第80話 ヘネシ大将からの言伝
街に群がる魔物を全て撃退すると、ヤマさんが次なる目的地を聞くためにカケさんの所に転移した。
エリスはお爺ちゃん兵士達に回復魔法を施すために、街の方に移動した。
なので、俺はいつものように、魔物の死骸から装備品の剥ぎ取り作業を行っている。
エリスの魔法でズタボロに切り刻まれたハイゴブリンは武器だけ回収し、身に着けていた防具は損傷が激しすぎるので、死骸と一緒に燃やして後で金属部分だけを回収。
ヤマさんにぶん殴られたり蹴られたりしていたオークの防具も損傷が激しいので、ハイゴブリンと同様に、燃やした後で金属部分を回収するので、やはり武器だけを回収する。
魔物の死骸から武器を回収していると、所々に灰色に変色した魔石が転がっている。
エリスの魔法で斬られたり、カケさんの打撃で破壊された魔物の魔石だ。
魔物退治に参加した当初は、エリスの魔力を回復する為に、俺が魔石を集めてエリスに運ぶ係だったが、俺も魔物との戦いに参加するようになると、ヤマさんが「面倒くさせえから、魔石は戦いながら破壊する!」と言い出したので、魔物退治に同行して二日目からは魔石を集めなくなっていた。
しばらく一人で黙々と武器の回収をしていると
「エリスちゃんに回復してもらったんで、体が軽いわい」
「おい! だったらラクしてねえでちゃんと持てよっ! こっちが重いだろ!」
「はあ~? ちゃんと持ってるつ~のっ!」
「嘘つけっ! 今、急にこっちが軽くなったぞ! お前ぜってえラクしてだたろ?」
「うっせー! 俺はちゃんと持ってたつ~の!」
エリスに回復してもらったお爺ちゃん兵士達もちらほらと加わり、魔物の死骸を一ヶ所に集め始めだしたので、武器の回収は一旦やめて、俺も魔物の死骸を運び始める。
ハイゴブリンの死骸はなるべくお爺ちゃん達に任せて、俺は重たいオークの死骸を率先して運んでいると
「おうっ! 頑張ってんな!」
いつの間に現れたのか、モエシャ副将がお爺ちゃん兵士を引き連れて声を掛けて来たので
「どうも、お久しぶりです。この街にいらっしゃったのですか?」
「いや、西部の詰所で会議中だったんだが、ヤマが現れたって連絡が入ったんでな」
と言って、街の入口に鎮座しているドワーフ国の転移装置に目配せすると、後ろに控えていたお爺ちゃん兵士達に
「おめらは先に行って連中を集めとけ」
「へ~い」
「う~い」
「わかりやした~」
お爺ちゃん兵士達が気のない返事をすると、魔物の死骸を運んでたお爺ちゃん達に
「お~い、とりあえず手を止めて、詰所の方に集まってくれ~」
声を掛けると、死骸を運んでいたお爺ちゃん兵士達が
「なんじゃ?」
「ありゃ? 副将がきとるぞ?」
「なんかあったんかのう?」
死骸を運んでいたお爺ちゃん兵士達が、ゾロゾロと街にある詰所の方へと向かって行く。
すると、モエシャ副将が辺りをキョロキョロと見回し
「ヤマが見当たらねえが、街にいんのか?」
「いや、今はカケさんのとこに行ってますよ?」
「チッ、いねえのかよ」
面倒臭そうに舌打ちをすると、難しい顔をして黙ってしまった。
ん~、お爺ちゃん兵士に集まれって言ってるし、こうしてわざわざ転移装置を使って来たって事は……
「もしかして、なにか良くない事とか発生したのですか?」
「あっ? ちげえよ、大将からヤマに言伝を預かってんだ」
「えっ? でも、兵士の皆さんに集まれって言ってましたし」
「ああ、ここにいる連中を東部の魔物退治に向かわせるんでな、そこら辺の話しをするためだ」
そういえば、ドワーフ国の東側と北側って、まだ転移魔法陣が幾つも点在してるんだったな……
「でな、西部に点在していた転移魔法陣は、ティターニア達が全て破壊したんで、こっちはもう魔物が湧いてこなくなったんでな……」
おお! そろそろ転移魔法陣の破壊が完了するって、ヤマさんから聞いてはいたが、遂に妖精国の女王ティターニアとリッカ達は全ての転移魔法陣を破壊したんだな!
