第49話 俺とターニャの新たな稽古
暖かい陽の光を浴びながら飲む紅茶は美味いなあ。
一般庶民の家ではまず使う事はないであろう重厚な造りをしたテーブルの上には紅茶が置かれ、上流階級の方々が使用してそうな座り心地の良い立派な椅子に腰掛け俺は、昼食後の優雅なひと時を満喫している。
見渡す限り何もない草原地帯においては、あまりにも場違いな椅子とテーブルなのだが、周りにはだ~れもいないので、特に気にすることなく思いっきりくつろいでいる。
「ぐぬぬぬぬ~」
ターニャが顔を赤くしながらクルミを力いっぱい握っていた。
「ぐぬ~~」
素手で硬いクルミの殻を割ろうと頑張っている。
すると、リッカが飲んでいた紅茶を静かに置き、テーブルの上に積まれたクルミを掴むと
「ふん!」
クルミを握り潰して中の実をターニャに手渡した。
「ありがとうございます!」
テーブルの上に大量に積まれたクルミは、今朝グリーンキャニオンを出発する時に宿屋のジョリーが餞別にくれた物なのだが、量が多すぎだろ……。
まあ、リッカがジョリーの宿屋で売ってる酒を大量に購入したってのもあるんだろうが、ブラットからも大量に野菜を貰ってるんだよなあ。
昼食でかなり食べたが、それでもまだまだ野菜は大量にあるので、しばらく野菜料理が続きそうだ。
リッカがテーブルのクルミをまた掴んで
「ふん!」
握り潰すと
「これから二人にやってもらう稽古の内容を伝えるわね」
「ターニャだけじゃなくて俺も?」
クルミをターニャの皿にのせ
「そう、ターニャの魔法もだけど、ケビンの剣術もよ」
「おー! ケビンも一緒に修行するのか! これあげるから頑張ろうな!」
リッカからもらったクルミを俺に手渡してきた
「おっおう! ありがとな」
すると、リッカがまたクルミを掴んで割ると
「ターニャがどれくらい魔法を使えるのかは確認できたし、ケビンの剣術はもう既に基礎はとっくに習得出来てるから、二人には次の段階に進んでもらう事にしたわ」
昼飯の前にリッカが、宮廷魔術師がやる等級試験と同じやり方で、飛距離、命中精度、破壊力の検証をしたら、ターニャの魔法の習得度合いは上級をやや上回る結果だった。
「おー! またあたしは強くなってしまう! ケビンも一緒に強くなろうな!」
「おっおう! 頑張ろうな」
リッカがクルミをターニャに手渡し
「最近のターニャは魔法を放てば一撃で魔物を倒せるようになってるでしょ。だから、魔法を複数回使用しながらの戦闘ってしてないわよね?」
「はい! してません!」
「それと、ケビンはそれなりに威力のある魔法を多用するような相手との戦闘って、今までに経験がないわよね?」
「あ~、そう言われればないかもな。骸骨迷宮で魔法を使う魔物はいたけど、威力がなかったから多少被弾しても気にしてなかったし、一、二発魔法を回避しちゃえば魔物との距離は詰めれたから、そこからは近接攻撃で倒してたもんな」
リッカが何度か頷くと
「じゃあ、二人にこれからやってもらう稽古について簡単に説明するわね」
「はい!」
「おう!」
リッカがテーブルの上に積まれたクルミを一つ掴むと
「ターニャにはある程度離れた場所まで先行したら、その場で待機してもらいます」
と言い、テーブルの端の方にクルミを置くと、またクルミを一つ掴んで
「次にケビンには走ってターニャがいる場所まで移動してらいます」
掴んだクルミをテーブルの端に置いてたクルミに近づけながら
「ターニャには迫って来るケビンを魔法で攻撃しながら魔力の底上げを、ケビンはターニャの所まで走りながら魔法攻撃を剣術で対処しつつ体力の底上げをしてもらいます」
リッカが説明に使った二つのクルミを片手で握り締めると
「ふん!」
中の実を自分の皿にのせると、目をパチパチさせながら首を傾げているターニャに
「本当はもっと細かい説明をしたいんだけど、その辺りの事はやりながら話していくから心配しなくても大丈夫よ」
「はい! わかりました!」
「了解した! 俺はターニャのとこまで魔法攻撃を躱しつつ走って移動すれば良いんだな。ただ、そうなると魔法攻撃を剣術で対処ってのは?」
リッカが大量に積まれたクルミを四つ掴むと、何言ってるの? って感じの顔をして
「剣でぶった斬るのよ? 魔法を躱してたんじゃ剣術の修行にならないでしょ?」
「確かに剣術の修行はしたいけど、剣で魔法なんて斬れないだろ?」
ゴリラが目をパチパチさせながらクルミを握り締めると
「斬れるわよ。ふん!」
「それは、ゴ……。リッカだから出来るんだろ?」
あぶねえ、思わずゴリラって言いそうになっちまった。リッカがターニャと俺の皿に実をのせながら
「そんな事はないわよ。魔法が斬れないってのはケビンの勝手な思い込み。だって今のケビンなら中級程度の魔法なら斬れるはずだもん」
