第89話 夜ご飯
ターニャがひき肉と玉ねぎ、それと豆を煮込んだ料理を食べながら
「師匠! あたしやっぱこの料理すきかも!」
リッカが笑顔で頷きながら
「ええ、美味しいわよね。エリスはどう? 魔族領ではあまり見ない料理だけど大丈夫?」
「はい、大丈夫です。母達と一緒に色んな土地に赴くことがあるので、その時に何度かこの料理は食べた事があります」
「そう、なら良かった。でも、少し辛いけど大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
エリスがパンをちぎりながら笑顔で答えると、ターニャが
「ちょっとピリ辛だからパンとの相性抜群だよね!」
「うん、美味しいよね」
エリスが頷きながらパンを口に運ぶと、ターニャがスプーンですくった豆をパンにのせ
「こうして食べると、もっと美味しくなるよ!」
それを見たエリスが、ターニャみたいにパンの上に豆をのせて口に運ぶ
「ホントだ! 美味しい!」
「でしょ、でしょ♪」
「うん、うん」
ん~、やっぱ子供同士だと変に取り繕ったりしないから、仲良くなるのが早いのかもなあ……
などと思いながら、俺もちぎったパンに肉と豆をのせて頬張る。
リッカが実はタールのおっさんの娘で王族だと素性を明かすと、今度は親族の話しもし始めた。
だが、王族だからなのか登場人物が多すぎて、リッカの身内の名前を全て覚える事など到底できるはずもなく、とりあえず相づちだけ打って話しは聞き流してしまった。
他にもリッカの生い立ちだったり、ゴライアス国内で起こっている王権争いとかについても色々と話してくれたのだが、やはり登場人物が多すぎて、誰が誰だか分からなくなってしまい、こちらも相づちだけ打って話しは適当に聞き流してしまった。
ただ、迷宮探索に明け暮れているリッカの爺ちゃんが実はゴライアスの国王だってのは把握した。
そして、今現在ゴライアスの国王であるリッカの爺ちゃんと、皇太子の娘であるリッカが城にいない件に関しては、ごく一部の者だけにしか知らせておらず、世間的には二人とも病気で床に臥せてるって事にしてるってのも把握した。
それと、タールのおっさんが『魔獣族の国を創る』と言って、チョコチョコ城を抜け出しているが、気づくといつの間にか城に戻っているので、おっさんが度々城から抜け出しているって事は、あえて国民や他国には口外してないんだそうだ。
何でおっさんの事を口外しないのか分からなかったので、首を傾げていると
「お爺様は迷宮探索でずっと城に戻って来てないから、今は病で床に伏してるって公表してるのに、皇太子が城をしょっちゅう抜け出しているだなんて周りの人達が知ったら、色々と勘ぐる連中がいるから何かと都合が悪いのよ」
と言って、リッカは深い息を吐いていた。
一般庶民の俺からしたら、何をどう勘ぐって都合が悪いのかがよく分からんが、とりあえず『色々と大変なんだな』と励ますと、ゴリラは肩を落として苦笑いしていた。
ちなみに、おっさんの言う『魔獣族の国創り』てのは、全ての魔獣族を対象にした国創りではなく、ある特定の魔獣族のみに限った事で、種族的に女性だらけの魔獣族が対象だった。
なので、リッカに
「なんで全ての魔獣族が対象じゃないんだ?」
と尋ねると、なんでもタールのおっさんが
『種族的に女性だけの魔獣族は、男性がいる魔獣族と比べて極端に個体数が少ない。それに、子孫を増やしたくても他種族との男性と出会いが極端に少ない。つまり、このままだと彼女達が滅びてしまう。なので、既に安定し平和に過ごせるゴライアスについては兄弟達に任せ、俺は彼女達を保護して住みやすい場所を創る事にした!』
てな感じで、タールのおっさんは熱弁すると、家(城)を頻繁に留守にするようになったんだそうだ。
そして、今現在ゴライアスの国王(リッカの爺ちゃん)が不在なので、本当ならその息子である皇太子が色んな公務を頑張らないといけないのに、皇太子であるタールのおっさんが頻繁に城を抜け出してしまうので、王妃(リッカのお婆ちゃん)と皇太子妃(リッカのお母さん)が国内外で発生している様々な物事を手分けして対処してるんだそうだ。
そんなタールのおっさんのせいで、リッカのお婆ちゃんとお母さん、それと国政に関わる全ての人達に迷惑を掛けまくっているのに、自国の事など顧みず、自分勝手に国創りに勤しむタールのおっさんの事が、リッカはどうしても許せないんだそうだ。
だからなのか、かなり長い時間を使っておっさんの愚痴を色々と聞かされたのだが、やはり相づちだけ打って適当に話しは聞き流してしまった。
ただ、俺の勝手なイメージで、リッカは愚痴や文句を言わない人だと思っていたので、正直チョット驚いたが、今まで見た事がないリッカの一面を垣間見ることが出来たので、家族の事で意気消沈していたリッカには悪いが、俺的にはチョット得した気分になっていた。
