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第63話 宝玉が好きな蜘蛛


 目の前にいる控えめで大人しそうな女の子の母親が、あの自意識過剰なニュクスさんだって事に衝撃を受けて固まっていると


「私と母とでは見た目が異なりますので、親子だと告げると皆さん決まって同じような反応を示します」


「あっ! ごめん、ごめん」


「いえ、もう慣れました」


「そ、そうなんだ……」


「はい。ちなみに私の父は魔族で、母のニュクスはエルフが父親です」


「うん、それは何となく察してた」


 この子には魔族特有の角が生えてるし、ニュクスさんは耳がエルフみたいに尖っていたからな。


 すると、女の子が


「ご存じかもしれませんが、私たちアラクネは種族的に父方の影響を色濃く受ける種族です。なので、私と母のように父方が異なる種族だった場合はたとえ親子であっても容姿は異なります。だからなのか、母がニュクスだと伝えるとかなりの確率で皆さん驚かれます」


 確かに種族的な関係で母と娘の容姿が異なるって事は分かるが……


 多分、みんな俺と同じでこの親子に関しては見た目以外の別のことで驚かされてんだろうなあ……


 まあ、それはさておき


「じゃあ、君がニュクスさんに見張り役をお願いされてた、エリスさん?」


「はい、そうです」


 すると、女の子が


「えっと、目上の方から『さん』付けで呼ばれるのは慣れていないので、出来れば私のことは呼び捨にしてもらえると、ありがたいのですが……」


 と言い、下を向いてしまった。


「えっと……。じゃあ、君のことは『エリス』って呼ばせてもらうよ」


 すると、エリスが顔を上げ


「はい、助かります」


 と言い、少し首を傾けると


「ところで、どういった経緯で母や私のことを知ったのですか?」


「ん? ああ、足腰を鍛える為に山を登ってたんだけど、疲れて休憩してたらタールって魔族のおっさんが現れてね」


「おっ! おっさん!?」


「そう、おっさん。話してみたら意外と人当たりの良いおっさんだったよ」


「は、はあ……。そう、ですか……」


 なぜかエリスが難しい顔をしているが


「そんで、おっさんと話してたらニュクスさんとラーニャさんがやって来て、そん時に密猟者に獣人族と蟲族が捕らわれているって話しを聞いたから、ちょっと助けに来てみたんだ」


 エリスが首を傾げながら顎に手を当てると


「あの……、ちょっと言いにくいのですが……」


「ん?」


「母とラーニャさんを前にして、よく無事でいられましたね?」


「えっ!?」


「過去に色々とあったからなのか、あの二人はいまだに人族のことが許せないみたいでして……」


「ああ、大戦中はレア装備に使う魔核の為に魔獣族が沢山犠牲になってたらしいからね」


「はい、それ以外にも昔から私たち魔獣族は他種族から目の敵にされていましたので……」


「あ~、魔獣族が魔物扱いされてたころって、地位や名声を得る為に色んな種族から戦いを挑まれてたらしいからねえ」


 エリスが一度頷くと


「はい、そう言った経緯もあって、いまだに他種族の特に人族のことが許せない母とラーニャさんを前にして、よく無事でいられたなあ。って思いまして……」


「確かにニュクスさんは俺の首を斬る気満々だったし、ラーニャさんは俺をぶん殴ろうとしてたけど、タールのおっさんが二人を止めてくれたんだよねえ」


 エリスが顎に手を当てたまま、口をへの字にすると


「ん~、あの方はかなり気まぐれなので、なぜ二人を止めたのかはわかりませんが……。もしかしたらあの方なりにケビンさんのことが気に入って、二人の事を止めたのかもしれませんね」


