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第85話 戦争を終わらせた人


「よっし! マグロ! あたしたちも出発するぞ!」


「はい! わかりやした!」


 ターニャとマグロが部屋を出ると、エリスが嬉しそうに


「では、いってきます」


「ああ、すまんがターニャをよろしくな」


「はい、わかりました」 


 エリスが口元に笑みを浮かべながら、元気よくマグロとターニャを追いかけてった。


 すると、先頭を走るマグロをターニャが追い抜き


「あたしが一番だ!!」


 と叫んで、更に突っ走ろうとするが


「ターニャ! ストップ! ストップ!」


 エリスがターニャを呼び止め


「ぬん?」


 ターニャが振り返ると


「案内してくれるマグロを抜かしちゃダメでしょ!」


「あっ! そっか!」


 土煙を舞わせながらターニャが急停止しすると、マグロがターニャに追いつき


「姐さん! 走るの速いっすねー!」


「ふっふっふ。そうだろう、そうだろう!」


 腰に手を当て、ターニャが偉そうにふんぞり返った。


 ん~、部屋の窓からターニャ達の様子を窺っていたが、やっぱエリスを同行させて正解だったな……


 など思っていると


「エリス君とターニャ君。あの二人の出会いはとても良い刺激になるかもしれないね」


 カケさんがマグロの後について行く、エリスとターニャに優しい眼差しを向けながら言って来たので


「ですね、ターニャはどちらかというと、その場の勢いだったり直感で行動しがちですが、エリスは物事を慎重に判断してから行動するので、二人が一緒に行動すれば、今まで以上に色んな発見や気づきに繋がるかもしれませんね」


 カケさんが笑顔でウンウンと頷き


「だね、僕もヤマとニュクスのお陰で物事には人によって色んな見方があるって事に気づかされたし……」


 と言い、遠くを見つめながら


「何か問題を解決しようとする時も、色んな立場で物事は考えないといけないだとか、色んな要因が絡み合って問題が発生している場合もあるから、注意深く考えを巡らせて、慎重に行動することも大切だって事にも気づかされたからね」


 ん? それって戦争中にニュクスさんの村が滅ぼされた時に、カケさんが怒って各国の王を拉致って懲らしめようとした時に、ヤマさんに止めてもらった時のことを思い出してるのかな?


 などと思っていると、カケさんが並んで歩くターニャ達に視線を戻して


「それに、他種族との交流は蟲族にとっても良い刺激になると思うしね」


「ですねえ。あっ! そうそう、蟲族って戦時中に滅びたって聞いていたので、密猟者に捕らわれていたマグロを見た時は、ビックリしましたよ」


 すると、カケさんがピクッと眉を上げて


「あ~、多分それは、僕が人族領のカトゥン国と獣人国に『この戦争で蟲族は滅びた』って話しをしたからじゃないかな?」


「えっ? それは……?」


 俺が首を傾げると


「ニュクスのお陰で魔獣族の魔物認定はなくなりはしたけど、まだ混乱も続いていたんで、世間に魔獣族の事が上手く伝わらないだろうって思ってたからね」


 そう言えば、戦後の人達って資源が不足してたんで、迷宮に魔石の収集をするので忙しかったみたいだし、戦争中は魔物の駆除まで手が回らなかったから、凶暴な魔物が街の近くまで出没するようになって、その魔物の駆除とかでも当時は忙しかったって親方が話してたな……


 などと、戦後間もない頃は色々と大変だったって話しを思い出していると、カケさんが口をへの字にして


「それに、地域によってはまた直ぐに戦争が始まるって考えてる人達もいて、戦力強化に魔獣族の魔核を使って禁止されてるレア装備の製造を目論む連中もいたんで、それらをけん制するのに『この戦争で蟲族は滅びた』って話しをしといたんだよ」


 ん~、今も昔も、魔核を狙った密猟者ってホント厄介だよなあ……


「でね、戦後の混乱が落ち着いて、人々の生活が安定し始めた頃合いを見計らって、カトゥン国と獣人国の一部の人達に『実は蟲族は生存してるけど、個体数はまだ少ないから気をつけないと、本当に滅んじゃうから注意してね』って伝えといたんだ」


 と言って、カケさんがリッカを見ると


「確か、カトゥン国では密猟対策も兼ねて、公には蟲族が生存してるって情報は公開してなかったよね?」


「はい、その通りです」


 とリッカが答えると、カケさんが俺を見て


「ね、それもあってケビン君は蟲族が生存してるって知らなかったんじゃないのかな?」


「なるほど、そういった経緯があって、蟲族はこうして村まで作れるくらい個体数が増えたのかあ……」


 などと、声に出して納得していると、カケさんが少し悲しそうな顔をして


「ここは元々ニュクスが他種族から受ける煩わしい事から逃れる為の隠れ家的な場所だったんだんだけど、戦時中に魔核を狙って襲われていた蟲族を保護しているうちに、僕らが蟲族の村として作り変えた場所なんだ」


