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第59話 密猟者①


 急な山の斜面を木に掴まりながら降りて行く。


 落ち葉が積み重なった斜面の土は柔らかく、一歩踏み出すたびに足がくるぶしくらいまで土に埋もれてしまう。


 転ばないように足元に注意しながら斜面を降りていると、風に乗って下の方から騒がしい声が聞こえて来るが、ここからはまだ人が集まっている場所は見えてこない。


 ただ、目的の場所が近い事は確かなので、ひたすら転ばないように足元に注意しながら斜面を降り続ける。


 しばらく斜面を降りてると、そそり立った岩壁の崖の下に開けた場所がり、人の姿が見え始める。


 ん? そろそろか?


 目立たないように身を低くし、転ばないように足元に注意しながら斜面を降りて行く。


 一旦斜面を降りるのを止め、木陰から下の様子を窺う。


 見るからに素行の悪そうなやから達が、岩壁の崖の前に集まっていた。


 五、六人で火を囲んで何かを食べてる輩もいれば、十人くらいで集まって豪快に酒を飲んでる輩もいるし、取っ組み合う輩を遠巻きに眺めて盛り上がってる輩達もいる。


 おいおいおい、全然話しと違うじゃん! これって四十人くらい集まってるんじゃないか?


 ん~、魔族のおっさんとアラクネとラミアのお姉さんが「密猟者はそんなに集まらなかった」って話しをしてたのになあ……


 とりあえず、どうするか悩みながらも、しばらく輩達の様子を窺ってみる。


 ん~、定期的に誰かが巡回している様子もなければ、見張りも立てずにただ酒を飲んで騒いでいるだけだな。


 思ってた以上に人数が多かったんで驚かされたが、連中からは警戒心や緊張感ってモノを全く感じられなかった。


 まあ、やつらは密猟目的で襲撃する側の人間だから、自分たちが襲われるなんて全く考えてないんだろな。


 酒を飲んで高笑いしている輩の声が聞こえてくる。


 魔族のおっさんには近づくなって言われたが、やっぱ蟲族の魔核は見たいんだよなあ。


 それに、密猟者に捕らわれてるって知ったからには、何もせずにはいられないんもんな。


 にしても、おっさん達が話してた蟲族と獣人族ってどこにいるんだ? 輩達しかいないぞ?


 あと、アラクネのお姉さんが言っていた、エリスって見張りも見当たらないんだよなあ……


 何度も辺りを見渡すが、やっぱり輩以外の人物なんてどこにも見当たらない。


 ん~、どこで見張ってるんだ?


 などと思っていると、突然誰かが大声で叫び始めた。


 えっ! もしかして見つかった!?


 身を低くし輩達の様子を窺うが、誰もこっちを見てないし、俺に気づいた素振りも見られない。


 てっきり輩達に見つかったんだと思って一瞬ビックリしたが、どうやらさっきまで取っ組み合ってた輩とそれを遠巻きに眺めていた輩どもが一緒になって殴り合いを始めたらしく、それを他の輩達が眺めながら大いに盛り上がっているだけだった。


 ん~、なんであの手の連中は、揉め事とかケンカが好きなんだ?


 でもまあ、輩達の意識がケンカに集中してくれるのは、俺にとって好都合だな。


 騒いでる輩達は無視して、捕らわれているはずの蟲族と獣人族の行方を探してみるが、やはりどこにも見当たらない。


 ん~、やっぱあそこか?


 ケンカで盛り上がる輩達の先にはそそり立った岩壁の崖がり、そこには洞窟の入口みたいな穴がぽっかりと開いていた。


 やっぱあそこが怪しいよなあ……


 でも、どうやってあそこまで行くかだよな。


 魔族のおっさんが密猟者に情報を流して、奴らがここに集まったって話しをてたから、俺も密猟者のふりして連中に紛れ込むか?


 ただ、あいつらって言葉は通じるけど、話しとなると全然通じないからなあ。それでいて、直ぐに怒鳴ったり、理不尽な事とか言ってくるし、簡単に暴力を振ってくるからなあ……


 となると、セバスから譲ってもらった【収納】の指輪の中にある装備品を使った方がラクそうだな。


 セバスからは「質の良い装備品を幾つか収納しておきましたので、良ければ使ってみて下さい」と言われ指輪を渡されたのだが、後で確認してみたら物凄く効果の高いレア装備ばかりだったんで、スッゲー興奮したんだよなあ。


 にしても、まさかこんな形で使う日が来るとはな……


 とりあえず【失認しつにん】と【気配遮断】の宝玉が縫い付けられたローブを着ておけば、連中とは戦闘しないで済むんだろうな。


 驚いたことに、このローブを着ていると俺が目の前を歩いてても視認する事が出来ないし、俺が立てた音も認識する事が出来なくなる優れ物で、今回みたいな誰かに見つかりたくない状況にはうってつけのレア装備なのだ。


 ただ、このローブ、気配もしっかり遮断してくれるので、本当は物凄く恐ろしい事をするのに特化した装備品なんだろうと俺は推測している。


 なんで、セバスはこんな恐ろしい装備品を持ってるんだ?


