第86話 ティータイム①
白いワンピースを着たゴリラが、紅茶を淹れるのに必要な品々を、空間魔法のポケットから次々と取り出している。
ん~、こうしてリッカが紅茶の準備をしている姿を見るのって、なんだかスッゲー久しぶりな気がするなあ……
ゴリラがポケットからティーポットを取り出すと、茶葉の入った容器の隣にそっと置く。
ん~、ただ紅茶の準備をしているだけなのに、不思議とリッカの動きを目で追っちゃうんだよなあ……
黒くて太い指のゴリラが、ティーカップをポケットから取り出すと、音もたてずにソーサーの上にそっと置く。
ん~、ゴリラのくせに動きが優雅で繊細な感じがするからなのか?
ゴリラが大きなケルトに水を注ぐと、ケルトを魔道具にのせて加熱し始める。
ん~、あるいは、ゴリラのくせにやけに姿勢が良いからなのか?
ゴリラがケルトのお湯をティーポットに注ぐと、ケルトのお湯を更に加熱する為、再び魔道具の上にケルトをのせる。
ん~、今はリッカの紅茶を淹れる動作を目で追っているが、気づくと普段の何気ない動作、例えば物を取る、椅子に座る、もしくは歩く姿とかでも、目で追ってしまう時があるんだよなあ……
ゴリラがティーカップを温める為に、ティーポットに入ったお湯を使ってカップに湯通しすると、空になったティーポットに茶葉を入れ始めた。
にしても、リッカって何をするにも指先が奇麗に揃ってるんだよなあ……
黒くて太いゴリラの指を眺めていると、魔道具に乗せたケルトから、コポコポとお湯が沸騰している音がし始めた。
すると、ゴリラがケルトに入ったお湯を茶葉の入ったティーポットに勢いよく注ぐと、直ぐにポットの蓋を閉じた。
そして、ゆっくりと上下に首を動かし始めた。
どうやら、茶葉の蒸らす時間を計っているようだ。
にしても、どうでも良いが、リッカの毛並みがやけにツヤツヤしてるんだよなあ……
ゆっくりと首を上下に動かしながら、ティーポットを見つめるゴリラを見て、やっぱり前よりリッカの毛並みがツヤツヤしてるよな?
ん!? あっ! そういえば! 蟲族の村にニュクスさんと一緒に転移してきた時、カケさんにリッカの事を尋ねたら『久しぶりに加減しないで魔法が使える!』って言って、リッカは張り切って魔物退治に向かったって、カケさんが言ってたな……
ん~、俺と別行動をとる前のリッカは、俺とターニャに剣術だったり魔法とかを教えてたし、実戦稽古と言う名の魔物との戦闘も、ずっと俺とターニャがしてたんで、リッカは全然体を動かしてなかったからなあ。
そう考えると、今回のドワーフ国での魔物退治って、リッカからしたら色々と発散できる絶好の機会だったのかもしれないな……
ゴリラがポットの中の茶葉をスプーンでひと混ぜすると、茶こしを使って茶殻をこしながら、二つのカップに濃さが均一になるよう紅茶を注ぎ始めた。
おっ! そろそろ紅茶が出来そうだぞ!
ん~、なんやかんやで、九日間もリッカ達とは別行動だったからなあ。
リッカが淹れた美味い紅茶を早く飲みたい……って、そうだった!?
エリスが魔族領まで同行するって、まだ話してなかった!!
