第50話 魔法をぶった斬る①
「とりあえず、あそこの氷柱まで距離があるから歩きながら説明するわね」
「は~い!」
昼食前にリッカが地面にぶっ刺した氷柱に向かって歩き始めると
「ねえ、ターニャ。さっきは全力で魔法を放ってもらったけど、次からは今まで通りの感覚で良いからね」
「はい!」
「ただ、風属性の魔法を使うときは風の刃ではなく風圧でお願いね」
「はい! わかりました!」
「なあ、リッカ。ウインドバッシュってさっき二人で追いかけっこしてた時に使ってた魔法だよな? 何でいつも使ってる切断系のウインドカッターじゃないんだ?」
「風属性の魔法って目に見えないから魔力を探知出来ない人には何処から飛んできてるのか分からないでしょ?」
「だな。あっ、でも最近は俺でも集中して見とけば何となく風の動きが薄っすらと見えるようにはなってきてるぞ?」
「そうね、ケビンは剣術の修行をしながら私とターニャの放つ魔法をずっと見てたから、探知できなくても何となく感知は出来るようになって来てるのかもね」
「なるほどなあ。で、何でカッターじゃなくてバッシュなんだ?」
「他の属性は見えるから斬りやすいけど、風属性は見えないからウインドカッターだとケビンが斬られちゃうでしょ!」
う~ん、ゴリラなりに、一応俺のケガの心配をしてくれてはいるみたいだが、だったら魔法を剣で斬らせるような危ない事をさせなければ良いと思うのは、俺だけだろうか……。
「なあ、本当に俺でも魔法を斬れるのか?」
すると、ゴリラが目をパチパチさせて俺を見つめると
「分かったわ、試しにこれを斬ってみて」
ゴリラが丁度俺の胸くらいの高さに、手の平くらいの大きさの火球を出現させた。
「えっ? 魔法って宙に浮かせたままにも出来るのか?」
「魔力の操作が上達すれば、放つだけじゃなくってその場に留める事も可能になるわ。迷宮内でも灯りの魔法を使ってたでしょ?」
「そう言われてみれば、いつもリッカは魔法で迷宮内を照らしてくれてたな」
ウンウンと頷くゴリラに
「俺って魔法が使えないだろ。だから魔物に向かって飛ばしてた魔法が宙に浮いたままってのに驚いて、灯りの魔法の事を思いっきり忘れてたな」
「ぷぷぷぷぷ~」
ヘビ娘が口に手を当て、意地悪そうに笑っていたので
「ちなみに、ターニャもこんな感じに魔法の操作って出来るのか?」
「今のあたしではムリだ!」
なぜか偉そうに胸を張るヘビ娘に、ゴリラが微笑みながら
「もう少し頑張ればターニャも出来るようになるからね」
「はい! 頑張ります!」
すると、ゴリラがこっちを見て火球を指さすと
「ほら、ケビンでも斬れるからやってみて」
このゴリラは本気で俺に剣で魔法を斬らせようとしてるみたいだなあ。
火球に近づき、剣を頭上に振り上げて剣術の基本的な動作である上段の構えになる。
ゆらゆらと火球は宙に浮いたまま燃え続けている。
火球を見つめながら静かに呼吸を繰り返し気持ちを落ち着かせると、周りの音が聞こえなくなってきた。
大きく息を吸い、勢いよく息を吐くと同時に一気に剣を振り下ろす。
剣からは特に手応えみたいなモノは感じられなかったが、火球は真っ二つになるとその場で消滅した。
「おお!」
ターニャがパチパチと拍手をすると、リッカも拍手しながら
「ね、斬れたでしょ」
「おっおう。斬れたな」
何度か骸骨迷宮の魔物との戦闘中に魔法を剣で弾いたり斬ったりもしたが、それは、氷の矢や石弾といった硬いものだったからで、火みたいに決まった形がなく、手で掴むことが出来ないような物が斬れたのには、自分で斬っておきながら、かなり驚かされた。
「なあ、今みたいな感じで水魔法も風魔法も剣で斬れるのか?」
