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第29話 師匠と弟子③



「リッカは魔法だけじゃなくて剣術も出来るのか?」


「もちろんよ。魔族領には魔法が一切使えない迷宮もあるから物理攻撃もそれなりに使えるようにしておかないとダメなのよ」


「あぁ、確かにそんな迷宮が存在しているって話しは聞いたことがあるな」


「それに、力を蓄えて強くなろうって決めてからは色々と努力して来たからね」


 パチッと片目をつむり笑みを浮かべるリッカ。


 そうだった、リッカは子供の頃から色んな人々を助けつつ、穏やかで平和に過ごせる世の中を目指したいって考えるようなゴリラだった。


 俺なんて家の畑仕事を手伝うか親方の店の装備品を眺めているだけの子供だったので、当時は自分が住んでいた村と親方の店といったごく限られた狭い範囲の事しか見えていなかったし、両親、親方、村の人達といった俺と関わりのある者達だけが俺の中では世の中の全ての人々だった。


 それに、村で物騒な争い事が起きるような事はなかったし、地域的に村が魔物に襲撃されるような事もなかったので穏やかで平和な日々を送りたいだなんて考えるような事もなく過ごす事が出来ていた。


 なので、もし育った環境が違っていたのなら俺もリッカのように子供の頃から世の中を広い視点でとらえ、いざって時の為に力を蓄えていたのかもしれないな。


 などと考えていると、リッカが首を傾げて目をパチパチさせながら


「どうする? ゴライアスの剣術で良ければ教えるわよ?」


「ゴライアスか……」


 魔族領を統治している国の名であり国王の名でもあるゴライアス。


 俺は今迄に一度もゴライアス国王を見た事はないが、巨人族と魔族との混血らしく物凄く恵まれた体格と恐ろしい程の魔力を兼ね備えた人物だと親方からは聞いたことがある。


 十年戦争の時にはゴライアス国王自らが戦地に赴き一度ひとたび剣を握れば多くの敵兵を血祭りにし辺り一帯を血の海に変え、魔法を使えばまるで天変地異かの如く戦地の地形を変えてしまうほどの壮絶な魔法攻撃を放っていたそうで、全種族からは大魔王と呼ばれ恐れられていたらしい。


 そんなゴライアス王の名を冠するような剣術なので習えば俺でもそれなりに強くなれるんだろうが、世の中には各種族の身体的特徴によって様々な剣術が存在している。例えば巨人族やドワーフ達ならば腕力を活かした豪快な剣術だし、獣人族ならば素早い身のこなしと腕力を活かすような剣術が存在している。


 そして、魔族やエルフのように魔法の扱いに長けた種族だと魔法を使った剣術になるのだが


「魔法が使えない俺でも魔族の剣術を習得する事が出来るのか?」


「大丈夫よ、私達みたいに魔法で氷や炎を剣に纏わせたりしなくても身体の動かし方や剣の振り方は教えられるから問題ないわよ?」


 確かに、俺みたいに魔法が使えない者達はそういった効果のある宝玉が埋め込まれた武器を装備していたりもするな。


 一般的にアイスソードだったりファイアーソードと呼ばれている魔法剣ってヤツだが、俺も剣術を覚えたらいざって時の為にそういった装備を用意しとくのも悪くないかもな。


 それと、今迄は魔物相手に自分なりに身体の動かし方や剣の振り方を模索していただけなので、身近な人からちゃんとした剣の使い方を教えてもらえるのはありがたい。


 だが、そう簡単に剣術って覚えられるモノなのか? などと考えていると、リッカが少し困った様な表情を浮かべ


「ケビンは魔族の剣術を覚えることに何かしらの抵抗があるのかしら?」


「いや、種族に対しての偏見はない。ただ、リッカが家に帰るまでの期間中に剣術って覚えられるモノなのか気になってな」


「幾つかある基本的な動作を覚えてしまえば、後はその動作を状況によって使い分けるだけだから大丈夫よ。ただし、じゃあ直ぐにでも実戦で使えるようになるのか? と聞かれるとそこは本人の努力しだいになるわね」


