第三部 79話 決着
修正(※内容に関するものだけ記載します)
・2024/3/5 描写の誤りを修正。
エリーナが体勢を立て直すより早く、俺は駆け出した。
様子を見たいのだろう、エリーナは後ろへと下がる。
逃がすものかと俺は速度を上げる。二度三度と障壁を蹴りつけた。
俺の周囲を回る障壁も一緒に付いてくる。
もう一度障壁を蹴ると、エリーナの心臓目掛けて小剣を突き立てようとする。
すでに予想していたが、風でいなされた。
同時に左のナイフを逆手に握り、首を掠めるように払う。
こちらは上体を反らして避けられる。
障壁に着地する。
そのまま一度高く跳び上がった。
ひゅんひゅんという風を切る音。
俺が離れている隙を狙って、神鋼の糸がエリーナを襲う。
「く……」
流石に辛そうな声をエリーナが漏らした。
それでも白い剣で防いでいる。それだけでも大したものだろう。
今度は俺が上空から魔弾を乱射した。
エリーナがもう一度風で魔弾を逸らす。
さらに上空から地面に向けて障壁を蹴った。
右の小剣と左のナイフを同時にエリーナの首へと払う。
エリーナが氷剣と氷槍を生み出して受けた。
小剣と氷剣、ナイフと氷槍が鍔ぜり合う。
「……しぶといな」
「流石に君から言われたくはないな……?」
一発くらい食らってくれよ、と俺が呻く。
すると、エリーナは呆れたように答えてくれた。
今度は障壁を移動する。
避けられた魔弾をエリーナへと弾き返す。
ここからは弾かれた魔弾は全てエリーナへと弾いてやる。
もっとも、全ては風でいなされるだろう。
それで良い。常に風を使わせるつもりだ。
俺は押し合いをやめると、後ろへと大きく跳んだ。
ついでに魔弾を追加しておく。
次の瞬間。エリーナの周囲がきらきらと輝いた。
神鋼の糸が三振りの長剣に編み上げられていく。
長剣はエリーナの首を刎ねようとする。
風では避けられない質量は同じく三振りの白い剣がしっかりと受けた。
俺は魔弾が跳ね回る中、エリーナへと再度向かった。
『青い幻』に従って、魔弾を全て避けながら進む。
一体どれほど鍛えたのか。
ソフィアとリックの『神鋼糸』の制御は凄まじかった。
間違って俺を斬り付ける心配はないだろう。
そのままエリーナの胴体目掛けて小剣を一閃した。
白い剣が首を守るため、視界が狭まっているはず。
……思わず舌打ちを零した。
小剣に手応えはなかったのだ。
見れば、エリーナは腰を低く低く落としていて――
「ソフィア!」
咄嗟に叫んだ。
――赤い本をソフィアに向けていた。
青白い炎がソフィア目掛けて放たれる。
ソフィアが『神鋼糸』で盾を作る姿が見えた。
エリーナがこちらを向く。
白い剣と氷剣が一斉に俺へと放たれた。
「流石にこちらも余裕はないのでね」
「……っ」
――ソフィアが戻る前に俺を潰すつもりか。
――でも、もう十分に動きは見たぞ。
俺は『青い幻』に目を凝らす。
右に大きく跳ぶと、避け切れない氷剣を一つ弾いた。
次に障壁を交互に踏んで高く跳び上がる。
これで白い剣を全て避けた。白い剣が折り返すのが見える。
――ここだな。
――俺は障壁の向きを少しだけ『ずらした』。
次に頭上から右手の小剣を投げる。
当然、エリーナは風で避けた。
「一体何を……?」
主武器を投げた俺へとエリーナが首を傾げた。
しかし、すぐに驚いた顔を浮かべる。
今まで絶え間なく襲っていた魔弾がなくなったことに気づいたのだろう。
俺は空になった右腕を伸ばす――
そうだ。ここに集めたんだ。
自分の魔力も上乗せして、魔弾五十発分。
――右掌に描かれた魔法陣へと魔弾という魔力が流れ込んでいく。
まるで大剣のような魔弾剣。
突きたてるように眼下のエリーナ目掛けて放った。
「…………!」
流石に予想外の高火力だったのだろう。
エリーナが慌てた様子で赤い本を構える。またあの炎だろう。
同時に俺は急いで障壁を蹴ると、エリーナの側面へと回り込んだ。
すぐ足元を白い剣が通り過ぎて行く……心臓に悪い。
すぐにエリーナが青白い炎を放つ。
しかし、銀色の盾が魔弾の剣を守るように編み上げられる。
「ち」
エリーナの舌打ち。
ソフィアの『神鋼糸』が戻ったのだ。
盾は炎を防ぐと解けていく。
やむを得ず、エリーナは氷で盾を作る。
さらに白い剣も戻して魔弾を防ごうとする。
「ふ――」
俺はその首目掛けて飛び掛かった。
左のナイフを逆手に払う。エリーナは上体を反らして避けた。
着地と同時に地面へと刺さった俺の小剣を抜いた。
左足を強く踏み込むと、そのまま時計回りに回転する。
勢いそのまま、斜めに斬り下ろす。
やっと、しっかりとした手応えを感じた。
「……う」
エリーナの呻きを聞きながら、さらに踏み込んだ。
逆手のナイフを突き込む。こちらも確かな手応え。
エリーナが横へと跳んだ。
呼吸は荒いが眼光鋭くこちらを睨んでいる。
彼女の全身からは白い煙が立っていた。
「やっと入ったわね」
エルの声に小さく頷いた。
右肩から左腰に掛けて大きな傷。
さらに左肩には俺のナイフが刺さったままだ。
それでも白い煙が出ているということは治療中だ。
すぐに回復してしまう。今の内に攻めないと……。
「……ぐ」
強い頭痛に顔をしかめた。
ちらりとソフィアを見ると、こちらも限界が近そうだった。
まだか、ナタリー? これ以上は持ちそうにないぞ。
「……驚いたな。
今この瞬間に限れば、君たちは私よりも強いらしい」
俺は軽い苦笑を返しておく。
あんたがまだ立っていることの方が驚きだろ。
エリーナと俺が一歩踏み出そうと――
「そこまで!」
良く通る男性の声が響いた。
――その場の全員が動きを止めた。
見れば、見慣れない集団がこちらへと馬で走ってくる。
帝国軍ではないし、もちろん王国軍でもない。
「……あれは?」
「私だって知らないわよ」
「君たちの仲間ではない、か」
急いで合流してきたソフィアが俺の質問に答えた。
この様子ではエリーナも知らないのだろう。
すぐに俺たちは見知らぬ軍に囲まれてしまった。
その中の一人が前に出る。先ほど声を上げた人物だろう。
「我々はイリオス新王国騎士団。
……単純に『新国』だと言った方が伝わりますか?」
――新国!?
――確か帝国に宣戦布告をしていたはずだけど……。
言われてみれば、俺たちを囲んでいるのは全員がハーフエルフだった。
所属に偽りはないように思える。
「……そういうことか。
最初から自分たちで襲撃するつもりだったんだな。
だから、あの二匹は逃げたのか……巻き込まれる前に」
ぎり、と歯を軋ませる音。
見れば、エリーナが憎しみすら込めて新国を睨んでいた。
「何を仰っているかは分かりかねますが……この場はひとまず収めてください。
帝国軍の司令部は『我々が』制圧しました」
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