第77話 ヤマさん、帰還
「おい、英雄のアンチャン! 昼だぞ!」
ん? 作業に夢中になってて時間を忘れてたな……
そっか、もう昼なのか。
「わしらは飯にするが、おめえさんもここらで休憩にしたらどうだ? ずっと装備の剥ぎ取りと魔石の収集をしてただろ?」
ん~、起きたのが遅かったし、飯もいっぱい食べたんで全然腹は減ってないんだよなあ。
「俺はこのまま作業を続けてますんで、皆さんは飯を済ませてきてください」
すると、お爺ちゃん兵士達が
「おう、そっか、じゃあ頑張れや」
「わけえもんは元気があって良いのう」
「やっぱその鎧を着てるだけあって、根性があるのう」
「英雄を目指しとるからって、そんなに根詰めとったら体を壊すぞい? いい塩梅に体は休めるんじゃぞ」
「おっ! 珍しく良い事をいうじゃねえか!」
「は~? わしゃあ、いつだって良い事をいっとるわい!」
「おいおい! こりゃあ、明日は槍でも降るんじゃねえか?」
などと、罵り合いながら、魔物の死骸を運んでいたお爺ちゃん兵士達が街の方へ歩いて行く。
ん~、参ったなあ……
完全に、お爺ちゃん達は俺が英雄を目指してるって思っちゃってるなあ……
困った事に、俺が着ているこの『英雄になれるかもしれない鎧』を見ると、お爺ちゃん達がみな感慨深そうに
「懐かしいのう」
髭を撫でながらそう言うと、決まって
「わしも子供の頃はその鎧を着て頑張っとったんじゃぞ。そんでな……」
当時の話しを楽しそうにし始めると、必ず最後は優しい眼差しを俺に向け
「わしは英雄になれんかったが、その分おぬしには頑張ってもらいたいもんじゃ」
と言って、俺の肩や背中を軽く叩いてくるので
「いや、俺は英雄なんてこれっぽっちも目指していませんよ? 体を鍛える為にこの鎧を着てるだけですから」
てな感じで、否定しようと思っても、お爺ちゃん達に優しい眼差しを向けられていると、なんか否定するのが申し訳なく感じて
「あ、ありがとうございます」
とか、言っちゃってたのがマズかったんだろうなあ……
などと思いながら、昨日お爺ちゃん兵士達が倒したオークの装備品を指輪に収納すると、今度は魔石を採取し始める。
昨日は武器や防具を魔物から剥ぎ取るだけで、すぐに腕がパンパンになって苦労してたんだよなあ。
オークから魔石を取り出し指輪に収納する。
ハイゴブリンの魔石は握り拳くらいの大きさだが、オークの魔石はその倍くらいあるので、両手じゃないと持てなかったしそれなりに重量もあって、採取するのもひと苦労だったんだよなあ。
などと思いながら、俺よりも背丈があって筋肉質なオークの足首をしっかりと掴んで、死骸置き場まで引きずりながら運び始める。
お爺ちゃん兵士の話しによると、死骸をそのまま放置しておくと衛生面で良くないし、日が経つと酷い臭いを放つので、穴に埋めるか燃やすなどして処分してるんだそうだ。
なので、お爺ちゃん兵士達は昨日倒した魔物の死骸を朝からみんなで集めているのだが、これがなかなか骨の折れる作業だった。
ハイゴブリンもそれなりに背丈があって重たいが、それ以上にオークはデカくて筋肉モリモリだから、とにかく重たかった。
そんな重たいオークを足首を掴んで引きずりながら、死骸置き場まで移動して行く。
昨日は鎧の効果で身体能力が物凄く低下していたので、魔物からの装備品を剥ぎ取る作業と魔石の回収をしただけで、体中の筋肉はパンパンになってたし、体力もすぐに底をつきヘロヘロになってたが、今日は身体能力が昨日よりも上がっているので、時間は掛かるが頑張ればなんとか重たいオークを死骸置き場まで運べるまでになっていた。
オークの死骸をズルズルと引きずりながら、途中で辛くなったら少し休んで、また移動し始める。
お爺ちゃん兵士達は二、三人で協力して死骸を運んだり、【収納】の宝玉が埋め込まれたレア装備を使うなどして死骸を運んでいたが、俺は食べ物とかも収納しているこの指輪に、魔物の死骸を一緒に収納するのがどうしてもイヤだったので、装備品や魔石の回収を終えた魔物の死骸は体を鍛える為に、自力で運ぶことにしていたのだが
「指輪を使わないで運ぶだなんて、なかなか骨のあるヤツじゃねえか!」
「おっ! 指輪は使わんのか! 良い心掛けじゃ!」
「なんじゃ? 指輪は使っとらんのか? なるほどのう、英雄を目指すだけあって、地道に頑張っとるんじゃな!」
