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殺人鬼転生  作者: 裏道昇
第一部 兄弟
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第一部 10話 神鋼のナイフ

 武器を手にして俺は走り出した。


 体が軽い。

 ナタリーが体力馬鹿というだけはある。


「アッシュ!」


 セシリーが声を張り上げる。

 大鬼が俺を薙ぎ払おうと金棒を振るったのだ。


 俺は一度足を止め、首を狙った一撃を屈んで避ける。

 直撃を食らったおかげでタイミングは掴みやすい。

 金棒は頭上を通り過ぎて行った。


 大鬼の威嚇するような声を聞きながら、真上にリックを振るう。

 大した感触もなく、金棒の先端は切断されていた。

 切り取られた先端が遠くの地面に落ちる音。


 大鬼は気にした風もなく、今度は欠けた金棒を上段から叩き込んできた。

 もう一度斬り飛ばす。残るは柄のみだ。


 それでも即座に右拳で殴り掛かってきた。

 さらに手首から先も斬り落とし、金棒はなくなった。


 そこまでやると、ようやく大鬼は後ろへ跳んだ。


「……あの金棒を簡単に」


 セシリーがもう一度呟いた。

 距離を取った大鬼は斬られた手首を押さえていたが、やがて咆哮を上げた。


「固有スキルか」

 大鬼の手首が再生し始めていた。


 一部のモンスターは個体特有のスキルを持つことがある。

 この大鬼の場合はスキル『自己再生』というところだろう。


 数十秒も経つと大鬼の右手は完全に再生していた。

 にやにやと楽しそうな笑みを浮かべている。


 楽しそうに笑いやがって。内心で毒づきながら、俺は踏み込んだ。

 同時に大鬼も踏み込む。互いに正面からぶつかり合った。


 大鬼が右腕を左右に払う。

 俺は間合いを測るように何度か避けて様子を窺った。


 一度でも貰えば終わりだな。

 その前に首を落とすしかない。


 大振りの一撃を避けた後、俺は間合いに踏み込んだ。

 腕や脚、脇腹など細かく切り裂いて離脱。


「ち」


 目を向ければ既に完治していた。

 加えてコイツ、明らかに致命傷を避ける立ち回りをしやがった。

 急所に切り込めば反撃を受けていただろう。


 大鬼がさらに笑みを深める。

 ただの獣とは違うと言いたいらしい。

 よし、もう一度だ。


 再度踏み込む。

 大鬼が右手の平を叩きつける。


 俺は速度を上げてタイミングをずらすと、懐まで踏み込んだ。

 手の平が地面を叩く轟音。


 至近距離で心臓にナイフを刺し込んだ。続けて両肺。

 ストン、という軽い感触が三つ続く。


 そのまま後ろへ飛び退いた。

 伸びてきた左手首もついでに斬り飛ばす。


 心臓と両肺を潰され、動きを止める大鬼。

 どうせ回復するだろう。


 拳を無くした左腕側へと回り込む。

 ナイフを順手に握り直して脇腹を裂く。


 そのまま背後を取ると両足の健を断った。

 膝を付くより先に逆手に戻して膝から下を斬り落とす。


 ――これで届く。


 前へと傾いてゆく大鬼へと飛び掛かった。

 腰を踏みつけて背中を駆け上がる。


 首にナイフを叩き込もうと――


「止めろ!」


 ――使い魔の声に従い、大鬼の背中から飛び退いた。


 ナイフを掴もうとした巨大な右腕が空を切る。

 悔しそうな呻き声を呆然と聞いていた。


 危なかった?

 今、首への攻撃を誘われたのか?


 一歩間違えれば死んでいた。

 急に背筋が寒くなる。


「……助かった」

「僕も見よう。危ない時は声を掛ける」


 俺が頷くと、大鬼がうつ伏せに倒れるところだった。

 ちらりと目を逸らせば、いつの間にかセシリーはナタリーの元へと合流して護衛してくれていた。流石に尽きる。これで一安心だ。


 視線を戻して大鬼へと駆け出した。

 完全に回復する時間は与えない。


 だが――大鬼は即座に両足を回復させて、立ち上がった。


 厄介だな! 回復速度はコントロールできるのか。

 だが無尽蔵であるわけがない。恐らくは体力を消耗しているはず。

 流石に疲れてきたんじゃないか?


 大鬼が右腕を裏拳に薙ぎ払う。

 俺は右腕の流れに合わせて時計回りに抜けて背後へと回り込んだ。


 やはり肩で息をしながら、大鬼が周囲を見回している。

 腕の死角を走り抜けた俺を見失ったのだ。


 俺は大鬼の後ろで屈み、勢いを付けて跳び上がる。

 物音に気付いた大鬼が右腕を後ろへと払った。


 ――俺も馬鹿だよな。

 ――ナイフでは届かないなら、届く武器にすれば良いだけじゃないか。


 パチ、と一瞬だけ奔る錬金の光。

 刀身だけ長剣のように伸ばしたナイフを一閃する。迫る右拳。


 ――あの腕は大丈夫。


 目も向けず、俺は大鬼の首を切断した。

 右拳が俺の顔には届かず、すぐ真横を通り過ぎて行った。


 ――ほら大丈夫。

 ――だって、リックは何も言っていない。


 大鬼が満足そうに呻き、その目は光を失った。


「アッシュ!」

 ナタリーとセシリーが走り寄ってくる様子を見た瞬間、俺は座り込んでしまった。


「疲れたぁ……」

「お兄ちゃ」

「ナタリー。俺はアッシュだ。お前のお兄ちゃんだ」


 遮ってでも宣言した。

 ナタリーが不思議そうな顔をする。

 そうだよな、被せて同じことを言ったからな。


「う、うん? それはもちろんだけど?」

「今日までの俺は好きか?」

「……うん」


 理解できないという顔を浮かべて頷いた。

 頭を打ったとでも思っているかも知れない。それでも言うべきだった。


「なら、お願いだ。

 今日までの俺を一秒でも長く覚えていて欲しい」


 掠め取った物の大きさに涙が出そうになる。

 暗闇の中へ消えてゆく、あの背中に与えられるものはもうないけれど。

 せめて何か報いたかった。


 ナタリーが首を傾げる。

 だが、俺の真剣さは伝わったように感じた。


「お願いだ」

「あはは。お願いだって」


 ナタリーが疲労困憊な俺の前にしゃがみ込む。

 俺の記憶通り、真っ直ぐにこちらの瞳を見つめている。


 そして、妹は「良く分からないけれど……」と微笑んだ。


「ばっかみたい。

 だって、こんなに覚えているのに?」


 その言葉に安心して、俺は気を失った。


 確かに報酬はあったのだ。

 俺が奪わずに済んだものが、彼が残せたものがあったのだ。


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