第42話 ケビンの手紙
拝啓 ローズ様
どうも! ケビンです! 毎日迷宮探索生活ってことで相変わらずやってるんですけども~。
ある方から、グリーンキャニオンの奥地には王家とゆかりのあるラミア族が住んでいて、大戦時に使用された転移魔法陣が使用されないように監視している。って聞いたんですが、本当ですか?
それと、今から約一年くらい前に、その村の転移魔法陣が何らかの理由で使用された可能性ってありますか?
しばらくはグリーンキャニオンのジョリーとブラットが営む宿屋に滞在しているので、れ~ん~ら~く~う~♪ まってます!!
§ § §
俺がローズに送ったとされる手紙を読んだが、まるで身に覚えがなかった。
そこで、俺を見ながら変な汗を流しているリッカを見る。
すると、いつもよりも早口で
「おっ、送り主が私だと潜伏先がバレちゃうじゃない。だからケビンの名前を使わせてもらったの」
まあ、何となく察してたが、この手紙はグリーンキャニオンに滞在して二日目、ターニャに会う前にリッカが送った知人への手紙。つまりローズに送ったものなんだろうな。
「だとしても、もう少し違った書き方があったんじゃないのか? 読んでてコイツは誰なんだ? って思ったぞ」
「一応、念のためケビンの特徴を変えとけば、私を人族領まで飛ばした連中の目もくらますことが出来るかな~って思ったの」
ゴリラが笑顔を引きつらせながら話していると、ローズが一度手を叩き
「あ~、確かに。手紙の印象からケビンって人物は言葉や態度が軽々しくて、思慮の深さや誠実さの足りない探索者って思ったわ!」
「でしょ、でしょ。仮にその手紙がローズ以外の人が読んで、私を見つける為にケビンの所に行ったとしても、ケビンは手紙の内容なんて知らないからそのことに対してチャンと受け応えをするじゃない、だから相手は名前は同じでも手紙の人物とは違うって判断して立ち去ると思ったのよ」
「そうね、実際私も手紙の内容から、このケビンって探索者は確実にリッカと接触してるって確信したもんね。だから、ケビンを見つければリッカに会えると思ったもん!」
あ~、そういう事か。だからローズは初めここに来たとき俺を見て「ねえ、あんた! ケビンでしょ! ケビンよね!」って言ってたのか。そんで、セバスも俺が手紙の送り主なのか分からなかったから、物凄い目つきで俺の様子を窺ってたんだな、何気なくセバスを見る。
すると、視線に気づいたセバスが姿勢を正して
「その節は不躾な視線を送ってしまい大変失礼いたしました。なにぶん私もローズ様もリカステ様の安否を案じていた為の所業でございますゆえ、何卒ご了承いただきますようお願い申し上げます」
頭を下げるセバスに
「身近な人が何か事件に巻き込まれたけど無事だった。って聞いてても、やっぱ実際に会ってみないと安心はできませんもんね。俺でも多分そう思うので、気にしなくて大丈夫ですよ。頭を上げてください」
「ありがとうございます」
と言うと、俺のカップに紅茶を注いでくれたので口に運ぶ。
さて、手紙に書いてある内容で気になることが幾つもあるが、何から聞くかなあ。などと考えているとローズが
「手紙に書いてある通り、約一年前にターニャの村が襲われて転移魔法陣から大量の魔物が転移したわ。そして、グリーンキャニオンが襲撃されたけど、幸い街の人達だけで魔物を全滅させることが出来たから、大惨事には至らなかったわ」
すると、リッカが
「街の人からは、生息地域が何らかの理由で変わった魔物がグリーンキャニオンの山や森を抜けてやって来た。って話しだったけど、やっぱり魔法陣が関係してたのね」
そう言えば、ジョリーとブラットが三日間かけて魔物を全滅させたって言ってたな。ただ、気になったのでローズに
「ターニャが住んでた村って本当にそこなのか? グリーンキャニオンって人が立ち入れない場所が多いんだから他のラミアの村が実はターニャが住んでた村だったってことはないのか?」
「グリーンキャニオン周辺で魔獣族が住んでる村は幾つかあるけど、ラミア達が住んでた村は一ヶ所しかないの。それに、その村にいたラミア達とターニャの下半身の色と模様が同じだから間違いないわ」
リッカにそうなのか? って感じで目配せると
「ラミアって上半身は父親の影響を受けるけど、下半身の特徴は先祖代々母親から子へ受け継がれるものなの、だからうちのメイドとターニャとでは下半身の色と模様は全く違うわ」
「そっか、やっぱり襲われたのはターニャの住んでた村だったんだな」
すると、ローズが眉間に皺を寄せながら
「四、五年くらい前から野菜や穀物の生産が盛んな地域で魔物が大量に発生しだしたんだけど、倒した魔物の中に生息地域が異なる強い個体がかなり紛れていて、その個体を調べたら、人族領から遠く離れた魔族領やエルフ領に生息する魔物だったの」
確か、ジョリーとブラットもここら辺では見かけない魔物ばかりで倒すのに結構苦労したって言ってたな。
「そもそも、魔物の習性からして住み慣れた場所を離れるって事は滅多にないし、それなりに強い魔物が長い距離を移動していれば、必ずどこかで目撃されるはずなのに、そんな情報は全くなかったの」
野生動物よりも魔物の方が縄張り意識は強いって親方から聞いたことがあったなあ。
