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第46話 魔法は相手を傷つけるためだけに使うものではない


 暑くもなく、寒くもなく、たまに吹く風は心地が良い。


 そして、空を見上げれば雲一つない青空が広がっている。


 ……とても良い気分だ。


 昨日までずっと壁と天井に囲まれた迷宮内に籠っていたからだろうなあ。


 視線を澄み渡った青空から、どこまでも続く緑の大地に移す。

 

 視界を遮るものが何もない、この草原地帯の開放感も相まって、気分をさらに良くしてくれてるんだろうなあ。


 少し先では、リッカとターニャが並んで歩きながら、目的地がウエストレイクビレッジからダノハ地方に変更になった経緯を話している。


 昨日ターニャはセバスの用意したベッドで眠っていた。なので、リッカが昨日の話しをかいつまんで聞かせているのだが、ターニャはあまり興味がないみたいで、「へ~」とか「ふ~ん」とか言っている。


 特にターニャから目的地の変更について何か尋ねてきたってわけでもないので「別に経緯なんて話さなくても良いんじゃね?」って思うのだが、リッカなりに何か考えがあっての事なんだろうなあ。


 などと思っていると、急にターニャが振り向き


「ケビン! この花を鑑定して!」


 足元に咲いている白い花を指さした


「そいつは、ウメバチソウだ」


「おー!」


 すると、今度は少し離れた場所に咲いている赤い花を指さし


「じゃあ、これは?」


「それは、アカツメグサだ。近くに咲いてる白いのはシロツメクサだ」


「おー! やっぱケビンの鑑定はすごいんだな!」


 何でターニャが急に鑑定に興味を示したのか分からなかったので、リッカを見ると


「ウエストレイクビレッジで回収した装備品の鑑定の話しをしたら急にね……」


「あ~、なるほど。俺の鑑定能力が役に立ったって話しを聞いて、何でもかんでも俺に鑑定をさせるようになったのか」


「うん、そうみたい。でも驚いたわ、ケビンは花も鑑定できるのね」


「いや、鑑定してるんじゃなくて単純に花の名を知ってただけだ。家の畑仕事を手伝ってる時に、母さんが教えてくれてたからな」


「へ~、そうなんだ。素敵なお母さんなのね。ちょっと会ってみたいかも」


「ん~、機会があったらな。でも、どこにでもいる普通の人だぞ」


「ケビーン! これは?」


 ターニャが真っ直ぐに伸びた茎の上に房状になって咲いている小さな花を指さしていた。


「その黄色いやつはオミナエシだ。近くに咲いてる白いのはオトコエシだ」


「おお! ケビンは何でも鑑定出来てすごいな!」


 すると、ターニャが俺に鑑定させる為の花を探しながらドンドン先に進み始めた。


 俺とリッカもターニャの後について歩きだす。


「なあ、リッカ。あまり詮索して欲しくない類の事だったら話さなくても構わないが、ちょっと聞いても良いか?」


「なあに?」


「昨日のローズとセバスとのやり取りの最中に、セバスがリッカにもつかえてるようにも見えたんだが、あれって何でなんだ?」


「あ~、それはね。単純に私がお爺様の孫娘だからよ。セバスは元々お爺様に仕えてて、戦時中はお爺様と一緒に戦争に参戦してたんだって。だから、昨日の話しでドワーフ国との戦いで魔物を転移させたって話しもしてたでしょ?」


「ん? すまん。たぶんハデス将軍のレア装備とかレジェンド級のレア装備の事を考えてて、その話しは全然聞いてなかったかも……」


 ゴリラが目を細めて物凄く冷めた表情で俺を見ているので、強引に話題を変えてみる。


「でも、なんでセバスはリッカの爺さんに仕えてたのに、ローズに仕えるようになったんだ?」


「お爺様の娘であるカンナ様、あっ、ローズのお母様ね、カンナ様が人族領に嫁いだ時に、お爺様がセバスに人族領でカンナ様に仕えろって言ったんだけど、ローズが産まれてからはカンナ様がセバスにローズに仕えてってお願いして、それからはずっとローズに仕えるようになったの」


「なるほどなあ、それでかあ。ん? じゃあ、リッカとローズは()()()なのか?」


「うん、そうよ。カンナ様は私の叔母(おば)でローズは私の一つ下の従妹(いとこ)よ」


「ローズって人族と鬼族(オーガ)の混血だったよな? リッカの父さんって魔族じゃないのか?」


「私の父は母方が魔族で、カンナ様は母方がオーガだから異母兄妹なのよ」


「異母兄妹って……。何か複雑な家庭環境なんだな」


「そうねえ、家族が多いと色々とあって大変なのよねえ」


 すると、リッカが表情を曇らせ黙ってしまった。


 これ以上は話しを広げない方が良さそうな感じだなあ。


 ――にゃはははは~


 ターニャが遠くの方で飛び跳ねるバッタの群れを楽しそうに追いかけていた。


 どうやら俺に鑑定させる花探しはもう終了したらしい。


 バッタの群れを追いかけているヘビ娘のはるか先には今回の目的地であるダノハ地方の山々が広がっているが、まだ 山の下の方の部分が全く見えてこない。


 ん~、ローズの話しだと急いでる感じではないと言ってはいたが、人を寄越して欲しいって連絡があったんだから、やっぱなるべくなら早めに到着した方が良いと思うんだよなあ。


