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第55話 ダノハ地方


 自分の背丈よりもデカい蟻が突進してくる。


 素早く横に躱して斬り払う。


 前脚を斬られた蟻が勢いよく地面に頭を突っ込みひっくり返った。


 脚を斬られて体勢を立て直すのが難しいのか、ひっくり返ったまま地面でもがく蟻の腹に剣を突き立てる。


「残りはあと五匹よ~」


 後方で控るリッカに


「あいよ~」


 振り返らずに軽く手をあげ答えると、前方からまた新たな蟻が現れた。


 そろそろ終わりみたいだから、ちょっと試してみるか。


 蟻が頭を下げて突進してきたので回避せずにその場で腰を落として身構える。


 体を闘気で包み込むように意識してから蟻の突進を受け止める。


 それなりに衝撃を喰らって二、三歩後ずさりはしたが吹っ飛ばされることなく耐える事が出来た。


 今度はそのまま押し返そうと試みるが、蟻が噛みつこうとしてきたので後ろに下がって斬り払う。


 「ん~、噛みついてきたかあ」


 思わず声が出てしまった。


 昨日リッカから闘気の話しを聞いたからなのか、あるいは気力が増して自信もそこそこ持てるようになったからなのか、意識すれば何となく闘気の存在を感じられるようになってきたので、色々と試してみたかったんだけどなあ。


 などと思っていると、また蟻が現れ突進してきた。


 今度は蟻を横に避けつつ木の幹のような太い脚と一緒に胴体を斬る。


 脚を失った蟻が横に倒れながら勢いよく地面に突っ込むと土煙を上げて息絶えた。



 ん~、何か魔物を斬るのが以前よりもラクに感じるんだよなあ。


 闘気の存在を意識できるようになったのが関係してるのか、あるいは昨日まで飛来してくる魔法を走りながら斬りまくってたからなのか?


 どちらにせよ、剣術の腕前がそれなりに上がってるって事なんだろうから、やっぱ嬉しいな。


 それと、かれこれ三十分近く、二十匹以上の蟻と戦い続けているのに全く息が切れないし疲れて来ないので、それだけ俺の体力が以前よりも物凄く上がってるって事なんだろうなあ。


 まあ、最近ずっと【体力半減】の鎧を装備したまま稽古をしてたから、自分が思っている以上に体力の底上げがされてるのかもしれないが……


 やっぱこうして、色々と稽古の成果が実感できると頑張った甲斐があるよなあ。


 などと思っていると、また蟻が現れた。


 闘気を意識しながら次はどんなふうに戦ってみようか考えていると、おびただしい数の氷の矢が大量に飛んで来て次々と蟻に突き刺さった。


「あたしも稽古したいからケビンは休んでて!」


 振り返ると、離れた場所で待機していたターニャが


「残り少ないんだから、ケビンはもう休んでて!」


「あいよ~」


 新たに二匹の蟻が迫って来ていたので


「んじゃ、後は任せたぞ~」


 急いでその場から離れると、地面から砂の槍が次々と飛び出し蟻たちの進行を妨げた。


 そして、二匹の蟻が鋭利な刃物で斬られたかのようにバラバラになって地面に転がった。


「ふっふっふ。あたしはまた強くなってしまった……」


 ターニャを見ると目を細めて自画自賛していた。


 すると、ターニャの隣で戦闘を見守っていたリッカが


「今の攻撃も上手に魔法操作が出来てて申し分なかったわよ」


「はい! ありがとうございます!」


 ターニャは色んな属性魔法を織り交ぜながら魔物を倒す稽古をしているので、今までみたいに一撃で魔物を倒していた時よりも確実に手数の多い戦い方になってしまっているのだが、俺的には魔法を巧みに使って戦うターニャの姿は見ていて結構恰好良かったりするので、毎回戦闘が終わるたびに


