第83話 そして、蟲族の村へ
「むぐぐぐぐぐーーーん!」
「はあ、はあ、はあ」
「むぎぎぎぎぎーーーん!」
顔を真っ赤にして、糸を千切ろうと頑張るターニャを見ながら
「なあ、そろそろ手伝おっか?」
「むぐぐぐーーーん?」
ターニャが力を入れるのを止め
「はあ、はあ、はあ、全然切れない……」
「ああ、そうみたいだな」
「はあ、はあ、ちょっと休憩する」
「ん? まだ頑張るのか?」
「うん、休んだらもうちょっと頑張ってみる」
「そっか。にしても、エリスの糸ってスッゲー頑丈なんだな?」
ターニャが呼吸を整えながら
「あの蜘蛛……、なかなかやるな……」
「いや、あの蜘蛛はエリスの下半身だからな……」
などと話していると、風に乗って
――え~! リッカちゃん話してなかったの~!
――はあ!? あいつ知らなかったのか!
ティターニアとヤマさんの声が聞こえて来た。
――俺、なんか話しちまってるかもしんねえぞ?
――私の知る限り、ヤマさんはそういった話をしていませんでしたので、大丈夫かと思います。
――あん? そっか、ならよかった。
エリスに言われてヤマさんがホッとした表情をする。
ん? ゴリラが申し訳なさそうに頭をポリポリとかいているのが気になるが、どうやらエリスの自己紹介は済んだみたいだな、などと思っていると
「あたしも頭って生えてくるかな?」
「えっ? あたま??」
ターニャがエリスを見ながら
「うん、あたしもお腹から蛇の頭って生えてこないのかな?」
「たぶん、生えてこないと思うぞ……」
「そっかあ、あたしも頭があったら口から火を吐いたのになあ」
腹から蛇の頭が生えて火を吹くターニャを想像して
「確かに、ちょっとカッコいいかもしれんが……」
すると、ターニャが嬉しそうに
「でしょ! でしょ! 頑張ればあたしも頭生えて来るかな?」
「いや、頑張っても生えてこないと思うぞ……」
などと話していると
「おい、ターニャ! なんか面白そうな事やってんじゃねえか?」
「あっ! ヤマさん! あたしは今、腕試しの真っ最中です!」
ヤマさんがニヤニヤしながらターニャの横にしゃがむと
「俺も子供の頃にニュクスの糸を切ろうとしたが、ダメだったんだよなあ」
ターニャに巻き付いた糸を指で弾くと
「村に行くから、腕試しはこれにて終了だ」
「えーー! 休んだらまた挑戦しようと思ってたのに!」
ターニャが悔しそうにしていると
「ターニャちゃ~ん」
ティターニアがふわふわと飛んで来て
「残念だけど糸との対決は次回に持ち越しだよ~」
ヤマさんの肩にふわりと腰掛ける
「むむむ~」
悔しそうにするターニャを見て、ヤマさんが
「はっはっは、分かるぞその気持ち! 俺もニュクスの糸がなかなか切れなくって悔しかったからな!」
と言って、ニヤニヤしながらターニャに
「この糸ってマジでスッゲー頑丈だろ?」
「はい! ぜんぜん切れません!」
すると、ヤマさんがリッカと一緒に歩いてきたエリスに
「なあ、これ解いても良いか?」
「ええ、構いませんが……」
と言って、エリスがターニャに
「挑戦したかったらいつでも言ってね」
「む~ん」
ターニャが頬を膨らませ悔しそうにしていると
「なあ、ターニャ。この糸ってものすっげえ頑丈なんだけど、火にはスッゲーよえんだ」
「え? そうなんですか?」
「ああ、試しに火、吹いてみろ」
「はい!」
ターニャがヤマさんに言われた通り、糸に向かって火を吹くと、ターニャの体をグルグル巻きにしていた糸が燃え上がって一瞬で消えてなくなった。
「おーー! ホントだ!!」
糸がなくなって目をパチパチさせているターニャに
「俺ん時はニュクスがいきなり火魔法を放ってきたんで、ビックリさせられたんだよなあ」
その頃を思い出しているのか、懐かしそうな顔をしているヤマさんを見ていると、白いワンピースを着たゴリラが近づき
「久しぶり、元気だった」
「おう、色々あったが俺は元気だぞ」
「ええ、色々と大変だったみたいね」
「ああ、リッカ達が戻るまではひとりで足腰を鍛えるつもりだったんだけどなあ……」
すると、ゴリラが優しく微笑み
「話しはエリスから聞いたわ。お疲れさま」
あ~、なんかスッゲー久しぶりだなあ、この感じ……
毛むくじゃらのゴリラが微笑んでるだけなのに、不思議と心が安らぐというか、なんか心地が良いんだよなあ……
などと思っていると、見た目がゴリラのリッカが少し驚いたような表情で
「この短期間で随分とたくましくなったわね」
「ああ、カケさんに譲ってもらったこの鎧のお陰なんだけどな」
「へ~、そうなんだ」
と言って、ゴリラのリッカが首を傾げながら
「なんか、宝玉が沢山ついてるけど……」
「ああ、装備者を弱体化させる宝玉ばかりが埋め込まれてるよ」
「あっ! それで短期間でそこまで成長できたのね!」
「ああ、だから俺のこの成長した姿を見せつけて、リッカ達を驚かせようと思ってたんだが……」
黙り込んだ俺を見て、ゴリラが首を傾げながら
「え? なに? しっかり驚かされたわよ?」
「あのな、俺は最近になってやっとオーガを引き摺って移動させる事が出来るようになったのに、リッカはオーガを片手で軽々と振り回してたろ……」
「あ~! あれは魔法ばかりだと体がなまるから、体も適度に動かさないとって思って……。あはははは」
ソワソワし始めたゴリラに
「いや、改めてリッカの身体能力の高さには驚かされたし、俺自身ちょっと成長したからって調子に乗っちゃダメだなって戒めにもなったんで、俺的には良い物を見せてもらったって感じだったぞ」
「そ、そう……」
リッカが長い髪を撫でるような仕草をするが、髪がないので腕の毛をさすって
「な、なら良かったわ」
モジモジし始めた。
ん? なんかゴリラの毛並みが前よりも良くなってる気がするな?
