第44話 新たなる目的地
今現在、カトゥン国はドワーフ国からの装備品の供給が止まっているので、自国の戦力強化が出来ないんだそうだ。
なので、その辺りの事情をローズに聞いてみたところ。
近年、ドワーフ国では魔物が大量発生していて、兵士だけでは対応しきれず国民総出で魔物の討伐を行っているんだそうだ。
なんでも、四、五年くらい前に生息地の異なる魔物が大量に発生したので、国は村や街を守るため兵士を派遣して討伐に当たらせたが、魔物が思っていた以上に強かったのでなかなか魔物を一掃する事が出来ず苦戦していると、その間に国内各地に存在する閉鎖中あるいは稼働中の鉱山に魔物が住みつき始めてしまった。
そこで、ドワーフ国は村や街を襲撃してくる魔物と鉱山に住み着いた魔物の討伐を行うべく、国内兵力の半数以上を動員して魔物討伐に向かわせるが、思っていた以上に魔物が強かった事と狭い鉱山内での魔物との戦いに苦戦を強いられる事となった。
すると、国内に現れた強い魔物の討伐に苦戦している間に、今度は迷宮内の魔物の間引きが間に合わなかったために、各地の迷宮から魔物が溢れ出してしまった。
国内の兵力だけでは魔物の対応が出来なくなって、どうしようもなくなったドワーフ国は、やむなく国民総出で魔物討伐を行うことになってしまった。
そういった事情から、現在ドワーフ国では兵士だけではなく鍛冶職人達も魔物討伐に駆り出されてしまっているので、装備品の製造が止まってしまってるんだそうだ。
「まさかドワーフ国がそんなことになってたなんて知らなかったな。その話しって一般的は広く知られてることなのか?」
ローズが紅茶を一口飲んで軽く左右に首を振ると
「昔みたいにドワーフ達が営む店が沢山あった頃なら話しは広がってたんだろけど、今って領内に住むドワーフってほとんどいないからね。でも、探索者や武器屋を営む人達ならドワーフ国の鍛冶屋とのやり取りはあるだろうから、それなりに状況は知ってたんじゃないかしら?」
確かに、今は昔と違って装備品を求める人の数は物凄く減っている。なので、人族領で武器屋を営んでいたドワーフ達は故郷に帰って腕を振ったり、装備品の需要が多い魔族領に移り住んでるって親方が言ってたな。
「ん? 俺はドワーフが営む武器屋で働いてたが、ドワーフ国のそんな話しは聞いた事がなかったぞ?」
「ケビンが住んでたとこって迷宮が存在してない地域だからお客さんってほとんど来なかったんじゃない?」
「そうだな、装備品を買いに来る客は滅多に現れなかったな。その代わり客のほとんどが農工具の手入れか、包丁や鋏といった刃物の研磨依頼だったな」
「たぶんだけど、ちゃんとした武器や防具が欲しい人って国内で装備品を購入しないで魔族領に行くかドワーフ国に行くんじゃない?」
「あ~、そう言われてみると、確かにそうかもしれないな」
「でしょ。あと、何でケビンの店のドワーフが自国の事を話さなかったってのは、さすがに分からないわね」
「まあ、そうだよな。でも、たぶん親方は単純に故郷の事は何も知らなかったのかもしれないなあ。それなりに付き合いは長かったが、親方が家族とやり取りしてるのって見たことなかったからなあ」
はたして親方は無事なのだろうか? ちょっと気になるが、何となくあの人なら大丈夫な気がする。などと思っているとリッカが
「こっちに飛ばされる前に聞いた話しだと、最近になって消息不明だったドワーフ王のお兄様が戻って来たって言ってたわよ。しかも、その方が軍を率いているみたいで、以前よりもだいぶ事態は好転してるとも言ってたわね」
「え!? ゼース王にお兄様っていらっしゃったの?」
ローズが驚きながらセバスを見ると
「はい、ゼース王の双子の兄で名はハデスです。大戦後に消息をお絶ちになられてからは、どこで何をしてらっしゃったのかは存じませんが、どうやらお戻りになられたようですね」
「へ~、そうだったんだあ。ところで、ハデス様ってどんな方なの?」
「大陸屈指の鍛冶職人でいらっしゃいます」
ローズが少し眉間に皺をよせ小首を傾けながら
「えっと、つまり物凄い鍛冶職人ってこと?」
「はい。ずっと鍛冶をして過ごしたいから難しいことは弟に任せると言って、ゼース様に王権を押し付けて、ご自分は鍛冶三昧だったそうです。ちなみに、大戦中は将軍としてドワーフ国の軍を統率されておりました」
するとリッカが目をキラキラさせながら
「セバスはハデス将軍と戦ったことあるの?」
「ええ、何度か戦場で相まみえております。ハデス様は鍛冶がお好きと言うこともあり宝玉や魔核への造詣が大変深く、ご自分で作製したレア装備やレジェンド級のレア装備を巧みに使用し戦場を駆け巡っておりました。さらに、ご自分だけではなく部下達にも複数のレア装備を所持させておりましたので、こちらとしては非常に戦いずらい相手でした」
「え? 魔法でガンガン攻めれば良かったんじゃないの?」
「宝玉や魔核の効果で魔法の発動を阻害されたり、放った魔法を防がれたり相殺させられたりと、なかなかこちらの思い通りに魔法攻撃をさせてもらえませんでした」
