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第53話 気力と自信と闘気と


「そうね、ちゃんと説明しないとダメよね。良い機会だからターニャも一緒に聞いててね」


「はい! わかりました!」


 ターニャが背筋を伸ばして返事をすると


「ゴライアスの剣術で使ってる言葉で、闘う気と書いて『闘気』って言うんだけど」


 リッカが土魔法で長い棒を出現させると地面に『闘気』と書く。


 すると、ターニャも土魔法で長い棒を出現させて


「とうき……」


 早速地面に書き取りを始めた。


 俺は人差し指を使いその場で何度か闘気と書いてみる。


 ん~、闘うって文字は読めるが今までそんなに書いた事ってないかもなあ。などと思っていると


「武器を使って魔物と物理的に『戦う』じゃなくて、苦痛とか困難みたいな目には見えないものに打ち勝とうと努力したり、乗り越えようとする時に使う方の『闘う』ね」


 ゴリラが『戦う』と『闘う』を地面に書くと、ヘビ娘が


「ぶきをつかってたたかう……、めにみえないものとたたかう……」


 健気に声を出して書き取るヘビ娘。


 そんなヘビ娘を見てゴリラが微笑むと


「あと、世の中には『気』のつく言葉って沢山あるでしょ? 例えば『やる気』とか『元気』とか?」


 ゴリラがこっちを見たので


「ああ、そう言われてみれば『気持ち』とか『気分』って言葉にも『気』が使われてるな」


 ゴリラがウンウン頷くと


「でね、人って頑張ってても成果が分かりにくかったりすると、段々不安になってドンドン『弱気』になってくでしょ? そうなると『やる気』が失せて気持ちも萎えて、何もやりたくなくなるわよね?」


「ああ、なるなあ」


「でも疲れを癒したり、気分転換したりすると『元気』になってまた頑張ろうって『やる気』が湧いてくるわよね?」


「ああ、確かに『やる気』が起きなくてゴロゴロしてても、時間が経つか寝て起きれば意外と『元気』になって、また頑張ろうって思ったりもするな」


 ゴリラがウンウン頷き


「でね、『気』が元に戻ると書いて『元気』って読むじゃない」


 ゴリラが地面に『元気』と書くと、横でヘビ娘が


「きがもとにもどる……。げんき……」


「それと、すごく『元気』で活発な人の事を『気力』が満ち溢れている人だ、とかって言ったりもするわよね?」


 ゴリラが地面に『気力』と書き、ヘビ娘が書き取る。


「げんきでかっぱつ……。きりょく……」


 そんなヘビ娘を見ながらゴリラに


「そう言えば『気力』って言葉にも『気』が使われてるな」


「ね、身近に『気』のつく言葉って沢山あるでしょ?」


「あるなあ」


 などと改めて感心していると


「突然だけど、ケビンは今まで物凄く調子が良かった時に、何か上手く出来た経験だったり出来事ってないかしら?」


「ん~、そうだなあ……」


 少し考えて


「親方のとこで働いてた時に、大量に農工具の研磨依頼がきたことがあってな、全部研磨するのにどんだけ時間が掛かるんだ? って感じで、どうしたもんかと途方に暮れてたんだが」


「ケビン……。とほうにくれる……」


 ヘビ娘。それは書き取らなくて良いからな……


「そん時の俺は妙に調子が良くって、いつもよりも短い時間で研磨作業が出来てしかも仕上がり具合も上々だったんだ。だから、妙に気分が良くなってな」


「ケビン……。のりのり……」


「そしたら、急にやる気が出てきて、今日中に全ての研磨を終わらせるぞ! って張り切って作業してたら夢中になってて、気づいたら次の日の朝になってたからビックリしたってことがあったな」


「ケビン……。びっくり……」


 すると、ゴリラが頷きながら


「調子が良い時って気分が乗ってるから色んな事が捗るし、いつもよりも良い結果を出したりもするわよねえ」


「ああ、そうかもな。実際に俺も怒涛の研磨作業を経験してからは確実に研磨の腕が上がったからなあ。そう考えると、やっぱ気分が乗ってて調子が良い時の方が色々と良い結果をもたらしたりすんだろうけど……、気分とかってそん時の状況によるからそう簡単には乗らなかったりするんだよなあ」