それに、顔もやけにツヤツヤしているような……
「なあ、リッカ。前よりもやけに肌艶が良い感じがするんだが?」
「えっ?」
リッカが目をパチパチさせると
「たぶん、魔物退治で久しぶりに魔法を思いっきり使えたからじゃないかしら?」
今度は俺が目をパチパチさせてると
「ほら、ケビンと会ってからは色々と加減して魔法を使ってたし、体もそんなに動かせてなかったでしょ」
「あ~、なるほど。それでか」
すると、リッカがウンウン頷きながら
「魔物を沢山退治出来て、ドワーフ国の人達にも感謝されて、とても有意義な数日間だったわよ」
「だな、それは俺も感じてた」
すると、ヤマさんが足元を光らせながら
「おう! 二人とも、積もる話は村に移動してからにしてくれ。とりあえず、カケが待ってるから移動しちまうぞ」
「あっ! はい」
リッカがヤマさんの腕に触れ、続いて俺もヤマさんの腕に触れると
「んじゃ、行くぞ」
とヤマさんが言うのと同時に、視界が眩むほどの一際明るい光が放たれた。
すると、直ぐに
「なんでだよ! もう一週間以上反省してるじゃんか!」
「今回はたまたま助かったから良かったが、もしかしたらお前は村に帰れなかったかもしれねえんだぞ」
ん? この声はカブト虫のジョンだな
「その話しは何度も聞いたし、俺も反省してるって何度も言ってるじゃんか!」
声からして子供かな? なんかジョンと子供が言い争いをしてるみたいだな
「俺は村からやっと出られるって思って来たのに……」
「とにかくお前はまだ村から出ちゃダメだ」
「じゃあ、なんで俺を呼んだんだよ!」
「ケビンとエリス様が戻って来るから、お前に挨拶をさせるためだ。って、どうやら来たみたいだな」
ん? 俺とエリスに挨拶? などと思っていると
「おう! 待たせたな!」
ヤマさんの声がしたので目を開けると
「おかえり」
カケさんが笑顔で出迎え
「おう! 待ってたぞ」
カブト虫のジョンが不貞腐れた顔をして出迎えた。
ん~、ここはどこかの部屋みたいだな。
などと思って辺りを見回していると、ヤマさんの肩に座っていたティターニアが
「女王蟲の容態ってどんな感じ~?」
ふわりと飛んでカケさんを見ると
「まだ体力が回復してないから眠ってるよ」
「そっか、ちょっと見て来るね~」
部屋の窓からどこかに飛んでった。
すると、ヤマさんが
「んじゃ、ちょっくら俺も見て来るわ」
と言って、部屋から外に出て行ってしまった。
ん~、察するに、女王蟲の容態があまりよろしくないのかな?
などと思っていると、カケさんが
「リッカ君、ターニャ君。転移魔法陣の破壊と魔物の退治、お疲れさまでした」
「どういたしまして」
「どういたしまして!」
リッカとターニャが返事をすると
「ケビン君、エリス君。迷宮から溢れた魔物と廃鉱山に住み着いた魔物、それと村や街に群がる魔物の退治、お疲れさまでした」
「いえいえ、どういたしまして」
「どういたしまして」
俺とエリスが返事をすると、カケさんがニコニコしながら
「みなさん、ドワーフ国での魔物退治はどうでしたか?」
「私は久しぶりに魔力を解放できましたし、体も動かせたので楽しかったです」
「あたしは師匠の本気が見れて楽しかったです!」
「俺はこの鎧のお陰でかなり身体能力の底上げが出来たので、引き続き魔物を退治したいって思いました」
「私はドワーフ国の皆さんに色々と感謝されたのが嬉しかったので、私も出来れば魔物退治を続けたいって思いました」
「なるほど、分かりました」
カケさんが俺らの話しを聞いて頷いていると、カブト虫のジョンが
「なあ、カケ。ちょっといいか?」
カケさんが片方の眉を上げて応えると
「俺からも礼を言わせてくれ」
カケさんが笑顔で頷くと、ジョンが俺達を見て
「ケビン達のお陰で無事に女王蟲の出産を済ませることが出来た、蟲族の代表として礼を言わせてくれ。本当に助かった、ありがとう」
と言って、深々と頭を下げた。
すると、ジョンの隣にいた蟲族の男の子も頭を下げる。
ん~、見た感じジョンと同じ甲虫っぽいが、カブト虫みたいな角がないので、この子はカナブンなのかな?
と思いながら、ジョンに
「困ったときはお互い様だし、女王蟲の出産も終わったんならこれでジョンも一安心出来るんじゃないか? とりあえず、頭を上げてくれ」
「ああ、すまねえ。そう言ってもらえると助かるよ」
と言って、頭を上げたジョンに
「ところで、その子は?」
「ああ、こいつはケビンとエリス様に助けてもらったマグロだ」
ジョンが蟲族の男の子の背を押すと
「マグロっす。助けてもらってあざっした」
あ~! 密猟者に捕まってた男の子か!!




