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第91話 やっぱりゴリラ


「えー! 師匠ってゴリラじゃなかったんですかっ!」


 ターニャがリッカを見て驚いていると、ティターニアがふわふわと宙に浮きながら


「そ~だよ~。リッカちゃんはゴリラじゃないんだよ~」


 すると、エリスが


「えっ? もしかしてターニャは、今までずっとリッカさんの事をゴリラだと思ってたの?」


「うん! 師匠は強くて毛深いゴリラだと思ってた!」


 食器の跡片付けが終わり、リッカの淹れた紅茶をみんなで飲んでいるのだが、話題はやっぱりリッカのゴリラで盛り上がっていた。


 目をキラキラさせながら、ターニャがリッカを見つめていと


「ごめんねターニャ、私はゴリラじゃなくって魔族なのよ」


 リッカが肩を落として苦笑いを浮かべると、ターニャが目を見開き


「いや、師匠! 謝らなくっても大丈夫です! たとえ師匠が魔族だったとしても、師匠は強くて毛深いゴリラなんですから!!」


 う~ん、なんとな~く察してはいたが、ヘビ娘はリッカの種族の事なんかどうでもよくって、とにかくゴリラなリッカが好きなだけなんだろうなあ……


 などと思っていると、ヤマさんが


「にしても、リッカだったら直ぐに気づきそうなもんだけどなあ」


 と言って、紅茶を一気に飲み干し


「やっぱリッカの紅茶はうめえな! お代わり!」


「あっ、はい、わかりました」


 リッカが苦笑いを浮かべながら、ヤマさんのカップに紅茶を注いでいると、カケさんが口元に笑みを浮かべて


「突然人族領に飛ばされて、しかも容姿も変えられていたのだから、流石のリッカ君でも、いつも通りの冷静な判断が出来なかったんだろうね」


「ええ、急な事でしたので、獣人族にゴリラがいない事を完全に失念していました……」


 リッカが申し訳なさそうな顔をしていると


「師匠! あたしはゴリラな師匠が大好きです!」


「あ、ありがとね」


 リッカがターニャに複雑そうな顔をして答える。


 すると、エリスが


「あのう、リッカさんはこのままずっとゴリラのままで過ごすのですか?」


 リッカが眉間に皺を寄せながら


「う~ん、家に帰るまでの間は、このままの姿でいようと思っていたんだけど……」


 すると、ヤマさんが難しそうな顔をして


「でもよう、ゴリラのままだと、逆に目立っちまうんじゃねえか?」


 リッカが肩を落とすと


「そうなんですよねえ、この姿の獣人族っていないんですもんねえ」


「ああ、それだとただのゴリラだからな」


「ええ……、そうですよね……」


 すると、ターニャが


「違います! 師匠は強くて毛深いゴリラです!!」


「おっ、おう! そうだったな……」


 ターニャの勢いにヤマさんが若干引いていると、それを見たリッカが苦笑いを浮かべる。


 ん~、次の目的地を何処にするかはまだ決まっていないが、ワンピースを着たゴリラが街中をウロウロしていたらやっぱ目立つよなあ……


 となると、顔が隠れるような鎧兜や布で顔全体を覆っとけば、ゴリラではなく熊の獣人として誤魔化せたりするのかな?


 などと考えていると、カケさんが


「たまに、地位の高い人達が普段の生活から解放されたくて、レア装備で姿を変えて、身分を隠して気分転換に街に出掛ける人達も一定数いたりもするから、ゴリラのままでも特に問題はないかもしれないけど……」


 へ~、そんな人達もいるんだあ。


 などと思っていると、リッカが


「ええ、ゴライアスでも姿を変えて出掛けている人達を、何度か見かけたことはあります」


「うん。でも、あまりにも場違いな姿だと色々と詮索してしまう人は少なからずいるだろうし、リッカ君の場合は身元を隠して行動したいのだから、あまり目立つような姿でいるのは得策ではないと思うよ?」


 あ~、そういえば、グリーンキャニオンで宿屋のジョリーが『まあ、あんまり探索者の事を詮索しちゃうのは不味いんだろうけど……、リッカとケビンを見てると色々と勘ぐっちゃうのよね』って言ってたなあ。


 などと思っていると、カケさんが片方の眉をピクッと上げると


「とりあえず、その姿だと目立ちすぎるから、本来の姿に戻して魔族特有の角を隠せば、リッカ君は人族って事で素性を隠せるんじゃないかな? そうすれば、今よりは目立たなくなると思うよ?」


 すると、リッカが顎に手を当て


「以前、ローズから『うちにあるレア装備でその姿を元に戻しとく?』って言われましたが、その時はこのままで良いと思って断ったのですが……」


 何か考えるような仕草をするリッカを見て、カケさんが


「ほら、今迄はターニャ君とケビン君だけだったけど、これからはエリス君も一緒に行動するとなると、魔獣族が二人になるからそれだけでもかなり目立ってしまうんじゃないのかな?」