「アースランサーで足止めしてからのウインドカッター。スゲー恰好良かったぞ!」


 てな感じで、率直な意見を伝えている。


 するとターニャは


「でしょ、でしょ。カッコ良かったでしょ~♪」


 てな感じで、毎回体をくねくねさせながら俺のいる場所まで移動してくる。


 そして、リッカもこっちに移動して来ると


「二人ともお疲れさま。ターニャは色んな属性魔法を使った戦闘にだいぶ慣れてきたみたいね」


「はい! 師匠のお陰です! これからも引き続き色んな魔法を使ってあたしは戦いまくります!」


「ええ、その調子で頑張ってね」


「はい!」


 ターニャが元気良く返事をすると、リッカがこっちを見て


「ケビンは長時間の戦闘でもちゃんと剣術の身体操作を活かした攻撃が出来ていたし、だいぶ闘気を意識出来るようにもなってきたわね」


「俺的にはまだしっかりと実感出来ていないんだが……。そっか、とりあえず今回も使えてはいたんだな?」


「ええ、ちゃんと体を包み込んでいたし剣にもしっかりと纏わせて振っていたわ。だから引き続きその調子で頑張ってね」


「ああ、了解した」


 

 今日は朝からウインドバッシュで移動しながら、リッカのサーチで魔物の反応を見つけるたびに、こうして実戦稽古を行ってはまた移動って感じを繰り返しているのだが、そろそろ昼時なので俺としてはここら辺で飯にしたいんだよなあ。


 などと思っっていたら


「結構な数の魔物だったわね……」


 リッカが周りを軽く見回し始めたので


「ん~、なんか山岳地帯の奥に進めば進むほど魔物が多くなってる気がしないか?」


 リッカを見ると顎に手を当て何か考え事をしているらしく、返答はもらえなかったが、隣にいたターニャが


「あたしは良い稽古になるから魔物は大歓迎だぞ!」


 上半身を左右に動かしながらシュッシュと拳を放ち始めた。


 そんなヘビ娘に


「確かに、俺も稽古になるから魔物との戦いはイヤではないんだが……」


 と答えつつ


「なあ、リッカ。ダノハって魔物が多い地域なのか?」


 顎に手を当てたままリッカが


「う~ん、人が踏み入らない地域だからそれなりに多い? とか?」


「あ~、なるほどな。人がいりゃあ退治してるもんな」


 すると、リッカが首を傾げて


「でもね、ここから半日くらい西に移動した場所に魔物とは違う反応が沢山あるのよねえ」


「へ~、じゃあそこにカケさんがいるのか?」


 リッカが首を左右に振り


「そこにカケさんの反応はないわ」


「そっかあ……」



 今朝出発する時に、ダノハ地方のどこら辺にカケさんが居るのかリッカに尋ねたところ


「えっ? 知らないわよ?」 


 てな感じで、さも当たり前のように言われてしまった。


 俺はてっきり、リッカがカケさんの居場所を知ってるもんだと思っていたので、驚きながら


 「えっ? じゃあどうやってカケさんのとこまで行くんだ?」


 と尋ねると


 「サーチしながら見つけるのよ?」


 これまた当たり前のように言ってきた。


 そっか、カケさんの居場所はサーチしながら見つけるのかあ……


 ん~、確かにグリーンキャニオンでのリッカとローズの会話の中で、具体的なカケさんの居場所って全く話してはなかったが、それは普通にリッカがカケさんの居場所を知っているからだと思っていたからで……


 俺を見て首を傾げるゴリラから、山深い山岳地帯に目を移す。


 ん~、まさかこの山の何処かにいるであろうカケさんを探す事になるとはなあ……


 ここまで来るのにそれなりの日数を費やしたのに、これから更にあと何日かければカケさんに会えるんだ? 


 まあ、食料はまだまだいっぱいあるから全然問題はないんだが……


 ……んっ!? あっ、そっか! 