「ええ、斬れるわよ」
「そっか、分かった。じゃあ、俺もターニャと一緒にちょっと頑張ってみるかな」
「おー! 一緒に頑張ろう!」
そして、しばらく雑談をしながら氷柱に向かって歩いていると
「この辺くらいから始めようかしら」
リッカが立ち止まって氷柱を指さし
「ターニャ、さっきも話してたけど、こっからあそこまでケビンが走って行くからターニャは魔法を遠慮なくケビンに当てるのよ」
いつも通り元気に返事をするかと思っていたターニャだったが、眉間に皺をよせチラッと俺を見ると
「でも……、ケビンは弱いからあたしの魔法でケガしちゃうかもですよ?」
確かに、三人の中で俺が一番弱いのは認めるが、ヘビ娘に心配されると何か情けなくなるなあ……。
「もちろんケビンにはターニャの魔法が当たらないように左右に動きながら走ってもらうけど、これはターニャに動き回る標的に対して正確に魔法を命中させるための稽古なの、だからターニャは気にしないで思いっきりケビンに向かって魔法を放つのよ」
ターニャが心配そうな顔をしたままチラッと俺を見て
「む~、大丈夫なのかなあ」
すると、リッカが
「ねえ、ターニャ。あの氷柱に向かって何でも良いから魔法を放ってみて」
「はい! むむむ~、むん!」
ターニャが両手で抱えるほどの大きさの火球を放つと、結構な速さで火球が氷柱に向かって飛んでった。
すると、リッカが一歩踏み出し腰に手を当て右手を前に突き出すと、急に強い風が舞ってリッカのワンピースの裾をたなびかせた。
「えっ? 師匠??」
ターニャがリッカを見て、すぐに自分の放った火球の方を見る。
「えっ? えっ? おーー!」
氷柱に向かって飛んでいた火球が突然何かに斬られたみたいに真っ二つになり、地面に落ちて消滅した。
「師匠やっぱスゲ~~」
ターニャが目を見開き小声でつぶやいていると
「ね、こんな感じで危ないと思ったら対処するから心配しなくて大丈夫よ」
「はい! わかりました!」
目をキラキラさせて元気よく返事をしたヘビ娘に、ゴリラが微笑みながら頷いている。
「なあ、リッカ。何となく察しはつくんだが、一応今のは何だったんだ?」
「ウインドカッターでターニャが放ったファイヤーボールを切断したのよ」
「だよなあ。ん~、いつもならもう少し風の動きを目で追えるんだが……。今のは速すぎて全く目で追えなかったぞ」
ゴリラが少し照れながら
「ターニャの放ったファイヤーボールを追撃するために、けっこう速度を上げて放ったからね」
「うんうん! すっごく速かった!」
ヘビ娘が目をキラキラさせながら胸元で拳を強く握っていると、リッカが
「じゃあ、とりあえずターニャは氷柱まで先に行って、到着したらケビンに向かってドンドン魔法を当てちょうだいね」
「はい! わかりました!」
と言い、こっちを見ると
「じゃあケビン! またあとでな」
ターニャが軽く片手を上げると、軽快に地面を滑走しながら氷柱の方に向かって行く。
その後ろ姿を見ながら
「ウインドバッシュを使っての移動方法はもう既に習得したって感じだな」
「ええ、そうね。ただ、広い場所なら問題ないけど、狭い場所になると魔力操作をしっかりしてないと、壁にぶつかるから気を付けないと危ないのよねえ」
ターニャを見ながら心配そうな表情を浮かべるリッカに
「ん? もしかしてリッカも壁に激突したことがあるのか?」
「ええ、調子に乗ってビュンビュンさせてたら壁に穴が開くくらい激しくぶつかったわ……」
「う~ん、ターニャも同じようなことをしそうだな……」
「私もそう思う……」
リッカが軽く苦笑いをすると、すぐに表情を戻し
「ターニャの魔法は積極的に斬りにいってね」