 あ~、そういわれると、ラミアのターニャは個体数が少なく、普段は人里離れた場所で生活してるので街では全然見かけないが、アラクネのエリスもラミアと同じで個体数の少ない種族だもんな。


 そんで、ワンピースを着たゴリラがそこで一緒に歩いてたら、そりゃあ目立ってしょうがないな……


 などと思っていると、リッカもその事に気づいたのか


「そ、そうですね。やはり、元の姿に戻した方が良さそうですね」


「えっ!? 師匠!! ゴリラを止めちゃんですか!!」


 話しを聞いてたターニャが叫ぶと


「ちょっと! ターニャは黙ってて!」


 エリスが直ぐに黙らせる。


 それを見てリッカが苦笑いを浮かべていると、カケさんが


「リッカ君は人族領に転移させられた時には、既に姿が変わってたって話しだったよね」


「ええ、突然光に包まれて、気づいたら容姿を変えられて人族領まで飛ばされていました」


 確かに、リッカが迷宮主の部屋に現れた時は、既にゴリラだったな。


 すると、カケさんが


「たぶん【擬態】のレア装備で姿を変えられた直後に【転移】のレア装備を使われたんじゃないかと思うんだよね?」


「ええ、私もそうではないかと思っております」


 リッカの話しを聞きながら、カケさんが手元を光らせ杖を出現させると


「これには【擬態解除】の宝玉が埋め込まれてるから、今からでもその姿を元に戻せるよ」


 おお! そんなレア装備をカケさんは常に持ち歩いていたのか!!


 すると、ティターニアが


「あ~! 見たい、見たい! 最後にリッカちゃんと会ったのって三、四年前だったよね?」


「ええ、お爺様が迷宮探索に出掛けてしばらくしてからだから、そのくらいかもね」


「でしょ、でしょ~♪ じゃあ、あの頃に比べたら、だいぶ成長して、もっと大人っぽくなってるんじゃないかしら?」


 ん~、リッカは俺と同い年だから三、四年前っていったら十五、六って事か、確かに成人したばかりで、まだ子供っぽいっちゃあ子供っぽい年齢だわな。


 すると、リッカが胸を張り


「ふふふ、十九歳になった私を見て驚かないでね」


「おお~! た~のしみ~!」


 ティターニアがリッカの目の前をグルグル飛び回っていると、ターニャが物凄く悲しそうな顔をして


「師匠、やっぱりゴリラを止めちゃうんですね……」


 おいおい、ヘビ娘、そんなにゴリラが好きだったのかって! おい! ちょっと涙目じゃねえか! 