「あれ? 俺ってエリスに名前教えてたっけ??」


「いえ、まだケビンさんから直接お名前は伺っておりませんが、獣人族との会話のやり取りを見ていましたので……」


「えっ! エリスは洞窟の外にいたの?」 


「はい、岩壁に張り付いて様子を窺っていました」


「えっ! 全然気づかなかったぞ!」


 驚いていると、エリスがちょっと嬉しそうに


「自分を覆うようにして土魔法で目くらまし用の壁を造って潜んでいました」


「それでか! そりゃあ分からんなあ。ん? でも、いつから壁に潜んでたの?」


「獣人達が見張り役の密猟者を倒して外に出た時からです」


 すると、エリスが突然何か思い出したのか一瞬目を見開くと


「そうだ! ケビンさんにお聞きしたいのですが、なぜ獅子の獣人から腕輪アームレットを外させたのですか?」


「ああ、あのアームレットには装備者を弱体化させる宝玉が埋め込まれていたからね」


「弱体化させる宝玉! じゃあ、あれはマイナス装備だったってこと!?」


 エリスが納得したような表情をすると


「だからかあ……」


 顎に手を当て黙り込んでしまった。


「えっ? どうしたの?」


「いえ、獅子の獣人が捕らわれていた時にずっと辛そうにしていたので、そっと回復魔法を掛けてみたんです」


「へ~、なら元気になったでしょ?」


「はい、見張り役の密猟者を無力化させると、兎の獣人と一緒に密猟者達を倒し始めました」


 あ~、ちょうど俺が山の斜面で色々と準備しようとしてた時だな


「ですが、獅子の獣人が急に片膝をついて動かなくなったと思ったら、また辛そうにし始めたので、どうしたんだろう? って思っていたのですが、マイナス装備が影響していたのですね」


 なるほど。つまり、獅子の獣人レオはマイナス装備で動けなくなって捕まってたけど、エリスが回復したら動けるようになって逃走を試みたってことか……


 すると、エリスが


「奇麗な宝石が施されていたので、さぞかし高価なアームレットなんだろうなあ。って思っていましたが、真ん中の宝石以外は何となくイヤな感じがしてたんですよねえ」


「うん。真ん中には【気力増加】の宝玉が埋め込まれてはいたけど、周りには【毒】【腕力低下】【体力低下】といった宝玉が埋め込まれていたね」


「そっかあ……。あれは宝石じゃなくて弱体化の宝玉だったのかあ」


 顎に手を当て難しい顔をしているエリスに


「あれ? 今、イヤな感じがしてたって言ってたけど、もしかして弱体化させる宝玉が分かるの?」


「はい、なんとなくですが強化系の宝玉ですと気持ちがワクワクして、弱体化の宝玉ですと、ソワソワしてきます」


「へ~、そうなんだあ」


「ですが、宝玉の詳細な効果となると、今の私ではまだ理解できていないのが現状です」


「えっ? もしかしてエリスは宝玉に興味があるの?」


 すると、エリスが急に目をキラキラさせて


「はい! 出来れば宝玉の鑑定が出来るくらいの知識は得たいと思っています!」


 ん? なんかエリスの雰囲気が変わったぞ?


「私、小さい頃からレア装備に埋め込まれている宝玉を眺めるのが好でして、実は今でも母に隠れて宝玉を眺めてたりしてるんです!」


 あれ? もしかして? エリスは俺と一緒で、装備品とか眺めるのが好きな人なのか?


「へ~、そうなんだあ。なんか俺と似てるかも」


「えっ?」


 意外そうな顔をするエリスに


「俺も子供の頃から装備品や宝玉が好きでずっと眺めてたんだけど、いつの頃からか宝玉の効果が分かるようになってね。それからはずっと装備品と宝玉の世界にドップリ浸かっちゃってるよ」


 すると、エリスが目を見開き


「えっ! じゃあ! 私も宝玉の効果が分かるようになりますか!」


 さっきまでの控えめで大人しそうな印象からは打って変わって、急に積極的になりだしたエリスに若干戸惑いながら


「うっ、うん。エリスが宝玉を見た時に感じるワクワクとかソワソワって感覚、俺も子供の頃にそんな感じの感覚があったから、エリスもレア装備を見続けていればそのうち効果が分かるようになるかもね」


「えっ! うそっ!」


 エリスが嬉しそうに両手で口を押さえると


「本当ですか!!」


 と言い、下半身の蜘蛛の脚をせわしなく動かし始めた。


 ああ、そっか~、そうだよなあ。


 宝玉の効果が分かるようになるかもしれないんだから、そりゃあ、落ち着いてなんかいられないよなあ。などと、思っていると、エリスが口元に笑みを浮かべて


「そっかあ……」


 と言い、遠くを見ると


「私も見続けていれば分かるようになるかもしれないのかあ……」


 まるで願い事を口ずさむかのように呟くが、下半身の蜘蛛の脚はカサカサとせわしなく動き続けていた。


 ん~、ターニャも嬉しかったり興奮すると蛇の尻尾をバッシバシ地面に叩きつけていたが、魔獣族って下半身に感情が現れやすい種族なのか?