とりあえず『リッカも色々と大変なんだな』と励ますと、ゴリラは肩を落として苦笑いしていた。
一般家庭で自分の親が不甲斐ないとかって話しだったら、俺でも何か力になってあげられそうな気もするが、流石に王族内での話しとなると、一般庶民の俺からしたらどんな言葉を掛けて慰めてあげれば良いものなのか、正直困ってしまうわな……
などと、ターニャとエリスが蟲族の男の子、マグロに村の案内をされてた時の話しを思い出していると、エリスが
「リッカさん、私にも魔法の指導をして頂けないでしょうか?」
姿勢を正してそう言うと
「ええ、もちろん構わないわよ?」
目をパチパチさせてるゴリラにエリスが
「実は、少し苦手な属性魔法がありまして……」
すると、ターニャが
「師匠! エリスは風と土魔法が得意なんですって! でも、火と氷の魔法は苦手なんですって! エリスはあたしと反対なんです!」
「ええ、ターニャは火と氷は得意だけど、風と土の属性魔法は苦手よね」
「はい! 苦手です!」
胸を張るターニャを見て
いやいや、そこは威張るとこじゃないからな……
などと、パンを頬張りながら心の中でツッコミを入れていると
「じゃあ、明日からエリスもターニャと一緒に魔法の稽古を行いましょ。よろしくね」
リッカが笑顔でそう言うと、エリスが
「あっ! ありがとうございます!!」
と言い、満面の笑みを浮かて
「よろしくお願いします!」
勢いよく頭を下げた。
すると、ターニャが
「ねっ、大丈夫だったでしょ。あたしの師匠はすっごく優しいんだから!」
「うん! ターニャの言う通りだった! 明日から一緒に頑張ろうね!」
へ~、どうやらエリスがターニャにゴリラから魔法を教えてもらえないか相談してたみたいだな……
ん~、やっぱ子供って、仲良くなるのが本当に早いなあ。
などと思いながら、鍋から豆料理のお代わりを自分の皿に移していると、ターニャがエリスを見て
「あっ! 明日はマグロたちと遊ぶんだった!」
すると、エリスが目を見開き
「そうだった!」
ターニャとエリスが見つめ合ってるとゴリラが
「魔法の稽古はいつでも出来るから、まずはマグロ君達と遊んでらっしゃい」
「はい! 分かりました!」
ターニャが元気よく返事をすると、エリスが笑顔で
「ありがとうございます!」
リッカに頭を下げた。
すると、ターニャが
「ふっふっふ。明日は子分たちと何して遊ぼうかなあ」
と言って、ニヤニヤしているとエリスが
「ちょっと、ターニャ! 子分じゃなくて友達って言わないとダメだよ」
「えっ!? でもマグロたちが子分にしてくださいって、言ってたじゃん?」
あ~、そう言えば、ターニャとエリスがこの家に戻って来たときに、マグロ以外に三人の子供を引き連れてたな。
しかも、何があったか知らないが
「エリス様、そしてターニャの姐さん。今日はお疲れさまでした。明日またお迎えに上がります」
と言って、マグロと三人の子供達が深々と頭を下げてたな……
などと、どっかのガラの悪い連中みたいな事をしていた子供達を思い出していると
「だからって、マグロたちの事を子分とか言っちゃダメだよ」
「なんで??」
目をパチパチさせながら首を傾げるターニャにエリスが
「まず、子分だとか姐さんとかって言葉を使う人たちは、どちらかというと世間的にはあまり評判の良くない人たちが使う言葉なの」
「えっ? カッコイイのに?」
「かっ、格好良いって……」
エリスがため息を吐いて肩を落とすと
「まず、その言葉を聞いてカッコイイって思っちゃうターニャの感性を改善させないといけないのね……」
「えっ? なんで? 姐さんとかって呼ばれたらカッコイイじゃん!」
エリスが額に手を当て俯くと
「そう、ターニャは格好良いって感じるのね……」
「うん! カッコイイ!」
すると、エリスが真面目な顔をしてターニャを見ると
「ターニャはリッカさんの事をとても尊敬してるし、とても大切な人って思ってるのよね?」
「うん! あたしは師匠が大好きだよ!!」
ターニャがリッカを見てニコニコするが、エリスは表情を崩さず真剣な眼差しをターニャに向けたまま
「ターニャがリッカさんの事が大好きだって事は、マグロに村を案内されてる時に沢山話してくれたから既に知ってるわ」
「うんうん!」
笑顔で頷くターニャにエリスが
「そんで、ターニャはそんな大好きなリッカさんみたいになりたいって思ってるんでしょ?」
「うん! 師匠みたいに強くてカッコイイ大人を目指してる!」
二人のやり取りを静観しているリッカが、照れくさそうに水を飲み始める。
にしても……、やけに真剣な表情をしてるが、エリスは突然どうしたんだ?
