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第64話 レオとラピ


 エリスが所持しているレア装備の鑑定をしようとしていると


「ケビンさ~ん! ケビンさ~ん!」


 うさ耳の獣人ラピの声が、洞窟の入口の方から聞こえてきた。


 レア装備の話しに夢中になり過ぎて獣人達の事をすっかり忘れてたな……


「入り口付近で動いている反応が二つあります」


 エリスを見ると静かに目を閉じている。


 どうやらサーチで状況を確認してくれているようだ。


「多分、兎と獅子の獣人だろうな」


「そうみたいですね」


「ん~、レア装備を見るのは後にして、獣人達の様子を見に行ってみよう」


「はい、分かりました。鑑定を後にするのは構いませんが、この子はどうされますか?」


 気持ちよさそうに眠ってる蟲族の男の子に近づき


「密猟者はもう大人しくなってるから……」


 男の子をそっと抱きかかえると


「えっ!? 起こさなくても良いのですか?」


「ああ、気持ちよさそうに眠ってるからね。このまま連れて行こう」


「分かりました」


 すると、また洞窟の入口の方から


「ケビンさ~ん! ケビンさ~ん!」


 ラピの声が聞こえて来た。


「走りますか?」


「いや、特に危険が差し迫っているような感じではないから、歩いて行こう」


「分かりました」


 しばらく無言で入口に向かって歩いていると、俺の後ろを歩くエリスが


「ケビンさん」


 声をかけて来たので


「ん?」


 振り向くと


「あの……、その……」


 エリスが自分の着ているシャツの裾を強く握り締めて、なんだかすごく緊張していた。


 はて? 物凄く勇気を振り絞って何かを聞こうとしているように見えるが……


 俺はいったい何を聞かれるんだ??


 エリスの緊張がこっちまで伝わり、立ち止まって身構えていると


「ケビンさんは普段何をされてる方なのですか!」


 エリスがやっと聞けたって感じの顔をすると、下を向いて俺の横を通り過ぎる。


 えっ? え? 他には? 


 通り過ぎるエリスを目で追いながら


 もしかして……、それだけなの?


 エリスの様子から、何かもっと飛んでもない事を聞かれるのかと思っていたので、若干拍子抜けした感はいなめないが……


「最近まで迷宮の探索がてら装備品の収集をしていたよ」


 先を歩くエリスに追いつき、横に並んでエリスの歩調に合わせながら一緒に歩いていると、エリスがチラッと俺を見て


「ケビンさんは迷宮を探索されてた方だったのですね」


「うん」


「あれ? でも、ここの近くに迷宮ってありましたっけ?」


 首を傾げるエリスに


「いや、ないよ」


「ですよね?」


 すると、エリスが一瞬目を見開き


「あっ! そっか! 足腰の鍛錬をされてたって言ってましたね」


「うん、一人で山登りしてたよ」


「でも、なぜこんな山奥に?」


 ん~、どう説明すっかなあ。どこらへんから話せば分かりやすいだ? などと考えながら黙って歩いていると


「あっ、あの……。話しにくい内容でしたら……」


「ん? あ~、ごめん、ごめん。頭の中で話しを整理してた」


「いや、でも……」


 申し訳なさそうな顔をしているエリスに


「大丈夫、大丈夫」


「いえ、本当に無理に話さなくても……」


 心配そうな顔をするエリスに


「えっと、なんで迷宮探索者の俺がこんな山奥にいるのかと言うと、俺はいま魔族の女性を人族領から魔族領の家に送り届ける依頼を受けてる最中なんだけど、依頼主である魔族の女性が用事でダノハの山奥に行くことになってね」


「えっ? ここよりも更に山奥にですか?」


「うん、そう。だから、依頼主が戻ってくるまで暇だから足腰でも鍛えようかなって思ってさ」


「なるほど、それで山登りをされてたんですね」


「うん、でも直ぐに足腰がパンパンになって途中で何度も引き返そうって思ったよ」


「ふふふふ、お疲れさまです」


 エリスが優しく微笑むと


「ケビンさんは帰宅する依頼主の護衛依頼を請け負ってる最中だったのですね」


「ん~、護衛が必要な感じではないけど……。まあ、そんな感じかなあ」


 すると、エリスが


「でも……」


 首を傾げて俺を見ると


「ここってだいぶ魔族領から離れた場所ですよね?」


「寄り道しながら家に帰りたいんだって」


「寄り道?」


「うん、色んな場所で新しい知識を得たり、色んな経験を積むことで見聞を広めるってのが依頼主の要望なんだ」


 すると、エリスが急に真顔になって


「見聞を広める……」


 小声で呟くと、顎に手を当てて黙ってしまった。


 ん? なんだ? 難しい顔してなにか考え始めたぞ?