「それと、付近の街や村に群がる魔物もあらかた排除する事が出来たんで、俺らはこのまま東部と首都に部隊を分散して移動する事になってな」
あれ? 首都の方ではナンチャラ将軍が頑張ってるんじゃなかったっけ?
「ちなみに、俺と大将は首都でハデス将軍の部隊と一緒に魔物退治に参戦することになったんだが、だいぶ苦戦してるみてえでな」
おお! そうだ、ハデス将軍だ!
どうも、自分と関わりのない人の名前って忘れがちだよなあ……
そっかあ、首都の方はまだ魔物に苦戦してるのかあ、頑張れ将軍!!
などと思っていると、モエシャ副将が辺りを見渡し
「今までみたいに簡単に持ち場を離れられそうにねえんで、そうなる前にあの神出鬼没なヤマに伝言を済ませようとしたんだが……、そっか、いねえのか」
と言うと、また難しい顔をして黙ってしまった。
てっきりドワーフ国でなにか緊急事態が発生したのかと思って一瞬身構えたが、どうやら副将はヤマさんがいなかったんで、難しい顔をしてたのか……
だったら、俺が代わりに伝言を聞いちゃダメなのかな?
などと思っていると、モエシャ副将がマジマジと俺を見て
「にしても、部隊の連中が話してたのをチョイチョイ耳にはしていたが、まだ『英雄になれるかもしれない鎧』は着続けてたんだな」
「ええ、まあ……」
すると、ニヤリと口角を上げたモエシャ副将が
「どうせ、直ぐに脱いじまうんだろうなあって思ってたが、意外と頑張ってるみてえじゃねえか!」
「ええ、最近になってやっと魔物とまともに戦えるようになれました」
「おお! やるじゃねえか! んじゃ、これからも引き続き英雄目指して頑張れや」
「いやいや、俺は英雄なんて目指していませんから!」
すると、モエシャ副将がニヤニヤしながら
「おいおい、そこは嘘でも良いから『英雄目指して頑張ります』って言っとけよ」
冗談交じりに言ってきたので
「いやいや、俺は体を鍛えてるだけですから!」
しっかりと否定すると
「おいおい、俺ら年寄りの期待を簡単に裏切るんじゃねえよ」
意地悪そうな顔をしてそう言うと、急に優しい眼差で
「でもまあ、英雄と癒しの蜘蛛娘がヤマと一緒に魔物を退治してくれたお陰で、うちらが受け持つ西部の街や村の被害をかなり抑えられたんで、本当に助かったぞ」
「いえいえ、どういたしまして」
と答えたものの、気になったので
「もしかして、癒しの蜘蛛娘ってエリスのことですか?」
「おう、うちの部隊の連中や街や村の住人に回復しまくってるんで、エリスはみんなからそう呼ばれてるぞ」
ん~、俺はまだしも、エリスに変な二つ名がついちゃったな……
などと思っていると
「そうそう、ティターニアと一緒に転移魔法陣を破壊しているゴリラとラミアの子供! ありゃあ、ケビンの仲間だったんだってな!」
おっ! リッカとターニャの事だな
「あいつらの活躍もあって、うちの部隊の消耗はかなり抑えられたぞ」
「えっと、ゴリラは問題ないとして、ラミアの子供は皆さんに迷惑とか掛けていませんでしたか?」
「あっ? 全然問題ねえぞ? むしろ俺らと一緒に魔物退治を頑張ってたし、ゴリラもラミアも回復魔法が使えるんで、部隊の回復薬の節約が出来て本当に助かったぞ?」
へ~、ターニャも回復魔法が使えるようになったのかあ。
ずっと使えるようになりたいって言ってたから、絶対に自慢してくるんだろうなあ。
などと思って、ニヤニヤしていると
「ちなみに、ゴリラは『癒しのゴリラ』でラミアの子供は『癒しの蛇娘』って、呼ばれてるぞ」
おっふ! リッカとターニャにも変な二つ名がついちゃってる!!
