第87話 ティータイム②
白いワンピースを着たゴリラが、紅茶を飲みながら俺の話しに耳を傾けている。
「そんで、山登りの休憩中にニュクスさん達から密猟者の話しを聞いたんで、密猟者の撃退に向かったんだが、そこで獣人族と蟲族を助けてな」
すると、ゴリラが目を見開き
「そう、それ! エリスからその話しを聞いた時はビックリしたわよ!」
と言い、鼻息を荒くしながら
「なんで密猟者を撃退しに行ったのよ? しかも一人でなんて危ないでしょ!」
少し興奮気味のゴリラに
「いや、ニュクスさん達との別れ際に、魔族のおっさんから密猟者の場所を教えられちゃって、しかも捕らわれてる人がいるって話しも聞いてたんでな、やっぱ知らんぷりは出来ないだろ?」
すると、ゴリラが頬を膨らませて
「まあ、確かにそうかもしれないけど……」
納得してなさそうなゴリラに
「ほら、セバスに譲ってもらったレア装備とか持ってたしな。それと、現場を偵察して危なそうだったら引き返そうと思ってたんだが、実際に現場を見たら、なんか大丈夫そうだったんでな……」
頬をポリポリとかいていると、ゴリラが一度大きく息を吐き
「ええ、そうらしいわね。結果的に密猟者は全て撃退したし、捕らわれていた人達も助けて、ケビンは大活躍だったってエリスが言ってたわ」
「ああ、セバスのレア装備のお陰で密猟者は全く問題なかったんだが、捕らわれていたのが獣人国のお姫様だったんで、流石にそれには驚かされたがな」
ゴリラがピクッと眉を上げ、静かにティーカップを口に運ぶのを目で追いながら
「あの日って、リッカ達と別れる前に妖精国の女王ティターニアとも会ってたじゃんか、なにげに生まれて初めて妖精を見たし、しかも女王ってんでビックリしてたんだが、まさかその日のうちに獣人国のお姫様にも会うなんてビックリだよな!」
「え、ええ……、そうね……」
ゴリラがか細い声で返事をするが
「獣人国のお姫様はレオって言うんだが、俺みたいな庶民にも気さくに接してくれてな、王族ってもっと高圧的な態度で接して来るんかと思ってたんで、なんか意外だったなあ」
ゴリラが目を伏せながら紅茶を飲んでいるが
「あと、一緒にいたラピって兎の獣人は頼りない感じだったが、彼女も普通に接してくれてたなあ。あっ! そうそう、なんかレオとラピは、カトゥン国の第二王女と仲が良いらしくって、チョイチョイ人族領には遊びに来てるって言ってたぞ?」
すると、ゴリラがティーカップをソーサーの上に置き
「まあ、どこの国の王族でも、他国との交流はあるでしょうから、普通に人族領にも足を運んでるんじゃないかしら?」
「あっ! そっか! 確かに、そう言われてみると、そうかもしれないよな」
ウンウン頷くゴリラに
「んで、捕まってた蟲族のマグロをどうやって村に帰すか考えてたら、魔族のおっさんがニュクスさんと一緒なら大丈夫ってんで、エリスも連れて俺も蟲族の村に行くことになってな」
紅茶を飲みながら、俺の話しに相づちを打つゴリラに
「そしたら急遽ヤマさんと一緒にドワーフ国の魔物退治に参加することになってな」
ゴリラがカップをソーサーに置くと
「ええ、まさかケビンもドワーフ国で魔物退治をしてるだなんて思ってもいなかったから、ヤマさんから『ケビンも頑張ってるぞ!』って話しを聞いた時は、本当に驚いたわよ」
「ああ、なんか話しの流れで俺も行くことになってな、そん時は『三、四日くらいで女王蟲の出産は終わる』ってカケさんが言ってたんで、まあ何とかなるだろうなって思ってたんだが、結局九日間も魔物退治をすることになるとはなあ……」
俺が口をへの字にしていると、それを見たゴリラが笑顔で
「でも、魔物に困ってたドワーフ国の人々の力になれたから、私はとても充実してたわよ?」
「ああ、俺もお爺ちゃん兵士達から『ありがとな』ってチョイチョイ感謝の言葉を掛けられるたびに『魔物にボッコボコにされながらも、頑張った甲斐があったなあ』って思えて、ちょっと嬉しかったなあ」
ウンウン頷くゴリラに
「そういえば、リッカってお爺ちゃん兵士達に『癒しのゴリラ』って言われてたらしいな?」
ゴリラが苦笑しながら
「ええ、ちなみにターニャは『癒しの蛇娘』って言われてたわ……。でも、ターニャ本人はその呼び名に喜んでたみたいだけどね」
「ふっ、だろうな」
やっぱりなって感じで答えると
「そういえば、なんでケビンはドワーフの人達に『英雄』って呼ばれてたの?」