 などと思っていると、脚の動きが急に止まったので、エリスを見ると肩を落としてションボリしていた。


「えっ! どっ、どうした?」


「ええ、実は……、母が魔核に対して良い印象がないので、レア装備を集めたり眺めたりするのは止められているのです」


「あ~、そっかあ、そうかもなあ。レア装備には宝玉の他に魔核が使用されてるモノも存在してるからなあ」


「そうなんです。だから宝玉の知識をもっと得たいと思ってても、今の環境では難しいのです」


「ん~、確かに、今の環境だと難しいかもね」


「はい……」


 エリスが下を向いて黙り込んでしまった。


 ん~、困った……


 落ち込んでるエリスを慰めるには、どんな言葉をかけてあげれば良いんだ?


 かと言って、これからもニュクスさんに見つからないように隠れて宝玉を見続けてれば良いじゃん。なんてことは軽々しく言えないしなあ……


 しばらく二人で無言になっていると、エリスが急に顔を上げて


「そうだ! ケビンさんのそのローブ! 突然姿が消えて気配も分からなくなったので驚いていたのですが、やはりあれはそのローブに縫い付けられた宝玉の効果だったのでしょうか?」


 エリスが目をキラキラさせながらローブの宝玉を見つめている。


 急に元気になったと思ったら宝玉についての質問かあ。


 とりあえず、元気になってくれたんで助かったが、落ち込んでいたエリスに気の利いた言葉を掛けてあげられなかった分、宝玉の話しで元気になってもらうか……


「えっと、黒い方は【失認しつにん】で濃いピンク色の方は【気配遮断】って宝玉なんだけど……」


 普段ローブなんて着てないから、エリスに言われるまでローブを着てる事すら忘れてたな。


 ローブを脱いでエリスに手渡そうとすると


「え? 触っても良いんですか?」


「うん、どうぞ」


 エリスが恐る恐る手を伸ばしローブを受け取る。


 すると、熱心にローブの生地を確認したり宝玉を色んな角度から眺め始めた。


 あ~、俺もあんなふうに装備品を眺めてたんだろうなあ。


 思わず笑みがこぼれる。


 しばらくすると、エリスが丁寧にローブを畳んで


「ありがとうございました」


 手渡してきたので受け取ると、エリスが申し訳なさそうに


「えっと、どちらも初めて目にした宝玉だったので、出来ればどのような効果があるのか教えてもらいたいのですが……、よろしいでしょうか?」


「うん、構わないよ」


「ありがとうございます!」


 エリスが蜘蛛の脚を曲げたり伸ばしたりしながら上下に動き、今か今かと目をキラキラさせて宝玉の説明を待ち構えている。


 あ~、俺もこんなふうに目をキラキラさせながら親方の説明を聞いてたんだろうなあ。などと思いながら、ローブに縫い付けられた宝玉をエリスに見せると


「黒い【失認しつにん】の方は装備者の事を周りが認識出来なくなる効果で、濃いピンクの【気配遮断】は単純に気配を遮る効果だね。ちなみに、この襟元にある紐を結ぶことで効果を発動させるレア装備だよ」