 よく分からんが、とりあえずそっとしとくか……


 しばらく蟲族の男の子を抱いたまま、エリスと無言で歩いていると、洞窟の入口に立つラピとレオが見えて来た。


 薄暗い洞窟の中を歩いていたからなのか、入り口付近に立ってる二人に注ぐ陽の光がやけに眩しく感じる。


 ラピがレオに身振り手振りを使って話し掛けているのに対して、レオは腕を組んだまま終始落ち着いた感じで話しを聞いている。


 ん~、二人を見てるとやっぱ密猟者達と戦っていた時の印象通り、ラピは頼りなさそうに見え、なんとなく『守ってあげたい』って感じの庇護ひご欲みたいなモノが湧いてくるなあ。


 レオからは風格? あるいは貫禄? みたいなモノが滲み出ている感じがするので、やっぱ頼りになる人って感じがするな。


 しかも、彼女の長くて奇麗な金髪が、陽の光に当たってキラキラしているので、なんだか物凄く気高くて高貴な人物のようにも見えるなあ。


「あっ! ケビンさん!」


 ラピが俺に気がつくと


「レオ様、ケビンさんがいらっしゃいました」


 腕を組んだままレオがゆっくりとこっちを見る。


 背丈は俺と同じくらいなのに、首が太くて肩幅も広いからなのか、やけに大きく見えるな。


 蟲族の男の子を抱いたままエリスと一緒に近づいて行くと、レオが胸に手を当て


「まずは、貴様のお陰で体調が戻った。感謝する」


 軽くお辞儀をすると、ラピも嬉しそうに


「ありがとうございました!」


 胸に手を当て頭を下げた。


「いえいえ、どういたしまして」


 軽く会釈すると、レオが肩にかかった長い髪を手で払い


「私の名はレオ!」


 良く通る声で名乗ると、腰に手を当て


「獣人国、二十代目国王グリードの娘だ!」


 ラピが腰を低くすると妙にかしこまった顔をして小さく拍手し始めた。


 おいおい、国王の娘ってことは王女様ってことだよな?


 そしてラピ……、拍手って必要か?


 すると、エリスが隣で身をかがめたので


「なあ、俺って獣人国の王女を見た事ないんだが、本人なのか?」


 小声で問いかけると


「私も拝見した事はございませんが、以前母から獣人国の王は戦後虎から獅子に変わったって聞いてます。なので、もし本人だった場合は失礼になるかと……」


 確かに、もし本人だった場合はマズイよな……


 蟲族の男の子を抱いたまま片膝をつくと、レオが


「二人ともラクにしてくれ、国内ならまだしもここは人族領だからな」


 すると、エリスが


「ありがとうございます」


 頭を下げたので


「ありがとうございます」


 俺も頭を下げる。


 ん? 俺も名乗った方が良いのか?


 いや、俺の名前は既に分かってるから、ここは素性を明らかにするべきなのか?


 てか、王族を相手にこっちから話しかけても大丈夫なのか??


 などと、偉い人に対しての作法が分からずに困っていると


「一緒に捕らわれていた蟲族も助けたようだが、アラクネも捕らわれていたのか?」


 エリスを見るとレオの問い掛けに答えるかどうか迷っている感じだったので


「彼女はここに身を潜め、捕らわれていた者達に回復魔法を掛けつつ、救出する機会を窺っていた者です」


 すると、エリスが『ありがとうございます』って感じで目配せしてきたので、軽く片目を閉じると


「それでか……、急に体がラクになったのは貴様のお陰だったか。感謝する」


 レオが胸に手を当て軽くお辞儀をした。


「いえ、当然のことをしたまでです」


 エリスがレオに頭を下げると


「さっきも言ったがここは人族領だ。かしこまらずに普段通り話してもらって構わない」


「はい、承知いたしました」


 エリスの返事を聞いたレオが


「まだ固い気もするが……」


 困ったような顔をしてラピを見る。


 すると、ラピがニコニコしながら


「急にラクにしろって言われても、やっぱ直ぐにはムリですよ~」


「そうか……」


「そうですよ~」


 と言い、ラピがこっちを見ると


「ケビンさん!」


 さっきまでレオがしていたアームレットを手に持って


「ケビンさんの言う通り、これを外したらレオ様の体調が戻ったんです! ホント助かりました!」


「どういたしまして」

 

 すると、レオがラピの持つアームレットを見ながら


「ところでケビン。このアームレットは何なんだ?」


 ん~、レオからは畏まらずに普段通り話せと言われてはいるが、相手は王族だからなあ……


 とりあえず、丁寧な言葉使いを心掛けておけば大丈夫か?


「それは装備者を弱体化させるレア装備です」


「えええ! そうだったんですか!」


 ラピが突然大声を上げたのでビックリしたが、アームレットの持ち方が危なかったので


「あっ! 内側に仕込まれた針に刺さると効果が発動するから気をつけて」


「えええ! いやああああーーー」


 大声を上げてアームレットを地面に叩きつけた。


 おいおい、叩きつけなくても良いだろうに……


 と思っていると、今度はアームレットを物凄い形相で踏みつけ始めた。


「うりゃ! うりゃ! うりゃーー!」


 なっ! なんだ、どうした!? 


