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第24話 ターニャ①


「おはようございます」


「おはよう! 今日も三人前と肉追加?」


「はい、よろしくお願いします」


 ジョリーに挨拶をし朝食を注文する。


 厨房にいたブラットと目が合ったので軽く会釈し席に着く。


 厨房から肉を焼く音が聞こえ食堂には香ばしい匂いが漂い始めると、俺の腹が早く食べ物をくれと催促しているかのように鳴り響いた。


 グリーンキャニオンで迷宮を探索するようになってからは朝目覚めると物凄く腹が減るようになった。


 自分よりも強い魔物を倒すと身体能力が上がる影響で一時的に食事量が増す事は既に身をもって体験していたが、どうやら自分が直接魔物と戦闘を行わなくても誰かが近くで魔物を倒せば身体能力は上がるみたいで、迷宮探索を始めた頃のように朝目覚めると物凄く体が軽く力がみなぎっていた。


 ちなみに、戦闘はリッカに任せっきりなので俺は全く魔物とは戦っていない。


 俺としては迷宮探索を続けるつもりはないので特に強くなる必要はないのだが……。


 身体能力が上がっていれば実家の畑仕事を手伝う時に捗るから良いのかな?



「お待たせ!」


 ジョリーが配膳台を押しながら


「今日は生ハムとナッツのサラダと野菜たっぷりトマトスープのセットよ」


 サラダとスープをテーブルに置き


「それと、チキンステーキね」


 食欲をそそる香りを放ち美味しそうな焼き色をした鶏肉がテーブルの上に置かれた。


「パンはリッカの分もあるからダメだけど、スープは沢山あるからお代わりしても大丈夫よ」


「ありがとうございます!」


 そして、厨房内にいるブラットに


「いただきます!」


 と声を掛けると、洗い物をしていたブラットがこちらに視線を向けると何も言わずに頷いた。


 先ずはトマトスープを一口頂いてみる。野菜の旨みと優しい甘みが口いっぱいに広がり自然と笑みがこぼれる。


 次はサラダを口に運ぶ。シャキシャキとした新鮮な野菜の食感とナッツの歯ごたえが良い! それに、生ハムの塩味が絶妙なのでこれはパンが進みそうだ。


 今度はチキンステーキを頬張る。肉の旨味と甘くてしょっぱいソースの相性が良く自然と笑みがこぼれてしまう。こちらの料理もパンが進みそうだ。


 美味しい料理を作ってくれたブラットに感謝しつつ一人で黙々と朝食を取り始める。


 朝食を半分くらい食べ進めた頃にようやくリッカが現れ


「ごめん。寝坊しちゃった」


 リッカが申し訳なさそうにして席に着く。


「いや、特に時間を決めて待ち合わせてるわけじゃないから問題無いだろ? それに俺の食事量が増えてるから先に食べ始めた方がリッカを待たせなくて済むしな」


「そう言ってもらえると助かるわ」


 厨房で何か作業をしてたジョリーが


「おはよう! 今から作り始めるから少し待ってな」


「おはようございます。はい! よろしくお願いします」


 何となくだがソワソワしながら朝食を待つリッカを気にしつつチキンにナイフを入れると


「ターニャと仲良くなれるか心配で昨日はなかなか寝付けなかったのよね」


 チキンを切りながらさりげなくリッカを見るが、ゴリラの肌は黒いので目の下にクマが出来ているのか分からなかった。


「多少リッカに怯えてはいたが心配しなくても大丈夫だと思うぞ?」


「そっか~、やっぱり見た目がゴリラだと怖いのかなぁ……」


 チキンを食べようとしていた手が止まる。


 見た目がゴリラだから問題なのではなく、楽しそうに魔物を倒す凶暴なゴリラにターニャは怯えていたのだが……。


「そっ、そうかもしれないな。でも多分大丈夫だと思うぞ……」


「そっか、なら良かった」


 ホッとした表情を浮かべるリッカ。真実を告げなかったことに対して少し後ろめたさを感じつつチキンを頬張ると


「そうだ、手紙を送りたいから今日は転送屋さんに寄ってから迷宮に行きたいんだけど、良いかしら?」


 特に問題ないので俺はパンを手に取り頷いた。


 俺もそろそろ近況報告がてら手紙を送っておかないと母さんが心配しているかもな。


「お待たせ!」


 ジョリーが目玉焼きが乗ったサラダとスープを持ってくると


「目玉焼きはわたしからのサービスよ」


 ウインクしながらリッカの前にサラダを置く。リッカが目を見開き驚いた様子で


「ありがとうございます」


 とお礼を伝えると、ジョリーが笑顔で頷き俺を見て


「ケビン。スープが空だけどお代わりはどうする?」


 急いでチキンを飲み込み


「いただきます!」


 ジョリーが厨房に向かうと、ブラットが野菜のタップリ入ったスープをジョリーに手渡しながらリッカを見て


「嬢ちゃんも遠慮しないでお代わりしろ」


「あ~りがとうございます」


 リッカが苦笑いしているとジョリーが


「朝はちゃんと食べとかないとダメよ!」


 お代わりのスープを俺の前に置きリッカの前にはバナナを置いていた。



 食事を終え、俺たちは転送屋に寄るとリッカは二通の手紙を店員に渡していた。


 ついでに俺もその場で手紙を書き実家に送る手続きを行う。


 俺の村には転送屋がなく隣町に存在している。なので、両親に便りが届くのは二、三日後になると思うが、それでもここから陸路で普通に移動すれば一ヶ月以上は掛かるであろう隣街の転送屋まで一瞬で手紙が届くんだからありがたい。


