表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

65/91

第65話 ふたたび魔族のおっさん


 顔をクチャクチャにさせて泣きじゃくるラピを見て、レオが


「次からは気をつけてくれ」


 優しく励ます。


 すると、ラピがひっくひっくと息を吸いながら


「はい……、気をつけます」


 と言いって、泣きじゃくって荒くなった呼吸を整え始めた。


 泣き止み落ち着き始めたラピを見て大丈夫と判断したのか、レオが頷きゆっくりとこっちを見る。


「ケビン」


「はい!」


「貴様はどこの所属なのだ?」


「しょぞく??」


 急に話し掛けられた事に驚くが、聞きなれない言葉に首を傾げると


「貴様が魔法で密猟者達を無力化させたのだろ?」


 ん~、確かに魔法は使ったが、あれはレア装備の効果なんだよなあ。


「ええ、まあ……、はい」


「それと、私とラピに向かって放たれた魔法を剣で斬ったとも聞いたぞ?」


「はい、お二人に被害が及ばなくて良かったです」


 あれはターニャとやった修行のお陰なんだが、まさかあんな形で役に立つとはなあ。などと思っていると、レオが真剣な表情になり


「なあ、ケビン」


「はい?」


「結構な数の密猟者達を魔法で無力化させる腕前もさることながら、剣で魔法を斬る程の剣術の技量も持ち合わせている貴様の名を、私は今まで聞いた事がなかったぞ?」


「そりゃあ、ただの迷宮探索者ですから」


 と言おうとしたら、俺よりも先にラピが手で涙をぬぐい


「そうですよ! あんなに強いんでしたら今までどこかで絶対に会ってたはずじゃないですか!」


「え?」


 どこかで会っていた? どういうこと?


 俺が首を傾げていると


「私たちってカトゥン国の第二王女と仲良しなんですよ! だから、人族領に来たらこの国の兵士さんたちと一緒に稽古したりしてるんですけど、今までケビンさんとお会いしたことってなかったじゃないですか?」


「えっ?」


 この国の王女と知り合いなの! じゃあ、やっぱりレオは本当に獣人国の王女だったのか!


「それに、あれだけ強かったら一緒に稽古した兵士さんたちから『ケビンってスゲー奴がいるんだぜ!』ってな感じで、ケビンさんの話しを聞いててもおかしくないじゃないですか!」


 ラピが腰に手を当てて俺を見つめる。


 ん~、なんでラピは俺を見て兵士って思えるんだ? 職探しで王都に行った時に兵士を何度か見かけたが、物凄く強そうだったしスゲー真面目そうだったぞ? などと思って黙っていると、ラピが目をパチパチさせながら


「あれ? 違うんですか? 第二王女はこの国に蔓延る密猟者達を根絶やしにしようと頑張ってるので、密猟者をやっつけにきたケビンさんはてっきり彼女の指示でやって来た兵士さんなのかと思ってたのですが……」


 ん~、色々と勘違いしているみたいなので


「俺はただの迷宮探索者だよ」


 と言おうと口を開きかけると、ラピが何か思い出したのか


「あっ! もしかして、あまり公には話せない所属だったりするんですか? ほら、気配すら感じさせずに突然目の前に現れたじゃないですか!」


 すると、しばらく静観していたレオが納得したような顔をして


「なるほど。そう言う事なら無理に話さなくて……、ラピ!!」


「はい!!」


 突然レオが話しを止めて、ラピと一緒に密猟者達が倒れている方に振り向いた。


 つられてそっちを見ると、少し離れた場所にまばゆい光を放つ大きな球体が宙に浮かんでいた。


 球体に向かって身構えているレオとラピからは、物凄く緊張している感じが窺える。


 もしかして……、魔物が出現するのか?