 ん? 覚える事は少なそうなのに実戦では直ぐに使えないとはどういう事なんだ? などと考えながら首を傾げていると


「状況に合わせた動作をいちいち頭で考えなくても瞬時に出来るようにならないと実戦では使えないってこと。つまり、状況によって身体が勝手に最適な動作をしてしまうくらいじゃないとダメってことね」


「じゃあ、どうすれば身体が勝手に動いてくれるようになるんだ?」


「基本的な動作の反復練習とか敵をイメージしての戦闘訓練とか色々とやり方はあるんだけど、ただ漠然と覚えた動作で剣を振るんじゃなくて、動作の中での身体の動かし方や足の運び方、あるいは剣を振る時の軌道も含めて動作の意味を深く考えながら剣術に取り組めば自然と状況に合わせた最適な動作に気づけるから身体も勝手に動いてくれるようになるんだけど……、そこはもう本人がどれだけ剣術に時間と労力を費やしたかで変わってきちゃうのよね」


「なるほど、そこら辺が本人の努力次第って事は分かったんだが、基本的な動作とやらはどの位の日数があれば覚えられるんだ?」


 リッカが顎に手を当てると


「う~ん……、ターニャへの魔法指導の合間を使ったとして……。三、四日くらいでケビンならある程度の基本的動作は覚えられると思うわよ」


「三日か四日は必要となると、宿はどうするんだ? 五日分しか借りてなから今日と明日までしか泊まれないぞ?」


「その事なんだけど、もう少しグリーンキャニオンに滞在しようと思ってるの」


 ターニャを保護する事が出来たので俺はてっきり直ぐにでもリッカの家にいるラミアのメイドに合わせるのかと思っていたが


「宿泊日数が延びる事に関して特に問題はないが、一応理由を聞いても良いか?」


「人族領で次に行く場所の絞り込みがしたくて実家に便りを送ってるからその返事待ちなのと、去年グリーンキャニオンが魔物に襲撃された件について知り合いに問い合わせてるからその回答待ちでもあるの。だから宿に戻ったら更に五日ほど部屋を借りるつもり」


 なるほど、昨日転送屋で送った二通の手紙の返事待ちなのか。


「じゃあ、これからはターニャも一緒に行動する事になるのか?」


「そうね、良い機会だからターニャには人族領で色んな場所を見ながら色々と教えて行くつもりよ」


 リッカがティーカップを両手で包み込む様に持ちながらターニャを見つめる。


 すると、視線に気づいたターニャが


「師匠!」


 クルミをリッカに手渡し


「ふん!」


 リッカが素手でクルミの殻を割ると中の実をターニャに手渡した。


「ありがとうございます!」


 嬉しそうにクルミを食べるターニャをリッカが微笑みながら見つめている。


 村を襲った連中に復讐するために強くなろうとしているターニャだったが、リッカは魔法を教えながら少しずつ色んなモノの見方や考え方も教え、復讐ではなく違うやり方で辛かった出来事を乗り越えてもらおうと考えていた。


 俺もリッカと出会って少しずつだがモノの見方や考えたかが変わって来ている様に思えるし、ターニャとの出会いで身の周りの人達を守れるくらいは力を蓄えようと考える切っ掛けを与えてもらった。


 なので、ターニャもこれから色んな人達と出会い接する事で復讐なんて考えず、何かしらの良い方法を見つけて辛い出来事を克服してほしいと思う。もちろん俺も何かしら手助けできることがあれば手を差し伸べたいと思っている。


 ターニャが俺の視線に気づき


「ん? ケビンもクルミが欲しいのか?」


「いや、そうじゃなくてだな……。俺もリッカに弟子入りすることにしたぞ」


「おお! そうか!」


 そして、腕を組み


「ならばケビンよ。日々精進したまえ」


 偉そうに言い放つターニャ。


 リッカは眉を上げ少し驚いた表情を浮かべている。


 何処でそんな言葉を覚えて来たんだ? などと思いながらも


「あぁ、一緒に頑張ろうな」


「うん! 頑張ろう!」


 元気良く返事をするターニャの笑顔はとても愛嬌があり、可愛らしくもあった。

 

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