あっ! でもターニャは意外と喜んでそうだな……
などと思っていると、モエシャ副将が眉間に皺を寄せ
「ケビン達は女王蟲の出産が終われば蟲族の村に帰るんだよな?」
「ええ、そうですが?」
「出来ることなら、このままずっと魔物退治をして欲しかったんだけどなあ」
ん~、確かに困ってる人達は助けたいって思うし、俺的にはこのまま実戦稽古を続けながら体を鍛えたいって思ったりもしてるんだよなあ。
すると、モエシャ副将が深刻そうな顔をして
「ずっと休みがねえんだよ」
深くため息を吐いた。
真面目な話しかと思ったら、この人……
休暇が欲しかったんかい!!
「えっと、俺からは頑張ってくださいとしか言いようがないですね……」
「だよなあ、せめてハデス将軍の部隊と合流する前に、一日でも休みが欲しかったなあ……」
思いっきり意気消沈しているモエシャ副将に
「えっと、ハデス将軍って厳しい方なんですか?」
「ああ、ものすっげえおっかねえぞ……」
「そっ、そうでしたか。えっと、やっぱ俺からは頑張ってくださいとしか言いようがないですね……」
すると、モエシャ副将が瞳に涙を浮かべながら
「がっはっは! だよな! となると、俺の分まで大将には引き続き頑張ってもらうしかねえな!」
いやいや、あなたは副将なんですから、あなたも頑張らないと……
にしても、モエシャ副将を意気消沈させて、半泣きにさせるほどおっかないハデス将軍をちょっと見てみたいって思ったりもしたが、これはたぶん単純に怖いもの見たさなんだろうな……
などと思って、苦笑いを浮かべていると
「んじゃ、ぼちぼち連中が集る頃だろうから、そろそろ行くとするかな」
「えっ? ヤマさんを待たないのですか?」
すると、モエシャ副将が渋い顔をして
「首都に向かうのが遅れちまうとヤベーからな……」
「あっ! ハデス将軍ですか?」
「ああ、あの人はホントおっかねえからな……。んじゃ、ヤマに大将が『礼をしたいから、魔物の騒動が落ち着いたら、是非とも城に立ち寄ってくれ』って言ってたって伝えといてくれな」
肩を落として街の方へ歩いて行くモエシャ副将を見送り、俺はオークの死骸をまた運び始める。
オークの死骸を片手で持って、ズルズルと引き摺り死骸置き場の方へ向かって歩いて行く。
そっかあ、ヘネシ大将とモエシャ副将は首都の魔物退治に行くのかあ……
途中で倒れているオークも掴んで
相変わらずハデス将軍は頑張ってるみたいだけど、まだ手こずってるのかあ……
二体のオークをズルズルと引き摺り、死骸置き場まで歩きながら
となると、やっぱ親方も魔物退治を頑張ってるんだろうなあ……
死骸置き場に二体のオークを放り投げる。
親方の事だから大丈夫なんだろうけど、こうして実際にドワーフ国で魔物退治に参加していると、やっぱちょっと心配というか、気になっちゃうよなあ……
などと考えていると
「おつかれさまです」
街でお爺ちゃん達の傷を癒していたエリスが
「なんか皆さん集まりがあるって言うので、一旦抜けて来ました」
ニコニコしながら近づいて来たので
「ああ、なんかお爺ちゃん達を東側と首都に分けて魔物退治をするって、さっきモエシャ副将が言ってたよ」
「えっ? モエシャ副将がいらっしゃってたんですか?」
「うん、街の方へ行ったけど、会わなかった?」
「ええ、皆さんへの回復が終わったので、防壁の補修を手伝ってました」
「なるほど、それで会えなかったのか。なんかね、西側の転移魔法陣は全て破壊したから魔物はもう転移して来なくなったし、付近の街や村の魔物もあらかた退治出来てるんで、ここの地域にいるお爺ちゃん兵士達を他の地域に移すんだってさ」
