第27話 師匠と弟子①
拝啓
父さん 母さん 元気にしてますか。
ケビンは元気に頑張ってます。
少し状況が変わったので近況報告がてらお便りいたしました。
ある女性からの依頼でその方を魔族領の家まで送り届けることになりました。
そして、その方の家で保管してある幾つかの装備品を報酬として譲ってもらえる事になったので、もしかしたら思っていたよりも早く自分の店を持てるかも? と思い期待しております。
ただ、依頼主の女性が直ぐには家に帰らずに人族領での見聞を少し深めておきたいとおっしゃるので、一ヶ月あるいは三ヶ月くらいは依頼主と一緒に人族領の色んな場所に滞在することになりそうです。
ちなみに、今はグリーンキャニオンに滞在しております。
この便りが届く頃には別の場所に移動しているかも知れませんので、また近い内に連絡いたします。
~追伸~
もしかしたら、母さんは何か変な期待をしているかも知れませんが、依頼主の女性はバナナが好きなゴリラです。
§ § §
魔族であるリッカは魔法の扱いに長けた種族なのだが見た目はゴリラだ。
何故ゴリラなのかを説明すると色々と詮索されてしまい何かと面倒なので、今は獣人族として周りの人達と接している。
ただ、獣人族は魔族よりも魔法の扱いが上手ではない。なので、俺とリッカは人目を気にせず魔法を使える迷宮内でターニャに魔法を教える事にした。
リッカがターニャの肩に触れながら
「ゆっくりで良いからね」
「むむむむむ~」
ターニャが目を閉じたまま眉間に皺をよせて唸っている。
頑張って魔力を操作しているようだ。
俺は魔法を全く使えないので良く分からないのだが、リッカの説明によると魔法を使う者ならば魔力操作を習得する事は必須らしく、先ずはターニャに魔力操作のしかたから指導を始めていた。
「その調子よターニャ。焦っちゃダメよ」
「む~ん。師匠……」
ターニャが目を開け上目遣いでリッカみると
「……これ難しい」
リッカが笑顔でターニャを見つめながら
「そうね、練習を始めたばかりのターニャにはとても難しいのかもしれないけど、今の感じはとても良かったわよ。だからターニャなら直ぐに出来るようになるから大丈夫! さあ! もう一度最初っから始めるわよ!」
「む~ん。師匠は厳しい……」
リッカに励まされ再び目を閉じ魔法に意識を集中し始めるターニャ。
上手く出来なくて渋るターニャを労いながらも寄り添うように魔法の指導を行うリッカ。
そんな二人を離れた場所から見守っている俺には、既に良い感じで師弟関係が出来上がっているように見え思わず微笑んでしまった。
昨日、毒に侵された状態でターニャを攫おうとした男達の攻撃を受け続け意識を失ってしまった俺だったが、リッカの魔法で毒の治療と傷の回復を行うと直ぐに意識を取り戻す事が出来た。
その頃には既に魔法使いの男が発動させていた【魔法無効】の効果はとっくに切れていたようで正直助かった。
そして、ターニャの拘束を解き腕と顔の傷をリッカの魔法で回復させると、ターニャが即座に「あたしを弟子にして!」と目を輝かせながらリッカの腕に抱き着くと、
リッカはターニャの背を撫で「私は厳しいから覚悟しなさい」と笑顔でターニャの弟子入りを認めた。
ターニャを攫おうとした男達は【麻痺】の宝玉が埋め込まれたダガーによって身動きの取れない状態にし念のため手足を縛った状態で迷宮内に放置し、街の治安当局に連絡して引き取りに行ってもらった。
レア装備に関してはターニャが全て俺に譲ると言うのでリッカのポケットに保管してもらっといた。
宿に戻りジョリーとブラットにターニャを紹介し、いつもより少し豪華な夕食を取り酒を飲みながら雑談していると、ターニャが椅子に座ったまま眠り始めたのでその日は早めの就寝となった。
そして、朝食を済ませた俺達は朝から迷宮でターニャに魔法の指導を行っていた。
「そう、そうよ……その調子。焦らないで……。そう、ゆっくりで良いからね……」
「むむむむむ~」
リッカにはターニャの体内で流れている魔力が視認出来ているらしく、魔力の移動経路をターニャの身体に触れながら丁寧に説明していた。
「そうよ、角からゆっくりと魔力を肩に移動させるの」
「むむむ~」
ターニャの耳の後ろからは子供の手の平くらいの大きさの角が長くて綺麗な銀髪を押しのけるようにして生えていた。
魔族と同じ様に魔力を蓄える為の角が生えてはいるのでターニャの父親は魔族だと思うのだが、ターニャによると物心つく頃には既に父親はいなかったとのことなので、父親が魔族だと断定する事は出来ないが、まず魔族で間違いなないだろう。
半人半蛇であるラミアは女性しかいないので種族の中に男性のラミアは存在していない。
なので、ラミアはみな他種族の特性を有して産まれて来る。
父親が巨人族ならば良い体格に恵まれ腕力や体力の強い子供が産まれる。エルフであれば目鼻が整い耳の尖った端正な顔立ちの子供が産まれる。
そして、父親が魔族であるならば魔法の扱いが上手く魔力を蓄える為の角を有した子供が産まれて来る。