 腕を組んで渋い顔をしていると、ゴリラが口元に笑みを浮かべ


「そうね、よく『気が乗らない』とかって言ったりもするもんね」


「ん? 俺ってそんなに気が乗らないって言ってるか?」


「えっ? 世間一般その他大勢のことよ?」


 てっきり俺のことを言ってるのかと思っていると、ゴリラが笑みを浮かべたまま


「でね、調子が良い時って『気分が乗る』とか『やる気が出る』もしくは『張り切っちゃうぞ』とかって感じる事が多いと思うんだけど、それって『気力』が高まってる時に起きてる現象なんだけど、ケビンは研磨作業の時に『気力』が高まってるような感覚ってなかった?」


「気力が高まる感覚かあ……」


 もっかい当時の状況を思い浮かべながら


「ん~、単純に調子が良いから気分が良くなってやる気が出て張り切ったって感じだなあ。そもそも気力が高まる感覚ってのがどんな感じなのか良く分からないからなあ」


 ゴリラが顎に手を当て首を傾げると


「ケビンもやっぱりそうなのね? 改めて『気力』について話しをすると殆どの人達がその時の気持ちとか感情の方が感覚として優先されてしまうのよねえ」


「へ~、てことは、そうじゃないのか?」


 ゴリラが一度頷き


「さっき、世の中には『気』のつく言葉が沢山あるって話したじゃない? なのに、いざその『気』について話しをすると急に認識出来なくなるんだから不思議よね。でもまあ、それだけ普段の生活の中で日常的に色んな『気』を皆が当たり前のように使ってるって事でもあるんだけどね」


「へ~、俺的にはその『気』ってモノを使ってるって感覚は全くないんだけどなあ」


「まあ、殆どの人達がケビンと同じようなことを口にするんだけどね」


「まあ、そうだろうな」


「でもね、それは皆が生活する上で必要最低限の『気』しか使ってないからで、実は鍛えれば誰でもその存在を認識出来るようになるものなのよ?」


「ん~、リッカの話しを聞いてると、何となく存在はしてるんだろうなあって感じで認識し始めてはいるんだが、どうもその『気』ってヤツの存在を俺の中ではいまいち理解出来ないんだよなあ」


「そう、だったら『気』じゃなくって『気力』って言葉に変えてみたらどうかしら?」


 ヘビ娘と一緒に首を傾げていると、ゴリラがしょうがないわねえって感じで


「いつだか、語尾にちからのつく言葉は努力次第でいくらでも鍛えて伸ばせることが出来るって話しをしたの覚えてる?」


「ああ、覚えてるぞ。つまりアレか? 『気力』も鍛える事が出来るってことなのか?」


「ええ、そうよ。体を鍛えて体力と一緒に気力を増やすやり方と、心を鍛えて精神力と一緒に気力を増やすやり方があるんだけど、心よりも体の方が鍛えやすいから、初心者には精神力よりも体力を優先して鍛えてもらったりするわね」


「きりょく……、たいりょく……、せいしんりょく……」


 ヘビ娘の書き取りを見ながらゴリラが


「ゴライアスの剣術で使ってる『闘気』って言葉には色んな教えや意味が込められてて、その中には『気力』って言葉も含まれてるんだけど、体力を増やすと気力も同じように増えるし、体力が減ると気力も減ってくの。だから、体力の弱い人より強い人の方が気力が強いから、失敗だったり苦難といった目には見えないものに打ち勝とうとして、何度も挑戦するしそのための努力もするでしょ?」


「あ~、そう言われてれば、体力が減ってる状態、つまり疲れてる時って『やる気』が起きないから面倒な事とかは後回しにしがちだけど、元気で気力がある状態だったらやる気に満ちてるからなのか、率先して面倒な事でも頑張ったりしてるかもなあ」


「でしょ、でしょ」


「んで、その『気力』、ゴライアスだと『闘気』か、それが増すとなんで壁を蹴破れるようになるんだ?」


「ケビンの場合は体力を底上げして『気力』が増してたし、それと同じくらいに『自信』も増していたからね」


「ケビン……。じしんまんまん……」


 ヘビ娘。それは書き取らなくて良いからな……


「なあ、良く分からないんだが、自信があるれば壁って壊せるものなのか?」


「さっき『闘気』って言葉には色んな教えや意味が込められてるって話したけど、『自信』って言葉も含まれてて……」


 ゴリラが話しを途中で止めて、顎に手をあて少し考えると


「例えば剣の稽古で試し斬りってあるじゃない。あれって自分の実力がどの程度なのか試すためにやるけど、沢山稽古して自分の腕に自信があれば細い木の枝よりも太い木の幹で試し斬りをしたりするわよね?」


