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第45話 ダノハ地方ではなくビエナ地方


 拝啓 


 父さん 母さん 元気にしてますか。 


 ケビンは元気に頑張ってます。


 あれからまた状況が変わったのでその報告です。


 ゴリラからの依頼で魔族領の家まで送り届けることになってますが、まだ人族領内にいます。


 なんやかんやで、グリーンキャニオンには二週間ほど滞在してましたが、次はダノハ地方に行くことになりました。


 また近い内に連絡します。


~追伸~


 グリーンキャニオンで身寄りのない女の子と出会い、魔族領まで一緒に行くことにもなりました。


 もしかしたら、母さんは何か変な期待をしているかも知れませんが、依頼主の女性は相変わらずゴリラですし、身寄りのない女の子は半人半蛇のラミアです。



§ § §



 見渡す限り緑の大地が続く草原地帯のその先には、高さの異なる険しい山々が幾つも連なった山岳地帯が広がっている。


 前方にそびえる山岳地帯が今回の目的地であるダノハ地方なのだが……。


 う~ん、やっぱ向こうまではかなり距離があると思うんだよなあ。


 本当に徒歩で行くのか? 



 昨日ローズとの話しの流れで、急遽ダノハ地方に行くことが決まった俺たちだったが、ダノハ地方には移動に便利な転移装置が存在していなかった。


 なので、ダノハ地方からだいぶ南下したとこにあるビエナ地方の転移装置を使い、そこからダノハ地方を目指すことにした俺たちは、早速グリーンキャニオンからビエナの街まで転移してきたのだが……。


 困った事にビエナの街からダノハに向かうための移動手段が存在していなかった。


 何故ならダノハ地方には村や街は存在せず、ただただ山深いだけの地域なので、そんな辺鄙な場所へ向かうような人はいないからだ。


 そこで、街の人に話しを聞いたところ、馬や走竜、あるいはケンタウロスといった輸送手段を使いたいなら、ここから更に他の街まで行く必要があり、しかも業者の都合によってはその日のうちに出発が出来るかどうかは分からないとの事だった。


 俺としては仮に出発が二、三日遅れたとしても一向に構わないのだが、問題は業者にいつ迎えに来てもらうのかを現時点では決められないってのが悩ましい。


 ん~、とりあえず行きだけでも業者に頼むべきなのか? などと考えていると


「ねえ、ケビン。せっかくだから歩いてダノハ地方に行ってみない?」


 ゴリラが笑顔でそんな事を言ってきた


「えっ!? ここからあの山岳地帯まで徒歩で行くつもりなのか?」


「今日みたいな天気の良い日に外を歩くのって気持ちいいんじゃない?」


 澄み渡る青空を見上げ


「確かに天気は良いが……。徒歩かあ……」


 すると、ゴリラの隣にいたヘビ娘が


「おっ! 出発するのか? だったら、みんなで競争しよう!」


 と言い、俺とリッカの周りをグルグルと走り始めた。


 今にも出発してしまいそうなヘビ娘に


「いや、出発はするが駆けっこはしないぞ……」


「むむむ~、せっかく外にいるのに遊ばないなんて勿体ない!」


 あれか、いつも迷宮でやってた誰が一番足が速いのかってやつをやりたいんだな。


 迷宮内の通路が短かったってのもあるが、毎回あっという間に勝敗が決まってたもんなあ。


「わかった、わかった。じゃあ、今回はいつもより長い距離でやってみような」


 すると、ヘビ娘がピタッと走り回るのを止め


「遂にあたしが一番になる日がやってきたぞ! ふっふっふ~」


 腰に手を当て胸を張り、ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべるヘビ娘は一旦放置し、高さの異なる険しい山々が幾つも連なった山岳地帯に目を移す。


 前方にそびえる山岳地帯が今回の目的地であるダノハ地方なのだが……。


 う~ん、やっぱ向こうまではかなり距離があると思うんだよなあ。


 本当に徒歩で行くのか? 


 せめて行きだけでも業者に頼むべきなんじゃないのか? などと考えていると、リッカが小声で


「屋外でターニャに魔法を使わせたいの」


「ん? 外で魔法の指導がしたいのか?」


「うん、迷宮内って狭いじゃない、だから今までターニャには魔力を抑えて使わせてたんだけど、屋外なら全力で魔力を解放させても大丈夫でしょ」


「えっ!? けっこうな威力の魔法を使ってたけど、あれってターニャの本気じゃなかったのか??」


 思わずターニャを見てしまう。


 駆けっこの練習をしているのか、右へ左へ行ったり来たりしていた。


「狭い場所だと危ないでしょ」


「あ~、確かにな。でも、何か意外だな」


 ゴリラが首を傾げたので


「ほら、ターニャってガンガン魔法をぶっ放しそうじゃんか。なのに、ちゃんと威力を落として使ってたってのが、ちょっと意外でな」


 すると、ゴリラが少し顎を上げて得意げな表情を浮かべると


「まあ、私が指導してるからね」


 と言い、表情をすぐに戻し


「でね、これからの指導方針も考えたいから、今のターニャがどの程度まで魔法が使えるのかを検証しときたいの」


「へ~、ちゃんと弟子の事を考えてたんだな」


 すると、ゴリラが鼻息を荒くして


「師匠なんだから当たり前でしょ!」


 と言い、草原地帯の方を見ながら


「でね、街から離れてしまえば人はいないし、大きな音を立てても街には届かないでしょ」


 リッカと同じように草原地帯に目をやり


「なるほどなあ……」


「だから魔法の検証もそうだけど、指導するにも都合が良いの」


 ん~、確かに広い場所じゃないと魔法の検証は難しいかもなあ。


 草原地帯の先にそびえる山々に目を移し


「徒歩かあ……」


「ダメかしら」


 ゴリラが少し不安げな表情を浮かべて俺を見ている。


 ん~、確かにリッカの言う通り、誰もいない草原地帯での魔法の検証と指導は色々と都合が良いんだよなあ。


 そもそも、リッカの見た目に問題があるからなあ。


 魔法が不得意なはずの獣人族が派手に魔法を使ってたら絶対に怪しまれる。


 だから、今までずっと目立たないように迷宮内で魔法の指導はしてんだよなあ。


 ん~、やっぱこれからもなるべく目立たないようにはしたいからなあ。


 遠くにそびえる山岳地帯を見ながら


 う~ん、向こうまではかなり距離がありそうだけど……


 不安げな表情を浮かべてこっちを見ているゴリラに


「俺としてはあまり気乗りはしないが、ここはターニャのためにやっぱ歩きで行くとしよう」


 リッカが表情をパッと明るくすると


「ターニャ! 出発するわよ!」


 ゴリラが急に走り出した。


「おー! 出発だー!」


 すると、ヘビ娘も少し遅れて走りだす。


 ふっ、元気が良いなあ。


 ゴリラとヘビ娘の後ろ姿を見ながら歩き始めると、ヘビ娘が走りながら


「ケビンに勝つ!」


 何やら叫んでいた。


 先は長いんだから歩いて行けば良いに、走るだなんてホント元気だなあ。


 などと、思っているとゴリラがチラッと振り向き


「ケビンはまだ歩いてるわよ!」


「よっし! ケビンに勝~つ!」


 走り続ける二人を目で追っていると


「うふふふふ~ 今日も私が一番よ~!」


「ふむ~~、ししょう~、早いです~」


 ……ん? あれ? 


 ……これって?


 もしかして、もう始まってるのか!?


「ずるいぞ!! 競争するなら始める前に言ってくれっ!!」


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