「う~ん、どうも魔法をぶった斬ってる自分をいまいち想像する事が出来ないんだよなあ。まあ、リッカがそう言うなら出来るんだろうけど……」
「うんうん、後でちゃんと教えるから心配しないで良いわよ」
すると、目をキラキラさせながらターニャがこっちを見て
「魔法をぶった斬るなんてカッコイイな!」
「おっおう! 斬れたらカッコイイよな」
「うん! カッコイイ! だからケビン! 頑張れ!」
そう言ってクルミを俺に手渡してきた。
すると、リッカがポケットから【魔力半減】の宝玉が埋め込まれた指輪を取り出し
「ターニャ、今日からこの指輪を装備してね」
「はい! わかりました! ケビン! どの指にはめれば良いんだ?」
「ん~、俺と同じで右手の中指か薬指で良いんじゃないか?」
「じゃあ、薬指!」
ターニャが早速指輪をはめると、俺に見せつけて
「どう! カッコイイ?」
「おう! カッコイイぞ」
すると、ターニャが指を広げ上下左右に動かしながら指輪を眺め始めた。
「なあ、リッカ。稽古中でもターニャに指輪は装備させとくのか?」
「ええ、さっきターニャの魔法を見て可能な限り素質は伸ばしつつ、並行して精神面もしっかりと成長させようって考えたの」
「なるほどな。まあ、魔法に関してはリッカにお任せだが、精神面に関しては俺も出来る限り手伝いたいって思ってるから、何かあったら言ってくれな」
「うん、ありがと」
すると、リッカがポケットから【体力半減】の宝玉が埋め込まれた鎧を取り出し俺に手渡してきた。
「はいこれ、今日から装備してね」
「えっ!? 俺もマイナス装備にするのか?」
「そうよ、体力の底上げを目的とした修行をするには持って来いの装備なのよ」
「ん~。良く分からんが、こいつを装備したまま稽古をすると体力が底上げされるのか?」
「されるわよ。実際に私も子供の頃にマイナス装備を着て剣術と魔法の稽古をしてからね」
「なるほど、既に実証済みなんだな」
リッカが笑顔で何度も頷く。
しぶしぶ【打撃軽減】と【体力増加】の宝玉が埋め込まれた革鎧を脱ぎ、セバスから貰った【収納】の指輪にしまうと、【体力半減】の宝玉が埋め込まれた鎧に着替える。
う~ん、ちゃんと効果は発動しているんだろうが、今んとこ体力が半減してるって感覚は特にないな。
「にしても、マイナス装備にそんな効果があっただなんて知らなかったぞ?」
「昔の人は強くなるために、あえてマイナス装備を着て魔物と戦ったり色んな稽古をしてたってお爺様が言ってたわ」
「あ~、昨日ローズと話してたずっと家に帰ってこない爺さんか」
リッカが頷き
「うん、多分今もマイナス装備を着て、未踏破の迷宮を探索してるんじゃないかなあ」
「えっ!? リッカの爺さん未踏破の迷宮を探索してるのか! スゲーな!」
すると、リッカが一度大きなため息を吐き
「死ぬまでに四つの未踏破迷宮の迷宮主を全て倒してみせる! って言って出てってから、ずっと帰ってこないのよねえ……」
「なあ、魔族領の迷宮って確か階層数が百以上の迷宮ばかりだったよな? 未踏破の迷宮の階層数ってどんくらいになるんだ?」
「今のとこ確認できてる階層数は四つの迷宮ともそれぞれ百五十階層なんだけど、更に奥深くまで階層は続いてるんじゃないかって言われてるわね」
ん~、今までに何度かリッカってスゲーなっ! て驚かされる事が度々あったが、リッカの爺さんもなかなかだな……
「ちなみに、リッカの爺さんって何歳なんだ?」
「確か今年で百五歳になるんじゃなかったかしら?」
「おーい! 完全に爺さんじゃねえか! 大丈夫なのかそんな高齢な人を迷宮に行かせちゃって?」
リッカが表情をほころばせると
「お爺様は 巨人族と魔族との混血だから、年齢は高いけどビックリするくらい元気な人だから大丈夫なのよ」
確かに巨人族は小人族と同様に、種族的にはエルフ達の次に寿命の長い種族だな。実際小人族のドワーフである親方も結構な爺さんだが元気だったもんな。
すると、しばらく指輪を眺めて静かだったターニャが
「ケビン! その鎧カッコイイな! あたしも着てみたいかも!」
「いや、ターニャにはデカすぎるから着れないぞ」
「そっか~、着てみたかったな~。でもなんか、今まで着てたのよりも硬そうだね?」
「ああ、硬いぞ。こいつは鉄で出来てるから今まで装備してた革の鎧よりは頑丈だな。ただ、その代わり鉄なだけあってちょっと重いぞ」
「ふ~ん。そうなんだあ」
俺とターニャのやり取りを見ながら、リッカが紅茶を飲み干すと
「そろそろ休憩は終わりにして、早速新たな稽古を始めるわよ」
俺が装備した鎧をペタペタと触っていたターニャが
「よしっ! 頑張るぞー!」
勢いよく拳を突き上げた。




