第60話 密猟者②
山の斜面を駆け降りながら密猟者達の様子を窺う。
相変わらず十人以上の密猟者達が殴り合いのケンカをしていて、それを他の密猟者達が遠巻きに眺めながら盛り上がっている。
転ばないように足元に気をつけながら、獅子と兎の獣人の方を確認する。
岩壁を背に片膝をついて動かない金髪の獅子を守るようにして、耳の長い兎が密猟者達と睨み合っている。
密猟者達はうさ耳の蹴りを警戒しているのか、安易に近づこうとはせずに一定の距離を保って取り囲んではいるが、何かの拍子で一斉に襲い掛かって行きそうな雰囲気でもあった。
急げ、急げ!
木の枝を払いのけながら急な斜面を駆け降りる。
こうして斜面を駆け降りている間にも、ケンカを眺めている密猟者達の何人かが獣人達の騒動に気づいたらしく、獣人達の方へと移動し始めている。
マズイ、マズイ! 獣人を取り囲む密猟者達がドンドン増えてってる!
要所要所で木の枝を掴みながら、山の斜面を滑り落ちるかのような勢いで駆け降りる。
急げ! 急げ!
斜面が終わりやっと平地になったが、困った事にケンカをしている連中の陰に隠れて獣人達の様子が全く見えなくなってしまった。
獅子と兎は大丈夫かな? とりあえずケンカをしてる連中を大人しくさせて、それからだな。
殴り合って揉みくちゃになっている密猟者の集団に向かって突っ走る。
近づく俺に気づいた密猟者達が俺を指さし何か叫ぶが、かまわず指輪から【麻痺】の杖を取り出し即座に発動させる。
取っ組み合っていた密猟者、馬乗りになって拳を振りかぶっていた密猟者、それと遠巻きにケンカを眺めていた密猟者達が一斉に動きを止め、皆その場に倒れ込んだ。
すると、杖の攻撃範囲外にいた密猟者達が急に地面に倒れた仲間達に驚き、事態を把握できずにこっちを見たまま固まっていた。
ん~、見晴らしは良くなったが獣人達を取り囲んでる密猟者の数が多くて、金髪の獅子とうさ耳の姿が全く見えん!
ただ、見た感じ密猟者達が騒いでいる様子がないから、まだ膠着状態は続いてるのかもな。
にしても……
目の前にはさっきまでケンカをしていた密猟者達と遠巻きにケンカを眺めて騒いでいた密猟者達がピクリともせずにみな地面に倒れて大人しくなっている。
【麻痺】の杖を一撃喰らわしただけで、ここに集まってた半数近くの密猟者達を一気に大人しくさせる事が出来たんだが……
セバスに譲ってもらたレア装備の威力が凄すぎて驚きよりも恐ろしいって感情の方が若干強いが、これなら残りの密猟者達も何とか出来そうだな。
などと思っていると、こっちを見て固まっていた密猟者達が大声で怒鳴りながら近づいて来た。
杖の攻撃範囲内に入ったので効果を発動させると、みな膝から崩れて地面に倒れ込む。
さらに、異変に気づいた密猟者達が近づいて来るが、獣人達の方へ移動しつつ杖の攻撃範囲に入り次第すかさず効果を発動させて麻痺させる。
思わず杖に埋め込まれた【麻痺】の宝玉を見つめてしまう。
親方からは「宝玉の効果は高ければ高いほど広範囲に影響を及ぼすから気をつけろよ」とは聞いてたが、店には効果の高い宝玉が埋め込まれたレア装備となると親方の秘蔵の剣くらいしかなかったし、子供の頃に一度しか見せてもらってなかった。
しかも、店には効果の高い宝玉が埋め込まれたレア装備なんてモノはなかったので、親方が言っていた「広範囲に影響を及ぼす」って事が良く理解出来ずにいた。
杖を持って走る俺に気づいた密猟者達が次々と近づいて来るが、片っ端から麻痺させて獣人達の方へと向かって行く。
武器を構えた密猟者達が横に広がり立ち塞がるが、真ん中にいる密猟者に向けて杖の効果を発動させると、みな同時に麻痺して地面に倒れ込む。
なるほどねえ、効果の高い宝玉が埋め込まれたレア装備を使うとこんな感じになるのかあ、親方が言っていた事がやっと理解出来たような気がするな。
効果の高い宝玉が埋め込まれたレア装備を使うと、狙った相手にだけ効果が発動するのではなく、狙った相手の周辺にまで宝玉の効果が発動するので、今回みたいに大勢を相手するには持って来いの装備品なんだな。
しかも、効果を発動させようとすると、どこまでが攻撃の有効範囲なのかが自然と理解出来るんだから驚きだ。
走りながらそれなりの数の密猟者を麻痺させたが、獣人の周りにはまだ多くの密猟者達が残っていた。
ん~、あんなに密集している所に攻撃したら、獣人も麻痺させちゃうなあ。
近づく俺に気づいた密猟者が獣人を囲む輪から外れてこっちに向かってきた。
武器を構えて怒鳴りながら近づく密猟者を十分に引き付けて、杖の効果を発動させる。