「姿は見えず物音もしないし気配すらも感じさせない……」


 エリスがハッとした表情を浮かべ


「実は物凄く恐ろしい事をするのに適したレア装備なのでは?」


「あっ! エリスもやっぱりそう思った? 実は俺もその事に気づいてチョッピリ背筋が寒くなったんだよねえ」


 苦笑しながら頬をポリポリかいていると


「そういったレア装備も存在しているのかと思うと、やはり怖いですね」


「だねえ」


「説明して頂き、ありがとうございました」


「どういたしまして」


 ローブを指輪に収納していると


「そちらは【収納】の宝玉ですね!」


「ああ、これね。俺って魔法が使えないからすっごく助かってるよ」


「え? でも、密猟者たちを無力化させてましたよね?」


「あれは【麻痺】の宝玉が埋め込まれたレア装備のお陰だよ」


「そうだったんですか! 密猟者たちが魔法使いって言ってたので私もケビンさんは魔法使いなのかと思ってました!」


「ん~、今回は密猟者たちが勝手にそう思い込んでくれたんで、色々と上手くいったけど……。思い込みとか先入観って気をつけないと危ないなって改めて感じたよ」


「あ~、確かにそうかもしれませんね……」


 すると、エリスが目をパチパチさせながら


「あれ? ケビンさんの鎧に埋め込まれてる宝玉って、弱体化させる宝玉なのでは?」


「ん? ああ、これね。そうだよ【体力半減】の宝玉だよ」


 エリスが眉間に皺を寄せながら


「えっと……、なぜマイナス装備と知ってて着用してるのでしょうか?」


「体力を底上げしたくてね。体を鍛えるならマイナス装備を着たままの方が効率が良いって教えてもらったんで、最近はずっとこれを着て頑張ってるよ」


「えっ! マイナス装備ってそんな効果があったんですか!?」


「うん、俺も知らなかったんだけど、実際にこれ着て色々と頑張ってたら確実に体力が増えてるのを実感出来たから、間違いなく効果はあるよ」


「へ~、マイナス装備にそんな使い方があるとは、驚きですね!」


「うん、俺も聞いた時はビックリしたよ。だから、他にもマイナス装備を使って色々と出来そうな事はないか、そのうち調べてみようって思ってるよ」


「あっ! それ、楽しそうですね!」


「だろ、だろ」


「はい!」


 エリスが笑顔で返事をすると、何か思い出したのか急に真顔になって


「このレア装備なんですけど……」


 左手首にしているブレスレットを俺に見せ


「幼い時に母から貰った物なのですが見てもらってもよろしいでしょうか?」


「ああ、良いよ」


 エリスの【魔力半減】の宝玉が埋め込まれたレア装備を見ながら


「ニュクスさんってレア装備が嫌いなんじゃなかったっけ?」


「ええ、ただ母が嫌いなのは魔核が埋め込まれているレア装備でして、迷宮産のレア装備でしたら問題ありません」


「ああ、なるほどね。ちなみにその装備を受け取った時って、ニュクスさんは何て言ってたの?」


「母からは『強くなるためのお守りよ』と言って渡されました」


「そっかあ、それ【魔力半減】の宝玉が埋め込まれたマイナス装備だよ」


 すると、特に驚いた様子も見せずに、エリスが左手首のブレスレットを見つめると


「この宝玉を見ていると何となくソワソワしていたので、もしかしたらって思っていましたが……、やはりそうでしたか……」


「もしかしたらニュクスさんはエリスの魔力の底上げと魔力操作を鍛える為に、身に着けさせたのかもしれないね」


 エリスがハッとした表情で俺を見て


「もしかして母は、ケビンさんの【体力半減】のマイナス装備と同じ効果を期待して私に手渡したって事ですか?」


「ん~、実際の所はニュクスさんに聞いてみないと分からないけど、自分の娘に『強くなるためのお守りよ』って言ってマイナス装備を渡してるんだから、多分そうなんじゃないかなあ?」


「そう、かもしれませんね……」


 顎に手を当てしばらくブレスレットを眺めていたエリスだったが、急にチラチラ俺を見だしたと思ったら


「実は……、母に内緒でレア装備を幾つか持ち歩いているのですが……」


「ん? 持ち歩く? あっ! 空間魔法か!」


「はい、そうです」


 と言い、モジモジしながら下を向くと


「あの……、その……」


「ん? どうしたの?」


 エリスが顔の位置はそのままに、目だけを上に向けると


「出来ればそちらも見てもらいたいのですが……、よろしいでしょうか?」


「もちろん構わないよ。俺は装備品についてもっと知識を深めたいって思ってるから、逆にありがたいって感じだよ」


「あっ! ありがとうございます!!」


 エリスが満面の笑みを浮かべると勢いよく頭を下げた。


 そして、勢いよく顔を上げると、蜘蛛の脚をせわしなく動かしながら


「どうしましょう? 一品ずつ見せますか? それともいっぺんに出して地面に広げちゃいますか?」


「えっ? もしかして、結構な数を所持してるの?」


「ええ、まあ……。それなりに」


 ちょっと得意げな顔をしてエリスが答えると、洞窟の入口の方から


「ケビンさ~ん!」


 うさ耳の獣人ラピの声が聞こえて来た。


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