「ああ、やってみるけどターニャの放つ魔法はデカイからなあ」
「たとえ見た目が大きくても、魔法で出現させたモノなら斬れるわよ?」
「ん~、俺の背丈と同じくらいデカイ火球だったり馬車くらいデカイ岩の塊だぞ? そんなデカイ物を斬るとしたら、物凄く刃渡りが長くて切れ味の鋭い剣じゃないと絶対にムリだろ?」
「ムリじゃないわよ? ほら、今ってターニャに【魔力半減】の指輪を装備させてるじゃない。だから、放つ魔法は中級程度に抑えられてるから大丈夫よ?」
そう言われてみれば、確かにターニャの火球は昼前の時よりも小さくなってったな。だとしても
「仮にマイナス装備で魔力が半減してたって、普通に考えて岩の塊なんて斬れないぞ?」
すると、リッカが何かに気づいたのか一瞬目を大きく見開き
「ごめん、しっかり説明してなかったよね」
何のことか分からず首を傾げると
「そもそも、魔法で出現させた火球や水球、あるいは岩石や氷柱といったモノは魔力で出来てるモノであって、実際に身の回りにある火とか水とは別なモノなの。だから、剣で斬ったり鈍器で叩いたりして出現させたモノの魔力を散らしてしまえば、出現させたモノはその現象を保っていられなくなって消滅するわ。だから、たとえ見た目が大きなモノであっても斬れるから全然心配しなくて大丈夫よ」
「ん~、でも触れたら熱いし、岩だって硬いんだろ?」
「ええ、確かにそうだけど。そうねえ……、例えば水が入った革袋があるとするじゃない。中の水が魔力で革袋が色んな属性魔法だと思って欲しいんだけど、その水で満たされた革袋を完全に真っ二つにしなくても、刃が通れば袋が切れてそこから水は漏れだすし、鈍器で思いっきり叩けば革袋は破裂して中の水は飛び散るでしょ」
「あ~、わかった! つまり、剣よりもデカイ岩塊だったとしても傷をつけてしまえば、魔力が漏れ出すから岩塊は消滅するって事か? んで、仮に鈍器だったら思いっきり岩塊をぶん殴れば魔力が四散するから岩塊は消滅するって感じなんだな?」
リッカが笑顔で頷き
「正解よ! じゃあ、良い機会だからもう少し魔法について説明するわね」
「ああ、たのむ。俺も色々と知っておきたいからな」
リッカがウンウンと頷くと
「魔法は魔力を込めれば込めるほど出現させたモノは強化されて見た目も大きくなるの、だから火属性の魔法だとドンドン高温になって大きくなるし、土属性なら強度を増しながらドンドン大きくなってくわ。でね、込める魔力が一定量を超える毎に上位の魔法になっていくんだけど……。水属性魔法が解りやすいかしら? あの魔法は魔力が一定量を超えると上位の氷として出現するようになるからね」
「あ~、いつだか氷結魔法は水属性の上位の魔法だって言ってたやつか?」
「そう言えば、前にターニャの魔法の指導をしてた時にそんな話しもしてたわね。要は大量の魔力を上手く操作する事で上位の魔法が使えるようになるんだけど、ターニャの場合は元々炎と吹雪を口から放つことが出来てたし、魔法の素質に恵まれてるからなのか、氷結魔法はすぐに使えたわね」
「へ~、じゃあ昼飯前にターニャが放ってたデカくて威力のありそうな火球って、リッカがこっちに飛ばされた時に使った燼滅魔法ってやつなのか?」
リッカが左右に首を振り
「ターニャがお昼前に放ってたのは宮廷魔術師の上級者が使う火炎爆弾。中級の人達が使う火炎球の上位魔法よ」
「えっ!? あんなスゴイ魔法でも燼滅魔法じゃないのか!?」
「ええ、違うわ。さっき魔法は魔力を込めれば込めるほど出現させたモノは強化されて見た目も大きくなるって言ったじゃない、でも、ある一定の大きさに達すると、いくら魔力を込めても出現させたモノは大きくはならないし強化もされなくなるの」