やっぱこれ以上近づくと獣人達も攻撃範囲に入っちゃうなあ。
すると、麻痺してぶっ倒れた密猟者の物音に気づいたのか
「うわっ!? えっ? なっ!? みんな倒れてる!?」
性格の悪そうな細身の密猟者が倒れている密猟者を見て驚き、さらに辺りを見渡して驚いていると、周りにいた密猟者達も振り向き
「あっ? どうした? ん? 死んでんのか? いや、ありゃあ麻痺だな」
耳から顎にかけて斬られたような傷跡のある密猟者が、倒れている密猟者を見ていると、腹回りに肉を蓄えすぎて動きが鈍そうな密猟者が俺の後ろの方を見て
「よく分からねえが、さっきまで殴り合ってた連中も倒れてるな? あいつらも麻痺して倒れてるのか?」
顔に傷のある密猟者が
「こっからだとよく分からねえが、多分そうなんじゃねえか?」
すると性格の悪そうな密猟者が
「さっきまでアホみたいに盛り上がってた連中が何で倒れてるんだ?」
動きが鈍そうな密猟者が俺を睨むと
「あいつがやったんじゃねえか?」
顔に傷のある密猟者も俺を睨み
「だとしたら、杖を持ってるから魔法を使ったのかもしれねえな」
性格の悪そうな密猟者が
「もしかして、獣人を助けに来たのか!」
すると、獣人を取り囲んでた密猟者の何人かが異変に気づき、振り返ってこっちを見ると
「うおっ! なんでみんなぶっ倒れてるんだ?」
「なんだ? あいつは?」
性格の悪そうな密猟者が俺を指さし
「あいつが俺らの獲物を奪いに来たぞ!」
「は~? たった一人でか? おいおい、随分と俺らも舐められたもんだなあ」
「あ? どうした?? てっ!? おい! なんでみんなぶっ倒れてんだ?」
「ん~? どうした?」
一人、二人と獣人を取り囲んでいた密猟者達が振り向きこっちを見だした。
なんか、良い感じに密猟者達の意識がこっちに向き始めたぞ。
すると、動きの鈍そうな密猟者がこっちに顔を向けたまま大きな声で
「おかしらー! 変な奴がいるんだが、殺っちゃっても良いかー!」
獣人を取り囲んでいた密猟者達が左右に分かれると、金髪の獅子とうさ耳が密猟者に腕を取られて地面に顔を押し付けられていた。
えっ!? 捕まってる!!
うさ耳が地面に顔を擦りつけながら
「レオ様! レオ様!」
金髪の獅子の方に顔を向け必死に叫んでいた。
まだ危害を加えられてはなさそうだが、急に動かなくなった金髪の獅子の容態も気になる。
ん~、やっぱ急いだほうが良いよなあ。
どうしよう? 彼女らも攻撃範囲の中だけど仕掛けちゃうか?
すると、左右に分かれた人だかりの中から髭を生やした密猟者が歩いて来る。
他の密猟者達よりも明らかに腕っぷしも強く貫禄もありそうなので、多分こいつがボスなんだろうな。
髭を生やした密猟者が立ち止まって辺りを軽く見渡し
「ん? なんで魔核屋の連中がぶっ倒れてるんだ?」
「お頭!」
性格の悪そうな密猟者がお頭に近づき
「あの魔法使いがやったみたいッス!」
お頭と呼ばれる髭を生やした密猟者が目を細めて俺を見ると
「ふ~ん。でっ、あいつは何なんだ?」
「獣人達を助けに来たみたいッス!」
お頭が顎髭をさすりながら
「ふ~ん。まあ、ぶっ倒れてる魔核屋達はどうでも良いが……」
ん? ここに集まってた連中は皆仲間じゃなかったのか?
「せっかく捕獲した売り物が奪われるのは頂けねえなあ」
すると、性格の悪そうな密猟者が
「そうッスよね! けっこうな人数がいたんで魔核の取り分が減っちまうって思ってたら、美味い具合に獣人と蟲を捕まえたッスからね!」
やっぱり蟲族も奴らに捕らわれてるんだな……
でも、どこにいるんだ?
辺りを見渡すが蟲族らしき人物は何処にも見当たらない。
となると、やっぱ洞窟の中かもな。
とりあえず、こいつらを何とかしない事には獣人族と蟲族を助けられないな……
残ってる密猟者は後十四、五人ってとこか? 獣人達も巻き込んでしまうが【麻痺】の杖を発動させるか?
などと思っていると、お頭が腕に着けていた【収納】のブレスレットから【魔法無効】の杖を取り出し発動させた。
そして、俺を見ると勝ち誇ったような笑みを浮かべ
「野郎ども!! これで奴の魔法は使い物にならねえぞ!!」
大声で怒鳴ると、密猟者達が
「おお!! 魔法の使えない魔法使いなんて余裕じゃん!」
「おっしゃ!! 俺らにたてついた魔法使いなんぞぶっ殺してやる!」
「おうっ!! 魔法が使えないからって逃げんじゃねえぞ!」
一斉に騒ぎ出した。
すると、お頭が
「獣人を縛ったら蟲を連れてここからずらかるぞ!! それまでに奴の身ぐるみ剝がして来いや!!」
大声で怒鳴ると、獣人を取り囲んでいた密猟者達が一斉にこっちに向かって走って来た。