 腰の剣を抜こうとすると


「母たちです」


「えっ?」


 エリスを見ると、球体の光から目を守るように手をかざし


「母の転移魔法です」


「転移魔法?」


 球体の方に目を向けると、一際明るい光が放たれ


「おお! ニュクスの言う通りみんな無力化されてるぞ!」


 魔族のおっさんと


「ね、言った通りでしょ。ずっとおんなじ場所から動かないんだから普通はそう考えるわよ」


 アラクネのニュクスさんと


「とりあえず、全員一ヶ所に集めるか?」


 ラミアのラーニャさんが現れた。


 レオとラピが緊張してたので、てっきり魔物が現れるのかと思ってたら、おっさん達だったか……


 でも、あの三人がここに来たって事は、ラーニャさんが偵察していた密猟者達の方は片付いたって事なんだろうな。などと思っていると、ラピが首を傾げながら


「あれ? あの人って……」


 隣でレオが身構えたまま


「ああ、だが、なぜあの方が……」


 ん? 二人はあそこにいる誰かと知り合いなのか? 


 すると、おっさんが辺りを見渡し


「みんな麻痺してるのかな?」


 ニュクスさんがこっちを見て


「あら? エリスが人前に出てるだなんて珍しいわね?」


 ラーニャさんが


「とりあえず、ここら辺に集めとくぞ」


 と言い、スルスルと移動しながら地面に倒れている密猟者達を尻尾で吹っ飛ばしながら一ヶ所に集め始めた。


「レオ様。あの人ってやっぱりタールおじ様ですよね?」


「ああ、相変わらず化け物じみた豪気を放っているが、あのラミアとアラクネもかなりの手練れのようだ……」


 えっ? 二人はおっさんと知り合いなの?


 すると、額に薄っすらと汗を浮かべながら話すレオに対して、おっさんを見て警戒を解いたのかラクな感じでラピが


「レオ様、レオ様、ゴライアスは豪気ではなく闘気ですよ~」


「ああ、そうだったな……」


「いや~、それにしても。まさかタールおじ様だったなんてビックリですね!」


 レオが身構えるのを止め、一度大きく息を吐くと


「ああ、突然強い気配が三つもだからな……、流石に肝が冷えたぞ」


「ですよねえ~」


「だが、なぜタール殿が人族領にいるのだ?」


「そうですよね?」


 すると、ラピが手を振りながら


「おじさま~。タールおじさま~。お久しぶりで~す!」


「おお! ラピ! それとレオ!」


 おっさんがニュクスさんに何か話しかけると、ニュクスさんもラーニャさんと一緒に密猟者達を一ヶ所に集め始めた。


 そして、おっさんが人当たりの良さそうな顔をしてこっちに歩いて来ると


「獅子と兎の獣人が捕らわれてるって聞いてたけど、もしかして君達だったの?」


「私がまたヘマをしちゃって捕まっちゃいました~」


 ラピが肩を落としてションボリすると、おっさんがニコニコしながら


「そうだったんだあ」


 と言い、立ち止まりレオを見て


「でも、レオがいたんだから今回も大丈夫だったんでしょ?」


 ()()()ってことは、ラピはしょっちゅう何かしらやらかしてるのか? などと思っていると、レオがゆっくりと首を振り俺を見る。


 すると、ラピが 


「実は……」


 素早く俺の隣に移動すると、両手を揃えてまるでおっさんに俺を紹介するかのように


「今回はケビンさんに助けてもらいました!」


 と言い、小さく拍手し始めた。


 それを見たおっさんが、笑みを浮かべて歯を光らせると


「おお! やっぱり君は助けに向かったんだね!」


「えっ? えっ!? ケビンさんっておじ様と知り合いだったんですか!?」


 ラピが俺とおっさんを交互に見ながら驚きの声を上げていると、おっさんが


「彼はね、俺が山歩きでヘロヘロになってる時に美味しい水を恵んでくれたんだよ」


「山歩き? おじ様が??」


 ラピが何のことだか分からず首を傾げているが、おっさんは気持ちよさそうに眠っている蟲族の男の子を見て


「レオとラピだけじゃなく、蟲族も救出してくれたみたいだね」


「ん~、俺が来た時には既にエリスが回復魔法で彼女たちと蟲族のケガを治していたので、どちらかと言うとエリスのお陰ですよ?」


 すると、エリスが顔の前で手をパタパタさせて


「いやいや、確かに私はケガを治しましたが、ケビンさんが密猟者達を無力化してくれましたし、ケビンさんから回復薬を譲ってもらえなかったらこの子の傷を完治させる事は出来ませんでしたよ」