何でそうなるのか分からないので首を傾げると
「う~ん、そうねえ……。突然だけど、大量の石をすっごく遠くに投げ続けようと思ったら、ある程度は体力と筋力が必要になるわよね?」
「ああ、そうだな」
「でも、更に飛距離を伸ばしてもっと大量に石を投げ続けたいって思ったら、それなりの筋力と体力がないと難しいわよね?」
「ん~、あ~、解ったかも? つまり、いつも魔力って一言で済ませてるけど、実は魔力って言葉の中には筋力や体力みたいな感じの意味も含まれてるってことか?」
「正解! すごく大雑把に説明すると、この角に蓄えて……る……」
話しながら耳の後ろに手を伸ばしたリッカの動きが止まり
「角……、なかった……」
と言い、肩を落としてションボリしてしまった。
ついつい忘れそうになるが、目の前のゴリラって実は魔族なんだよなあ。
本来ならば魔族であるリッカの耳の後ろには、魔力の強さに比例した立派な角が生えているはずなんだが、姿を変えられてしまってるから角は見えないし触れないんだよなあ。
正直な話し、物凄い魔法を放てるリッカにはどんな角が生えているのか興味はあるので
「姿が戻ったら、リッカの自慢の角を見せてくれな」
「もっ、もちろんよ」
と言い、リッカが軽く耳の後ろを撫でると
「えっと、すごく簡単に説明すると、私たち魔族が角に蓄えてる魔力の量が体力。そして魔力操作が筋力って感じね。私たちって種族的に魔法が得意な種族でしょ、だからどの属性でも少し練習すれば初級から中級くらいの魔法なら直ぐに使えるようになるんだけど、上級になるとれなりに魔力量があって、魔法操作も上手く出来る人じゃないと放つことは出来ないの」
「なるほどなあ。じゃあ、燼滅魔法を放つのに必要な事って何になるんだ?」
「人並み以上に筋力や体力があったとしても、遠くに石を投げ続けるにはちゃんとした技術がないと難しいわよね? そうなると、それなりの人からちゃんとした訓練を受ける必要があるわよね?」
「ああ、確かにそうかもしれないなあ」
「それと一緒で最上位の魔法を放つには、本格的な魔法の訓練が必要になるの」
「なるほどあ。最上位なだけあって、そう簡単には放ったりは出来ない魔法なのかあ」
ゴリラが顎を軽く上げると
「ええ、そうなのよ」
と言い、得意げな表情を浮かべた。
そう言えば、『名もなき迷宮』の魔石屋の主人が「わしらの種族でも扱えるヤツはなかなかおらんし、どの属性にせよ極めるとなるとそれなりに才能は必要だし、それこそ血のにじむような努力も必要になる。だから、そこまで真剣に魔法と向き合うよなヤツは学校の先生か宮廷魔術師くらいしかおらんぞ」って言ってたな。などと思い出していると
「ただ、上級魔法を放てるくらい魔力操作が上達してれば、魔法攻撃の手加減も可能になるの。それを上手く利用したのが風属性の風圧を使った移動方法ね」
「あれは見てて羨ましかったなあ。俺も魔法が使えたらウインドバッシュで移動してみたいって思ったぞ」
「ふふふ。今度移動するときは、私がケビンにウインドバッシュを使ってあげるわよ」
「おお! そんな事も出来るのか! そりゃあ、是非ともお願いしたいぞ」
さすがに長距離を走るのはもうコリゴリだったので助かった。と思っていると、遠くの方から
――ししょう~、じゅんびできました~
ターニャが氷柱の前でピョンピョン飛び跳ねながら手を振っていた。
するとリッカが手を振りながら
「いつでも始めて良いわよー」
大きな声で答えると
――は~~い!
「じゃあ、ケビン。危なくなったら助けるから頑張ってね」
「おう! 斬りまくるぜ!」
飛来してくる火球に向かって勢いよく駆け出した。