すると、エリスが下半身の蜘蛛をせわしなく動かしながら
「遂に! 転移魔法陣の破壊が完了したのですね!」
「うん、そうみたいだよ」
「私達もこのまま他の地域の魔物退治に同行するのでしょうか? それとも、そろそろ女王蟲の出産が終わりそうだってヤマさんが仰っていたので、村に戻るんでしょうか?」
「ん~、出来ればこのままドワーフ国の魔物退治を手伝いたいって思うけど、やっぱ村に戻るんじゃないかなあ?」
「そう、ですよねえ。こちらに来てまだ九日しか経っていませんが、魔物を倒して感謝されて、傷を癒して感謝されていると、私としては出来れば村に帰らずに、少しでも早く皆さんが安心して暮らせるように、引き続き魔物退治を手伝いたいって気持ちの方が強いですねえ……」
肩を落としてションボリするエリスに
「ああ、それ分かる気がするかも。俺はエリスと違って回復とかしてないけど、お爺ちゃん達からは英雄、英雄って励まされて、ここまで頑張れたってのもあるからなあ……」
すると、エリスが何か思い出したのか目を見開くと
「そうだ! ケビンさん!」
「どっ、どうした?」
「ドワーフの人達が思い描く英雄って、どんなに辛くても最後まで魔法は使わずに戦って勝つ! そんな人物なんですって」
「へ~、そうなんだあ。なんか英雄っていったら、剣や魔法を巧みに使って戦う人物ってイメージなんだが、ドワーフ国だと違うんだ?」
「ええ、ドワーフの人達は魔法が苦手な人が多いからなのか、敵との一騎打ちの場合は魔法を使わずに戦うのが常識なんだそうで、どんなに窮地に追いやられても、決して魔法は使わずに戦うのが英雄なんですって」
「へ~、そうなんだあ」
「なので、一騎打ちなのにもかかわらず、レア装備による魔法攻撃を仕掛けたりすると、卑劣で卑怯な人物とみなされるんだそうですよ」
「あ~、それでか!」
すると、エリスがニコニコしながら
「はい、ケビンさんがレア装備でオークを倒したとたんに、皆さんから物凄い非難を浴びたのはそのせいです」
「なるほどねえ……」
ん? なんでエリスはドワーフ国の英雄のイメージを知ったんだ? と思ってエリスを見ると
「回復魔法を施していたら、皆さんその話しばかりされてたんですよ」
「そっかあ、国というか種族が違うと、皆が思い描く英雄像も違って来るんだなあ」
「ですねえ、ヤマさんが仰ってた通り、他種族との交流って新たな発見があって面白いですね!」
「だな」
などと話していると、まばゆい光を放つ大きな球体が出現し、中からヤマさんが現れた。
「おう! 待たせたな!」
すると、エリスが
「おかえりなさいませ」
続いて俺も
「おかえりなさいです」
と言って出迎えていると、ヤマさんが足元を光らせながら
「女王蟲の出産が終わったんで、これからティターニア達をつかまえて村に戻るぞ!」
と言って、俺とエリスの腕を掴むと
「ちゃんと目を閉じとけよ!」
と言うのと同時に、視界が眩むほどの一際明るい光が放たれた。
すると、直ぐに
「ターニャ! 準備は良い?」
おっ!! この声は!
「はい! 大丈夫です!」
あ~、二人の声を耳にするのって、なんかすっげー久しぶりな感じがするなあ……
「ターニャちゃ~ん! 頑張って~」
目をつむっているので状況は分からんが、今のはティターニアだな
「いくわよ!」
「はい! 師匠!」
リッカとターニャは何をしてるんだ……
「おっ! やってんな!」
ヤマさんの声がしたので目を開けてみると
オークの首根っこを掴んだ白いワンピースを着たゴリラが、半人半蛇のラミアの女の子に向かって思いっきりオークをぶん投げていた。




