第四部 36話 隠された扉
「ぴっ」
「お、戻ったな。キースに伝えてくれたか?」
肩に止まったピノを見て、グレイは笑いかけた。
場所は大峡谷の岩肌。僅かに突き出した足場の上だった。
偶然にしては都合が良すぎるくらいの広さだ。
「ぴぃ!」
ピノが元気よく返事をした。
――じゃあ、後は進むだけだな。
グレイは足場の先へと目を向ける。そこには大きな扉があった。
まるで入口を隠すように、ちょうど死角になっている。
「……入れってことだよな」
先ほど、グレイが軽く触っただけで自然と開いたのだ。
風向きが急に変わったことと言い、何か意図があるのは間違いない。
「行くぞ」
「ぴ」
戻れる保証はないけれど、殺すなら扉を開ける理由もない。
上に繋がっている可能性は高いはずだ。
グレイは扉の中へと入っていった。
カーン、カーン、カーン。
中は薄暗い洞窟だった。
しかし、予想よりも湿気は少ない。
さらに一定間隔で明かりが付いていた。
「誰かいるのは間違いない、か」
「……ぴ」
グレイの呟きにピノが小さく応じた。
グレイ達は慎重に先へと進んでゆく。
カーン、カーン、カーン。
幸い、道に分岐はなく、そのまま進むことが出来た。
洞窟は緩やかに左へと曲がっている。
入口は大峡谷に面する形だった。
ここはすでにエルフの森の下かも知れないとグレイは考えた。
カーン、カーン、カーン。
「……!」
「ぴ……」
グレイが息を呑む。
洞窟の奥に強い明かりが見えたのだ。
足音を殺して歩み寄った。
同時に腰に括ってある戦斧を抜く。
分岐はしないまま、その道は明かりのある部屋へと繋がっていた。
グレイは内心で舌打ちする。これでは迂回することもできない。
――あとは、いつ入るか。
グレイはそう考えて、部屋の中に耳を傾ける。
誰かいるのか、いるなら敵か味方か。
カーン、カーン、カーン。
先ほどから聞こえている音は部屋の中から聞こえてきた。
規則正しく、何かがぶつかるような音。
「……さっさと入ってこい」
「!?」
突然の声に、グレイは言葉を失った。一瞬だけ迷う。
しかし、ここにいることが分かっているなら、隠れている意味もないだろう。
グレイは戦斧を構えたまま、部屋の入口に立った。
中は変わらず薄暗い。部屋の中心には人影が一つ。
その隣には光源があった。
漏れていた明かりはあれか。
――鍛冶、か?
カーン、カーン、カーン。
よく見れば、人影は赤い鉄を叩いていた。
その度に甲高い音が鳴る。
「……!」
目が光に慣れて、グレイはもう一度息を呑む。
その姿は……そう、一言で言えば『黒鬼』だった。
「よく来たな」
黒鬼はちらりとグレイを見ると、そう言った。
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