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都会に出よう!

乱文ごめんなさい


*



秋の昼である。この時期の街並みは冬に向かっているということもあってどこか忙しない。みな漠然とした不安感で生に突き動かされている。



「ふと思ったんですけど」


と電話口で後輩が言った。真昼間であった。それは実に1ヶ月ぶりに、急にかかってきた。


「俺らって社会の最底辺ですよね」


「そうだろうね。ただ気にするだけ無駄だよな」


「なんか申し訳なくないっすか?」


「なにが?」


こいつの話は要領を得ない。

なんというか、自分の中でまとまったことを、思考を順々に話すのではなく、所々飛ばして話すのである。

今だって、一ヶ月前に「ちょっと考えたいことあるんで一ヶ月くらい距離置きましょ。まとまったらこっちから電話かけます」と言って突如消息を絶ったことについての説明がない。


「それは社会にってことか?それなら気にするだけ無駄だよ。働けばいいじゃん」


「いや社会には微塵たりとも申し訳なくないんですけど」


「そのメンタリティだからニートやれてるんだろうね」


「自分自身とか親類に申し訳ないんですよ。なんかこう、社会は僕よりゴミなので別に申し訳ない気持ちはないんですけど、ご先祖さまとかは僕を産んでくれたわけじゃないですか。」


「うん」


「別に親には申し訳ない気持ちはないんですけど、自分自身の可能性をニートであることによって捨ててるんじゃないかって。

だって例えば俺が社会不適合者じゃなくてちゃんと勉強してて働けていれば、今頃イケメン俳優と付き合えてたわけですよ。」


「まあその人が君と同じセクシュアリティだったらね」


「俺が別に抱かれたくない男に体を売ることもなかったわけですよ」


「うん。俺だって学生時代勉強してれば、やりたくもない仕事をやることはなかったな。」




「人生やりなおしません?」





「どうしたの。鬱なの?『人生舐めても泥水舐めるな』が君の座右の銘でしょ」



「泥水舐めすぎて味わかんなくなっちゃったんですよ。僕の心の支えはいま土曜の深夜にあってるテレビを見ることだけなんですよ。推しのアイドルグループの子が出るんすよ。

一週間、そうやってゲイのちんこを舐めて耐え忍んでるわけです。

今からでも遅くはないんですよ。僕も同じテレビ番組に出てやることだって出来ますよ。

なんか面白いことやりましょう。」



「泥水とちんこを舐めてるわけだ。めっちゃワロタ」



「別に上手くないっすけどね。それ。

あとなんか紀元前のネット民みたいなことやめません?今どき「ワロタ」とかリアルで使う人いませんよ。

あとたまに言う「チャーハンつくるお」もツッコミ待ちって感じで気持ち悪いですよ」



重い一撃が入った。今の一撃でクリボーくらいは殺せるであろう。



「とりあえず今からお前の家行くわ」



*


「ピンポーン」


こいつの家に遊びに行く時は毎回口でインターホンのモノマネをする。上手いと鍵が開く。日によってコンディションが変わるので下手な時もある。


ちなみに下手だと開かない。なので冬空の下、俺は2時間ピンポンピンポンと言い続けたことがある。



「開いてますよ」


どうやら合格のようだ。



「ただいま」


「この家のもんじゃないだろあんた」



ガチャン、と色合いがドッスンみたいなドアを開けた。このアパートはなかなかいいと思う。オシャレな作りで1dk。家賃は5万。後輩は物件を選ぶ目だけはあるようだ。

ただ唯一欠点を挙げるとすれば、ドアの色合いがマリオのドッスンなのである。

なんで色をドッスンにしたんだろう。白い外壁に灰色はどう考えてもミスマッチである。これはもう、設計者がよほどのマリオ好きであったとしか考えられない。

しかし、いかにマリオ好きでもドアの色合いにドッスンを採用するだろうか?マリオの赤やルイージの緑など、他にもやりようはあったのではないだろうか。


俺はこのドアをドッスンドアと呼ぶことにしている。



「汚っ」



入るとめちゃくちゃ部屋が汚かった。ドッスンも涙目である。キッチンは異臭を放ち、カップ麺や空き缶が部屋に散乱している。その横には筋トレ器具。

そしてテーブルには謎の書類が山積みである。ダリの絵。シュールレアリスムの汚さだ。


ありえない。後輩は部屋だけは綺麗にするのだ。



「ほっといてくださいよ…」



「いや今世紀最大の汚さだろこれ。何これは。テロ起きた?」



「人を外見で判断するなよ」


「それ部屋が汚い場合に使う言葉じゃないだろ」



「まあ色々あったんすよ。この数日間血眼になって調べ物してたし」



「へー。それにしてもこれはいいのか?

一応お前、客商売だろ」



後輩はゲイの方とTwitterやらで連絡を取り、食事をしたり体を売ったりしてお金を稼いでいる。本人は「これが令和のパパ活っすよ」と言っていたが、何がそうなのか分からない。

確かに後輩は筋肉ムキムキの好青年。どの性からも好かれそうだ。界隈では一部からカルト的人気を博しているとかいないとか。

「ゲイの筋肉は女の巨乳」は彼の口癖だ。


体を売るときは家に招いたりラブホテルだったり。後輩は料理が得意なので、お客さんに家でオムライスを作ってケチャップでハートを書いたりと、家の綺麗さは水商売において必要不可欠だったはずである。


なぜこんなに汚くなってしまったのだろうか。まあ最近家にも行ってないからわからないが。



ちなみに俺は、「タイプじゃないっす」ときっぱり言われた。それはそれで悲しい。

「女友達みたいな感じで。まあ友達なんですけど。恋愛対象の性の友達、先輩だったら女性の友達って大体タイプじゃないから友達やってるじゃないですか。タイプだったら、友達としての関係では付き合えないでしょ」とは後輩の弁である。



なんだこいつ?恋愛評論家か?




「まあお金はある程度溜まったんで。ちょっとこの1ヶ月はそういうのもぱったりっすね。」


「シャワー汚っ。風呂くらい掃除しろよ。浣腸出来ないじゃん。」


「ああまあケガレを洗い清める場なんで。そりゃ汚くなりますよね。」


「古代日本の宗教観を急に持ち込むなよ。柳田国男か?」



ここで、そういう事情に疎い方に説明しておくと、ゲイの方はコトに至る前にシャワーで浣腸をするのだ。まあ使う穴が穴なので。


それをする場すらも掃除していないということは、よほど後輩は何かに熱中していたのだろう。



「よし」


後輩はテーブルの書類をトントンと整理すると、何やら真面目な顔つきになって、






「先輩、都会に出ましょうよ。」






「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」






つづく






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