目を見開き、最後の一滴まで紅茶を丁寧に注ぐゴリラを見て
でもまあ、リッカの事だからダメとは言わないだろうが、本人のうかがい知れない所で勝手に決めっちゃったからなあ、後でちゃんと謝っとかないとだよなあ……
などと思っていると
「はい、おまたせ」
「おっ、ありがと」
ゴリラから紅茶を受け取ると、早速カップから漂う紅茶の香りを楽しむ。
あ~、これこれ! 不思議と心が安らぐ香りなんだよなあ……
そして、香り高い紅茶をひと口飲んで
あ~、身体の芯から柔らかな温かみが広がるこの感じ……
「う~ん、やっぱリッカが淹れた紅茶は美味いっ!」
「ふふふ、ありがと」
ゴリラが嬉しそうに微笑み
「また淹れるから、お代わりが必要だったら言ってね」
「おう、ありがとな。たぶんもらうと思うから、しばらくしたらまた淹れてくれ」
ゴリラが笑顔でウンウンと頷くと、ティーカップの取っ手を黒くて太い指でつまむ。
そして、カップを口元に運ぶと、カップを傾けゴリラも静かに紅茶を飲み始めた。
背筋が伸び、とても美しい姿勢で紅茶を飲んでるゴリラに
「なあ、エリスの事なんだが……」
すると、ゴリラが俺を見て眉を上げたので
「リッカに相談なしに魔族領まで連れてく事になってしまったんだが……」
ゴリラがティーカップを静かにソーサーの上に置くと
「話しの経緯はエリスが自己紹介してくれた時に聞いてるわよ?」
「そ、そっか、なんかあれよあれよという間に話が決まっちゃってな……、すまなかった」
ゴリラに向かって頭を下げると
「ふふふ、そんなに畏まらなくったて大丈夫よ? さっきカケさんも話してたけど、私もエリスとターニャが一緒なら、とても良い刺激になるだろうなって思うから、全然問題ないわよ」
「そっか、なら良かった」
すると、ゴリラが
「エリスから聞いたけど、私達と別れてから色々と大変だったみたいね?」
心配そうな顔をしているゴリラに
「ああ、リッカ達と別れてしばらくしたら、魔族のおっさんとニュクスさんとラミアのラーニャさんって人に出会ってな」
ゴリラが紅茶を飲みながらピクッと眉を上げたが
「生まれて初めて魔獣族のアラクネに会ったし、大人のラミアも始めた見たんだが、二人とも威圧感が半端なくってな……、物凄く怖かったなあ」
すると、ゴリラが
「ラーニャさんがどんな方なのか分からないけど、ニュクスさんは物凄い功績を残した方だもんね」
「ああ、ニュクスさんの功績については後から知ったんだが、それにしたってニュクスさんの威圧感は物凄かったぞ」
「へ~、そうなんだあ」
「ちなみに、ラーニャさんは下半身が蛇だったから間違いなくラミアなんだが、頭からは角が生えてて体は異様にデカくて筋骨隆々だったから、たぶん父方が巨人族なんだろうなあ」
ゴリラが紅茶を飲みながらピクッと眉を上げるが
「ただ、俺って魔獣族のラミアって、ターニャしか見た事ないから分からないんだが、リッカのメイドさんも頭から角って生えてるのか?」
「うちのメイドのパラスも父方が巨人族と魔族との混血だから、立派な角が生えてるし、筋骨隆々よ?」
軽く首を傾げて笑顔で答えるゴリラに
「なあ、確かリッカのメイドさんって、物凄く怖くて厳しい人だったよな?」
「ええ、パラスはとても優しくて尊敬できる人物なんだけど、体が大きくてとても厳しいから、どうしても怖い印象を与えがちなのよねえ」
ゴリラが苦笑いを浮かべて紅茶を飲み始める。
ん~、ラーニャさんみたいに筋骨隆々でガタイが良くって、なおかつ立派な角が生えたメイドとなると、やっぱ初対面だと絶対に怖くて委縮しちゃいそうだな……
などと思っていると、ゴリラがソーサーの上に静かにティーカップを置き
「でもターニャは父方が魔族だから、私みたいに耳の後ろから角は生えてるけど、巨人族のような禍々しい角は生えてこないわよ?」
「へ~、そうなんだ? いや、ラーニャさんを見てたら、もしかしたらターニャも大人になったら新たに角が生えて来るのか? って思ったんだが、そうじゃなかったんだな?」
「ええ、もしターニャに巨人族の血が流れていたならば、今とは違った角が生えてたわよ?」
「そっかあ、そうだよなあ……」
納得している俺を見て、ウンウン頷いているゴリラに
「そうそう、ラーニャさんの額から【魅了】の魔核が露出してたんだが、リッカのメイドさんも額から魔核って露出してるのか?」
「ええ、見えてるわよ?」
「じゃあ、ターニャもそのうちおでこから魔核が見えるようになるのか?」
「ええ、個人差はあるけど成人を迎える頃には露出し始めるってパラスが言ってたから、ターニャも後三年くらいしたら【魅了】だけじゃなくって、他の魔核も露出し始めるんじゃないかしら?」
確かに、魔獣族のラミアって【筋力増加】【体力増加】【気配遮断】【毒無効】【魅了】といった魔核を体内で生成するからなあ。
「なるほどねえ、ラミアは成人する頃に魔核が露出し始めるのかあ……」
静かに紅茶を飲むゴリラに
「じゃあ、エリスも成人を迎えるくらいに魔核が露出し始めるのかな?」
すると、ゴリラが首を傾げて
「私はアラクネの知り合いがいないから分からないけど、もしかしたらアラクネもラミアと同じで、成人を迎える頃には魔核が露出し始めるのかもしれないわね」
と言い、片方の眉を上げると
「後で、エリス本人に聞いてみたら?」
「確かに、その方が確実だな」
ゴリラが笑顔で頷くと、また静かに紅茶を飲み始めた。




