第23話 ラミアの子供②
リッカと入れ違いにラミアの子供であるターニャが出て行った事を伝えると、直ぐに追い掛けようとしたリッカだったが、明日またこの部屋で待ち合わせた事を伝えると、とりあえず思い留まってくれた。
ターニャは村を襲ったヤツ等への復讐を果たす為に、迷宮の魔物と戦い強くなろうとしていた。そして、更に強くなるためにリッカに魔法を習いたいと言って来た事を伝えた。
すると、リッカは複雑な表情を浮かべ
「分かったわ。宿に戻りましょ」
と言い、迷宮から出てもしばらく何か考え事をしている様子だった。
途中魔石屋に寄って魔石を換金すると
「昨日借りた分。ありがとね」
リッカから金貨三枚を受け取り背負っていた革袋にしまっていると
「まだ稼いでおきたいんだけど……、ターニャの件が落ち着いてからにしましょ」
少し肩を落としため息交じりに話すリッカ。
俺としては何ら異論はないので
「もちろん構わない。だが、ターニャに魔法を教えるのか?」
すると、リッカは眉間に皺をよせ
「正直なところ迷ってるわ。教える事に関しては造作もない事なんだけど使用目的がね……」
「だよなあ。リッカならターニャを良い方向に導いてくれそうって勝手に考えて安易に請け負ってしまったが、今にして思えば軽率な行動だったと反省してる。すまなかった」
本当に申し訳なく思っていたので素直に頭を下げると
「顔を上げてちょうだい。理由はどうあれターニャを保護出来るんだからとりあえずは良しとしましょ」
すると顎に手を当て
「どちらにせよ、ターニャと真剣に向き合うには状況を確認しておかないとダメね」
「だな、どういった理由で村が襲われたのか、今現在その村がどうなっているのか、生存者はターニャだけなのかってくらいは知っておきたいな」
リッカが一度頷き
「後は襲撃者達が今どこに潜伏しているのかもね」
「なあ、ターニャの村を襲ったのって魔核の密猟者とかだったりするのか? もしそうだとしたら襲撃者を探すのって難しいんじゃないのか?」
「他にも魔獣族を攫って売買する者達もいるし魔獣族を私達の種族と同等に扱う事に異を唱える者達もいるしね……」
困ったぞ、ターニャの復讐って思っていた以上に物凄くややここしい問題に直面しつつあるんじゃないのか?
「そんな難しい顔しないで、確かに複雑な事情を抱えた可能性のある出来事なのかもしれないけど、場合によってはより多くの魔獣族を助ける切っ掛けにもなるかも知れないのよ?」
するとリッカが笑顔で
「うちの家ではね、代々『力は人々の安寧の為に』をモットーにしてるんだけど、そんな家庭で育ったからなのか私も気づいたら色んな人々を助けつつ、穏やかで平和に過ごせる世の中を目指したいって考えるようになってたの」
人々が平和に過ごせる世の中だと? 何かスゲー壮大な話しに聞こえてきたぞ……
「それで、子供ながらに力を蓄えて強くなろうって決めてからはずっと日々努力してるの」
しかも子供の頃から強くなるために努力していただと? 何かリッカが物凄く偉くて立派な人物に思えて来たぞ……
「蓄え強くなろうとしている力は腕力や魔力だけじゃないのよ、語尾に力ってつく言葉は全て本人の努力次第でいくらでも鍛えて伸ばせることが出来るの。体力、知力、財力、影響力、包容力、洞察力、色々と力のつく言葉は沢山あるでしょ。ケビンなら装備品や宝玉の性能を見抜く鑑定能力とかね」
力って聞くと単純に腕力を想像するが、確かに世の中には力のつく言葉は沢山あるな……
「魔族領では今までも私なりに色々と力を使って頑張って来てたんだけど、中には私の行いに異を唱える者や家族もいてね……」
穏やかで平和に過ごせる世の中を目指すリッカに異を唱えるってどんな連中なんだ?
すると、リッカは何かイヤな事でも思い出したのか深いため息をつき
「運が悪いというか単に私の油断が招いた結果なのか……、こんな姿で人族領に飛ばされてしまったんだけどね……」
身体能力が高くて物凄い魔法も使えるリッカには油断も隙も無さそうなもんだが、実際にゴリラの姿にされてリッカはこの人族領まで飛ばされたんだよなあ。
「でも、良い機会だから見聞を広めるついでに人族領で気になる地域に赴いてみたら、私が懸念していたような事はなかったけど私の力を必要とする一人のラミアと出逢える事が出来たじゃない。だから今はターニャの件に力を注ごうと思ってるの」
「ターニャの保護については俺も可能な限り協力するつもりだが、リッカがグリーンキャニオンで気になっていた事って何なんだ?」
しまった! って感じでリッカが目を見開くと
「ごめん。今はまだ詳細は話せないかな……」
今はまだってことはそのうち話してくれるのかな?
