第48話 ターニャの実力
ターニャが両手を高く掲げて
「むん!」
勢いよく振り下ろすと、馬車くらいの大きさのある岩の塊が、結構な速さで飛んでった。
多分、土属性の魔法なんだろうが今まで迷宮内でターニャが使っていた土魔法と比べると明らかにデカイ。
ターニャの放った岩塊が、遠く離れた地面に突き刺さった氷柱にぶち当たると、轟音と共に岩塊が砕け散った。
「よっし! 師匠! 今回もちゃんと当たりました!」
リッカが笑顔で頷きながら
「しっかりと命中させたし、魔力の制御もちゃんと出来てて飛距離も申し分なかったわよ!」
リッカに褒められたターニャが、椅子に座って様子を眺めていた俺に気づくと
「ケビン! 見てたか?」
「おっおう! 多分、土属性の魔法なんだろうが、迷宮内でターニャが使ってたのと比べると明らかにデカイんで驚いたぞ」
「だろ! 本気で魔法を使ったら超デカイのが産まれたんで、あたしだってビックリしたぞ!」
すると、リッカが
「ターニャには中級の岩弾しか教えてないんだけど、魔力を抑えない状態で使用させると、意識せずとも自然と上級の岩石爆弾になっちゃうみたいね」
「すまん、ある程度は察してはいるが、その中級とか上級ってのを教えてくれ」
「あっ、ごめんね。うちの宮廷魔術師が設けている等級なんだけど、初級、中級、上級、特級って感じで、どの程度魔法を習得出来ているのか序列化してるの」
「なるほどな。ちなみにリッカはその等級だとどの辺なんだ?」
「もちろん私は特級よ」
「へ~、やっぱリッカはスゲーんだな」
ゴリラが少し照れ臭そうにモジモジしながら
「うちはお婆様が宮廷魔術師の相談役だし、お母様は宮廷魔術師の代表だから、魔法を習得するのに、とても恵まれた環境だったの」
「ふ~ん。じゃあ、リッカも婆さんやお袋さんみたいに何か肩書がついてるのか?」
「う~ん、特別顧問って肩書きはあるんだけど、実際は宮廷魔術師を目指す生徒達に魔法を教えてるだけなのよねえ。まあ、たまに組織に対して色々と意見は述べたりもするけど、意志決定権は持ってないの。だから、単純にお婆様とお母様がそれなりに地位の高い宮廷魔術師だから、その娘にも一応それなりの肩書きを付けておこうってなったんじゃないのかしら?」
すると、話しを聞いてたターニャが
「師匠ってすっごく偉い人なんですか?」
「ん~、偉くはないかなあ……ただ」
ゴリラが腰に手を当て胸を張ると
「魔法が得意なだけよ!!」
「おお!」
すると、ゴリラが遠くの氷柱を指さし
「ターニャ。次は水属性魔法を放つのよ!」
「はい! わかりました!」
ヘビ娘が氷柱に向かって両手を突き出した。
そっかあ、リッカは学校の先生だったのかあ。だから色々とターニャに教えるのが上手かったんだなあ。
などと納得しながら椅子の背もたれに体を預けると、椅子の脚が地面にめり込み座り心地が悪くなった。
ん~、テーブルに関しては上手い具合にグラつかないように調整出来たんだが、椅子の調整が上手くいかないんだよなあ。
テーブルの時みたいに土を盛って地面を平らに調整したりもしたが、椅子とテーブルの間隔を自分に合った位置に何度か動かしていると、地面が削れて結局グラグラするし、今みたいにしばらく座っていると、椅子の脚が地面にめり込んで傾いちゃうんだよなあ。
どうしたもんかと考えていたら
「ターニャ、次は土壁を何枚破壊できるのか挑戦してもらうからね」
「はい! わかりました!」
どうやら、魔法の飛距離に関しての検証が終わったみたいだ。
にしても、色んな属性魔法を何発もぶっ放すターニャは見ていて、ちょっと格好良いって思っちゃったなあ。
さて、せっかく立派な椅子を譲ってもらったのに、座り心地が悪いのはもったいないよなあ。
背もたれに体を預けて椅子をグラグラさせながら、隣の椅子の脚付近に目をやる。
ん~、土を盛って地面を平らにするんじゃなくて、いっそのこと地面を踏み固めちゃえば椅子の脚がめり込まなくなって座り心地も良くなるんかなあ?
どうでも良い事だが、何気にこの背もたれや脚の部分に薔薇の花の細工がされてるのって所有者がローズだからなの……か?
