第37話 ローズとセバス①
赤い髪を縦方向にクルクルと巻いた女性が俺を指さし
「ねえ、あんた! ケビンでしょ! ケビンよね!」
俺の名を連呼しているのだが、俺はあんな目立つ髪型をした女性とは今迄一度も会った事はない。
ただ、女性が着ているドレスには【清潔】【快適】【修復】【伸縮】といった宝玉が埋め込まれており、贈り物なのかあるいは購入した物なのかは不明だがかなり高値で取引されるようなレア装備品を着用しているし、一緒に現れた燕尾服の男性の存在も相まって、何処かのお金持ちのお嬢様なんだろうなって事は容易に想像はできる。
ちなみに、燕尾服の男性は俺のことを値踏みするかのような目つきで見つめていて、その眼差しからはただならぬ気配が感じられる。
そんな目つきで見つめられると居心地が悪いので止めてもらいたい。
にしても、俺の身の周りで燕尾服を着た執事を従えるようなお嬢様の知り合いっていないんだよなあ。
見た感じ二人の年齢は俺とそんなに変わらないように見えるのだが、よく見ると女性と男性には二本の短いツノがおでこから生えている。
見た目が人族でツノが生えている種族といえば鬼族を連想するのだが、二人とも背丈が俺と同じくらいなので巨人族であるオーガにしては背丈が低い。
なので、もしかしたら女性の方は人族との混血なのかもしれないが、男性の方は耳が尖っているのでエルフとオーガの混血なのかも知れない。
だとしても、俺の身の周りでオーガの知り合いなんて存在しないし、あんな目立つ二人と何処かで会っているのなら忘れるはずもない。
となると、やっぱり何処かで会った事なんて一度もないと思うんだよなぁ。
なのに縦ロールの女性は俺を指さし俺の名を呼び続けている。ということは、ただ単に何か用事があって俺をわざわざ探しに来たって事なのか?
もし街中で縦ロールの女性に声を掛けられていたのなら、何処かのお嬢様が執事を連れてこれから知り合いのパーティーにでも向かう途中なんだろうな。って感じで特に違和感などは抱かずに素直に自分の身を明かしていたかもしれないが、ここは迷宮主の部屋だ。
そう考えると、あんな出で立ちで迷宮内を移動し尚且つ最下層の迷宮主の部屋まで来ちゃう怪しい人達を相手に俺がケビンだって事を素直に明かしてしまって良いものなのかちょっと戸惑ってしてしまう。
「ねえ! ちょっとあんた! ケビンなんでしょ! ケビンなのよね!」
迷宮探索には似つかわしくない華やかなドレスを着たお嬢様が俺の名を呼び続けている。その後ろでは燕尾服の男性が相変わらず静かに俺を見つめている。
ん? 待てよ。お嬢様が俺にケビンかどうか尋ねているって事は、俺がケビンだってことを断定できずにいるってことだよな。
何だか怪しい感じの二人なので人違いって事で一度お引き取り願おうかなあ。
などと思っていると、リッカがワンピースの裾をはためかせながらスッと前に出て
「手紙の返事は宿に届けてくれると思っていたけどわざわざ来てくれたのね。ローズもセバスも相変わらず元気そうで何よりよ」
よくよく考えたらリッカも迷宮探索には似つかわしくない服装だったな。などと思っていると、縦ロールの女性が目を見開き
「えっ! リッカなの? 大丈夫だったのね!」
「この通り見た目はだいぶ変わってしまったけど問題ないわ」
すると、縦ロールの女性の後ろで控えていた燕尾服の男性が
「リカステ様。ご無事で何よりでございます」
リッカが一度頷くと
「私の消息が分からなくなった事でみんなには色々と心配を掛けてしまったわね」
「その件につきましては既にリカステ様の身近な方々が動いておりますゆえ御安心下さい」
燕尾服の男が胸に手を当て頭を下げる。
「そう、良かったわ。実家にはとりあえず私が生存しているって事だけは早急に連絡するように伝えておいたからね」
「潜伏先やリカステ様の今の状況に関しては何も触れておりませんでしたが、リカステ様の生存の確認は出来たと魔族領から一報は頂けましたのでローズお嬢様も含め我々も一先ずは安心させて頂きました」
二人の会話から察するに、リッカってのは愛称で本当の名はリカステっていうのか? しかも執事がリッカの事をリカステ様って呼んでいるって事はやはりリッカはお嬢様だったんだなぁ。などと思っていると
