第25話 ターニャ②
身体能力が高いので魔物をぶん殴って倒しまくっていたリッカ。
魔法の威力が凄すぎて魔物を一瞬で消し去っていたリッカ。
そんなリッカが俺の足元で気を失って倒れている。
何で?
物凄い強さを見せつけていたリッカが……
どうして?
頭から血を流して床に倒れているんだ……
「ケビーン!」
ターニャの声で現実に引き戻される。
「ゴリラが、ゴリラが」
泣きながらリッカの心配をするターニャ。頬は腫れ鼻と口からは血を流していた。
「ターニャ! 大丈夫か!」
「ゴリラがー」
ターニャの元へ駆け寄りそうになるがグッと堪えて室内を見回す。
身体を縛られ身動きの取れないターニャが部屋の中央で転がっている。ターニャから少し離れた場所で武器を構えた三人の男達がこっちを見ている。部屋の奥の壁際では気を失っているのか二人の男が床に倒れていた。
「なんだ~? あいつがケビンなのか?」
「あまり強そうには見えんな」
「あのゴリラは何だったんだ?」
武器を構えた男達が話し始めた。
【斬撃増加】の宝玉が埋め込まれたダガーを装備し【素早さ増加】の宝玉が埋め込まれた革鎧を装備している男が
「ラミアを助けようとしたんじゃね~のか?」
【魔力増加】の宝玉が埋め込まれた杖を装備し【魔力回復】の宝玉が埋め込まれたローブを着ている男が
「となると、ラミアには仲間が存在していたのか?」
【腕力増加】の宝玉が埋め込まれたバトルアックスを装備し【体力増加】の宝玉が埋め込まれた革鎧を装備している男が
「まさかラミアに仲間がいたとはな……。面倒な事になる前にこの場を立ち去るか?」
すると、ダガーを持つ男がニヤニヤしながら
「でもよ~、迷宮内では何が起きるか分からね~んだからさ~。あいつとゴリラを始末しちまって予定通りラミアは売っちまえば良いんじゃ~か?」
コイツ等はターニャを売ろうとしてるのか? そういった連中の存在を話しでは聞いていたが、まさかこんなところで出くわすとは……。
杖を持った男が目を細め俺を見ながら
「見たところ駆け出しの探索者のようだ。魔物にやられた事にしてしまえば問題なかろう」
俺としては出来るだけ事態を穏便に済ませたいのだが、連中はそんなふうには考えていないようだぞ。などと思っていると、バトルアックスを持つ男がその場で首の骨をコキコキ鳴らし
「ゴリラには驚かされたが……。ケビンとやらを見る限り、我々の脅威にはならなそうだな」
と言い、腰を落とし身構えだした。
不味い、俺一人でアイツ等を相手するには荷が重過ぎる……。
足元で倒れているリッカの肩に触れ
「おい、リッカ。起きろ」
軽く肩を揺らすが起きる気配が全くない。
「リッカ。頼む早く起きてくれ」
戦闘態勢に入ろうとしている男達を警戒しながらリッカの肩をゆすっていると、ダガーの男が俺を見て鼻で笑うと
「アイツとゴリラの始末は後回しにして早いとこレア装備を袋に詰めちまお~ぜ」
床に並んだレア装備の方に向かって歩いてゆく。すると、杖の男とバトルアックスの男も俺から視線を外すとレア装備の方に歩いて行った。
男達の意識が俺からレア装備に移ったと同時に、激しい鼓動と息苦しさを感じ大きく息を吸いこむ。
胸に手を当て何度か深く呼吸を繰り返していくうちに息苦しさと鼓動が治まってきた。極度の緊張状態だった俺は無意識のうちに呼吸が浅くなっていたらしい。
とりあえずヤツ等の意識が俺とリッカからレア装備に向いてくれて助かった。
さっきリッカが通路を走りながら室内には迷宮内の魔物よりも断然強い者が五人いると言っていた。床で倒れている二人は放っておくとしても、俺一人で果たして三人を相手に出来るのか?
