第四部 46話 ブローチの行方
床に落ちているブローチをまじまじと見る。
確かにあのブローチである。
次に上着へ視線を向けると、破けていた。
いや、まるで切り裂かれたような……。
すぐ隣には赤鬼の体が転がっている。そこで気が付いた。
赤鬼の体の一部が刃物のように変化していた。
――ブローチを狙ってきた!? 肉体の変化?
――大局は決まったと見て、ブローチをポケットから落としたのか?
俺は急いで屈む。
ブローチへと手を伸ばした。
「……くそ」
その瞬間、転がっていた赤鬼の右足が動いた。
転がったままでブローチを蹴り飛ばす。
「ははは、ざまあみろ」
赤鬼は楽しそうに笑う。
そして、その目は光を失った。
ブローチはカラカラと軽い音を立てながら転がっていった。
ナタリーアリスが鬼たちを食い止めている。
戦いの中、ブローチはグレイとティアナの元へと向かっていった。
まずい。あのブローチは確保しろと連絡してきたものだ。よほど重要なものだということになる。
「くそ!」
思わず毒づいた。
青鬼が狙っているのは間違いない。
やがて、ブローチはティアナの足元で止まった。
ティアナは俺に背中を向けていた。グレイと一緒に鬼を止めていたらしい。
すぐにティアナがブローチに気が付いた。
グレイに守られながら、下を向いて首を傾げる。
――良かった。
――他の鬼に拾われるよりマシだ。
「拾ってくれ!」
「……!」
俺が大きな声で叫ぶ。
ティアナが意図を察して、ブローチを拾おうとしゃがみ込んだ。
その瞬間、背筋が凍る……青鬼がそこにいた。
思った通り、兄さんの真赤の魂が見える。
左腰の長刀へと手を掛けて、腰を落としたティアナへと走っている。
やばい、間に合わない。ティアナから力づくでブローチを奪う気か。
「ティアナ! 逃げろ!」
叫んでから、俺は急いで走り出す。
だが、どう計算しても間に合わない。
俺の声でティアナが背後を振り返る。
その手にはブローチが握られていた。
ティアナは青鬼に気が付いて、咄嗟にカードを取り出した。
青鬼へと向ける。駄目だ。発動よりも青鬼が早い。
青鬼はすでに抜刀に入っていた。
ティアナの首へと一閃しようと――
「……姫、様?」
青鬼の呆然とした声がした。
――不意に手が止まる。
一息遅れて、ティアナの魔法が発動する。
ティアナがカードに魔力を流す。
その瞬間。
綺麗な蒼い光が大広間を満たした。
「え……?」
俺は咄嗟に言葉が出ない。
ブローチが光っていた。
ティアナがカードと一緒にブローチへと魔力を流した。
そして今、ブローチが輝いているのだ。それが何を意味するのか。
同時に風の魔法が青鬼を吹き飛ばす。
らしくもなく正面から食らって、壁に叩きつけられた。
「ぐ……くそ」
見れば、青鬼は不思議そうに悪態をついていた。
なぜ手を止めたのか、分からないと。
「お、俺……俺は……俺は?」
混乱したように自身の体を見下ろした。
最後にティアナを見て、ぎり、と歯を鳴らした。
そのまま『帰る』。
残された俺は呆然と立ち尽くした。
「ああ……そうか」
俺は納得して息を吐いた。
だから、キース・クロスに転生したのだ。
義妹の王女を守るために。
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このシーンがちょうど『第四部 青鬼と英雄』の中間地点になります。
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