てな具合に、俺が英雄を目指していると勘違いしているお爺ちゃん達をさらに勘違いさせてる結果になっちゃたんだよなあ……
そんな事を思い出しながらも、オークを地道に引っ張っていたのだが、そろそろ握力が限界になってきたのかしっかりとオークの足首を握れなくなってきたし、背中もかなりパンパンに張ってきているので、少し休むか……
オークの死骸から手を離し、まずは感覚がおかしくなった指を、握ったり開いたりしてほぐし、今度は腰に手を当て背中を反らす。
すると、いつの間に戻って来ていたのかヤマさんが
「おっ! なんだ? もうバテちまったのか?」
俺を見てニヤニヤしていた。
「あ、お帰りなさいです」
「おう! 戻ったぞ!」
「迷宮の魔物退治は済んだのですか?」
「おう! とりあえず、四十階層らへんまで間引いといたから当分大丈夫だろうよ!」
ドワーフ国の迷宮の魔物がどの程度の強さなのかは知らないし、各階層の広さとかも全く分からないけど、昨日の夕方から今日の昼まで一人で四十階層まで行って、寝ずに魔物を間引いていたんだろうから
「お疲れさまでした」
と言うと、ヤマさんが目をパチパチさせて
「ん? 疲れてなんかないぞ?」
疲れてないんかい!
などと、驚いていると
「それよりも、重たい物を引っ張る時はもっと腰を深く落とした方が良いぞ」
ヤマさんがその場で椅子に腰掛けるみたいな姿勢になると
「さっきみたいな引っ張り方をしてると腰を痛めるからな。いいか? ちょっと見てろ」
俺が引っ張ていたオークの足首を掴んで後ろを見ると
「あそこに持っていこうとしてたのか?」
「はい、あそこが死骸置き場ですんで」
「そっか、いいか、よく見てろ。重たい物は……」
ヤマさんがオークの足首を掴んだまま腰を落とすと
「こうやって引っ張るんだ!!」
勢いよくオークを死骸置き場へぶん投げた。
いや、それってもはや引っ張るとかじゃなくって、力任せにほん投げてるんじゃ?
などと思いながら、死骸置き場に飛んでったオークを見ていると、ヤマさんが
「なあ、もしかして、ケビンはオークを引っ張って体を鍛えようとしてたのか?」
「ええ、まあ。そんな感じです」
「いいね! それは良い心掛けだ!! 俺も昔、ひたすら重い物を運んで体を鍛えてたんだぜ!」
そう言って、太くてたくましい腕を見せつけてくるヤマさんに
「そこまで鍛え上げられた筋肉を見たのって、初めてですよ」
すると、ヤマさんが得意げな顔をして
「まあ、そうだろうな! 巨人族や獣人族、あるいはドワーフ達に負けない様に努力した結果だからな!!」
と言って、息を大きく吸うと
「なんてったって、筋肉は……」
ムキッと上半身の筋肉を肥大させて
「日々の努力を裏切らないからな!!」
歯を食いしばりながらプルプルと体を震わせるヤマさんに
「ちはみに、どのくらい頑張ったらヤマさんのようになれますかね?」
「ん? ケビンがか?」
「はい」
「そうだなあ……。四百年くらいじゃねえか?」
「よっ、四百年って!」
ヤマさんが目をパチパチさせながら
「ケビンは今から鍛え始めるんだろ? そうなると、巨人族に勝てるくらいの筋力を得るには、やっぱ四百年くらいは必要だろうなあ」
いや、別に巨人族と筋力で張り合おうだなんて思ってないんですけど……
「だからケビンも四百年くらい体を鍛えれば、俺みたいにいつの間にか種族の壁ってヤツを越えちまってるかもしれねえぞ!」
確かに、種族的に見て魔法が得意な種族になればなるほど筋肉量は少なくなるし、魔法が苦手な種族になればなるほど筋肉量は増していく。
なので、魔法がずば抜けて得意なエルフは圧倒的に巨人族よりも筋力は遥かに劣るのだが……
こうして筋肉モリモリのヤマさんを見ていると、種族の壁を乗り越えてエルフのヤマさんが純粋に筋力だけで巨人族にも勝てそうな気がするな……
などと思っていると、ヤマさんが頭をポリポリとかきながら
「昔な、子供の頃に魔法が全く効かない魔物と出くわしちまってな、そん時にカケとニュクスを危険な目に合わせちまったのがすっげえ悔しくってな……」
あ~、エルフは魔法が得意なだけに、それが全く使えないとなると、かなり苦戦したんだろうなあ。
そう言えばカケさんが、体を鍛え始めた理由がヤマさんと俺は一緒だって話してたな。
「それから本格的に体を鍛え始めて、二百五十年くらい必死に頑張ってたら……」
スゲーな! この人どんだけ体を鍛えてんだよ!!