 まあ、そんな感じのローブなので、輩達には絶対に見つからず怪しい洞窟まで辿り着けるんだろうが、やはり念のため連中は無力化させておきたい。


 となると【睡眠】か【麻痺】の杖でやつらを大人しくさせるか?


 ん~、もしかしたら、魔法に対して何かしらの対策をしているかもしれないから、そんなやつらには【麻痺】のダガーを使うか?


 こいつは深く斬りつけなくても、軽く斬っただけで確実に効果が表れるほどの逸品だ。まあ、ここまで効果が高い宝玉なら針でチョコッと刺したような傷でも効果は絶大なんだろうけどな。


 思わず宝玉を見てウットリしてしまう。


 どちらにせよ、杖もダガーも宝玉の効果が物凄く高いから、やつらがしている何かしらの対策すらも無効にちゃうんだろうけどな。


 さて、斜面で転んでローブが破れたらりでもしたら大変だから、着るのは斜面を降りてからだな……


 軽く輩達の様子を窺い斜面を降りようとすると、洞窟の前で輩達が慌ただく騒ぎだしていた。


 えっ!? 獣人? しかも女性? 


 やけにガタイの良い、猫みたいな獣人が近づく密猟者達を殴って吹っ飛ばし、兎みたいな長い耳を生やした獣人は蹴りで吹っ飛ばしていた。


 おーい! まてまて! 何で戦ってるんだ!?


 急いで斜面を駆け降りる。


 そっか!? 捕まってたんだから、そりゃあ逃げ出そうって考えるか? でも、もう少し待ってくれてたらなあ、ちょっとタイミングが良くないぞ……


 ケンカをしてる密猟者達はまだ洞窟付近の騒動に気づいていないようで、相変わらず仲間同士で殴り合っている。


 ん? もしかしたら、彼女たちは連中が騒ぎ始めたからその間に逃走しようって考えたのか?


 転ばないように足元に気をつけながらも獣人達を気にしつつ、急いで斜面を駆け降りる。


 ガタイの良い猫みたいな獣人が近づく密猟者を豪快にぶん殴って吹っ飛ばしている。


 アラクネのお姉さんが捕らわれてる獣人は獅子と兎って言ってたから、彼女は獅子の獣人なんだろうな。


 獅子は立派なたてがみが印象的だが、やはり女性だからなのか彼女にはたてがみは存在しいない。


 ただ、長くて奇麗な金色の髪をなびかせながら拳を振るう姿を見ていると、彼女の身に備わった風格? あるいは貫禄? みたいなモノが感じられ、密猟者に囲まれ危機的状況なはずなのに、彼女の戦いっぷりを見ていていると、なぜだか不思議と絶対に助かるんだろうなって思えてくる。


 そして、うさ耳の獣人は近づく密猟者を蹴りだけでずっと撃退してるが、やっぱ兎だから脚力が強いのかな?


 ん~、彼女からは風格みたいなモノは感じられないし、どちらかと言えば頼りない印象を受けるので、なんとなく『守ってあげたい』って感じの、庇護ひご欲の方が強く湧いてくるが、近づく密猟者をそれこそ全て蹴散らしているので、誰かが守ってやる必要なんてないんだろうな。


 次から次へと密猟者が二人に襲い掛かって行くが、みんな殴られるか蹴られるかして戦闘不能になって行く。


 斜面を駆け降りるのを止め、木陰から様子を窺う。


 彼女達の周りには、既に十人以上の密猟者達が地面に倒れていて、気を失って動かないか、うずくまって悶えていた。


 ん~、なんならあの二人だけで密猟者を全員やっつけちゃうかもなあ。


 どうしよう? なんか助けに行かなくても大丈夫そうだな……


 ん? あれ? なんか金髪の獅子が片膝をついて急に動かなくなったぞ??


 それに気づいたうさ耳が密猟者を蹴散らしながら金髪に近づいていく。


 えっ!? もしかして? 深手でも負ったのか?


 金髪が岩壁にもたれかかって辛そうにしている横で、うさ耳が近づく密猟者を蹴りで必死に応戦する。


 おいおいおい! 良い感じだったのにダメじゃんか!!


 急いで斜面を駆け降りる。


 輩達のケンカを遠巻きに眺めていた何人かが、洞窟付近の騒動に気づいて獣人達の方へ移動して行く。


 マズイ! マズイ! 人数が増えてってるぞ!


 うさ耳が動けぬ金髪の前で近づく密猟者達と一定の距離を保って膠着状態となり始めていた。


 取り巻く密猟者の数が多すぎる! うさ耳だけじゃキツイかも!!


 転びそうになりながらも、急いで斜面を駆け降りる。


 頼む! 間に合ってくれ!!


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