 と言って、眉を上げると


「蟲族って十年周期で子供を産むけど、女王蟲しか子供を産むことが出来ない種族でしょ。だから、元々個体数が極端に少ない種族なのにも関わらず、昔っから魔物扱いされてたから、なかなか個体数が増えなくってね」


 ん~、確かに、蟲族の事を知らなかったら、あの見た目なんで、やっぱ魔物と勘違いしちゃうよなあ……


 それに、突然目の前に蟲族が現れて何か話しかけてきたとしても、昔は言葉が通じなかったんで「おい、魔物が何か騒いでるぞ? まさか、仲間を呼んでるんじゃないだろうな?」って思って、危害を加えられる前にやっつけちゃおうって思っても仕方ないよなあ……


 ん~、ただ、カケさんは当たり前のように話しているけど、俺は蟲族が女王蟲しか子供を産めなくって、しかも十年周期で子供を産むって事は初めて知ったぞ?


 などと思っていると


「じゃあ、僕も女王蟲の様子を見て来るね」


 部屋を出ようとするカケさんに、リッカが


「あっ! 先ほどジョンさんが、命に別状はないがひとりでまだ起き上がれないと仰っていましたが……」


 心配そうな顔をして尋ねると


「ん? ああ、毎回蟲族の出産は三日くらいで子供を三、四人産んで終わるんだけど、今回は三週間かけて九人も子供を産んだから、流石に女王蟲の体力も底を着いちゃったみたいだよ」


 スゲーな女王蟲!! いつもの倍以上、子供を産んでたのか!