「なあ、リッカ。カケさんってどんな人なんだ?」


「う~ん、とにかく知識量が物凄くて魔道具が好きな人って感じかな。だからケビンとは話しが合うんじゃないかな?」


「あ~、かもな。魔道具って魔核や宝玉を使うから、そこら辺の話しで盛り上がりそうだな」


 リッカが笑顔でウンウンと頷き


「あと、たぶんヤマさんって人も一緒にいると思うんだけど、ヤマさんは言語学者だからカケさんと同じくらい知識が豊富な人よ」


「ん? すまん、ゲンゴガクシャってのは?」


「う~ん、簡単に言っちゃうと色んな種族の言葉について研究してる人かな。今の私達って日常的に共通語を使って生活してるけど、戦前はそれぞれの種族が違った言語だったでしょ」


「あ~、分かった。その言語か! つまり、ヤマさんは色んな種族の言葉を喋れる人なんだな」


 リッカが笑顔でウンウンと頷き


「でね、今でも殆どの魔獣族が人里から離れた場所で生活してるじゃない、だから共通語が通じない魔獣族も多いの。でね、カケさんも魔獣族の言葉は話せるんだけど、込み入った内容になると上手く話しが伝わりにくい事があるみたいで、そんな時はヤマさんに通訳してもらってるんだって」


「ふ~ん、でもカケさんは何で魔獣族に会いに行ってるんだ?」


「魔道具の開発の為に魔核を譲ってもらってるみたいよ?」


「なるほどな。ところで、カケさんは人を寄越して欲しいって連絡したのに、なかなか人がやって来なくても、怒ったりしない人か?」


「え? どうしたの急に?」


「全然ダノハ地方の山のふもとが見えてこないから、意外と日数が掛かるかもしれないなって思ってな」


「あ~、それなら大丈夫。カケさんって物凄くのんびりしてる人だし、仮に急を要するような事態だったら、ちゃんと日時を指定してくる人だから、気にしなくても大丈夫よ」


「そっか、じゃあ急いで目的地に行かなくても大丈夫なんだな」


「うん、大丈夫よ」


 そんな会話をしつつ、しばらく俺たちはこのだだっ広いのどかな草原地帯を歩き続けていたのだが、ターニャが虫を追い掛けるのに飽きたのか、誰が一番足が速いのか競争したいと言い始めた。


 すると、リッカが


「ねえ、ターニャ。競争ではなく、迷宮内だと狭くてあまり練習できなかった魔法を練習しましょ」


 何で? って感じでターニャが首を傾げると、リッカが足を動かさず立ったままの状態で真横に素早く移動した。


 ターニャが目をキラキラさせて


「おー! ビュンビュンするやつですね!」


 リッカが腰に手を当て足を使わず前後左右に移動しながら


「そう、ビュンビュンよ!」


 ゴリラとヘビ娘が盛り上がっているが、そんな名前の魔法なんてあったっけか? 