 だからセバスが【収納】の宝玉が埋め込まれた指輪を譲ってくれた時に「移動先では何かと不便な事があると思われます。なので、食料と野営に必要な物品を収納しておきました」って言ってたのか! 


 それって、つまりこうなる事を見越してたからなんだろうなあ。


 ん~、やっぱりセバスは最高に出来る執事だったんだなあ……


 ありがとうセバス……


 などと、セバスに感謝しながらダノハの山岳地帯に足を踏み入れた訳なのだが



「そっかあ、そこにはカケさんはいないのかあ。まあ、出発してまだ半日しか移動してないもんな」


「ええ、そうね。もっと奥まで行けばカケさんの反応が出るかもね」


「だな。ちなみにだけど、あのデカい蟻って何て魔物なんだ?」


 蟻の死骸を見ながらリッカが


「う~ん、さすがに人族領の魔物は、ちょっと分からないわねえ」


「すまん、リッカなら何か知ってそうな気がしたんで聞いてみただけだ。さすがに分からなかったか」


「うん、ごめんね」


「いや、謝らなくて良いから」


 するとターニャが


「ケビンは魔物の鑑定は出来ないのか? ならあたしが魔物に名前をつけちゃうぞ?」


「ん? 別に構わんが、どんな名前にするんだ?」


「そ~だな~」


 目をつむり額に手を当てしばらく考え込むターニャ。


「む~~~ん」


 眉間に皺を寄せてしばらく唸っていると、何か閃いたのかターニャがパッと目を見開くと


「ふっふっふ。あのデカい蟻の魔物の名前は……」


 思わせぶりな口調で蟻の死骸を見てから勢いよく指をさすと


「デカい蟻だ!」 


 と言い放った。


 ん~、ターニャのネーミングセンスに少しは期待してたのだが……


 リッカを見ると、リッカも少し期待していたようでちょっと残念そうな表情を浮かべている。


 そんな中、ターニャだけは「どうだ! 恰好良い名前だろ!」ってな感じで 物凄く誇らしげな顔をしてこっちを見ていた。


 ん~、名付けに相当自信があったんだろうが、見た目通りの名前で全然響かないし、刺さらないんだよなあ。


 などと思っていると、ターニャがまた蟻の死骸に向かって勢いよく指をさし


「デカい蟻だ!」 


 と言い、得意げな顔をしてこっち見る。


「おっおう! そっか、あいつはデカい蟻で決定だな」


 いたたまれなくなってついついターニャの名付けに乗っかってしまった……


「うん! あいつの名前はデカい蟻だ!」


 腰に手を当て満足げな顔で答えるターニャ。


 すると、リッカが


「ターニャのお陰で魔物の名前が決まって良かったわ。ありがとね」


「はい! どういたしまして!」


「それにしても、今回は魔物の数が結構多かったから後半は私も参戦しようと思ってたんだけど、全然大丈夫そうだったわね?」


「余裕でした!」


 ん? 急に話しを変えて来たな? もしかしたらリッカもターニャの名付けに関して何か思う事があったのかどうかは分からんが……


「意外と俺も余裕だったぞ」


 魔物の名前には一切触れずに俺もリッカの話しに乗っかると、リッカが笑顔で頷いた。


 やはりリッカもターニャの残念なネーミングセンスに胸を痛めてたみたいだな。などと思っていると、いつもならそろそろ昼飯を食べてる時間だからなのか、俺の腹が空腹時の悲鳴をあげた。


 それを聞いたターニャが


「あたしもお腹空いたかも~」


 腹をさするターニャを見て、リッカも腹をさすりながら


「そうね、実は私もペコペコなの。だから、魔石を収集したらお昼にしましょ!」


「はーい!」


 早速ターニャがウインドバッシュで蟻の死骸まで移動すると


「魔石♪ おっひる♪ マッセキ~♪」


 変な歌を口ずさみながら魔石を集め始めた。


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