男達の注意を引かないようにゆっくりとした動作でリッカの肩を強く揺らしてみる。まだリッカは目覚めてはくれない。
ターニャの様子を窺うと、縛られた縄から逃れようと必死にもがいていた。
俺に譲るためのレア装備を床に並べていたから男達に捕まってしまったのか? もしそうなら胸が痛い。
バトルアックスの男が床に転がっていた【衝撃反射】の宝玉が埋め込まれた盾を拾い
「なあ? この盾は俺と相性が良さそうだから貰っても構わんか?」
ダガーを装備した男が
「俺は別に良いけどよ~、鑑定してからの方が良いんじゃね~か? そんな性能が良く分からん盾が欲しいのか?」
「ゴーミとクーズを一撃で戦闘不能にするゴリラの攻撃を防ぐほどの盾だからな」
バトルアックスの男がその場で盾を装備すると、前後左右に動きながら盾の使い心地を確かめる。
なるほど、リッカは【衝撃反射】効果のある盾を思いっ切りぶん殴って吹っ飛ばされたのか……。などと考えていると、ダガーの男が床に並んだレア装備を革袋に詰めながら
「あ~、俺ってば物凄く良いことを思いついちゃったかも~。鑑定料がもったいね~からさ~、とりあえずこいつらに色々試しながら武器の性能を見極めれば良いんじゃね~か?」
杖の男が床に並んだレア装備を眺めながら
「確かに、防具の性能を確認するのは面倒だが、武器ならどんな効果なのか直ぐに分かりそうだな」
男達が物騒なことを言い始めた。早くターニャを助けてこの場から逃げ出さないと不味いことになりそうだ。
ダガーの男が床に並んだレア装備の短剣を物色し始める横で、杖の男が床に並んだレア装備に手を伸ばし
「じゃあ……」
【魔法無効】の宝玉が埋め込まれた杖を掴むと
「この杖を試してみるかな!」
俺に向かって杖を勢いよく振りかざした。
杖の先端が光り室内を明るく照らし始めると、直ぐに光は消えてしまった。
「は? これで終わりか??」
男が杖の先端を見ながら呆けていると、その横でダガーの男が
「なんかものすげ~魔法が見れるのかと思ったのに、ゴリラもケビンもピンピンしてんじゃね~かよ~」
バトルアックスの男が杖の男に近づき
「結局、その杖の効果は何だったんだ?」
「知るかっ!」
杖を激しく床に叩きつけ、ダガーの男が杖の男の肩を叩きながら大笑いしだした。
男達の中に宝玉の性能を見抜ける者がいない事が幸いした。【魔法無効】の宝玉の効果でしばらくこの部屋では魔法が発動出来なくなった。
これで見るからに魔法使いであろう杖を装備した男の戦力は削がれたが……。
バトルアックスを装備している戦士っぽい男は明らかに腕力は強そうだし体格も良く戦闘経験も豊富そうだ。それに、今装備している盾で攻撃を防がれると宝玉の【衝撃反射】の効果でこっちの物理攻撃が全て跳ね返されてしまうので、下手に攻撃が出来ない。
ダガーを装備している盗賊っぽい男は細身なので一見頼りなさそうに見えるが、【斬撃増加】の宝玉が埋め込まれたダガーによる攻撃は脅威だし、革鎧に埋め込まれた宝玉の【素早さ増加】で更に動きが早くなっているだろうから、接近戦では太刀打ち出来そうにもない。
つまり、俺でも何とかなりそうな相手となると、体力も腕力も弱そうな魔法使いっぽい男しかいないってことになるな。
ターニャを見ると必死に縄から抜け出そうともがいている。よく見ると縛られた腕からは縄が擦れて血が滲んでいた。
早く何とかしてあげたいが、俺では返り討ちにされてしまってターニャを助け出せそうにもない。
となると、リッカが目覚めるまでの間は室内を逃げ回って時間稼ぎに徹するしかないのか……。
などと考えていると、レア装備を物色していた盗賊っぽい男が
「ま~ずは~、コイツを試してみようかな~」
【毒】の宝玉が埋め込まれた短剣を掴むと、ニヤニヤしながらターニャに近づき突然ターニャの腕に短剣を突き刺した。
「いったーい!」
