第43話 由緒正しきラミア
この国が出来たころの話しかあ。
ん~、いつだか親方からそんな話しを聞いたことがあったような……。
あっ! 思い出した! 店の倉庫に眠ってた装備品を一緒に見ていた時に「こいつはこの国が出来たころに造られた剣でな――」って言って何か話してたな!
「えっと、俺が聞いた話しだと、ここ人族領のカトゥン国は今から四百年前に出来た国で、建国前の人族領は大小様々な国が存在していて、常にどこかしらの国と国とが戦争をしてたから、かなり乱れた世の中になってたらしいな。だけど、初代の国王が数人の仲間と共に全ての国を統治した事で平和な世の中になったって聞いたな。それと、王と共に建国当時に活躍した仲間たちは石像となって王都の中央広場に建てられてるって聞いてたから、職探しで王都に行った時に見に行ったな」
ローズが何度か頷き
「そう、わかったわ、ありがと。世間一般に伝わってる建国の話しはそんな感じよね。じゃあ、王家とゆかりのあるラミアの話しについてなんだけど――」
今から約四百年前、後の初代国王となるワナガカ・カトゥンは強くて凶暴な魔物を倒し名声を得る旅をしていた。
そんな旅の途中で、山奥に生息している強いラミアの存在を知ったワナガカは、己の力量を試すべく早速そのラミアに挑むことにした。
長い尻尾を鞭のように使い、口からは燃え盛る炎と凍てつく吹雪を吐くラミアとの戦いは熾烈を極め、ラミアが潜んでいた山の地形が変わるほどの戦いだったらしい。
その戦いの中で、ラミアがただの鳴き声ではなく何か言語のような物を発している事に気づいたワナガカは、激しい攻防を繰り返しながらもラミアの謎の鳴き声に耳を傾けながら戦い続ける。
そして、やはりラミアが何やら言葉を発しているように感じたワナガカは、戦いを止め剣を収めた。
すると、ラミアも戦いを止めてワナガカの様子を窺い始めた。
しばらく二人がその場から動かずに互いの様子を窺っていると、急にラミアが身振り手振りで何かを訴えかけてきた。
一生懸命体を使って意思の疎通を図るラミアの姿に驚かされたワナガカは、勝手に魔物だと思って戦いを挑んでしまった事に対して申し訳ない気持ちになり、何とかして許しを請う事は出来ないかと考え、彼女の傷が癒えるまでの間は傍にいる事にした。
そして、言葉は分からずとも意思の疎通がだいぶ出来るようになる頃には、ラミアの傷は癒え、一方的に戦いを挑んでしまった事に対しての許しも請う事ができたので、ワナガカは新たな旅に出発することにした。
すると、ワナガカに興味を持ったラミアが一緒に旅をしたいと言い、ワナガカに同行することとなった。
ワナガカとラミアの二人は人族領内の凶暴な魔物に挑みながら、道中訪れた村や町の住人を困らせていた魔物なども倒しつつ旅をしていたが、住人たちは魔物の被害と同じくらい同族による侵略行為や覇権争いに頭を悩ませていた。
その頃から、己の強さを世に知らしめ名が知れ渡ればそれだけで良い、と思っていたワナガカの心に変化が現れ、国同士の戦いや侵略行為などで辛い思いをしている人々をどうにか出来ないもんかと考えるようになっていた。
各地で凶暴な魔物を倒しつつ同族による侵略行為も阻止しながら旅を続けているうちに、ワナガカの名が世に広がり始め、ワナガカを慕って方々からワナガカと共に凶暴な魔物に挑んでみたい、ワナガカと共に魔物の被害で困っている人々を助けたい、ワナガカと共に侵略行為に苦しむ人々を助けたいと言った者達が集まるようになっていた。
そして、仲間と共に各地を渡り歩いてくうちに、ワナガカは領内にある大小様々な国を統一し戦乱を治めてしまえば、戦いはなくなり皆が穏やかな生活を送ることが出来るのでは? と考え、自分のもとに集まって来た仲間達と共に統一国家の樹立を目指す事にした。
このワナガカの国づくりの時に人知れずひっそりと裏で活躍してたのが、壮絶な戦いを繰り広げた後に、ずっと旅を共にしていたラミアだった。
ラミアは自身の特性を活かし、諜報活動や汚れ仕事を秘密裏に行うことでワナガカ達の勢力拡大に大いに貢献することとなった。
そんなラミアの働きによって、ワナガカ達は瞬く間に領内に存在する大小様々な国を統治しだし、わずか七年たらずで人族領で初となる統一国家カトゥン国を樹立し、四百年の長きにわたり今もなお繁栄し続けている。
「ただ、当時はまだラミアが魔物扱いされてたってことと、ラミアが建国の為に世間一般の人達が嫌がるような仕事を行っていたとは皆に伝えることが出来なかったから、いまだにラミアのことは国民に伏せたままなのよね。だけど、この国では建国当初から何代にも渡ってラミアには陰で支えてもらっているの」
「なるほどな。だから、王都の石像にラミアはいなかったのか」
「そんなことはないわよ。スカートの裾が長い女性の像があったでしょ、あれがラミアよ」
そう言われてみれば、そんな石像もあったような気がするがしっかりと覚えてないな……。まあ、今はそんな事はどうでも良くて
「つまり、その建国時のラミアの末裔達に領内に点在する転移魔法陣の監視を協力してもらってたって事なのか?」
「そうよ。だから、ターニャは由緒あるラミアの末裔だから、くれぐれも粗相のないようにしなさいよ」
ん~、急にそんな事を言われても、ターニャはターニャだしなあ。などと思っていると
「なに真剣な顔してるのよ。冗談よ、じょ~だん。今まで通りこれからもターニャをよろしくね」
と言い、紅茶を飲み始めた。
ん~、困ったぞ。ターニャにそのことを話したら絶対に調子に乗りそうなんだよなあ。こりゃあ、後でリッカと要相談だな。
あっ! 要相談で思い出した!
