第54話 夜ご飯
「ご飯♪ ごはん♪ ごっはっん~♪」
ご機嫌なターニャを先頭に、リッカが土魔法で造った即席の小屋に向かう。
一応セバスに譲ってもらった【収納】の指輪には、木と金属の骨組みに布地を被せて使う立派な天幕が収納されていたのだが、組み立てたり片付けたりするのが大変そうだからって事で、毎回リッカが土魔法で頑丈な小屋を造ってくれていた。
小屋に向かいながら
「なあ、リッカ。セバスにもらった休憩セットを使うか? それとも、またいつもみたいにターニャに頑張ってもらうのか?」
「ターニャにも日常生活で魔法を活かしてもらいたいから」
と言いい、先を急ぐターニャに向かって
「ターニャ、今回も椅子とテーブルの用意をお願いね」
「はーい! 頑張ります!!」
振り返って拳を掲げたターニャが小屋に入って行く。
遅れてリッカと小屋に入ると早速ターニャが部屋の中央に向かって両手を前に伸ばしていた。
意識を集中しているターニャをしばらく見守っていると、床の上に砂が集まり始めそれに伴い砂の山が出来始める。
「むむむ~」
ターニャが眉間に皺を寄せ唸っていると、静かに見守っていたリッカが
「そう、そうよ……その調子。焦らないで……。そう、ゆっくりで良いからね……」
「むむむ~」
「そう、その調子」
「むむむむむ~ん!」
ターニャが勢いよく両手を突き出すと、形は歪だがとりあえず三人で使うには申し分ないテーブルが出来上がった。
「よっし! 次はイスだ!」
と言いい、ターニャが再び眉間に皺を寄せて
「むむむ~」
唸っているとテーブルの周りに三つの砂山が出現し
「むむむむむ~ん!」
背もたれはないが腰を掛けるのには申し分ないイスが三脚出来上がった。
リッカが小さくパチパチパチっと拍手をしながら
「今回も上手に魔力の操作が出来てて良かったわよ」
「はい! 頑張りました!」
すると、ターニャが額の汗を拭うような仕草をして
「ふ~、今日もあたしは良い仕事をしてしまった!」
そして、こっちを見ると
「よっし! ケビン! 鑑定だ!」
テーブルと椅子を指さした。
またやるのか……。などと思いながら、椅子とテーブルに近づき
「ふむふむ、今回の椅子とテーブルも良い出来栄えですなあ」
「そうだろう、そうだろう」
ターニャが腕を組み偉そうに頷いている。
椅子とテーブルを交互に指でコツコツと叩き
「ふむふむ、どちらも硬くて丈夫そうですぞ」
「ふっふっふ、今回もいっぱい魔力を注いだからな!」
「ええ、今回も大変良い出来栄えでしたぞ」
「そうだろう、そうだろう」
ターニャが腰に手を当て偉そうに頷いている。
俺が椅子に腰掛け
「ありがとな」
「どういたしまして!」
「んじゃ、飯にするか」
「うん! ご飯♪ ごはん♪ ごっはっん~♪」
ターニャが変な歌を口ずさみながら椅子に座ると、俺とリッカで食事の支度に取り掛かる。
まあ、ここまでが最近の鑑定ごっこの一連の流れだったりするのだが、初めて土魔法でテーブルと椅子を造ったときは、軽く指で叩いただけでテーブルと椅子は簡単に崩れてしまっていたが、毎回休憩の度にこうして椅子とテーブルを造っていれば、さすがに魔力操作も上手くなって出来栄えもちゃんとしてくるわな。
などと、思いながら【収納】の指輪から食器を取り出しテーブルに並べていると、リッカが紅茶を注ぎながら
「明日からはいよいよダノハ地方なんだけど、さっきサーチしたら山岳地帯には魔物が生息しているみたいなのよねえ」
指輪から調理器具を加熱するための魔道具を取り出し
「へ~、草原地帯では全然遭遇しなかったが、山にはいるのかあ。ちなみにどのくらいの強さなんだ?」
リッカが紅茶を俺の前に置き
「だいたい『骸骨迷宮』の主と同じくらいの生命反応だったから、特に問題はなさそうなんだけど……」
リッカがターニャの前にアイスティーを置き
「どんな魔物なのかは見てみないと分からないのよねえ」
俺は指輪から鍋を取り出し
「見てみないと分からんのかあ……」
魔道具に乗せて加熱し始める。
すると、ターニャが
「今日の夜ご飯はな~に?」
テーブルに手をつき身を乗り出してきたので、鍋の蓋を開けてやる。
すると、目を見開き
「あー! あたしこれ好きー♪」
