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第39話 お茶休憩①


 ローズとセバスとの自己紹介をまだしっかりと済ませてはいないが、とりあえずセバスが用意してくれた紅茶を一口飲んでみる。うん、美味い。


 リッカの淹れる紅茶も美味いが、それ以上にセバスの淹れた紅茶も美味かった。


 紅茶で喉が潤ったところで、これまたセバスが用意してくれたサンドウィッチを食べてみる。うん! 美味い!


 パンが美味いのか? パンの間に挟まれた具材が美味いのか? とにかく今まで食べてきたどのサンドウィッチよりも断然美味かった。


「おー! うめー!」


 ターニャが目を見開き驚くと


「ケビン! このサンドウィッチすげーうめー!」


 と言って、ターニャもサンドウィッチを食べ始めた。そんなターニャを見て微笑んでたリッカに、ローズが人族領まで飛ばされた経緯について聞き始めた。


 リッカの話しによると、外出中にたまたまメイドと離れて一人でいると、「獣人族の子供が迫害されているらしいぞ」と、たまたま通りかかった男達の会話を耳にしたので、男達を引き止め子供がいる場所を聞くと走れば五分も掛からない場所にある空き家だった。なので、メイドを待たずに現場に行ってみることにしたらしい。


 そして、現場に駆け付けてみたものの家の中には誰もおらず、どうしたものかと考えていると、突然光に包まれ気づいたら容姿を変えられて人族領まで飛ばされてたんだそうだ。


 話しを聞き終えたローズが深いため息を吐きながら額に手を当てると、「それって思いっきり嵌められてんじゃん」と言っていた。


 俺もリッカの話しを聞きながら「簡単に騙されすぎだ」と思った。


 二人の会話を聞きながらサンドウィッチを食べ進めていると、ローズがリッカの爺さんの心配をしていた。なんでも、リッカの爺さんは五年前に迷宮探索に出掛けたまま、ずっと家に帰って来ていないんだそうだ。


 さすがに爺さんの件は気になったので、「大丈夫なのか?」とリッカに聞くと、「何も音沙汰がなければさすがに心配するけど、定期的に各地の魔石やレア装備がお土産として送られてくるから、私も家族も特に心配はしてないのよね」とのことだった。


 リッカとローズは他にも色んな話しで盛り上がっていたが、あまり女性の話しに聞き耳を立てるのもどうかと思ったので、途中からはターニャの相手をしながらサンドウィッチを食べまくっていた。


 そして、サンドウィッチで良い感じに腹が満たされた俺は、そろそろデザートで締めようと思っているのだが、締めにどのケーキを食べようか物凄く迷っていた。

 

 用意されたケーキは何種類もあり、表面をチョコでコーティングされたケーキや、何枚ものクレープの間にクリームを挟んで重ねたケーキとかがあり、どのケーキも美味しそうに見える。


 せっかくなので、今までに食べたことがないケーキにしようと思ったのだが、もし期待してたような味じゃなかったら嫌なので、失敗しないためにも、ここは普段から食べ慣れてるケーキにするべきなんじゃないのか? 


 ん~、どうしよう……。


 ちなみに、リッカとローズはサンドウィッチを食べながら、どこかの国の料理の話しで盛り上がっていて、ターニャは俺が「これも美味かったぞ」と勧めたサンドウィッチを頬張っている。


 しばらくどのケーキを食べるか迷っていたが、結局今までに何度か食べたことのある、スポンジとクリームが層になってイチゴがのったケーキを食べることにした。


 うっ! 美味すぎる!!


 今までに何度も食べたことあるケーキだったが物凄く美味しかった。ただ、甘いものが得意ではない俺は、一個食べたら満足してしまったので、椅子にもたれながら皆が食べ終わるのをゆっくりと待つことにした。


 リッカとローズはまだサンドウィッチを食べていて、ターニャはケーキを食べ進めていた。ひと口食べるたびに「う~ん。うまい!」と言いっている。


 リッカの時もそうだったが、ローズも食事の時の仕草や動作がゆったりとしていて、食べ終わるまでに時間がかかりそうだった。


 それと、何というか、一つひとつの動きが美しく、リッカと同じように育ちが良さそうに感じられた。


 まあ、実際に執事セバスしたがえているのだから、それなりにいいとこのお嬢様なんだろうな。などと、考えているとターニャが


「ケビン! このケーキもうまいぞ!」と言って、二個目のケーキを食べ始めた。リッカとローズはサンドウィッチをやっと食べ終えたらしく、今からケーキに取り掛かるみたいだった。


 ガチャガチャと音を立ててケーキを食べてるターニャとは違い、リッカとローズは静かにケーキを食している。そういえば、紅茶のカップを置くときも二人は全く音を立ててなかったな。