「リカステ様。人目につきにくいこの場所でしたら何かと都合が良いかと思われます。なので、この場でお茶の用意を行おうと思うのですがいかがなさいますか?」
「そうね、そうしましょう。お願いしても良いかしら?」
「かしこまりました」
姿勢を正し燕尾服の男性セバスが頭を下げるとスタスタと部屋の中央付近に向かって歩き始めた。すると、縦ロールの女性ローズが小走りでリッカに近づき
「手紙を受け取った時は半信半疑だったけど会えて良かった~」
「あと数日待っても返事が来なかったらそろそろ別の地に移動しようと思ってたのよ。わざわざ会いに来てくれてありがとね」
「魔族領からあなたが生きてるって知らせが来た時はホッとしたけどまさか人族領にいたとはね~」
「常に警戒はしてたつもりだったんだけど、気づいたら姿形を変えられて人族領まで吹っ飛ばされちゃってたのよ」
「そっか~。でもよく無事だったわね」
「飛ばされた場所が迷宮主の部屋だったんだけど、既にケビンが迷宮主を倒してくれていたから大事に至らなくて済んだのよ」
リッカがローズに紹介するかのように俺に話しを振ってきたので
「初めましてケビンです。人族領から魔族領までの道中に付き添うようにとリッカに依頼されました」
すると、ローズが目を見開きリッカを見ると
「えっ!? なに! 愛称で呼ばしてるの?」
「急な出来事で私自身が事態を把握出来ずにいたし、素性がバレると周りに迷惑を掛けないとも言い切れないからね。それと、姿形が変わってしまってるなら一層の事愛称で行動しようって思ったのよ」
「なるほどね~。今のあなたが魔族だって言っても誰も信用しないでしょうし、ましてやリカステだって言っても逆に混乱を招くだろうしね」
「でしょ、だから今は出会った人達にはリッカって自己紹介をしてるわ」
「なるほど~。そうなるとケビンに手紙の内容や私達の事って話さない方が良いのよね?」
「その点に関しては問題ないわ。セバスのお茶の準備が出来次第ケビンにも同席してもらって話しを聞いてもらうつもりよ」
「ふ~ん。リッカが良いって言うなら問題無いけど……。そっちのラミアの子も同席するのかしら?」
ローズにつられて横を見るといつの間にか俺の隣にターニャがいて
「初めましてターニャです。こちらの迷宮で身を潜めている所をリッカ師匠とケビンに助けて頂き今は一緒に行動しております」
リッカとローズの話しに気を取られていたので俺の隣にターニャがいたなんて全く気づいていなかった。なので、一瞬ビクッとさせられたがそれ以上にターニャがまともな自己紹介をしていたのでもっとビックリさせられた。
すると、ローズが首を傾げながらターニャに
「リカステが師匠?」
「はい、あたしの村を襲った者達に復讐するためリッカ師匠からは魔法の指導を受けております」
ローズが目を見開くとリッカを見て
「手紙で問い合わせのあった村はラミア達の村なんだけど、もしかして」
「ローズに手紙を送ってからターニャとは出会ったんだけど、ターニャの話しからするとまず間違いないと思うわ」
「そう、あなたはあの村の生存者なのね」
ローズがターニャの前で膝をつき
「私達の力が至らなかったせいで辛い思いをさせてしまったわね」
ローズが目を細め申し訳なさそうな表情を浮かべるとターニャの手を取り
「私がいくら謝ったところでどうしよもない事は分かってる。だけど……」
そっとターニャを抱き締めると
「本当に……。ごめんなさい」
ターニャの村が襲われた事とローズとの接点はよく分からないが、ターニャが鼻を赤くし天井を見つめ必死で涙を堪えていた。
村が襲われた事に関しては既にターニャの中で心の整理が出来ているものかと思っていたが、どうやら俺の勝手な思い込みだったらしい。
下唇をきゅっと出し目に涙をため天井を見つめているターニャ。
強くなろうとしているターニャの中では泣くと弱くなるとでも思っているのか? もしくは、復讐を果たすまでは泣かないとでも誓っているのか? あるいは、俺に泣き顔を見られるのが恥ずかしいのか? どちらにせよ、何でターニャが顔を赤くし天井を見つめながら必死になって涙を堪えているのかは謎だが、今にも泣き出しそうな表情で必死に涙を堪えてプルプルしているターニャの頭をなでながら
「我慢しないで思いっ切り泣いとけ。スッキリするぞ」
すると、今迄我慢していた感情がどっと溢れ出したのかターニャが声を出して大泣きし始めた。




