表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/91

第67話 小さな蜘蛛の決意


「母さん!」


 エリスが突然ニュクスさんを呼び止めた。


 ニュクスさんがエリスを見て


「どうしたの?」


 と言いうと、エリスが


「あの……」


 ニュクスさんの脚元に目をやり黙ってしまった。


 レオとラピが下を向いて黙ってしまったエリスを見て首を傾げている。


 おっさんも不思議そうな顔をしてエリスを見つめている。


「なあに? どうしたの?」 


 ニュクスさんが話を先へと促すが、エリスはシャツの裾を握り締め


「その……」


 顔を下に向けたまま、なかなか話が始まらない。


 レオとラピが心配そうにエリスを見つめ、おっさんは顎に手を当てエリスの様子を見守っている。


 そういえば……


 エリスと別れの挨拶をしてなかったな。


 もしかして、その事をニュクスさんに伝えたいのか?


 エリスが顔を下に向けたまま、目だけを上に向け


「えっと……」


 頑張って話を切り出そうとしている感じだが、なかなか話が始まらない。


 ん~、ここは俺からさり気なく別れの挨拶を切り出した方が良さそう……


 あーーっ!! そうだっ! エリスのレア装備を見てやるんだった!!


 改めてエリスを見てみると、心なしか緊張しているのか表情が硬い気がする。


 そうだよなあ……


 エリスはレア装備をニュクスさんに内緒で持ち歩いてるのに『レア装備を俺に鑑定してもらう』なんて言ったら、色々と面倒なことになりそうだよなあ。


 そう考えると、なかなかエリスが話を切り出せないのも分かる気がするな。


 あ~、完全に忘れてた~。


 ごめんなあ……


 などと、エリスに心の中で謝罪していると、ニュクスさんが首を傾げながら


「そういえば、あなたが人前に出てるなんて珍しいんじゃない?」


「えっ、ええ……、蟲族の治療にケビンさんの助けが必要でしたので……」


「へ~」


 ニュクスさんがチラッと俺を見て


「それで、なんで私を呼び止めたの?」


「あっ……、えっと……」


 ん~、やっぱニュクスさんにレア装備を隠し持っているのがバレちゃ不味いよなあ。


 となると、今鑑定するんじゃなくて、後日ニュクスさんがいない時にやるか? 


 でも、リッカを家に送らないとだから、日取りを決めるのが難しそうだなあ……


 それに、エリスがどこに住んでるのかにもよるが、待ち合わせ場所を決めるのも大変そうだしなあ……


 あっ! でも、おっさんがゴライアスの皇太子だからエリス達も魔族領に住んでたりするのか?


 もしそうなら、リッカを送った後に、魔族領のどこかで待ち合わせれば良いかもな。


 よっし! とりあえず別れの挨拶を済ませたら、さり気なく連絡先だけでも聞いとくか。


 などと思っていると、エリスが勢いよく顔を上げ


「私もケビンさんと一緒に蟲族の村に連れてって下さい!!」


 ニュクスさんの目を見て言い放った。


 あれ? レア装備の鑑定じゃなかったの?


 あっ! そっか! 宝玉が好きって言ってたから、エリスも蟲族の魔核を見てみたいのかもな?


 でもまあ、どちらにせよレア装備の件があるから、村に着いたらニュクスさんにバレないように連絡先は聞いとかないとだな……


 などと考えていると、ニュクスさんが意外そうな顔をして


「あら? エリスも蟲族の村に行ってみたいの?」


「はい、蟲族の村にも興味はありますが……」


 と言い、大きく息を吸って拳を握ると、ニュクスさんの目をしっかりと見て


「ケビンさんが護衛依頼で魔族領まで行くそうなので、私も同行させてもらいたいのです! なのでしばらくの間、母さんとは別行動を取らせてください。お願いします!」


 と言って、勢いよく頭を下げた。


 えっ? なんで? どういうこと?? 


 頭を下げたまま固く目を閉じるエリスを見て困惑していると、ニュクスさんがゆっくりと俺を見て


「おい、人間……」


「なっ!」


 急に体が重くなったので踏ん張る。


 すると、レオとラピが


「くっ!」


「きゃっ!」


 と言って、後ずさると、おっさんが


「おい、おい……」


 顔を引きつらせた。


 だが、その場に立っていられず蟲族の男の子を抱えたまま片膝をつくと、ニュクスさんが


「私の娘に何をした!!」


 更に威圧感が増して変な汗が溢れだす。


「母さん! ケビンさんは何もしてません!」


 エリスが俺の前に立ちふさがると、ニュクスさんが


「なら……」


 目を細め


「なぜ人間などと一緒に行きたがる!!」


 エリスにそう言い放つと、また威圧感が増し、寒気すら感じるようになってきた。


 すると、エリスが大きく息を吸って


「知らない土地で新しい知識を得たり色んな経験を積みたいからです! だから、ケビンさんと一緒に行かせてください!」 


 よく見るとエリスの蜘蛛の脚がプルプルと小刻みに震えていた。


 こんな状態のニュクスさんの前に立ちふさがるだなんて、なにげにエリスって根性があるんだなあ。


 でも、なんでエリスはそんなに必死なんだ?