 おっさんが少し驚いたような顔をすると


「君ならやってくれると思ってたけど、大活躍じゃないか!!」


「別れ際に密猟者達の場所を教えられて、しかも捕らわれてる人達がいるって話しも聞いてたら、やっぱ知らんぷりなんて出来ませんって」


「はっはっは!」


 おっさんが高笑いしながら


「やっぱりそうだよねえ。いや~、君なら絶対に何かしらやってくれるだろって思ってたけど……」


 振り返って一ヶ所に集められた密猟者達を見ると


「お陰で俺達はラクさせてもらってるよ」


 ラーニャさんが尻尾を使って密猟者達を次々と放り投げ、ニュクスさんが多分魔法なんだろうが、密猟者達を宙に浮かせて一ヶ所に集めていた。


 次々と宙に舞う密猟者達を眺めていたら、おっさんが俺を見て笑みを浮かべると


「とりあえず、おつかれさん!」


 と言って、キラリと歯を光らせながら俺の肩をバシッと叩いた。


「どっ、どういたしまして」


 別に歯は光らせなくても良いが、やった事に対してちゃんと労ってもらえるとやっぱ嬉しいもんなんだなあ。などと思いながらちょっとニヤけていると、おっさんがレオとラピを見て


「ところで、なんで二人はこんな山奥にいたんだい?」


 ラピがレオを見るとレオが目を閉じゆっくりと頷く。


 すると、ラピがわざとらしく軽く咳払いをして


「ん、ん。えっと私たちは人族領にいる知人に稽古をつけてもらおうとしてたのですが、その方が延期されてた迷宮の間引の最中だったので、それが終わるまでの間は自国の密猟者達を取り締まろうと思って城で色々と準備してたんです。そしたら『ミノタウロス族の村を襲った密猟者達が人族領に向かってる』って話しを聞いたので、どうせ人族領に行くんだから密猟者達を捕まえて色々と情報を聞き出そうって思ったんです」


 おっさんがウンウンと頷き


「なるほどねえ。でも、君達なら密猟者なんて余裕でやっつけられたよね?」


「ある方から『これを装備すれば『豪気』が増すので役に立つ』と渡されたレア装備が実はマイナス装備で、それを知らずに私がレオ様に装備させてしまって、そしたらレオ様の体調が急に崩れてしまって……」


 おっさんが口をへの字にして


「あ~、それで二人は捕まっちゃたのかあ」


「はい……」


 ラピが肩を落として俯いてしまった。


 すると、おっさんが顎に手を当て


「なあ、ラピ。レア装備を渡した『ある方』ってのは『ネメシス』のことかな?」


 ラピが驚きながら


「えっ! なんで分かったんですか!」


 おっさんが顎に手を当てたまま首を傾げると


「ん~、もしかして、密猟者が人族領に向かってるって話しも、ネメシスから聞いたのかな?」


「はっ! はい!! そうです! なんで分かったんですかっ!!」


 おっさんが、笑みを浮かべて歯を光らせると


「そりゃあ、俺だからさ!」


 と言い、親指をビシッと立てて自分の顔を指さした。


 すると、ラピが驚きながら


「さっ! 流石です!!」


「そうだろう、そうだろう」


 おっさんが得意げな顔で何度か頷くと


「だって、ラピにレア装備を渡した人物がそこら辺の奴だったらわざわざ『ある方』だなんて言わないだろ? それに二人は家族から煙たがられているのに、城で準備してる時にわざわざ話しかけて来る奴なんて限られるだろ?」


