。
「あの村で、アリスは変わった。大人になった。
驚くほど大人びた表情をするようになったし、見違えるほどに鋭い視点を見せることもある。
娘の成長は嬉しいものだ」
ブラウン団長はアリスと俺を順に見た。
「できれば君たちの力になりたいと思っている」
ブラウン団長はそこで目を閉じた。
「さて」
思い出すような顔つきで、呟いた。
「先ほどの情報交換で、私たちはいくつか重要な情報を得た」
「はい」
「実はその中に私個人にとって価値のある情報もあった」
「? ブラウン団長個人?」
「人探しをしている人物がいたんだ――最近、性格が変わった人」
何度でも思わずにはいられない。
――ああ、すごい人なんだなぁ。
「繰り返す。
君たちの力になりたい」
ブラウン団長が目を開ける。
茶色の瞳は少女を見ていた。
いや、すでに少女たちを見ていた。
先程言っていた『君たち』とは誰を指しているのか、今更ながら正確に理解する。
「アリスが世話になっているね。
君の名前を教えてくれないだろうか?」
真っ直ぐに、自分の娘に訊いた。
アリスが急に挙動不審となる。驚いた顔。狼狽する顔。言いかけて止める顔。
しかし、最後は俯いた。
一体どんな『会話』が繰り広げられたのだろうか。
そして、アリスは顔を上げて――
「安藤加奈と、申します」
――加奈が答えた。
この夜、俺達はこの人に今日までの全てをぶちまけた。
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