 などと思っていると、ニュクスさんが目を細めたまま口元に笑みを浮かべ


「私達といればこれからも知らない土地になんて幾らでも行けるでしょ?」


「ケビンさんと行きたいのです!」


「なっ!」


 ニュクスさんが驚いたような顔をして


「下等な人間などについ行ってはならぬ!」


 勢い良く手を横に振り払うと、エリスが首を振って


「母さんはいつもそうです!」


 と言い、エリスも勢い良く手を横に振り払うと


「母さんと一緒にいると他種族に対して偏った考え方や意見しか聞けません。だから母さんから離れて、私自身で他種族の人達の目線で色んな物事を考えてみたいんです!」


 しばらく無言でエリスとニュクスさんが見つめ合っていると、おっさんが優しい口調で


「ニュクス。とりあえず、深呼吸をしよう」


 すると、ニュクスさんがゆっくりと目を閉じ


「ええ、分かったわ……」


 と言って、深く息をすると威圧感が消え体が軽くなった。


 すると、ラピが


「は~、怖かったですね~」


 と言いながら、額の汗を拭いていると、レオが


「ああ、生きた心地がしなかったぞ……」 


 と言い、大きく深呼吸をし始めた。


 すると、おっさんが嬉しそうに


「いいねえ~、いいじゃん!」


 ニコニコしながら


「エリス!」


「はい?」


「良い機会だがら見聞を広げて来ちゃいなよ」


「えっ!」


 エリスが目を見開き、手で口を押えると


「良いんですか!!」


 嬉しそうに下半身の蜘蛛の脚をせわしなく動かす。


 すると、おっさんが笑顔で頷き


「大いに結構!」


 と言い、眉間に皺を寄せて難しい顔をしているニュクスさんに


「本気でサーチすればエリスが何処にいるのかなんてニュクスなら余裕だろ? それに、もしエリスが危なそうだったら、転移して助けに行けば良いんだから問題ないだろ?」


 エリスが蜘蛛の脚をせわしなく動かしながら、おっさんとニュクスさんを交互に見ていると、ニュクスさんが一度深く息を吐き


「少し、エリスに対して過保護だったかもしれないわね……」


 えっ? もしかして、エリスも一緒に魔族領まで行くことになったの?


 エリスを見ると


「よろしくお願いします」


 満面の笑顔で頭を下げてきた。


 すると、おっさんが笑顔で


「よろしくな」


 軽く俺の肩を叩いて来た。


 えっ? なに? エリスもやっぱり一緒に行くの?


 などと困惑していると、おっさんがグイッと俺の肩に手をまわし


「エリスに色んな体験をさせてやってくれ。頼んだよ」


「えっ!? あっ! はい……」


 ん~、出来ればリッカに相談したかったが、リッカと同じで見聞を広める目的で同行するんだから大丈夫かな?


 問題はターニャか……


 二人とも歳が近いから良い感じに仲良くやってくれるかな?


 まあ、エリスがしっかりしてるから心配しなくても大丈夫か?


 などと思っていると、ニュクスさんが


「人間、お前の生命反応は覚えたからな」


 と言い、目を細めると


「もし、エリスに何かあったら……」


「くっ!」


 また体が重たくなって、膝をつきそうになっていると


「分かってるだろうな……」


 ニュクスさんが鋭く尖った爪を見せつけてきた。


 威圧感が凄くて、頷くことすら出来ずにいると


「お~い、ニュクス~。殺気を抑えないと彼が潰れちゃうよ~」 


「フンッ! この程度で動けなくなるような人間に、エリスを預けなくてはならないとはな……」


 ニュクスさんが不貞腐れたような顔をしてそっぽを向くと、急に体が軽くなった。


 すると、おっさんが


「君達は危険な場所には行かないだろ?」


「ええ、まあ。そういった場所には近寄らないと思います」


「ほら! 聞いただろ?」 


 おっさんが不貞腐れてるニュクスさんに向かって


「危ない場所には行かないってさ」


「フンッ!」


 と言って、またそっぽを向くニュクスさんを見て、おっさんが大袈裟に肩を上げて微笑む。


 すると、おっさんがエリスに


「とりあえず、魔族領に着いたら迎えに行くから屋敷で待っててくれ」


「はい! 分かりました!」


 エリスが笑顔で応えると、蟲族の男の子を見ておっさんが


「ニュクスはこの子を村に送ったら、直ぐに戻って来てね」


「ええ、そのつもりよ」


 と言い、肩にかかった髪を手で払うと


「人間、もう行くわよ。どこでも良いから私に触れなさい」


 すると、エリスが俺よりも先にニュクスさんの蜘蛛の脚に手を添える。


 ん~、行く気満々だなあ。などと思いながらレオとラピに


「改めて、お二人とも色々と大変そうですが頑張ってください」


「ありがとうございます! ケビンさんも護衛依頼、頑張ってください!」


 ラピが胸元で拳を握ると、レオが


「貴様も気をつけてな」


 と言い、二人が胸に手を当て軽く会釈したところで、ニュクスさんの蜘蛛の背に手を乗せる。


 ニュクスさんの足元が光り始めると、おっさんが大袈裟に手を振りながら


「じゃあ、エリス。色んなとこ見て楽しんで来るんだよ~」


「はい!」


 エリスが満面の笑みで返事をすると、俺とエリスの足元も光りだす。


 そして、まばゆい光に体が包み込まれると、おっさんが


「しばらくの間、エリスを頼んだよ」


 歯を光らせながら俺とエリスを指さした。


「はい、分かりました。では、行ってきます」


 おっさんに向かって軽く会釈をすると、おっさんが


「あっ! 転移する時は目を閉じとかないと気持ち悪くなるからね~」


 と言うのと同時に、視界が眩むほどの一際明るい光が放たれたので、急いで俺は目を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