「あっ! そっか!」


 ラピの驚いた表情を見ておっさんが笑みを浮かべると


「なあ、レオ。最近は君の兄達だけじゃなくって、ネメシスも色々と何か仕掛けて来てるのかい?」


 レオが眉間に皺を寄せながら


「今までも何かしらの関与はしてたんだろうが、今回みたいに直接ってのは初めてだ」


「そっかあ、本格的に色々と動きだそうとしてる感じだなあ……。そう考えると、二人は国内に留まっていた方が良かったのかも知れないねえ」


 ラピが首を傾げながら


「えっ? どうしてですか?」


「今って獣人国は国境付近の国々を侵略しようと色々と準備してるよね?」


「ええ、そんな事はして欲しくないのに、色々と準備しちゃってます」


 すると、おっさんが口をへの字にして


「ここ、人族領のカトゥン国も侵略対象国だよね?」


「はい、そうです」


「もし、獣人国の王女がカトゥン国で消息不明になったら、獣人国はカトゥン国に対して色々とやり易くなると思わないかい?」


「えっ!?」


 ラピが驚きの声を上げ、レオが顎を引き表情を硬くすると、おっさんが困ったような顔をして


「王女の捜索って名目で兵士を送り込めるし、二人がケガして帰ってきたならカトゥン国で王女が被害にあわれたって言って報復も出来るよね? あるいは、二人がいつまで経っても帰って来なかったら、王女が殺害されたって事にして、それこそ国を挙げて攻め込む大義名分が出来上がっちゃうよね?」


 ラピがソワソワしながらレオをチラチラ見ているのとは対照的に、レオは腕を組みおっさんの話しに静かに耳を傾けている。


 確かにおっさんの話しを聞いてると、レオとラピが獣人国にいない今の状況を利用すれば、いくらでも人族領に攻め込む理由をでっち上げる事が出来るな……。などと思っていると、おっさんが


「密猟者の情報を得て、マイナス装備を受け取り、密猟者に捕まったけど、幸い大事には至らなかったから良かったものの、俺がネメシスだったら、侵略対象国に向かう二人を利用して、今回みたいな攻め込む口実を策略しちゃうだろうなあ」


 口元にうっすらと笑みを浮かべながら二人を見つめると、レオが難しい顔をして


「だから、タール殿は国内に留まっていた方が良かったと仰ったのだな」


 おっさんがウンウンと頷くと、ラピが苦虫を嚙み潰したような顔をして


「でも、国内にいると色々と仕掛けて来るので、いつも気を張り詰めてなくちゃならないんで大変なんですよ~」


 レオも同意見なのか渋い顔をして頷いていた。


 それを見たおっさんが顔をほころばせながら


「まあ、国内にいると何かと煩わしい事ばかりされるから、国外に出たくなる気持ちも分からなくもないが……」


「ですよね! 国内だと常に色んな事に警戒しないといけないので本当に大変なんですよ!」


 すると、おっさんがパッと目を見開き


「ああ! それで人族領にいる知人に稽古をつけてもらうって名目で国外に出て来たのか!」


 ラピが手を振りながら


「いえいえ、稽古は毎年いつもこのくらいの時期に行ってるので、レオ様と私からしたら恒例行事なのですが、迷宮の間引きの最中だったので……」


「ああ、そうだった、そうだった! それで、ネメシスから密猟者の話しを聞いてやって来たんだったね」


「はい~。国外への出発が先延ばしになりそうだったので落ち込んでたのですが、予定通り国外に出られるって思って喜んでたのに……」


 おっさんが口をへの字にすると


「まあ、確かにそうかもしれないが、君達は一般人と違って王族なんだから例え国外であっても、気を緩めちゃダメだよねえ」


 レオが眉間に皺を寄せて深いため息を吐く横で、ラピが頭を抱えて黙ってしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