何世代にも渡り他種族の特性を引継ぎながら子孫を増やしているので、産まれて来る子供はみな身体能力が高い。なので、ターニャのような子供のラミアが迷宮内を半年近くもうろつき尚且つ迷宮主を一人で倒してしまうのも頷ける。
リッカがターニャの肩から腕をゆっくりと撫でながら
「焦らないで良いからね」
「むむむむむ~」
ターニャは相変わらず目を閉じ眉間に皺をよせて唸っている。
「そう……、その調子よ」
「むぅ……。ん?」
ターニャがパチッと目を開け
「手の平が熱くなって来た!」
「その調子よ、そのままゆっくりと魔力を手の平に集めて」
「む~、むん!」
いきなりターニャの手の平から燃え盛る炎が噴き出した。
「師匠! 手から出せた」
「うんうん。だからターニャなら直ぐに出来るようになるから大丈夫って言ったでしょ」
「ケビン! 見てたか? 手から出せたぞ!」
「おっおう! ちゃんと見てたぞ!」
「むっふっふ! でも……」
腰に手を当て胸を張っていたターニャだったが、直ぐに肩を落とし
「これ難しい……」
項垂れていたターニャが息を大きく吸い込むと
「ぬーーーん!」
いきなり口から大量の炎を噴き出して
「これなら直ぐに出来るのに……」
また肩を落とした。
ターニャは口から炎と吹雪を出すのが得意らしく、迷宮の魔物は全て炎か吹雪で倒していたと自慢げに話してくれた。
俺はてっきりラミア達は竜種のように息吹攻撃も出来る種族なのかと思ったのだが、リッカの話しによるとターニャが見せたブレスは特殊なガスを吐き出し相手に火傷や凍傷といった外傷を負わせるような攻撃ではなく、ただの魔法による現象だと教えてくれた。
更に、口から火球や炎、あるいは吹雪や氷柱といったモノで攻撃してくる魔物達の殆どが体内に溜めたガスによるブレス攻撃ではなく魔法によるもので、竜種も体内に溜めたガスが無くなれば魔法による攻撃に切り替えているんだとも教えてくれた。
項垂れているターニャを見ながらリッカが少し困ったような表情で
「ターニャ。強くなりたいのなら魔力操作はちゃんと覚えないとダメよ」
「難しいからイヤ……」
「初めは誰でも難しいものよ。私も簡単に出来るようになるまで大変だったのよ」
リッカのような魔法に馴染みのある種族だと、幼い頃から魔法を習い覚えて行く過程で魔力を放出する場合は手の平から行うように教わるのだが、身体能力が高く特殊な能力を持つラミアは俺達のように武器を使って戦わず、野生動物や魔物達のように鋭い爪で引っ搔いたり、鋭い毒牙で噛みつくといった攻撃手段になり自然と魔法も口から放つようになるんだそうだ。
更にリッカの話しによると、魔法は練習次第で身体の何処からでも放つ事が出来るようになるし、離れた場所から魔法を放つ事も出来るんだそうだ。
「雷属性の魔法なら大気中に発生させるし土属性の魔法なら相手の足元から発生させたりするでしょ、それに私のポケットだって好きな場所に出現させる事だって出来るのよ」
確かに必ずしも全ての魔法が手の平から放っている訳ではないのだが、より多くの魔法を覚え使えるようになる為には魔力操作はやはり大事とのことなので、リッカはターニャに魔法を教える過程でまずは魔力操作で口からではなく手の平から魔法を放てるように指導していた。
だが、ターニャは今迄とは全く違う魔法の使い方に馴染めなくて少しグズり始めていた。
「むぅ……」
「ねえ、ターニャ」
「ん?」
「もし、口からだけじゃなくて両手からも同時に魔法が使えたらどう思う?」
「カッコイイ! それに強そう!」
「でしょ、じゃあもう一度やってみましょ」
「むぅ……」
いくら強くなりたいからと言ってもターニャはまだ子供だ。地味な練習をずっと集中して続けるのは流石に難しいだろう。ここらで休憩を挟んだ方が良いんじゃないのか? などと考えていると、リッカが一度大きく息を吐くと
「しょうがないわね……」
突然両手に火球を出現させ連続で何発も壁に向かって放った。
立て続けに鳴り響く轟音と共に熱風が室内を駆け巡る。
「どう! 頑張って練習すればこんな事も出来るようになるのよ!」
矢継ぎ早に何発も火球を放ち続けるゴリラに向かってターニャが大声で
「師匠! カッコイイ!!」
と叫びながら長い尻尾を床にバシバシ叩きつけている。
すると、ゴリラが火球を放ちながら口元に笑みを浮かべ
「ターニャ! よく見とくのよ!」
ゴリラがのけ反り口を大きく開けると一際大きな火球を口からぶっ放した。
耳をつんざくような爆音と共に熱波が発生し室温が急激に上昇する。
「ししょーーーー! かっこいい!!」
ターニャが目を見開き手を叩きながら尻尾で床をバッシバシ叩きまくっている。
口から物凄い火球をぶっ放したゴリラが胸を張り白いワンピースの裾を熱風ではためかせている。
その姿は頼もしくもあり物凄く格好良かった……
すると、リッカが肩にかかった髪を手で振り払うような仕草をして
「ターニャもちゃんと練習すればこのくらい直ぐに出来るようになるんだから頑張るのよ」
「はい! あたし頑張りますっ!」
ターニャからの熱い羨望の眼差しを受け微笑むリッカ。
そんな二人の姿は完全に師匠と弟子って感じがしてとても微笑ましかった。