 今では当たり前に転送屋を利用しているが、昔は手紙を送るだけでも大変だったんだろうな。



 手紙や小包を遠く離れた村や街の送り先に届けてくれる転送屋。


 昔は飛竜や走竜、馬などを使って食料や物資を輸送していた者達が移動するついでに請け負ったり、信頼のおける迷宮探索者にお願いしたりしていたのだが、戦後に普及し始めた転移魔道具によって手紙や小包だけを配送する業者が誕生し、今では生活する上でなくてはならない業種の一つとなっていた。


 転送屋での用事を済ませると俺とリッカは早速ターニャに会うために迷宮へと向かった。


 すると、迷宮までの道すがら、リッカは歩きながら耳元まで手を上げるとハッとした表情をして直ぐに手を下げるといった行動を何度も繰り返していた。


 今迄に目にした事のない仕草だったので気になって様子を窺っていると


「髪がないとこんなにも落ち着かないなんて気づかなかったわ……」

 

 リッカの言っていることが良く分からなかったので、目をパチパチしていると


「この姿になる前は胸くらいまで髪が伸びてたから、緊張してたりするといつも髪を撫でて気分を落ち着かせてたのよね」


 リッカって髪が長かったのか……

 でも、今はゴリラだから短髪だもんな……


「ターニャと仲良くなれるかが心配で全然落ち着けないのよね……。嫌われたりしないかな……」


 そういえば、寝坊した原因もそれだったな。リッカの()()()ってのがどの程度の親密具合なのかは分からないが


「ターニャはリッカと師弟関係になりたいんだから嫌ったりはしないと思うぞ?」


「でも怯えてたんでしょ? 大丈夫かな?」


 確かにリッカの声を聞いて震えてはいたが、そこまで心配する程のことじゃないと思うんだよなあ。でも、リッカはなかなか落ち着けなくて困っている様子なので


「髪じゃないとダメなのか? 腕毛じゃダメなのか?」


「はああ!! 腕を触ったって落ち着けるわけがないでしょ!」


 と言いながらもリッカが腕をさすると


「あっ! 意外と落ち着けるかも……」


 腕をさすりながら歩くリッカはどう見ても毛づくろいをしているゴリラだった。



 腕毛をさすりながら移動し、良い具合にリッカの緊張が解れると迷宮に辿り着いたので、早速出入口に設置してある魔道具を使い七十階層に転移する。


 すると、ターニャが誰かと激しく言い争っている声が聞こえて来た。


――それはケビンにあげるんだ!


――うるせー! 


 リッカがすぐさま明かりを発する魔法の玉を頭上に出現させ通路を走り出す。


――さわるな! ケビンにあげるんだ!


――おい! とりあえず装備するなり袋に詰めるかして全部持って帰るぞ。


「室内には五人。迷宮内の魔物よりも断然強い」


 どうやらリッカはサーチの魔法を発動させながら走っていたようだ。


――ラミアを目撃したって話しを聞いて来てみたが、直ぐに見つかるとは思わなかったな!


――だな! しかもレア装備もいっぱいだしな! 


――ケビンに、ケビンにあげるのー! 


――うるせー! さっきっからケビン、ケビンって叫びやがって! 誰かそいつを黙らせろ!


 突き当りを右に曲がった一つ目の部屋がターニャと待ち合わせに指定した部屋だ。


 どういった経緯でターニャとの待ち合わせ場所に良く分からない連中がいるのかは謎だが、聞こえて来る会話から()()()()()()連中だって事は察しがつく。


「私が何とかするからケビンは部屋の外で待ってて」


 迷宮内の魔物よりも強い相手なのだがら、やっぱそうなるよな。



――ケビンに、ケビンに……。


 突き当りを曲がるとターニャの声と一緒に肉を叩くような音が聞こえた。


 リッカが物凄い形相で俺を見る。


「外で待ってて」


 突風が吹き荒れると同時にリッカが物凄い速さで走りだした。


 あれも魔法なのか?


 部屋の入り口に瞬時に到達したリッカが即座に室内に侵入する。


――なんだ!


――魔物か!


 何かが激しく壁に叩きつけられる音が通路にまで聞こえて来る。


――ちっ!


――ゴリラか!


――ゴリラだ!


 部屋の入り口に辿り着くと同時に腹にズシンと響く大きな音と共にリッカがこっちに吹っ飛んで来た。


 物凄い勢いで背中から壁に激突したリッカが床に倒れ込む。気を失ってしまったのかピクリとも動かない。


「ゴリラー!」


 ターニャが大声で叫んでいるが俺は目の前の状況が理解出来ずに床でひれ伏すリッカをただ茫然と見下ろしていた。


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