「なあ、リッカ。ローズがウエストレイクビレッジの調査を既に済ませてるんだから、そろそろ家に帰るのか?」
リッカが顎に手を当てながら
「う~ん、パラスが家のことは心配しなくて良いって言ってくれてるから、まだ帰らなくても良いかなって思ってるんだけど、次の予定をどうしようかしら……」
最近はそれなりに剣術の技術が上達してきてるからなのか、魔物との戦闘が楽しくなってるんだよなあ。それに、自信を持って自分の身の回りの人達を守れるくらいの力は蓄えておきたいと思ってるので、出来る事ならリッカの剣術指導はまだ受け続けたいんだが、やることがないからリッカは家に帰るのかな? などと思っていると、紅茶を飲んでたローズが静かにカップを置き
「帰る前にうちにあるレア装備でその姿を元に戻しとく?」
「う~ん、見た目はこのままの方が身元を隠せるから色々と便利かなって思ってるのよね~。そうだ! ローズの抱えてる案件で私たちが手伝えそうな物って何かある?」
ふむ、どうやらリッカは家に帰るつもりはないみたいだ。なら、次の目的地が決まるまで紅茶でも飲みながら静観しとくか……。
「そ~ね~。とりあえず、明日行こうとしてる迷宮は獣人領に近い場所だから、予定通り私とセバスで行ってくるわ」
「獣人領かあ。確かにこの姿のままだと色々と問題が発生しそうだもんね……。ちなみに、まだ緊張状態は続いてるの?」
ローズが表情を曇らせ
「続いてるわ。ただ、兵士達はもし開戦してしまったらお互いに辛い思いをするって分かってるから、国境付近で動かずに睨み合ってるだけなんだけど、問題は住民の間で敵対心をあおってる連中がいるのよね」
リッカも表情を曇らせ
「つまり、住民達が先に衝突してしまったら兵士達が動かなくても、それを皮切りに戦争にまで発展しそうな感じってこと? だとしたら、以前よりもかなり緊迫してるんじゃない?」
「ええ、いつ戦争が起きてもおかしくない状態よ」
大人しく紅茶を飲んでいたが、かなり気になるので
「すまん。今って人族と獣人族で戦争が始まりそうなのか?」
すると、ローズが
「そんな事にはならないように色々とやってはいるんだけど、獣人国は領土拡大を目論んでるから、人族領への侵略行為を止めるつもりはないのよね」
「ん? そもそも、何で獣人国は人族領を侵略しようだなんて考えたんだ?」
「四、五年くらい前に獣人国で『人口増加に伴う居住区域拡張の為の領土拡大計画』が決まったからよ。要は、人が増えすぎて住む場所がなくて困ってるから領土を広げましょうってことね」
住む場所がないってのは、村の獣人族から聞いたことがあったな。
戦後急速に普及し始めた魔道具のお陰で、生活の質が良くなった獣人国では乳幼児の死亡数が激減した。その事に関してはとても良い事なのだが、一回の出産で三~四人の子供を産む獣人族の人口はどんどん増え続け、国内に設けている居住区域の許容範囲をあっという間に超えてしまった。
そこで、獣人国は森や林を切り拓いて住む場所をどんどん広げていたのだが、それでも住む場所の確保が間に合わず、国から溢れた獣人族が他種族の領内で暮らすようになった。って言ってたな。
「でも、だからってなんで人族領を侵略する?」
「戦力的に劣る人族領なら攻めやすいと考えたそうよ」
ちょっと話しが見えないので首を傾げると、リッカが
「獣人族って迷宮探索者が多いし、有事の際は戦争に参加しなければならないって決まりがあるの」
「なるほどなあ。種族的にみても獣人族は人族より身体能力は高いし人口も多い。この時点ですでに人族は劣勢だ。なのに、迷宮探索で鍛えられた獣人達が戦争に参加するんだから、そりゃあ人族領が狙われるわな」
「でもね、問題はそれだけじゃないの。魔族領の迷宮を探索している獣人族が一斉に戦争に参加してしまったら、迷宮の魔物は溢れてしまうし魔石の供給も滞ってしまって魔族領だけではなく、大陸全土にまで混乱が生じてしまうのよ」
「えっ? そんな大事になるほど獣人族の探索者って沢山いるのか?」
「魔族領にいる迷宮探索者のほとんどが獣人族よ」
「そんなに多いのか!」
リッカが一度頷き
「自国で住む場所を確保出来なかった多くの獣人族が魔族領に移住すると、生活の為の手段としてみんな探索者を選ぶのよ」
すると、ローズが
「それだけの人数の探索者がもし戦争に参加したら、彼らが所有する装備品も直接戦力に影響するでしょ。だから、私たち人族の戦力ではどうにもならないの」
「まあ、そうだろうな。魔族領には高難易度の迷宮が沢山あるから、高品質で性能の良いレア装備を沢山収集してるんだろうしな」
「ええ、そうよ。だから、確実に私達人族よりも獣人族の戦力の方が勝ってるわ」
「だとしても、そうならないように国同士の話し合いだってしてるんだろ? それに、自国の戦力や防衛を強化する為に装備品の蓄えだって、それなりにしてるんだろ?」
「ええ、最悪の事態を回避する為に他国にも協力してもらって話し合いで解決しようとしてるわ。ただ、戦力強化に関してはドワーフ国からの装備品の供給が止まってるのよねえ」
ローズが額に手を当て表情を曇らせた。
「え? ドワーフ国で何か問題が発生してるのか?」