 目をウルウルさせてるヘビ娘の隣で、エリスが


「ねえ、ターニャ。今のリッカさんは例えゴリラであっても隠し切れない華やかさを醸し出しているけど、本来の姿はもっと凛々しくてキラキラ輝いているのよ」


「えっ!? 本当の師匠はキラキラしてるの??」


「ええ、そうよ! ターニャはそんなリッカさんの姿を見てみたいと思わない?」


「むむむむむ~、毛深い師匠も好きだけど、輝いてる師匠も見てみたい……」


 難しい顔をしているヘビ娘にクモ娘が


「でしょ、私は何度か街でリッカさんを見かけた事があるんだけど、その時のリッカさんはとても奇麗で美しかったわよ」


 エリスの話しに照れているのか、ゴリラがモジモジしながら長い髪を手櫛でとかすような仕草をするが、今のリッカはゴリラで髪がない。


 なので、その事に気づいたのか直ぐに腕に手を当て、腕毛をさすってモジモジし始めた。


 ん~、にしても、エリスは何度かゴリラになる前のリッカを目撃してたのかあ。


 前にリッカには『立派で可愛らしい』魔族特有の角が生えてるって話してたし、ゴリラになる前は『胸くらいまで髪が伸びてた』とも言ってたな……


 なんだか無性にゴリラじゃない本来のリッカの姿ってヤツを見てみたくなってきたぞ……


 などと思いながら、モジモジしているゴリラを見ていると


「では、リッカ君。準備はよろしいかな?」


 カケさんが立ち上がってリッカの方へ杖を構えた。


 すると、モジモジしていたゴリラが表情を引き締め、カケさんを見ると


「はい、よろしくお願いします」


 と言って、椅子から立ち上がった。


 それを見てカケさんが笑顔で頷く。


 そして、杖から光る球体が放たれリッカに触れるとリッカの全身が光に包まれた。


「おお! 師匠が光ってる!!」


 ターニャが目をキラキラさせていると、全身から光を発するゴリラの体が徐々に細くなっていった。


 すると、ターニャが目を見開き


「師匠が! 師匠が!」


 声を上げ驚くターニャに、エリスが


「ちょっと、ターニャ! 落ち着いて!」


「だって! 師匠がどんどん細くなってるんだよ!!」


 慌てふためくヘビ娘の近くをティターニアがふわふわと飛びながら


「あはは~♪ ターニャちゃ~ん、大丈夫だよ~」


「大師匠! でも、師匠がどんどん細くなってるんですよ!」


「だ~いじょ~ぶだよ~。リッカちゃんは細くたって物凄く強いんだよ~」


 ん~、まだ光に包まれたままだが、確実にゴリラだった時よりも全体的に細くなって、女性っぽい輪郭になってきてるなあ。


 などと思っていると、リッカの足元から徐々に光が消え始め


「あー! 師匠の太くて毛深かった足がああ!!」


「ちょっと、ターニャ! 大丈夫だから落ち着いて!」


「だって! 師匠の足が細くてツルツルになってるんだよ!!」


 慌てふためくヘビ娘を見て、ヤマさんが


「おいおい、ターニャ。驚きすぎだ……、あれはゴリラじゃない本来のリッカの足だ」


「えええ! 師匠ってこんなに足が細かったの!!」


 ん~、確かにゴリラの時と比べたら、心配になるくらい細い足かもしれないが、それはゴリラだったからで、今見えてる足は、どう見てもごく普通の一般的な女性の足だぞ……


 などと思っていると、リッカの指先から肩にかけての光も消え始める。


「あー! 太くて毛深かった腕も細くてツルツルだーー!」


 ん~、背丈は今までと変わらないが、明らかにゴリラから本来の人へとリッカは変貌し始めてるみたいだな。


「師匠が! 師匠が! 細くてツルツルになっちゃった!!」


 頭部はまだ光に包まれたままだが、目の前には白いワンピースを着た女性が姿勢よく立っている。


 ん~、遂にゴリラではない、本来のリッカの姿が見れるのかあ。


 ちょっと楽しみだな……


 などと思っていると、光に包まれたリッカの頭部に変化が現れる。


 ゆっくりと耳の後ろの方から突起物が現れ、光が消えると


「あー! ツノだ! 師匠から角が出た!」


 ヘビ娘が驚いていると、クモ娘が呆れた顔をして


「そりゃあ、リッカさんは魔族なんだから角は生えてるわよ……」


 ふむ、やっぱ親子だからなのか? リッカの角はなんとなくタールのおっさんと形が似ているな……


「そっか、師匠にも角が生えてたんだ!! あたしとエリスみたいに師匠にも角が生えてたんだね!!」


「だから、リッカさんは魔族なんだから角は生えてるって言ってるでしょ……」


 ん~、ヘビ娘がリッカの角を見て興奮するのとは対照的に、クモ娘はいたって冷静だな……


 にしても、ターニャとエリスに生えてる角って、なんとなくリッカやタールのおっさんと形状が似てる気がするな?


 などと思っていると、光に包まれたリッカの頭部から細くて長いサラサラとした糸状の物が現れて、光が消えると


「あー! 師匠から毛が生えた!!」


「ちょっと、ターニャ! あれは髪の毛!」


 リッカの胸のあたりまで伸びる髪が現れた。


「師匠って髪、生えてたんだ……」


 目を見開き驚いているヘビ娘にクモ娘が


「そりゃあ、生えてるでしょ!」


「師匠の髪って、奇麗な色してたんだね!」


「リッカさんの髪色はアッシュグレーって言うのよ」


 へ~、リッカって青みがかった灰色が混ざった感じの髪だったのかあ……


 などと、リッカの奇麗な髪を眺めていると、リッカの頭部を包む光が強くなったり弱くなったりを何度も繰り返し始めた。


「おお! 遂に本当の師匠に会える時が来た!」


「そうね、やっとゴリラじゃないリッカさんに会えるのね」


「大人になったリッカちゃ~ん。早く顔を見せておくれ~」


 ヘビ娘とクモ娘と妖精が、リッカの頭部に注目していると


「おや?」


 カケさんが、強弱を繰り返し発光するリッカの頭部を見て、眉間に皺を寄せる。


 すると、ヤマさんが


「おいおいおい……」


 不安そうな顔をして、リッカの頭部を見つめていると、リッカの頭部から強烈な光が放たれた。


 すぐさま光を放つリッカの頭部から目を逸らすと


「し、師匠!!」


「リ、リッカさん……」 


「リッカちゃ~ん……」


 ヘビ娘とクモ娘と妖精の声がして、珍しくヤマさんが


「おい、これって……」


 狼狽したような声を上げる。


 すると、カケさんが


「思っていた以上に、強力だったみたいだね……」


 みんなに遅れて、俺もリッカに目を向けると、胸まで伸びた長い髪を細くて奇麗な指で整えながら


「えっと、ちょっと恥ずかしいけど……、改めましてリッカです」


 モジモジしながら本来の姿となったリッカが、なぜか顔面は以前と変わらないメスゴリラのままで挨拶をしていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] ゴリラの顔面の肌色ってグレーだよね、、、これは目立つなぁ、、、
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