「って、おおい!」
「おお! スゴーーーイ!」
突然、地面から人の背丈の倍くらいはある、高くて分厚い土壁が何枚も等間隔に出現し始めた。
思わず椅子から立ち上がってリッカに駆け寄る。
「何を始めるんだ?」
「飛距離と命中精度に関しての検証は済ませたから、次は破壊力の検証をするの」
「命中精度? 破壊力?」
リッカが頷き
「ターニャがどの程度魔法を習得出来てるのか、うちの宮廷魔術師がやってる等級試験のやり方で検証してるんだけど、さっきまでやってたのが、飛距離と命中精度に関しての検証なの。ちなみに、ターニャは習得している魔法は中級でも、魔力を解放させたら既に上級魔法が使えるようになってて、飛距離と命中精度に関しても上級だったわ」
「ふっふっふ。あたしは上級だ!」
ターニャが腰に手を当て胸を張る。
「おっおう! 良かったな」
「にひひひひー」
全身をクネクネさせながらニヤニヤしているターニャは放っておいて
「んで、あれは?」
土壁の方を指さすと
「一定の強度で保たれた土壁を何枚破壊したかで等級が決まるんだけど……って、何でケビンは手が汚れてるの?」
「ん? テーブルと椅子を設置してるんだが、グラグラするから土を盛って地面を調整してたんだ」
すると、リッカがテーブルと椅子の方を見て
「ありがと。もう、調整は済んだの?」
「いや、テーブルは良い感じなんだが、椅子の調整が上手くいかなくてな。地面の上だと座ってるうちに、椅子の脚が地面にめり込んじゃって座り心地が良くないんだわ」
「そう、ならテーブルの周りを平らにすれば大丈夫?」
「ああ、迷宮みたいに下が床だったら問題なかったんだけどな」
リッカが椅子とテーブルが置いてる方に手を差し出すと、地面から平らな床がせり出した。
「おお! 土魔法か!」
リッカが頷くと
「ゴメンね。ケビンが準備し始める前に床だけでも先に造っとけば良かったね」
「あはははあ~。久しぶりに土いじりが出来て何気に楽しかったぞ……」
ん~、けっこう頑張ってたんだがやっぱ魔法ってスッゲー便利だなあ。って感じで肩を落としていると
「ちょっと両手を前に出してもらえる?」
「ん? こうか?」
言われた通りに両手をリッカに差し出すと、土で汚れた両手を水球が包み込んだ。
「お! ありがとな」
「どういたしまして」
水球で手を洗ってると
「ケビン! 洗い終わったらあたしが乾かしてあげる」
水球から手を抜いてターニャに向けると、両手を包み込む感じで風が吹き続ける。
「お~! ターニャはこんな事まで出来るようになってたのか」
「ふっふっふ。あたしは上級だからな!」
ターニャが腰に手を当て胸を張る。
「ありがとな」
「むふふふふー」
全身をクネクネさせてニヤニヤしているターニャは放っておいて
「んで、土壁を破壊した枚数で等級が決まるって話しだったが」
「ええ、十枚すべて破壊できれば特級で九~六枚なら上級、五~三枚なら中級、二~一枚だったら初級って感じよ」
「ふ~ん。ちょっとあの壁触ってみても良いか?」
「ええ、良いわよ」
ん~、見晴らしの良い草原地帯に高くて分厚い壁が十枚も並んでいる光景ってのは、ちょっと異様だなあ。
などと、思いながら壁に近づき触れてみる。
リッカが休憩中にいつも出現させていたテーブルとイスと同じで、爪を立てると少し砂が付着した。
軽く壁を指でコツコツと叩いてみるが、かなり硬い。
ん~、はたしてターニャはこの壁を何枚破壊出来るんだ? ちょっと楽しみだな。などと、考えながら二人の所に戻ると
「ターニャ。ケビンが戻ったから、試しにいつも通り魔法を放ってみて」
「はい! 分かりました!」
ターニャが自分の身の丈と同じ大きさの火球を出現させると、即座に壁に向かって火球を放った。
腹に響くような鈍い破壊音と共に壁が三枚破壊されていた。よく見ると四枚目の壁には焦げた跡と複数の亀裂が入っていた。
「師匠! どうでした?」
リッカが笑顔で頷きながら
「いつもの感じで魔法を放って、壁を三枚も壊したんだから上出来よ!」
「ケビン! 見てたか?」
「おっおう! 凄かったぞ!」
「なあ、リッカ。三枚破壊したんだから中級って事なんだろ?」
「そうだけど、今のはターニャにお試しで放ってもらった魔法よ? 本気を出したらターニャはもっと凄いと思うわよ」
と言いながら、リッカが魔法で破壊された壁を新しい壁に交換する。
「ふっふっふ。本当のあたしはスゴイんだぞ」
リッカに褒められ胸を張るターニャは放っておいて
「なあ、あとドンくらいで検証は終わるんだ?」
リッカが一瞬首を傾げると、すぐに目を見開き
「ごめ~ん、お腹すいてるわよね。もう少しで終わるから待ってて。あっ、それともケビンだけ先に済ませちゃう?」
「いや、飯は一緒に食べたいから待ってるよ」
すると、ターニャが腕を組みながら
「ふっふっふ。ケビンはご飯よりもあたしの本気を見ていたいんだな!!」
リッカが眉を上げるとこっちを見て微笑んだ。
「へいへい、俺はここでターニャの本気を見せてもらうから、頑張って壁を破壊しまくってくれよな」
「おう! まかせとけ!」
ターニャがやる気満々の笑顔で答えると、魔法を放つために壁に向かって腕を突き出した。