「巨人族にも力負けしなくなったぞ!!」
とっくに種族の壁を越えちゃってるじゃん!
などとヤマさんの凄さに驚いていると
「とりあえず、オークを引っ張れるくらい身体能力が上がったんだったら、ケビンも戦闘に参加しても大丈夫なんじゃねえか?」
「えっ!? 俺も魔物と戦うんですか!」
ヤマさんが『英雄になれるかもしれない鎧』を見ながら
「ああ、その鎧ってかなり耐久性があるから、仮にオークにぶん殴られたって全然痛くねえと思うぞ?」
「そうなんですか?」
「ああ、だからケビンも俺らと一緒に魔物と戦いながら体を鍛えるべ」
なんか急に戦いに参加することになったが、本当に大丈夫なのか?
などと不安になっていると、ヤマさんが口元に笑みを浮かべながら
「おいおい、随分と弱気になってんな? まんまと鎧の効果にやられちまってんじゃねえのか?」
あっ! さっきエリスとこの鎧に埋め込まれた【体力減退】と【気力減退】のせいで、やる気が起きなかったり、弱気になって目の前の物事から逃げ出そうとしがちだから気をつけようって話していたのに、もう忘れてた!
すると、ヤマさんが俺を見て
「おっ! どうやら気づいたみたいだな?」
「はい、気を抜くとどうしても弱気になってしまいますね」
「だろうな! でもまあ、あと二、三日もすれば気力も良い感じに鍛えられてるだろうから、簡単にはへこたれなくなるぞ!」
バシッと俺の肩を叩くヤマさんに
「はい! 頑張ります!」
すると、ヤマさんが嬉しそうに
「いいね! その意気で頑張れ!」
と言うと、辺りをキョロキョロと見回し
「ところで、エリスはどこ行った?」
「防壁の修復をするので、お爺ちゃん兵士達と一緒にいますよ?」
「んなもんジジイどもにやらせとけば良いだろうに?」
「多分ですが、エリスは土魔法の練習も兼ねて手伝いに行ったっぽいですよ?」
すると、ヤマさんが嬉しそうに
「なるほどな! にしても、そういうとこもニュクスとそっくりだなあ」
と言い、俺を見ると
「こっちに戻る前に、カケんとこに行ってちょっと話してきたんだが、リッカ達が転移魔法陣から近い村や街の魔物を倒しながら移動してるから、俺達は転移魔法陣から離れた場所で魔物に襲われている村や街を重点的に回る事になったぞ」
そっか、リッカ達は転移魔法陣の破壊だけじゃなく、魔物退治も頑張ってるのか。
「とりあえず、廃鉱山近くの街が魔物退治に苦戦してるみたいだから、俺達はそっちに向かってくれってさ」
リッカ達も頑張ってるんだから、俺も頑張らないとだな!
「鉱山内の魔物は俺が倒してくるから、ケビンとエリスは街の方の魔物をよろしく頼むな! んじゃ、エリスを連れて来るからケビンはここで少し休んでろ」
と言うと、ヤマさんが走ってエリスを迎えに行った。
転移魔法は使わずに、走って移動するんだ……
そんなヤマさんの後姿を見送りながら
そっかあ、リッカ達も魔物退治を頑張ってるのかあ。
きっと、ターニャは「うりゃ~!」とか「こんにゃろめ~!」とか言って、魔物を倒しまくってるんだろうなあ。
んで、そんなターニャを見てリッカは、ニコニコしながら魔物を倒しまくってるんだろうな。
ん~、せっかくカケさんから『英雄になれるかもしれない鎧』を譲ってもらったんだから、俺もヤマさんとエリスと一緒に魔物退治を頑張って、短期間で強くなった俺をゴリラとヘビ娘に見せてビックリさせたいな。