「あ~、確かに魔法が使えないと私たちからしたら、かなりキツイ戦いになるわね」
「ええ、なので当時は転移させた魔物達を前線に送り込んでおりましたが、こちらはハデス将軍の霊獣ケルベロスによって一網打尽にされる事が多く、我々はドワーフ国に大変苦戦しておりました」
「そっかあ。でも、セバスが戦いずらいって思えるほどのハデス将軍が戻って来たのなら、ドワーフ国の魔物騒動が収まるのは早そうね」
「はい、私もそう思います。ドワーフ国にはハデス様と戦場を共にした方達が沢山いらっしゃいますので、魔物の一掃にはあまり時間は掛からないかと思われます」
う~ん、ドワーフ国王の兄ちゃんだから会うことはないだろうけど、ハデス将軍のレア装備とかって見てみたいなあ、レジェンド級のレア装備も持ってるみたいだしなあ。
にしても、セバスは大戦経験者だったのか。
見た目は俺と同じくらいの年齢に見えるがオーガとエルフの混血だもんなあ。まあ、俺よりも歳は上だろうとは思ってたけど、大戦経験者って事は余裕で八十は越えてるんだろうなあ。
などと、セバスの年齢を想像していたら、ローズが何か思い出したのか一瞬目を見開き
「そうだ! ねえ、リッカ。カケさんが人手が足りないからダノハ地方に何人か手の空いている人を寄越してくれないか? って連絡があったんだけど、カケさんの手伝いに行ってみない?」
リッカが目をパチパチさせると
「あの人なんでも一人で解決しちゃうのに、人の手を借りるのって珍しくない?」
と言いながら、ポケットから大陸全土が記載された地図を取り出すと
「ダノハ地方ってどの辺りなの?」
ローズがリッカの広げた地図を見ると、人族領とドワーフ国をさえぎる山岳地帯を指で丸く囲い
「この辺なんだけど、もしかしたら山を越えてドワーフ国の魔物が移動してるかなにかで対応しきれないんじゃないのかな?」
「えっ? ローズはカケさんがダノハ地方で何をしてるのか知らないの?」
「うん。たぶん、魔獣族がらみの何かだと思うんだけど……。詳しくは知らないのよねえ。ただ、急いでる感じでもなかったのよねえ」
ローズが頭をポリポリかきながら申し訳なさそうな表情を浮かべると、すぐに表情を戻し
「でも、もし人が足りない理由が魔物の討伐だったらリッカの得意分野じゃない。それに他の人にお願いするよりもリッカに行ってもらった方がカケさんも安心すると思うのよね」
「う~ん、確かに魔物退治は得意だけど……」
「あっ! でも、あれよ。魔物の討伐に関しては私の勝手な憶測だから何でカケさんが人を寄越して欲しいのかは、実際にダノハ地方に行ってみないと分からないわよ」
「う~ん……」
リッカが顎に手を当て何か考え始めた。
ん~、今までダノハ地方って名を聞いた事がなかったし、あの辺りがダノハ地方だってことも初めて知ったなあ。
リッカの地図を見る限りダノハ地方には迷宮が存在してないから大きな村や街もなさそうだなあ。
地図にはダノハ地方からだいぶ南下したビエナ地方って場所に転移装置があるので、もしかしたらそこら辺一帯の山々には小さな村すら存在してないのかもしれないな。
それに、さっきローズが魔獣族がらみの何かって言ってたから、そう考えると何もないダノハ地方は魔獣族からしたら、かなり暮らしやすい場所なのかもしれないな。
リッカが顎から手を離してこっちを見ると
「ねえ、ケビン。ダノハ地方に行ってみたいんだけど良いかな?」
リッカは時間を掛けて何か物凄く考えていた様子だったが、俺は特に断る理由がないので即答する。
「ああ、構わないぞ」
「えっ!? 行っても良いの!」
「ああ、問題ないぞ。リッカは見聞を広めるためにも色んな場所に行っとくべきだし、メイドが家の事は心配しなくて良いって言ってるんだろ? それに、ターニャにも色んな場所を見せてやりたいからな」
「うん、そうだね。ありがと」
嬉しそうに顔をほころばせたリッカがにっこりと笑った。
目の前に座っているのが普通の女性だったら、今の笑顔はとても素敵で魅力的な表情に思えたんだろうが、目の前に座っているのはただのゴリラなんだよなあ。
などと、思っていたら突然大きな声で
「おー! ここどこ!! ケビーン! ケビーン!」
ターニャが俺の名を叫び始めた。
あれか、昼寝して起きたらいつもと違う場所だから焦って混乱してるのか?
「ここは迷宮主の部屋で、ターニャは昼寝してたんだろ」
ベッドから勢いよく起き上がり俺たちを確認すると
「おー! ケビンと師匠! それとローズさんとセバスさん。おはようございます!」
寝起きから元気の良いターニャの姿を見て皆が微笑む。
「なあ、ターニャ。明日はダノハ地方ってとこに行くことが決まったぞ」
目をパチパチさせて首を傾げると
「知らない場所だなあ~、でも!」
ターニャがベッドから飛び降りると
「あたしはケビンと師匠が行くならどこでも行くぞ!!」
腰に手を当て満面の笑みを浮かべるターニャだった。




