第34話 装備を新調する②
ターニャが空間魔法のポケットから長袖のシャツを見つけると、早速着替え始める。
すると、リッカがターニャの着替えを手伝いながら
「ねえ、ケビン。【快適】のブレスレット以外にも何か便利なレア装備ってなかったの?」
戦闘で何かしらの役に立つ効果を有する物が多いレア装備だが、中には装備品に付着した汚れを落としてくれる【清潔】だったり、装備品に生じた傷やひび割れを損傷前の状態に戻してくれる【修復】といった、直接戦闘に関係せずとも装備者にとっては便利な宝玉が埋め込まれたレア装備も存在している。
例えば、リッカが着用しているワンピースには【清潔】【快適】【修復】【伸縮】【魅了】といった宝玉が埋め込まれており、戦闘では役に立たないようなレア装備だが日常生活を過ごすうえではとても便利なレア装備だったりもする。
「う~ん。強いて言えば今迄ターニャが装備していた【気配遮断】のブレスレットくらいかな」
「そっかあ、便利だったり珍しいレア装備を見てみたかったなあ」
「難易度の高い迷宮だったら色々と見れたかもしれないが、骸骨迷宮はあまり難易度は高くないからな」
「じゃあ、凄い効果を発揮するようなレア装備もなかったの?」
「ん~、なかったな。さっき渡したレア装備の一覧に装備品に埋め込まれた宝玉の効果は書いてあっただろ?」
「ええ、身体能力が上がるか体力や魔力が徐々に回復するレア装備が多かったみたいね」
「ああ、それと状況異常を軽減させるか無効にするレア装備も幾つかあったな」
などと話しているとターニャが
「ケビン! 着替えたぞ!」
「おう! ノースリーブも良かったが長袖のシャツとの重ね着も良い感じだぞ!」
「そうか! 良い感じか! なら良し!」
何が良いのか分からんが、ニコニコしているターニャを見ているとこっちもつられて笑顔になってしまう。
俺とターニャのやり取りを見て笑みを浮かべていたリッカが、レア装備の一覧に目を移すと
「ねえ、この一番下に書いてあるレア装備って、確か一般的には『マイナス装備』って言われているヤツよね?」
「ああ、それな」
装備すると攻撃力や防御力、あるいは身体能力が下がり装備者にとって悪影響を及ぼすレア装備も世の中には存在している。
ちなみに、迷宮探索者達の間では『ハズレ装備』とも言われていて、武器屋で装備品の鑑定をしてハズレ装備だったらその場で買取ってもらっていたりもする。
俺は部屋の隅に置いておいた鎧と指輪を手に取り
「この二つがマイナス装備だ。使わないからとりあえずポケットにしまっておいてくれ」
「分かったわ」
リッカに【魔力半減】と【伸縮】の宝玉が埋め込まれた指輪と【体力半減】の宝玉が埋め込まれた鎧を手渡す。
「にしても、レア装備の総数が六十七品ともなると、いくら装備品が好きな俺でも全部を鑑定するのはさすがに骨が折れたな」
ベッドに腰掛け軽く愚痴ると、リッカがハズレ装備をポケットにしまいながら
「お疲れさま」
笑顔で俺を労ってくれた。些細な事かもしれないがやはり頑張った事に対して何かしらの労いの言葉があると嬉しいものだ。などと思っていると、床に並べられたレア装備を眺めていたターニャが深いため息を吐き
「ケビン。あたし頑張って勉強したから疲れたかも……」
「……おう。お疲れさん」
ターニャが首を回しながらチラチラと俺を見ている。
「はぁ~。いっぱい文字を書いたから疲れたなぁ……」
「……おう。お疲れさん」
ターニャがチラチラと俺を見ながら今度は肩を上げ下げすると
「今日も難しい言葉を沢山覚えて疲れちゃったなぁ……」
「……おう。お疲れさん」
「むむむ~。ケビン! あたし今日も頑張ってたよね!」
「はいはい。揉んでやるからこっちにこい」
リッカがまた始まったのねって感じで俺とターニャのやり取りを見ると、口元に笑みを浮かべながらレア装備の一覧に目を通し始めた。
毎回休憩時には決まって肩を揉ませたがるターニャの恒例行事なので俺も慣れたもんだ。
ニコニコしながら俺に背を向けベットにもたれかかるターニャ。
「はぁ、今日も頑張ったから疲れたなぁ」
いつものようにターニャの肩を揉んでいると
「ふむふむ。ケビンは肩を揉むのが上手だな~」
「はいはい。ありがとな」
「あぁ~。気持ちいいな~」
ターニャのふにゃふにゃで柔らかい肩回りの状態からは、肩がこっているようには思えないのだが、勉強を頑張っていたのは事実なのでターニャのお遊びに付き合ってやる。