 そりゃあ、ヘロヘロになっても仕方ないよなあ。


 などと思っていると、リッカが目を見開き


「そっ! そんなに沢山!」


 などと驚いていると、カケさんがニコニコしながら


「でも、ターニャ君の抜け殻があるから、三日くらいしたら元気になると思うよ」


「そ、そうですか、それは良かったです」


 ホッとするリッカにカケさんが


「うん、だからそんなに心配しなくても大丈夫だよ」


 と言って、俺を見ると


「一応、女王蟲が元気になるまで僕は村に留まるつもりだけど、ケビン君達はこれからどうするのかな?」


 カケさんに言われて、リッカを見る。


 すると、リッカがカケさんに


「まだ何も決めていませんが、私達も女王蟲が元気になるまでは留まろうと思っています」


 と言い、俺を見て


「構わないわよね?」


 俺は特に何も問題はないので


「ああ、もちろん」


 と答えると、カケさんが


「なら、この部屋を好きに使ってもらって構わないよ。もし、部屋が狭いようなら村の空いてる場所を使ってもらって構わないからね」


 すると、リッカが丁寧に頭を下げて


「ありがとうございます。とりあえず、あの子たちが戻って部屋が狭いと感じるようでしたら、その時は村の敷地内で休める場所を作らせてもらいます」


 カケさんが笑顔でウンウンと頷き


「じゃあ、また夜に顔を出しにくるね」


 と言って、手を振り部屋を出るカケさんに


「あ、はい。わかりました」


 軽く頭を下げて見送ると


「はい、では、また後ほど」


 リッカが丁寧に頭を下げた。


 そして、カケさんが視界から見えなくなるまでずっと頭を下げ続けていたので


「なあ、もしかして、カケさんって物凄く偉い人なのか?」


「えっ!」


 リッカが目を見開き


「あの人が先の大戦を終結せたのよ?」


「えっ?! えーー!! そうだったの!!」


 驚く俺を見てリッカが


「カケさんが各国の王に停戦を促し同意させた事で、十年近く続いていた戦争がやっと終わったのよ?」


「いや、でも、俺はリッカから知識量が多くて、魔道具が好きな物凄くのんびりとしたエルフとしか聞いてなかったから……」


 まさか、カケさんが戦争を終わらせた人だったとは……


 カケさんって実は物凄くスゲー人だったんだなあ……


 などと思っていると、リッカがハッとした表情をして


「そうね、確かにビエナ地方の草原地帯を移動している時に、私はケビンにカケさんのことをそう伝えてたわね……。あ~、私の説明不足だったわ……」


 肩を落として項垂れるリッカを見ながら


「ん? あっ! そう言えば、カケさんが戦争中に怒って各国の王を拉致ったって話しをしてたんだが、もしかしてそれが結果的に終戦に繋がったのか?」


「え? 私の聞いた話しだと、カケさんが各国の王に話す場を設けた事で戦争が終結したって、聞いてるわよ?」


 首を傾げるリッカに


「なあ、それって……、各国の王の面子や立場もあるんで、カケさんに拉致られたって言えないからそういう事にしたんじゃないか?」


 すると、リッカが顎に手を当て


「そう言われてみると……」


 床に目を向けながら


「私はカケさんから直接その当時の事を聞いたことはなかったかも……」


 と言い、俺を見ると


「当時の王達が面子や立場を守るために、口裏を合わせたって考えるのが妥当かもしれないわね」


 顎に手を当て、難しい顔をしているリッカに


「まあ、どちらにせよカケさんは、種族史上最悪の『十年戦争』を終わらせた物凄い人物だったって事なんだな?」


 リッカがウンウンと頷き


「ええ、だから私はケビンがカケさんと、やけにくだけた感じで接してたから、ずっとヒヤヒヤしてたのよ」


「いや、それはだってリッカから魔道具が好きなエルフとしか聞いてなかったし……」


「ええ、だからそれは……」


 リッカが額に手を当て俯くと


「私の説明不足だったと、反省しているわ……」


 深くため息を吐くリッカに


「でも、一応俺なりに、カケさんに失礼のないよう気を使って接してはいたぞ? それに、多分カケさんだったら、多少言葉使いが悪くったって怒ったりはしないんじゃね?」


「ええ、そうね。カケさんはとても心が広い人だから、その程度じゃ全然怒らないんじゃないかしら?」


「だろ、にしても……、ヤマさんは共通語を創った人だっていうし、ニュクスさんは魔獣族を救った人っだってんだから、ほんとビックリだよなあ」


「えっ!」


 リッカが目を見開くと


「共通語ってヤマさんが創ったの!」


「ああ、カケさんがそう話してたぞ?」


「それは私、知らなかったわよ?」


 目をパチパチさせてるリッカに


「へ~、そうなんだ。てっきりリッカは知ってるもんかと思ってたぞ?」


 すると、リッカが顔の前で手を振りながら


「いやいや、私はヤマさんから体の鍛え方だったり、戦い方とかは色々と教えてもらっていたけど、共通語に関しては、魔獣族と込み入った内容の話しを通訳してるってことくらいしか聞いてなかったわよ?」


「へ~、そうなんだあ。でもまあ、確かにあの筋肉を見たら、誰だってそっち方面の事を色々と教えてもらいたくなるよなあ」


 ウンウンと頷くリッカに


「んじゃ、ニュクスさんは? あの人って、カケさんとヤマさんの幼馴染だし、魔獣族が魔物じゃないって各国の王に訴えた凄い人なんだろ?」


「ええ、ニュクスさんの功績や存在は知ってはいたけど、実際に今まで会った事は一度もなかったし、カケさんとヤマさんの幼馴染だったってことは、さっきエリスが自己紹介をしていた時にヤマさんから聞いて、ビックリさせられたわ」


「そっかあ、リッカはニュクスさんとは会った事がないのかあ……」


 すると、リッカが目をキラキラさせて


「ねえ、ニュクスさんって、どんな感じの方だった?」


 胸の前で手を組んで、いかにも興味津々って感じで聞いて来たので


「ん~、そうだなあ……」


 物凄い殺気を当てられて、身動きできなくなってた事を思い出し、一瞬ブルッと身震いさせて


「物凄くおっかないけど……」


「おっかない?」


 リッカが首を傾げるが、ニュクスさんがエリスを見送っていた時の優しい眼差しを思い出し


「物凄く娘思いの優しいお母さんって感じかなあ」


 すると、リッカが笑みを浮かべて


「へ~、良いお母様なのね」


 と言って、顎に手を当て首を傾げながら


「じゃあ、エリスをもっと大人っぽくさせたら、ニュクスさんみたいな感じになるのかしら?」


 控えめで大人しい雰囲気のエリスと、肌の露出が激しく妖艶な雰囲気を醸し出していたニュクスさんを思い出し


「う~ん……、見た目と雰囲気が全然違うからなあ。単純にエリスを大人っぽくさせても、ニュクスさんみたいにはならないかなあ……」


 すると、リッカが唇を尖らせて


「そっかあ、私もニュクスさんに会ってみたかったなあ」


「えっ? 会ってみたいの?」


 リッカが更に唇を尖らせると


「ええ、そりゃあ会いたいわよ。ニュクスさんは魔獣族は魔物ではなく私達と共存できる種族なんだって世間に知らしめた人なのよ。それに、本人もアラクネとして色々と大変な苦労を経験されてるでしょうから、会って話しを聞くことで、今後の魔獣族の手助けに繋がる話も聞けるかもしれないじゃない」


「あ~、なるほどね」


 ん~、にしても、唇を尖らせて拗ねたゴリラって可愛くないな……


 などと、リッカを見ながら思っていると


「ねえ、ケビン。のど渇いてない?」


「ん? ああ、そうだな。そう言われてみると、何か飲みたいかも」


「でしょ、紅茶を淹れるから、ちょっと座って待ってて」


 椅子に腰掛けると、リッカが空間魔法のポケットからティーセットを取り出し始めた。


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