 「ケビン! ケビン! このケーキもうまいぞ!」と言って、ターニャが三個目のケーキを食べ始めると、リッカとローズが一個目のケーキをやっと食べ終えた。


 すると、口の周りをケーキでベタベタにしたターニャが


「ケビン。あたしも師匠やローズさんみたいにカッコよくケーキを食べてみたいぞ!」


 リッカとローズが紅茶を飲むのを止めターニャを見たリッカが


「私とローズが恰好良く見えるの?」


「はい! テーブルが汚れてないのでカッコイイです!」


 確かに、皿からこぼれ落ちたケーキでターニャのテーブルは所々汚れていた。それに、皿に乗ったケーキは原型をとどめておらずグチャグチャだった。


「なあ、ターニャ。それってケーキを食べ慣れてないからじゃないか? 今までそんなにケーキって食べたことなかったろ?」


 ターニャをフォローしていると、リッカとローズがお互いを見て何やら目くばせし始めた。


「うん。食べたことないぞ! そっか! よし! もっとたくさんケーキを食べるぞ!」


 ターニャがグチャグチャになった残りのケーキを一口で食べ、すぐに次のケーキに手を伸ばす。それを見ていたローズがリッカに頷くとリッカが微笑み


「ターニャ。ちょっと待って」


 ケーキの皿を手に持ったままターニャが動きを止めた。俺は二人が何をたくらんでいるのか分からないのでリッカを見ると軽くウインクしてきて


「セバス、お願いしても良いかしら?」


「かしこまりました」


 セバスが胸に手を当ててリッカに頭を下げた。


 ん~、リッカとセバスの関係性が分らんなあ。セバスはローズの執事なのに、なぜかリッカにもつかえてるように感じる時があるんだよなあ。などと、思っていると


「ターニャ。せっかくだからセバスにケーキの食べ方を教えてもらいましょう」


「お~! ありがとうございます! これであたしも師匠のようなカッコイイ大人になれます!」


 セバスが音もたてずにターニャの後ろに移動すると


「では、ターニャ様。さっそく始めさせて頂きます。準備はよろしいですか?」


「はい! よろしくお願いします!」


 ターニャが背筋を伸ばして行儀よく椅子に座りなおした。


 俺はケーキの食べ方なんて全く意識していなかったが、リッカとローズの食べ方からは、なんとなく上品で高貴な雰囲気が醸し出されていた。


 なので、良い機会だから俺も見習っておこうと思い、紅茶を飲みながらセバスの話しに耳を傾ける。


「ケーキを食べる時に抑えておくべきポイントは、二つほどございます」


「えっ! 二つもあるの!」


 ターニャが驚きの声を上げセバスに顔を向ける。俺も知らなかったので紅茶を吹き出しそうになった。


 驚きの表情を浮かべるターニャにセバスが笑顔で頷き


「はい、二つです。まず一つ目は、どこから食べ始めるか。そして二つ目は、フォークをどのように使うかです」


 ケーキって適当にフォークを刺して食べちゃダメだったのか……。


「まず、ケーキの形によってどこから手をつけるべきかが異なっております」


 ターニャがケーキを見ながら目をパチパチさせている。


「大まかにケーキは三角形、四角形、円形の三つの種類に分けられます」


 確かに、今まで見てきたケーキもそうだし、セバスが用意したケーキを見てみても、大体そんな感じで形が分かれている。


「三角形のケーキでしたら先端から。四角形のケーキでしたら手前の左側から。そして、円形のケーキでしたら手前から手をつけはじめます」


 セバスがそれぞれの形のケーキを見せながら説明しているが、ターニャは相変わらず目をパチパチさせていた。情報量が多すぎて話しについて行けてない感じだ。頑張れターニャ……。


「ただ、三角形のケーキは左側を先端にして提供されることがほとんどですので、『手前の左側から』と覚えておくと、どのケーキでも迷いなく食べられます」


「はい! 分かりました! ケーキは手前の左側から食べる! ですね!」


「はい、その通りです」


 セバスが笑顔で頷くと


「では、つづいて、ケーキを食べる時に抑えておくべきポイントの二つ目、フォークの使い方です」


「はい! よろしくお願いします!」


 ターニャがフォークを掲げて元気よく返事をすると、リッカとローズがそっとフォークに手を添えた。それを見ていたセバスが胸に手を当て軽く会釈をした。


「まず、フォークはケーキに対して垂直になるように刺します」


 セバスが言い終えると、リッカとローズがターニャにお手本を見せかのように、ケーキの先端にフォークを刺し、ひと口分の大きさに切ったケーキを口に運んだ。


「お~! なるほど!」


 ターニャが二人のやり方を真似してケーキを食べると、リッカとローズが笑顔で頷いた。すると、セバスが


「フォークを入れたケーキは食べ進めていくと倒れやすくなります。もし、食べてる最中にケーキが倒れそうになったら慌ててしまいますよね? それと、倒れたケーキが取り皿からこぼれ落ちてしまう場合もございますよね?」


 ターニャが激しくウンウンと頷いている。確かに、さっきターニャは倒れそうになったケーキを手で押さえてたし、倒れたケーキが取り皿からはみ出てテーブルを汚していた。


「なので、ケーキが倒れそうならば、あえてフォークで先にケーキを倒してしまえばよいのです」


「お~! つまり、ケーキに対して先制攻撃を仕掛けるってことですね!」


 とらえ方は間違ってはいないと思うが、考え方が好戦的なのが気になるな……。などと、思っているとセバスが笑顔で


「ターニャ様。一般的に『先制攻撃』とは、敵が戦いの準備などをしている間に先手を取って攻撃をしかけることでしたり、向かってくる相手より先に攻めることを『先制攻撃』と言っております。なので、今回のような場合ですと、物事を注意深く十分に考えるさまを意味する『用意周到』や『思慮しりょ深い』の方が適切かと思いますよ」


 すると、ターニャが遠くを見ながらつぶやき始た。


「よういしゅうとう……。しりょぶかい……」


 何度か同じ言葉を繰り返すと


「セバスさん! ありがとうございます!」


 元気よくセバスに礼を言うと俺を見て


「ケビン! あたしはまた新しい言葉を覚えてしまったぞ!」


「おっおう! 良かったな」


「ふっふっふ。あとはカッコよくケーキを食べれれば、あたしも師匠みたいなカッコイイ大人になれるぞ!」


「おう! 頑張れ!」


 すると、セバスが


「では、ターニャ様。さっそく、お手元のケーキで食べ方のおさらいをしてみましょう」


「はい! よろしくお願いします!」


 ターニャが背筋を伸ばして行儀よく椅子に座りなおした。


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