「ああ、この鎧のせいなんだが……」
俺の着ている鎧を見て、首を傾げるゴリラに
「こいつはカケさんから譲ってもらったんだが、昔カケさんがドワーフ国で『強化装備で体を鍛えれば君も英雄になれるかもしれないよ!』って売り文句で、これと似たような鎧を売ってて、当時は英雄になれるかもしれない鎧って言われてたんだそうだ」
ゴリラが目をパチパチさせながら
「えっ? でもその鎧に埋め込まれてる宝玉って弱体化させるための宝玉なんでしょ?」
「ああ、物凄く弱体効果の高い宝玉が五つも埋め込まれてるぞ……」
「いっ、五つも!!」
目を見開き驚くゴリラに
「ああ、だから魔物と戦えるようになるまでは本当に大変だった……」
「え、ええ、そうでしょうね……」
口をへの字にして、気の毒そうな顔をしているゴリラに
「だから、お爺ちゃん兵士達は昔この鎧が流行ったときに、みんな英雄を目指して頑張ってたらしいんだ。でも、あまりにも弱体化が酷いんで、早々に鎧を脱いで英雄に成るのは諦めてたらしいんだ」
「あ~、それでケビンがドワーフの人達から『英雄』って呼ばれていたのね」
疑問が解消したからなのか、スッキリした顔のゴリラに
「ああ、だからどこに行ってもお爺ちゃん兵士達からは『わしの分まで英雄目指して頑張ってくれ』っていわれまくってたぞ」
「えっ? ケビンは英雄に成る事に決めたの?」
「はっ!? まさか! そんな訳ないだろ!」
「ふふふ、でしょうね」
いたずらっぽく微笑むゴリラに
「んで、この鎧のお陰で短期間で強くなった俺を、リッカ達に見せて驚かせようと思ってたんだが、リッカは片手でオークを振り回してたし、ターニャはいつの間にか闘気を覚えてオークをぶっ飛ばしてただろ、それを見てたらなんか強くなって調子に乗ってた自分が恥ずかしくなってな、色々とどうでも良くなったよ……」
意気消沈する俺を見たゴリラが、顔を引きつらせながら
「あ、あはははは~」
と笑うと、申し訳なさそうに紅茶を飲み始めた。
なので、俺も紅茶を飲んで喉を潤す。
すると、ドワーフ国の迷宮で気になってた事を思い出したので
「なあ、ドワーフ国では見かけなかったんだが、魔族領にも『迷宮案内掲示板』ってあるんだよな?」
「えっ? ないわよ?」
首を傾げるゴリラに
「えっ? ないの??」
「ええ、迷宮に掲示板があるのって人族領だけよ?」
「えっ!? そうだったの!!」
ゴリラがカップをソーサーに置くと
「人族領のカトゥン国王が、大戦後に迷宮で命を落とす国民が多かった事に心を痛めて、迷宮に案内掲示板を設置するよう働きかけたのよ?」
「そう言えば、戦後は資源不足で沢山の人達が迷宮に行ってたって、親方も話してたなあ」
「ええ、それで国が主導で組合を発足させて、人族領の全ての迷宮に、案内掲示板を設置するようになったのよ」
「そうだったのかあ」
「ちなにみ、ローズは『迷宮案内掲示板作製組合』の副長で、お兄様が組合長を務めてらっしゃるわ」
「スゲーな! ローズって組合の副長だったのか!」
「ええ、組合発足当初は迷宮の調査だけだったけど、しばらくしてから人族領全体の魔物の棲息地や魔物の分布についても調査するようになって、魔物による国民の被害を少しでも減らそうって動き出したの」
「へ~、そうなんだあ」
「それと同時に、国内にいる魔獣族の為に、国に蔓延る密猟者達の撲滅もするようになったのよ」
「ああ、それはグリーンキャニオンの迷宮内で話してたな。リッカもローズと一緒に色々と頑張ってるって話しを聞いて、俺も何か手伝いたいって思ったもんなあ」
ゴリラがウンウンと頷くと
「だから人族領での魔物の異常について教えてもらおうと思って、グリーンキャニオンでローズに手紙を送ってたでしょ?」
「ああ、なるほど! それでか!」
ウンウンと頷くゴリラに
「ところで、リッカはゴライアスの皇太子って、どんな人物か知ってるか?」
ゴリラがピクッと眉を上げるが
「いや、タールって魔族のおっさんに会ったんだが、エリスがおっさんはゴライアス国の皇太子だって言ってたし、獣人国の王族のレオもラピもおっさんとは知り合いみたいだったんで、本当に皇太子なんだろうが、俺にはどうもおっさんがそんな偉そうには見えなかったんだよなあ」
目を伏せながら俺の話しを聞いてるゴリラに
「んで、魔族のリッカなら自国の皇太子の事を知ってるかも? って思って聞いてみたんだが、実際のところおっさんって凄い人なのか?」