「そこで、さらに調査を進めたら、大戦中もしくは大戦後に破壊して使用出来ないようにしていた転移魔法陣が修復されて使用された痕跡があったの」
そう言えば、親方が大戦中は魔族が戦況を有利に運ぶために転移魔法陣を作製して大量の兵士や物資を戦地に転移させてたって言ってたな。しかも、王都から遠く離れた村や町に魔物や兵士を転移させたから、各地に戦力を分散させられて王都の守りが弱くなって大変だったって言ってもいたな。
「だから、うちらが保護した魔獣族に領内の転移魔法陣を定期巡回させたり、グリーンキャニオンみたいに襲撃されると国全体の食糧問題に繋がりかねない食料生産量の多い地域の転移魔法陣の監視には、ラミア達にお願いして村ごと移り住んでもらってたの」
「すまん、うちらが保護した魔獣族ってのは?」
するとリッカが
「悲しいことだけど、十年戦争が終結してから七十年が経った今でも他種族に対して偏見を持つ人達は存在してて、いまだに他種族間での人身売買や魔核の密猟が絶えないの」
その話しは親方からも耳にしたな。魔核コレクターからの依頼による密猟だったり禁止されている魔核を使ったレア装備品の作製とかで、主に人里から離れた場所でひっそりと暮らしている魔獣族が狙われ襲われているって聞いたな。
「私とローズは強制的に連れ去れた人達を保護してそれぞれの国に返したり、希望する地域での生活を支援していて、身寄りのない人達の場合は私たちで引き取ったりもしているの」
確かにリッカは、色んな人々を助けつつ、穏やかで平和に過ごせる世の中を目指したいって言っていたが、もう既に色んな人達を助けていたのか……。何気にリッカってやっぱスゲーな。
「だけど、ほとんどの人達は住んでた村は既に滅んでしまってたりするから、元の生活に戻れる人達ってごく一部しかいないの。だから、保護した人達が希望するならある程度の知識と教養を身に着けてもらって、それから、やりたい仕事に就いてもらってるんだけど、そうそう仕事ってなかなか見つからなくって、結果的にみんなには私たちの活動を手伝ってもらってるって感じなの」
すると、ローズが
「各地の迷宮調査や魔物の間引き。あるいは、地上に生息している魔物の被害にあった村や街からの討伐依頼とかが多いかな。そんで、そこで得た魔石とか討伐報酬とかがうちらの活動資金になってるし、戦闘が苦手な魔獣族には人身売買や魔核の密猟者達の情報収集をお願いしてるのよ」
そっかあ、赤い髪を縦方向にクルクルと巻いて煌びやかなドレスを着てて、なおかつ人を顎で使うような悪い印象のローズだったが、実はリッカと同じで人々を助け、穏やかで平和に過ごせる世の中を目指してたんだな。
人は見かけによらないな……。
「なるほど、リッカ達と共に行動してる魔獣族がいたんだな。そんで、ターニャの村を襲った連中の目星ってのはついてるのか?」
ローズが左右に首を振ると
「結論から言うと、襲撃した連中の目星はついてないわ。転移魔法陣を発動させた者達に襲われたって考えるのが妥当かもしれないけど、もしかしたら、ラミア達の魔核を狙った密猟者か人身売買を目的とした連中に襲われた後に魔法陣を発動させられた可能性もあるからね」
「確かに、そう言われてみると必ずしも魔法陣を発動した連中が村を襲ったとも言い切れないわな。どちらにせよ、密猟者や人身売買を目的とした奴らなんて、この世からいなくなって欲しいし、魔法陣を発動させてる連中も早いとこ捕まって欲しいもんだな」
すると、ローズが表情を曇らせ
「他種族間での人身売買や魔核の密猟者に関しては、大陸中に大小様々な組織が存在していてなかなか根絶させるまでには至っていないのが現状よ。ただ、魔法陣を発動させてる連中に関しては最近になってやっと特定することが出来たから、不穏な動きがないか仲間たちが常に監視しているわ」
ん~、なんかリッカとローズの二人だけで色々とやってるのかと思ってたが、どうも話しを聞いてると、それなりに規模のデカい組織と言うか団体みたいだな。
にしても、俺は今までそんな活動をしている人達がいただなんて聞いたことがないぞ?
「なあ、リッカ。二人がやってる事って一般的には広く知られてることなのか? 俺は全く知らなかったぞ?」
「一般的にはあまり知られていないかもね。ただ、街や村で働く魔獣族のほとんどは私たちの事を知ってるわよ。それに、色んな情報を提供してもらってもいるし、困った事があったら相談に乗って場合によっては手助けをしたりもしてるからね。その関係で、魔獣族と関わりの深い人達とかにも私たちの事は認知されてるかな」
「そっか、今まで俺は魔獣族との接点がなかったから知らなかったのかもなあ」
「そうかもね、もし魔獣族の知り合いがいたら私たちの話しを聞いてたかもしれないわね」
「だな、まあ、それは良いとして。二人の話しを聞いてて、俺も何か手伝いたいって思ったから、俺でも出来そうな事があったら言ってくれな。それと、話しが戻って悪いんだが、王家とゆかりのあるラミア族ってのは何なんだ?」
すると、リッカがローズと目を合わせると一度頷き、ローズが
「ケビンってこの国が出来たころの話しって聞いたことある?」