ターニャが縄で縛られ身動きの取れない身体を激しく揺さぶる。
一瞬の出来事だったのであっけに取られてしまった。
毒に対して強い耐性を持つターニャならば【毒】の宝玉が有する吐き気や眩暈、倦怠感といった効果はあらわれないのでひとまずはホッとするが、毒の効果が生じないだけで刺されればそれ相応に痛みは生じる。
腕から血を流し泣き叫ぶターニャを何とかして助けたいが、どう考えても今の俺ではヤツ等にはかなわない。
「この短剣はどんな効果だったのかな~」
男がターニャの髪を掴んで顔を覗き込んでいる。歯を食いしばり痛みに耐えながらも眉間に皺をよせ必死に男を威嚇するターニャ。
「そんなに俺を睨むなよ~」
男が短剣をまたターニャの腕に突き刺した。
「いーたーい!」
身体を激しく揺さぶり痛がるターニャを見て男が笑っている。
アイツを倒す力が欲しい。
「おい、それ以上売り物を傷つけるな!」
バトルアックスを装備した戦士っぽい男が怒鳴ると
「うっせ~な~。ちょっと試してるだけじゃね~かよ~」
腕から血を流し泣き叫ぶターニャの様子を笑いながら眺める盗賊っぽい男。
直ぐにでも助けてやりたいのに足を一歩踏み出す事が出来ない。
俺はリッカみたいに子供の頃から強くなりたいと思った事はなかったし、心の底から力を欲するような出来事に遭遇したことだって今まで全くなかった。
「ん~、このレア装備の効果がよく分かんね~な~」
男がターニャの腕に突き刺したままの短剣を左右に動かし傷口を広げた。
「いぃぃたぁぁいぃぃぃ」
痛みから逃れようと激しく身体をくねらすターニャ。
体内で毒を精製する事ができるラミアは捕食や攻撃のために毒牙で噛みつき相手を弱らせたりするので毒に対する耐性が非常に強い。なので、いくらあの短剣で傷つけてもターニャには宝玉が有する毒の効果は生じない。
盗賊っぽい男がまたターニャの腕に短剣を突き刺した。ターニャが更に泣き叫ぶ。
出来る事なら俺が変わってやりたい。気づくとギリギリと歯ぎしりをしていた。
もうこれ以上はターニャの痛がる姿は見たくない。リッカが目覚めるまでの間、ヤツ等の注意を俺に向けるしかないな。
倒れているリッカに目をやるが、ターニャが大声で泣き叫んでいるのにまだ目覚めそうになかった。
こんな状況になると分かっていたら、俺もリッカみたいに力を蓄え強くなろうと努力してたんだろうな。
一度大きく息を吸う。
これから自分よりも強い男達に立ち向かって行くと思った途端に足が小刻みに震え始めた。
バトルアックスやダガーで斬りつけられたら痛いんだろうし、斬られた場所が悪ければ命の危険にもさらされるだろう。
そう思った途端に足だけじゃなく身体も小刻みに震え始めた。
不安と恐怖を取り払うために意識して息をゆっくりと吐くが震えは全くおさまらない。
ターニャが泣き叫んでいる。今助けるからもう少し我慢してくれ。
もう一度リッカに目をやり「早く目覚めてくれよ」とつぶやき震える足に力を入れる。
――色々と力のつく言葉は沢山あるでしょ
――ケビンなら装備品や宝玉の性能を見抜く鑑定能力とかね
ふと、リッカとの何気ない会話を思い出す。
突然火が燈り始めたかのように身体の奥底が熱くなる。
そうだ! 鑑定能力だったら俺は誰にも負けない!!
燈り始めた火は炎となり全身が熱くなる。
気づくと身体の震えは止まっていた。
直ぐに男達の足元のレア装備に意識を集中させる。
武器、防具、アクセサリー色んな装備品が並んでいるが攻撃力を上げた所で戦闘経験が浅い俺では三人の男を相手にするのは難しいだろう。
だったら今の状況を俺でも何とか出来そうな効果を有した宝玉がないか急いで探す。
あった! 使えそうな宝玉が埋め込まれているレア装備が幾つか見つかった!
ターニャ、今から俺がそいつらを何とかする。
だから、もう少し、もう少しだけ耐えていてくれ……