鍋の中には、ひき肉と玉ねぎ、それと豆を煮込んだ料理が入っていた。
「俺も何気に好きだぞ。この料理ってちょっとピリ辛だからパンとの相性抜群だよな」
「うんうん!」
セバスは肉や野菜、パンといった食材以外に、調理済みの料理も沢山指輪に収納してくれていたので、正直物凄く助かっていた。
指輪から取り出したパンをテーブルに置きながら
「なあ、サーチで魔物の特定って出来ないのか?」
「今まで遭遇した事のある魔物だったらある程度は特定出来るんだけど、人族領に生息している魔物はさすがに分からないかなあ」
苦笑いするリッカに
「そっかあ。まあ、俺としてはリッカとターニャがいるからどんな魔物が出て来ても問題ないんだけどな」
「おう! ケビンはあたしが守る!」
拳を握ってやる気を漲らせるターニャに
「ありがとな」
と言い、指輪から鍋を取り出すと、ターニャがまたテーブルに手をつき身を乗り出してきたので、鍋の蓋を開けてやる
「おー! スープか!」
「だな、でもこれは今回初だな……。何のスープなんだ?」
二人で首を傾げていると、リッカがレードルで鍋の中身をかき混ぜながら
「色からして多分ジャガイモのポタージュなんじゃないかしら?」
ターニャが俺を見て
「ポタージュ?」
首を傾げたので、リッカに目配せすると
「野菜を丁寧に裏ごしして滑らかなペーストにしたものにとろみをつけたものがポタージュで、肉や野菜、魚介類などを煮込んだ水分量の多いものをスープって言ってるんだけど、人族領の地域によって名称が違うのかしら?」
「そう言われてみると、水分量が多めでさらさらしているのは『スープ』って言ってるし、水分量が少なめでとろみがあるものを『ポタージュ』って言ってるかもな。でもまあ、俺からしたら、どちらも汁物料理なんだから呼び方なんてどうでも良いんだけどな」
リッカが苦笑しながらポタージュをカップによそうと
「確かにそうなんだけど、今までローズと食事していた時には気にならなかったけど、ケビンとターニャが首を傾げてたんで、もしかしたら人族領でも地域によっては呼び方が違うのかしら? って思ったの。でも、魔族領と一緒で人族領でも汁物料理にとろみがあるかないかで呼び方を使い分けてるみたいね」
するとターニャが
「とろとろポタージュ……、さらさらスープ……」
小声で何度か繰り返すと
「ふっふっふ、あたしはまた新しい言葉を覚えてしまった」
などと言いながらニヤニヤしていると、リッカが
「はい、ターニャ」
ポタージュをターニャの前に置く
「ありがとうございます!」
リッカが笑顔で頷き、新たにポタージュをカップによそい始める。
豆料理の鍋を見るとグツグツし始めたので、皿によそいながら
「遠くから見るとダノハ地方の山岳地帯ってスゲー傾斜のキツイ山が沢山あって、移動するのに苦労しそうだなあって思ってたんだが、近くまで来てみる案外とそうでもなさそうなんだな?」
リッカが俺の前にポタージュを置き
「それは、私たちが山のふもと近くにいるから山岳地帯の全体が見えなくなってるからじゃないかしら?」
「ん、ありがと」
リッカに礼を言い、ターニャの前に豆料理の皿を置きながら
「そっかあ、んじゃ、山を越える毎に段々傾斜がキツクなってく感じか?」
「ありがと~」
ターニャが目をキラキラさせながら豆料理とポタージュを見つめる横で、リッカが自分のポタージュをよそうと
「たぶんだけど、標高の低い山々を幾つか越えた先に、傾斜のキツイ山々がそびえてるって感じなんじゃないかしら?」
豆料理を皿によそいながら
「もちろんウインドバッシュで移動するんだよな? まさか歩いて移動とは言わないよな?」
「山歩きは足腰の鍛錬に持って来いなんだけど……」
リッカによそった豆料理の皿を手渡すと
「ありがと。ターニャには障害物の多い場所でのビュンビュンを練習して欲しいから、明日もビュンビュンで移動するわよ」
「そっか、ならよかった」
皆より多めに豆料理を皿によそって自分の前に置くと、リッカが
「じゃあ、準備が出来たから早速頂いちゃいましょ」
「はーい! いっただっきま~す♪」
こうして、ビエナの街を出発してから八日目の夕食が始まった。




