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殺人鬼転生  作者: 裏道昇
第三部 戦友
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第三部 81話 決着の後

 ナタリー達と合流した後、話は急速に決まっていった。

 正直、俺は付いていけないほどだった。


 まず、ピノを先触れとして王国軍の元へ飛ばした。

 新国の件を伝えたかったのと、帝国への降伏勧告も進言するためだ。

 新国は相当数の軍を森に潜ませているようで、帝国は退路が断たれたと言って良い。


 この返事に応じて対応する必要がある。

 ナタリーが言うには帝国軍は降伏、新国を王都に連れていくことになるらしい。


 その新国は森に滞在することになった。

 明らかな建前とは言え、自国の領土を主張しているのだ。離れるわけにもいかないだろう。


 結果、森の近くで王国と新国が睨み合うことになった。

 ……面倒なことをしてくれたものだ。




 そうして俺たちは今、王国側の野営地からすぐ近くにある村まで来ていた。

 新国と睨み合うのであれば、物資に不安があったのだ。


 来ているのはパーティメンバーにミアを加えたいつもの顔ぶれだ。

 明日にも戦うかも知れないということで、今はナタリー、アリス、ミアの三人で交渉している。


 俺とソフィアは手持ち無沙汰に村の端で待っていた。

 まだ夜も更けていない。すぐ隣の民家からは明かりが漏れていた。

 

「なぁ、グレイの話を覚えてるか?」

「王都で私たちの人気が高まっているって話ね……」


 俺が気になっていた話題を振った。

『緑竜の討伐』と『城塞都市からの撤退戦』を成功させて話題になっているという話だ。

 

「なあ、そこに今回の奇襲が加わったら……」

「やめて、聞きたくない」

 

 ソフィアが耳を塞いで首を振って見せた。

 俺もソフィアも目立ちたい人種ではない。


 がたん、という音。

 見れば、女の子が隣の家から出てきたところだった。


 手に桶のようなものを持っているので、井戸から水でも汲みに来たのだろう。

 女の子はすぐ隣の俺たちに気が付くと、目を大きく見開いた。


「あ! ごめんなさい!」

 

 女の子が途端に頭を下げる。家族から何か言われているのだろう。

『王国軍が来ているから失礼のないように』というところか。


「どうして謝るの? 別に危害なんて加えないわ」

「……顔が怖いんだよ」


 俺が茶々を入れると、ソフィアがきっと俺を睨んだ。

 ……ほら、怖いじゃないか。


「……貴族様だから」

 女の子が小さく呟いた。


 なるほど。『貴族に』失礼がないように、か。

 騎士団から来たとなれば、貴族だと考えるのが自然かもしれない。


「そうか、このお姉さんは貴族様だから仕方ないな」

「……あんたもよ」

「……え?」

「なんで未だに自覚がないのよ!?」


 俺たちが騒ぎ合う。

 この辺りは学院時代から変わらない。


「でも――」

「でもじゃない」

「――俺って村人っぽくない?」


 ソフィアが何度か口を開いては閉じてを繰り返した。

 感情的には否定したいが、こういう嘘は吐けないらしい。律儀な奴め。


「…………」

「…………」


 ……いや、こちらも感情的には否定して欲しいんだけどな?

 やがて悔しそうに「……確かにお金で困っていそう」と頷いた。


「別に金で困ってねーよ!?」

「私のご飯をいつもケチるじゃない」


 途端にエルが俺の頭をぺちりと叩く。

 ややこしくなるから黙ってろ。健康に気を使ってやってるんだよ。


「あはは、想像してたのと全然違うんだね」

 女の子が楽しそうに吹き出して笑った。


「それは、貧乏貴族だから……」

「貧乏じゃない! 代々のクロス家当主に怒られろ」

「貧乏キースだから……」

「適当な造語を作るなっ! もう貴族関係ないだろ!」

「キースだから……」

「キースであることの何が悪いんだよ!?」


 俺たちのいつもの掛け合いを女の子は楽しそうに笑っていた。


 その時、村の奥から大きな音が鳴った。

 ……なんだ? ナタリー達のいる場所か?


「ソフィア、様子を見に……」


 何かあったのかもしれない。

 しかし、俺が言い終わる前にリックが声を張り上げた。


「上だ!」


 俺たちはすぐさま反応すると、その場から跳び退く。

 女の子はソフィアが咄嗟に腕を引いていた。


 上空から飛び込んできたのは小さな青い影。

 ついさっきまでソフィアのいた空間を長刀が一閃していた。

 だが、着地するより前に影は掻き消えた。


 ――ああ、そうか。

 ――キースとしては初めましてだな。


 遠くの物陰から舌打ちが届いてくる。

 やはり聞き覚えがあった。


「ち。あのバカ……。

 騒ぎを起こすのが早いんだよ」


 姿を現したのは『青鬼』。あるいはヒトの失敗作と呼ぶべきか。

 左の腰に長刀、右の腰に脇差と短刀を提げていた。


 ……まずいな。

 まだ頭痛が完全には収まっていない。


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