 急に豹変したラピを見て驚いていると、ラピが息を切らしながらレオを見て


「すいませんでした……」


 今度は目に涙を滲ませながら頭を下げた。


 急に怒り出したり泣き出したりするラピって、感情の起伏が激しい人なのか?


 などと思っていると、レオが軽く眉間に皺を寄せて


「良い、どうせ兄達の差し金だろう」


 すると、ラピが半泣きの状態で首を左右に振り


「いえ、今回はネメシス様です」


「あいつか……」


 レオが深く眉間に皺を寄せると、変形したアームレットを見つめ、ゆっくりとこっちを見た。


「なあ、ケビン」


「はい?」


「数年前から人族と魔族が手を組んで獣人国を侵略しようとしているらしいのだが、そんな話しをここ人族領で耳にしたことはあるか?」


「えっ? 聞いたことありませんが、そうなんですか?」


「やはり耳にしたことはないのだな?」


「はい、そんな話し、初めて聞きましたよ?」


 するとラピが涙を拭いながら


「ですよね、でも獣人国では迷宮内に装備品をばら撒く人族が目撃されたり、大戦中に魔族が使用していた転移魔法陣から魔物が現れたりしているので、人族と魔族が手を組んで私達の国を狙ってるって話しになってるんですよ」


「えっ! それってこっちでも同じような事が起きてますよ?」


 話しを聞いて驚いていると、レオが一度頷き


「人族領で起きている件に関しては、ここカトゥン国の知人と魔族領にいるゴライアス国の知人から既に聞いているので、我々も承知している」


 そして、一度大きくため息を吐くと


「だが、我が国では魔族と人族が手を組んでいる事をごまかすために行っている揺動だ。と言われ続けているのが現状だ」


 ドワーフ国でも転移魔法陣から魔物が現れてるし、獣人国でも魔物が現れてたのかあ。


 最近まで人族領でも転移魔法陣から魔物が現れていたみたいだし、迷宮内に放置された装備品はローズ達が頑張って回収したりしてるしなあ……


 魔族領とエルフ領の状況は分からんが、なんやかんやで大陸全土で同じような事が起きてたのかあ。


 すると、ラピが


「まあ、それを言い続けてるのが国王様がどこからか突然連れて来たネメシス様なんですけど、なぜか国の重鎮たちは侵略行為に備えて色々と準備し始めちゃってるんですよねえ」


 腰に手を当て難しい顔をしているラピに


「え? 獣人国では『人口増加に伴う居住区域拡張の為の領土拡大計画』ってのが決まったから、今は自国の領土を広げようとしてるって話しを聞いたけど、そうじゃなかったの?」


「あ~、それはネメシス様が国王の側近になった直後に決まった計画なんですけど、当初は人が増えすぎて住む場所がなくて困っていたので、国境に隣接する国々から土地を借りるか売ってもらうといった話し合いや交渉を行う計画だったのですが……」


 ラピがレオに目配せすると


「構わん、続けろ」


 ラピが頷き


「いつの頃からかネメシス様が『国境に隣接している土地は元々獣人国の領土だったが、過去の侵略行為によって奪われた土地なので奪還するべきだ』って話しになってて、最近では国境と隣接している国々と戦争が起きてしまいそうな状態なんですよねえ~」


 腕を組んで渋い顔をしているラピに


「俺が聞いた話しだと、その事が理由で人族は自国の戦力強化のためにドワーフ国に装備品の注文をしてるけど、ドワーフ国が大変な状況だから供給が止まってるって聞いたなあ」


「そうなんです! 今って人族以外の国々もドワーフ国からの装備品の供給が止まっているので、しばらくはどの国とも本格的な戦闘にはならないと思うのですが、もし戦争が起きてしまったら国外に移住している獣人族の人達も戦いに参加せざるを得なくなるので、私たちはそならないよに色々と頑張っているのですが……」


 すると、レオが眉間に皺を寄せながら


「そういった我々の行動に異を唱える重鎮や家族がいてな、最近では我々の生存すら危ぶまれる行為も平気でするようになって来てるのが現状だ」


 ん~、命を狙われるだなんて、俺みたいな一般人とは違って高貴な方々は色々と大変なんだなあ……


 すると、ラピが肩を落としながら


「そんな状況なので、私とレオ様はなるべく城の外にいるようにしてるのですが、たまたま用があって城に行った時に、ネメシス様から『ミノタウロス族の村を襲った密猟者達が人族領に向かってる』って情報を教えてもらったんですけど、その時に『これを装備すれば『豪気』が増すので役に立つと思いますよ』って言われてアームレットを渡されたんです……」


 おいおい、ちょっと話しを聞いただけでもそのネメシスって人が何かしら良からぬ事を企んでるんじゃね? って勘ぐっちゃうけど実際は違うのか?


 などと思っていると、ラピがまた目に涙をためて


「う~、まさかあれがマイナス装備だったなんて……。レオ様、すいませんでした……」


 頭を下げると、レオがラピの肩に手を乗せ


「もう良い、過ぎた事だ」


「びえ~ん!」


 ラピが顔をクチャクチャにさせて泣き始めた。


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