「ああ、俺もたまに自分の腕がどのくらい上がったのか気になって、やったりもするな」


「でしょ、でもあれって木の枝や幹が斬れるようになると、鎧や盾とか場合によっては岩とか石柱みたいな物凄く大きくて硬い物とかで試し斬りをしたりもするわよね?」


「俺はそういった物を斬ってる人を実際に見た事はないが、確かに腕が上がって自分に自信があれば、簡単には斬れそうにない物とかを試し斬りに使いたくなるかもな」


 すると、ゴリラがニヤニヤしながら


「それって、明らかに装備している剣よりも大きくて硬い物よね? なのに何で斬れちゃうんだろうね?」


「あ~、そう言われれば何で斬れるんだ?」


 腕を組んで少し考えてると


「ケビンも試し斬りをするって言ってたけど、最初は細い木の枝とかだったんでしょ? でも、それが段々と太い木の枝や幹になってったのはどうしてなの?」


「ん~、それはちゃんと剣が振れてるのか確認したり、剣の刃を立てる感触を掴みたかったからなんだが、剣の振り方とか体の使い方が徐々に解るようになりだしてからは、稽古を続けていくうちに、何か太い木でも斬れそうな気がして段々と試し斬りに使う木が太くなってったんだよなあ」


 試し斬りの経緯を振り返りながら話していると、ゴリラがニヤニヤしながら


「つまり、剣術の腕前に自信が持てるようになったから、試し斬りに使う木も徐々に太くなってったって事よね?」


「ああ、そうなるな」


「じゃあ、ケビンがこれからもずっと稽古を続けて、色んな剣の技を習得してったら、岩とか石柱みたいな物凄く大きくて硬い物とかで試し斬りをしたいって思えたりするかしら?」


 少し考えて


「そんだけ努力してたらかなり自信が持ててるだろうから、たぶんやるんだろうなあ」


「自信が持てればやっぱりケビンでもやっちゃうのね?」


「ああ、確実にやるな」


「ケビン……。やるきまんまん……」


 ゴリラがヘビ娘の書き取りを見て微笑むと


「人って失敗とか困難みたいな、目には見えないものに打ち勝とうと努力したり、乗り越えようとした経験が多ければ多いほど自信が持てるの。だから剣の達人に限らず武術の達人とか魔術の達人って常人では考えられないような事で自分の腕前を試したりするでしょ? あれってみんな自信の表れなのよ?」


「ああ、そう言われるとそうかもな。確かに自分の腕前に自信がなければ試し斬りなんてしないよなあ」


 ウンウン頷くゴリラに


「ただ、腕試しとは違うが最近身近なところで氷柱を素手でぶん殴って破壊した人物がいたな」


 すると、ヘビ娘がシュッシュとその場で拳を放ちながら


「あん時の師匠、カッコ良かったなあ~」


 ゴリラが頬をポリポリかきながら


「あれは拳に闘気を纏わせて殴ったから破壊出来たからで、普通に殴ってたら流石に私でも壊せないからね?」


「へ~、てことはやっぱリッカも闘気って使えるんだ?」


「ええ、使えるわ。ただ、意識して使えるようになるまでにはそれなりの努力が必要だったけどね」


「そっかあ、そうだよなあ。ちなみに俺も頑張れば意識して闘気って使えるようになるのか?」


「ええ、なれるわよ」


 ゴリラが力強く答えると


「師匠! あたしも使えるようになれますか?」


「もちろんターニャも使えるようになれるわよ」


「やった! そしたらあたしも柱を殴ります!」


 ん~、ヘビ娘が益々強くなってしまうなあ。などと思っていると


「さっき体力が増えると気力も増えるって話しをしたじゃない?」


「ああ、したな。それと、気力が強いと失敗とか苦難を乗り越えようと努力するから自信が持てるって話しもしたな」


 ゴリラがウンウン頷くと


「物凄く簡単に言っちゃうと、『闘気』って『気力』が強くて自分の腕に『自信』が持てる人なら誰でも使えるモノなの。だからケビンとターニャもこのまま稽古を続けていけば使えるようになれるわよ」