「じゃあ、ターニャは大好きなリッカさんが、周りから変な目で見られたらどう思う?」
「そいつらをぶん殴る!」
リッカが水を吹き出しそうになっているが、なんとかギリギリ吹き出さずに済んだみたいだな……
すると、エリスが額に手を当てて
「色々と改善させないといけないのね……」
と呟くと、またターニャをしっかりと見つめ
「これから私たちはリッカさんと色んな場所に行く機会があると思うんだけど、その時に私たちがしっかりしてないと、リッカさんが周りから変な目で見られるかもしれないの、ターニャはリッカさんが変な目で見られるのはイヤでしょ?」
ターニャが激しく頷き
「絶対にイヤ!」
「なら、姐さんとかって呼ばれたり、友達の事を子分って呼ぶのは私たちだけの時にして、これからは周りに大人がいない時だけにしてね」
ターニャが目をパチパチさせながら
「なんで??」
「さっきも言ったけど、ターニャが格好良いって感じている言葉は、世間的にはあまり評判の良くない人たちが使う言葉なの、だからリッカさんの傍にいる私たちがその言葉を使ったり、その言葉で呼ばれているって知ったら、周りの大人たちが『リッカさんはそんな野蛮な連中と仲が良いのか?』って思って、私たちのせいでリッカさんの印象が悪くなっちゃうの」
ターニャが首を傾げて目をパチパチてるが、エリスは話しを止めずに
「しかも、私とターニャは魔獣族だから特に目立つし、世間的にはまだ冷たい目で私たちを見る人はたくさんいるの、だから普段から使う言葉や立ち振る舞いには気をつけないといけないの」
「言葉づかい……、たちふるまい……」
ターニャがエリスの言葉を復唱すると、エリスが
「そう、私たちの普段の会話や、日常的な動作や身のこなしとかを丁寧にすることで、周りの大人たちが私とターニャを見て、リッカさんの傍にいて相応しいと思えるようにならなきゃいけないの」
あれ? もしかして、エリスってリッカの素性を知ってるのか?
リッカを見ると、俺の視線に気づいたゴリラが、眉をピクッと上げてゆっくりと頷いた。
なるほど、それでエリスは今後の事も考えて、ターニャに指摘しているのか……
すると、ターニャがゆっくりとリッカに顔を向け
「師匠、やっぱ普段からチャンとした方が良いですか?」
「そうねえ……、仮にターニャの言動で、私の印象が悪くなってしまったとしても、私は全然気にならないんだけど、ターニャが私みたいな『強くてカッコイイ大人』を目指しているのであれば、普段から丁寧な言葉使いや立ち振る舞いには気をつけないとダメかもね」
「そうなんですかあ~」
ターニャが眉間に皺を寄せて難しい顔をしていると
「ふふふ、ターニャはその辺りの事はチョット苦手かもしれないわね」
「むむむむむ~」
と言って、ターニャが口をへの字にすると、ゴリラが
「でも、エリスはその辺りの事は普段から気にして特に気をつけるようにしているみたいだから、ターニャはエリスから苦手な事を色々と教えてもらうと良いかもね」
ターニャがゆっくりエリスを見ると
「エリス~、あたしに色々教えてくれる?」
「もちろんよ! 私がターニャを格好良い大人にしてあげる!」