「競争の前にちゃんと出来るようになればターニャが一番になれるかもしれないわよ」


「おーしっ! ケビンに勝つ!」


 そう言うと、ターニャがまるで何かに背中を押されたかのように、体を反らしながらいきなり前方に移動した。


「ケビンに勝つ! ケビンにかーつ! ケビンにかーーつ!」


 何度も叫びながら体を反らしては元に戻し、反らしては元に戻しを繰り返しながらドンドン移動して行く。


 変な動きで遠ざかるヘビ娘に向かってゴリラが大声で


「何度も繰り返していくうちに魔力操作も慣れて来るから、頑張るのよー!」


「はーい! ケビンに勝つ! ケビンにかーつ! ケビンにかーーつ!」


 俺の名を叫びながら何度も体をガックンガックンさせて移動し続けるヘビ娘。


「なあ、あれって何の魔法なんだ?」


「風属性の風圧(ウインドバッシュ)よ」


「ん? それって盾で相手をぶん殴って動きを止めたり、相手との距離を稼ぐために盾で押し倒す時にやるシールドバッシュの魔法版みたいなもんだよな?」


「そうよ、他にも普通に風の盾として、自分の周りに展開させて魔法攻撃や直接攻撃を防ぐのに使ったりもするわね」


「そんな魔法をターニャは自分に放ってるのか?」


 遠くの方ではヘビ娘が相変わらず奇妙な動きをさせながら、今度は前後左右に行ったり来たりを繰り返していた。


「ほら、昨日セバスが物凄く早い動きをしてたじゃない。あれもウインドバッシュを使ってるのよ」


「へ~、傷を癒す魔法は別として、魔法って相手に放つだけのもんかと思ってたから意外だな」


「う~ん、確かにうちの方でも基本的には相手を倒すための魔法を宮廷魔術師達が研究してるんだけど、カケさん達みたいなエルフ族から言わせると、魔法は相手を傷つけるためだけに使うのではなく、色んな使い方が出来るんだからもっと日常生活に取り入れて活かすべきだよって教えてくれたのよね」


「ん? カケさんってエルフだったのか?」


「あっ! ごめん、言ってなかったっけ。でね、カケさんと出会ってからは今まで覚えた魔法を上手く日常生活でも活かせるようにって考えるようになったの。ほら、休憩時に土魔法でテーブルとか椅子を作ったりしてたでしょ、あれもカケさんの影響よ」


 確かに初めてリッカの土魔法を見た時は、魔法ってそんな使い方もするのかって思ったもんな。


「なるほどなあ。でも、なんでセバスはウインドバッシュを日常生活に取り込めてたんだ?」


「セバスはお母様がエルフだから魔法を戦闘以外で活かせる事を知ってたのよ。そもそも寿命が五百年近くあるエルフからしたら私たちが研究してる今の魔法って、ものすごく程度の低い魔法なの。言い方を変えるとエルフの使う魔法は私たちのはるか先を行く高度な魔法って事ね」


「だったら、そのエルフの高度な魔法ってのを伝授してもらば良いんじゃないのか?」


「そうね、誰もがそう考えるけど。私たち一人一人の知識と経験が寿命が五百年近くあるエルフ達には到底及ばないの。だから、エルフ達が懇切丁寧に私たちに説明してくれたとしても、私たちの知識だったり経験とかが不足し過ぎててエルフ達が伝えようとしている内容を全く理解出来ないのよ」


「あ~、それ何となくわかるぞ。俺が親方の店を手伝い始めた子供の頃って装備品について説明されてもチンプンカンプンだったけど、歳を重ねてある程度装備品の知識が増えだしてからは、親方の言いたいことが解るようになったもんなあ」


 リッカが笑顔で頷き


「そうね、ある程度の知識を持った相手じゃないと話しって通じないからね。だからかもしれないけど、種族的にエルフの次に長命なドワーフ達とは結構ケンカしてるみたいだけど、意外と仲が良かったりするのよね」


「あ~、ドワーフは装備品でエルフは魔道具を扱うからじゃないか? どちらも宝玉と魔核を使って加工するからな。そこら辺の知識と経験が共通してるから話しも通じやすいのかもしれないな」


 リッカが頷きターニャのいる方を見ると


「話してる間にだいぶ離れちゃったけど、だいぶ魔力操作が出来るようになってきてるわね」


 かなり遠くの方でターニャが右へ左へ移動しているが、さっきよりも体がのけ反ったりはせずに移動していた。


「毎回ターニャの素質の高さには驚かされるわ」


「そんなに凄い事なのか?」


「前にもチラッと話したけど、ターニャの父親が魔法の扱いが得意な魔族だからってのも影響してかもしれないけど、同年代の魔族でもこんなに短時間であそこまで上手に魔力操作が出来るようにはならないものなのよ」


「へ~。じゃあ、あれか? ターニャが王家とゆかりのあるラミアだからか?」


「う~ん、どうかしら? 私の聞いた話しだと人族の初代国王の傍にいたラミアは、とにかく魅了と気配遮断が凄かったって聞いてたけど、魔法操作に関して特に凄かったって話しは聞いてないわね」


「そっかあ。じゃあ、ターニャはスゲー魔法の素質に恵まれたラミアって事で、素直に喜んでおけば良いんじゃね?」


「そうね、確かに喜ばしい事なんだけど……。恵まれた素質のせいで他人を見下すような事がないように、私達が意識して良い方向へ導いてあげないといけないわね」


「だなあ、これからもターニャには色んなことを学んでもらって、早いとこ精神的にも大人になってもらわないとだな。やっぱ、人を平気で傷つけてしまうような大人にはなって欲しくないもんなあ」


 歩きながらそんな話しをしていると、風に乗って


「ケビンにかーーつ!」


 ターニャの声が聞こえてきた。


 隣で微笑んでるリッカに


「まあ、上手く俺を使ってターニャを導いてやってくれ」


「ありがと。これからもよろしくね」


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