「おお! あたし頑張ります!」


 ヘビ娘がまたシュッシュとその場で拳を放ち始めた。


「なあ、もしかして世の中の達人って呼ばれるような人達は皆闘気を使ってるんじゃないのか? ほら、あの人達って気力もさることながら自分の腕前にも相当な自信を持ってそうじゃん?」


「正解よ。種族によって呼び方は違うけど、達人と呼ばれる人たちは皆闘気を使って試し斬りをしているし、もちろん実戦でも使ってるわね」


「やっぱりなあ。いくら剣の腕前が凄くて自信があったとしても、装備している剣よりもデカくて硬い岩がそう簡単に斬れるわけないもんなあ」


 すると、ゴリラが笑みを浮かべながら


「冷静に考えると確かにそうよね。でも達人の試し斬りってどちらかと言うと、自分の闘気がどのくらい鍛えられたのか確認する為にやってるって感じよ?」


「あ~、そうだったのかあ。剣の性能や技の習得度合いを試してたんじゃなくて、闘気を試してたのかあ。なるほどね~、何か妙に納得したなあ」


「ケビン……。すっきり……」


 ヘビ娘の書き取りがただの落書きになり始めてるな……


 そんなヘビ娘を見てゴリラが


「だいぶ話しが長くなっちゃったけど、要は気力と自信が充実していれば全ての動きに闘気が乗るようになるの」


「きりょく……、じしん……、とうき……」


「それと、何でケビンがターニャの土壁を壊せたのか? なんだけど」


「ああ、何でなんだ?」


「さっきもチラッと話したけど、ケビンは【体力半減】の鎧を着たまま稽古を続けていくうちに、体力が増すのと同時に『気力』も増してたし、自分の体力に『自信』を持てるようにもなってたでしょ。だから全ての動きに『闘気』が乗るようになって、壁を蹴破ることが出来たのよ」


「えっ!? 俺って既に闘気を使ってたのか?」


 ちょっとビックリしていると


「ケビン……、へんなかお……、でもうれしそう……」


 いや、ヘビ娘よ。それってもう書き取りじゃなくなってただの感想だからな……。などと思っていると


「それに、ケビンは油断しなければターニャの上級魔法だってもう普通に斬れるようになってるでしょ?」


「ああ、斬れてるな。リッカがこの稽古を始めた時に、中級魔法がある程度斬れるようになれば、上級魔法も斬れるようになるから大丈夫って言ってたのは、つまりそういうことなのか?」


「ええ、そういうことよ」


 ゴリラが笑顔で頷いた。


「そっかあ、ゴライアスの剣術ってスゲーんだな」


「ししょうのけんじゅつ……、すごい……」


「う~ん、うちの剣術がって事でもないんだけど……。他の種族も同じように気力を使った戦い方はしてるわよ?」


「へ~、そうなんだあ」


「ええ、ちなみにゴライアスでは『闘気』って言葉を使ってるけど、人族では『覇気』で、獣人族だと『豪気』って言葉を使ってるわね」


「とうき……、はき……、ごうき……」


「へ~、種族が違っても『気』って言葉が使われてるのは、なんか面白いな」


「ええ、それと同じような意味を持つ言葉が使われているのも不思議よね」


 ちゃんとした意味は分からんが、確か覇気と豪気はどっちも気が強いとか威勢が良いとか、物事に積極的に取り組もうとする姿勢みたいな感じの意味だったような気がするなあ。などと思っているとゴリラが辺りを見回し


「もう完全に日が暮れちゃったわね」


 つられて辺りを見渡すと、草原地帯は既に夜の闇に包まれていて、リッカの造った即席の小屋から漏れる灯りのお陰でうちらの周りだけは辛うじて明るかった。


 するとゴリラが


「今日の総括はここまでにして、とりあえず明日からケビンは闘気を意識しながら稽古をするようにしてね」


「ああ、了解した」


 ゴリラが一度頷くとヘビ娘に向かって


「じゃあ、夜ご飯にしちゃいましょ」


「はーい! ご飯♪ ごはん♪ ごっはっん~♪」


 ヘビ娘が真っ先に小屋に向かって行った。


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