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殺人鬼転生  作者: 裏道昇
第一部 兄弟
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第一部 17話 魔術師団長

「アッシュ! お客さんよ?」


「うん?」


 母さんの声に応じて、俺は玄関へと向かう。


 途中でアリスとすれ違った。

 薄着でナタリーの部屋へと向かっていく。

 最近はほとんど一緒にいるな。


 アリスが家に来てからすでに五日ほどが経過している。

 完全な居候と化していた。


 父さんも母さんも気にしていないから良いけれど。


「はーい?」


 玄関に顔を出すと、三十代前半の男性が立っていた。

 高級そうな青いローブを着ている。

 整った顔立ちに、薄茶色の髪と同じ色の瞳だった。


「君がアッシュ・クレフ?」


 急に自分の名前が出たことに驚いた。

 玄関の向こうでは、村の住人たちが遠巻きに眺めている。


「またアッシュに客か」


「あれって、魔術師団の制服だろう?」


「最近すごいよなぁ」


「ええ、そうです」


 少しだけ得意げになって、俺は大きく頷いた。


「ほう――」


 男性は目を細める。

 その視線に妙な寒気を覚えた。


「――では、私の娘を誘拐したのは貴様だな?」


 一瞬の沈黙の後、外から聞こえる噂話の質が変わる。


「え? 娘って……」


 俺はと言えば、混乱するしかない。

 全く心当たりがなかったからだ。


「アリスというんだが」


 心当たりあったわ。

 汗が噴き出すのを感じる。

 無意識に視線が外れていく。


 漏れ聞こえるひそひそ話の勢いが増す。


「……誘拐……犯罪者……変態……やっぱり……」


 漏れ聞こえる単語が酷すぎる。もうやめてくれよ。

 あと『やっぱり』って言うな。


「娘は家出中でな。

 王都から足取りを追ってここまで来たんだ」


「は、はい」


「調査した結果、五日ほど前の早朝に娘は誘拐犯に追い回されていたらしい。

 森中に叫び声が響いたそうだ」


「……」


「絶望の中、諦めきれない私はさらに調査を進めた。

 すると、森の向こうの町で行商人が言うんだ」


 全て誤解だが、正しい調査結果なのが困る。

 状況証拠に間違いは一つもない。良く調べたものだ。


「ちょうどその日、女の子が道端で寝てたから『アッシュ・クレフ』に任せた。

 信頼できそうだったから……とな?」


 噂話をしていた連中が一つ頷いて、解散した。走り去っていく。

 おい、お前ら! どこに行く! 絶対に言いふらす気だろうが。やめろ……。


「ゆ、誘拐なんてとんでもない! 誤解です!」


「あれ、パパ?」


 最悪のタイミングで声が響いた。

 振り返ると、薄着の少女が俺たちを見て首を傾げていた。


 混乱の中で俺は――背中を見せて、逃げ出した。逃げてしまった。

 さらに言えば逃げた先は自宅であり、何の意味もありはしない。

 目的は逃亡ではなく逃避である。

 正しく事情が伝わるまで、半日かかった。


 俺の家族全員とアリス、その父親が居間に揃っていた。


「私はブラウン・バケット。

 魔術師団長をしている。ブラウン団長と呼ばれることが多いな」


 アリスの父親は俺を睨みつけながら、自己紹介をした。


 ――魔術師団長! アリスはその娘なのか!?


 王国では『才能』を三つに分類して、それに対応する三組織が王国の利益へと還元している。


『剣技』を『騎士団』が。

『魔術』を『魔術師団』が。

『技能』を『組合ギルド』が。


 この三組織は互いに競い合う存在であり、有事の際は協力し合う関係でもある。

 魔術師団長と言えば、その名の通り『魔術師団』のトップである。

 王国の首脳陣の一人だ。


 俺の家族も軽く自己紹介をした後、改めて経緯を説明した。


「事情は分かった。感謝する。

 だが、アリスには家に帰ってもらう」


「……やだ」


 ふい、とアリスは顔を逸らす。


「む……一体どうしたって言うんだ? 家出をした理由も良く分からない。

 今までこんなことはなかったしな。何が不満なんだ?」


「不満!? 不満なんてないよ。パパもママも好きよ。

 ただ、あたしはジンを探してあげたくて」


「ジン?」


「……」


 アリスが口を閉ざす。

 そうか、この子は加奈のために俺を探していたのか。

 それで出会えるのだから、幸運というか何というか。


「とにかく! あたしはこの人のそばにいる」


 そして俺をびしっと指さした。

 魔術師団長がピキ、と頬を引きつらせる。


「随分とたぶらかしてくれたな……?」


「あ、はは」


 何とも言い難い。

 アリスがこう言っているのは加奈のためだし、全てを説明するわけにもいかないだろう。


「……分かった。ちょうどこの付近で魔物討伐の任務がいくつか来ている。

 部下に任せる予定だったが、私が引き受けることにしよう。一か月ほどこの村に逗留させて頂く。その間はアリスもここにいて良い」


「ほんと!? やったー!」


 アリスが両手を挙げて喜ぶ。

 ぴょんぴょんと跳ね始めると、ナタリーもそこに加わった。


「ただし! 一か月後には帰る。それが条件だ。

 嫌なら今すぐに力づくで連れて帰る」


「うーん……ああ、それで良い?

 分かった。一か月後に帰る」


 今、加奈と相談したな。

 一段落して、俺はブラウン団長を見送るために庭まで出た。


「悪かった。君は娘の恩人だ」


「……いや、俺も問題ありまくりですし?」


「それは否定しないが」


 ブラウン団長が小さく笑う。

 夕暮れの村へと穏やかな視線を向けて、呟いた。何気なく視線を追う。


「親の贔屓目を除いても、アリスは良い娘だと思っている」


「それは分かります」


 本心だった。

 根拠は一つ。加奈が心を開いているからだ。


「だからあの娘が悪いことをする時は、決まって誰かの為なのだ――」


 いつの間にか視線は俺の瞳に向けられていた。

 その眼光に、息を吞む。


「――今回は一体、誰の為なのだろうか?」


 理知に溢れて光り輝くような、落ち着いた茶色の瞳。

 まるで魂の姿まで見透かされたような気さえした。


「いつか、知りたいものだな」


 穏やかに微笑んで、ブラウン団長は背中を向けた。


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