「だいぶ疲れが溜まってるみたいですね~」
ターニャが一度大きなため息を吐くと
「いっぱい勉強したから疲れが溜まってるみたいだ……」
リッカを見ると一瞬顎を引き口をへの字にするが、直ぐに笑みを浮かべるとまたレア装備の一覧を見始める。
「今日もターニャは頑張ってたもんな。少しずつだが綺麗に文字を書けるようになってるし、難しい言葉も沢山覚えてたもんな!」
「はっはっは! そうだろ、そうだろ! 今日もあたしは頑張ってただろ!」
当たり前だが、やはり頑張った事に対して何かしらの労いの言葉があると誰だって嬉しいものだ。
なので、いつもこのターニャの恒例行事では必ずターニャを労ってやるのだが、
満面の笑みで応えるターニャを見ていると素直に頑張れよって応援したくなるな。などと思っていると、レア装備の一覧を見ていたリッカが
「ねえ、ケビン。譲ってもらった全てのレア装備が把握出来たのだから明日からは装備を新調して迷宮に行くんでしょ?」
「ああ、そのつもりだ」
「じゃあ、先に言っとくけど新調するなら【打撃軽減】【体力増加】【体力回復】のレア装備しか使っちゃダメよ」
「えっ!? 【斬撃増加】や【打撃増加】の効果のある武器や【腕力増加】や【素早さ増加】の効果がある防具を装備しちゃダメなのか?」
「剣術を習い始めて間もないケビンは、攻撃力の増すようなレア装備はまだ早いのよ」
「ん? なんでだ? 攻撃力が上がるんだから良いんじゃないのか?」
何故、戦闘に有効なレア装備を使用しちゃダメなのか分からず首を傾げると
「確かに斬撃や打撃を増加させたり腕力や素早さが増せば直ぐにでも攻撃力を上げる事は可能よ。でもね、装備による攻撃力の底上げに頼ってしまうと、これから先も常に強い装備を求め続ける事になるわよ?」
「敵が強くなれば装備も強くするだろ? 何でダメなんだ?」
「もちろん強敵に挑むのならば弱い装備よりも強い装備に新調した方が良いに決まってる。ただ、剣術を習い始めて間もないケビンが宝玉の効果を使って急に腕力や素早さを上げてしまうと、せっかく合理的に身体を動かせるようになり始めてた剣術の動き方が出来なくなってしまうでしょ?」
「なるほど、確かに急に速く動けるようになったら今迄習った身体の動かし方が出来なくなるな……。それに急に剣の切れ味が増したら剣の使い方もいい加減になっちゃいそうだ……」
「でしょ、だから今はしっかりと剣術の動き方を習得してもらいたいの。それに、もし実戦で魔物からの攻撃を上手く躱せなかったとしても【打撃軽減】のレア装備でダメージは軽減出来るし【体力増加】と【体力回復】のレア装備を使えば、疲れて身体の動かし方が雑になったりはしなくなるでしょ?」
「そういう事だったのか。確かに今の俺には攻撃力の増すようなレア装備はまだ早いかもなあ……」
などと納得していると、大人しく肩を揉まれていたターニャが
「ケビン! わたしも装備を新しくしたいぞ!」
「ん? ターニャは日焼け防止の効果が期待出来る長袖のシャツを装備しただろ?」
「わたしも師匠みたいなごつくてカッコイイやつを装備したいんだ!」
「ああ。リッカがいつも装備してるガントレットの事か?」
激しく頷くターニャ。
すると、リッカがポケットから【打撃増加】【腕力増加】【体力増加】【体力回復】【伸縮】の宝玉が埋め込まれたガントレットを取り出し素早く装備するとターニャに見せつけてニヤニヤし始めた。
あれは厳密に言うとリッカの物ではなく俺のガントレットなんだが……。などと思いながら床に並べられたレア装備の中から【腕力増加】【体力増加】【伸縮】の宝玉が埋め込まれたガントレットをターニャ渡してやる。
「おお! 師匠と同じ色の宝石が三つも着いてるぞ!」
宝石じゃなくって宝玉な。などと思っていると、ターニャが早速ガントレットを装備して
「明日の修行が楽しみだ! ありがとうケビン!」
と言って、リッカに向かって両拳を突き出し
「師匠! あたしカッコイイ?」
「とても似合ってるわ。カッコイイわよ」
リッカもターニャに向かって両拳を突き出した。
すると、二人はお互いのガントレットを触れたり擦ったりしてニヤニヤし始めた。
そして、メスゴリラとヘビ娘はガントレットを装備したまま色んなポーズを取って、カッコイイだのカワイイだの飽きることなく夜遅くまでずっと楽しそうに騒いでいた。