「アレか、出来ればあまり詮索して欲しくない類の話しなんだな?」
「うん……」
リッカが申し訳なさそうに頷くとそのまま俯く。
「了解した。リッカが人族領で懸念しているような事が何なのかは聞かないようにする」
「ありがと。でも悪い事を企んでるわけじゃないから心配しないでね」
俺が色々と詮索しなかったからホッとしたのか、いつもの表情に戻り顔を上げた。
リッカにどんな事情があるのか気にはなるがそのうち話してくれそうなので、他に気になる事を聞いてみる
「ジョリー達にはリッカが魔族であることをまだ話してないが、ターニャがリッカから魔法を習う事はどう伝えるんだ?」
「魔族であることは伏せといてメイドにラミアがいるから家で保護する事にしたって伝えようと思ってる」
そして、何とも言えない複雑な表情を浮かべ
「出来る事ならこのまま私の素性は明かさないで接しようと思ってる。本人達とは素性を偽って接するんだから騙すようで気が引けるけど……、人族領ではこのまま獣人族のゴリラって事でケビンには付き合ってもらうわ」
まあ、リッカなりに色々と考えての事なんだろうと思うので
「了解した」
そして、しばらく他愛ない会話を続けているうちに宿に辿り着いた俺とリッカは、早速ブラットが作ってくれた夕食を取り始めた。
「一年前にこの辺りの村が襲われたって話しは聞いたことがないね」
眉間に皺をよせ首を傾げていたジョリーが厨房に向かって
「ねえ、アンタ聞いたことあるかい?」
仕込み中のブラットがこっちを見て左右に首を振る。
するとリッカが
「人里離れて生活している魔獣族が多いので、もしかしたら街の人達でも知らない場所だったのかもしれないですね」
「確かに人が簡単に立ち入れないような場所ってグリーンキャニオンには沢山あるからね。でも、半年もの間よく無事でいてくれたよ……」
グラスに入った酒を見つめるジョリーにリッカが
「彼女達は気配を消す事に長けている種族です。なので魔物に見つかりにくかったことも幸いしてたのかもしれませんね」
ジョリーが片方の眉を上げながら
「うちの人が気配を察知出来ないほどだもんね」
リッカがウンウン頷く。
ターニャはかなり性能の良い【気配遮断】の宝玉が埋め込まれたブレスレットを装備していた。
なので、ブラットでも簡単には気配を探知する事は出来なかっただろうし、魔法の扱いに長けているはずのリッカのサーチにも反応を示さなかったのだから、迷宮内の魔物から見つからずに行動するのは容易だったのかもしれないな。
「それと……、吸血といった特殊能力を有した種族でもありますしね」
ん? 今迄静かに会話を聞いていた俺だったが
「骸骨しか出没しない迷宮の魔物からどうやって血を吸いとるんだ?」
「吸血って能力は厳密に言うと吸った血から養分を吸収してるんじゃなくて、噛みつく事で相手の生命力や魔力を吸収して養分に変えてるの。だから私達みたいに肉や野菜といった食材を摂取しなくても、魔物の魔石から魔力を吸収する事で生きることが可能な種族なの」
「それって、一般的に知られていることなのか?」
「知ってる人は少ないかもね。ほら、ラミアって個体数が少ないからあまり生態を知られていないでしょ」
確かに魔獣族の生態は戦後七十年近く経った今でもあまり詳しくは知られていない。
一説によると本人達が話していないだけで俺達が知らない特殊能力が実は沢山あるのではないか? とも言われていたりもする。
「じゃあなんでリッカはそんな事を知ってるんだ?」
リッカが顎を少し上げると自慢げに
「メイドが教えてくれたのよ」
すると、ジョリーが
「ラミアの子供を保護してうちで面倒をみようって思ってたけど、リッカみたいに身近に同じ種族がいる家庭に引き取られるのなら安心だよ」
「うちのメイドは教育熱心なので躾が厳しくなり過ぎたりしないかが心配ではありますが……、ターニャは我が家が責任をもって引き取らせて頂くので安心してください」
「うんうん。それに六十階層から七十階層の魔物も思っていたほど増加してなさそうだから次回の間引きはラク出来そうね」
「七十階層の魔物に関しては殆ど倒して来ました。昨日から今日まで探索して来た階層の魔物は半分程度に減っていますので、次回は私達が探索してこなかった一階から五十階層を重点的に行えば良いと思いますよ」
少し心苦しくはあるが、ターニャが復讐の為に迷宮の魔物を倒し続けていた事とリッカがターニャに魔法を教える事は伏せたまま話しは終えれそうだな。
すると、ブラットが酒のつまみと酒瓶をもって席に着くと
「一年前にこの辺りの村が襲われたって話しは聞いたことないが、丁度その頃はこの街が魔物に襲撃されてたな」
「そうだった! けっこう怪我人は出たんだけど防護壁のお陰で大惨事にはならなかったんだよね」
リッカが真剣な表情で
「迷宮から魔物が溢れたのですか?」
「いや、何処か遠くで生息していた魔物が移動して来たんじゃないのかって話しだったよ。ここら辺では見かけない魔物ばかりでそれなりに手応えもあってさ、うちらでも倒すのに結構苦労したもんね」
ジョリーがブラットに話しを振ると
「魔物達の生息地域が何らかの理由で変わるからなのかは知らんが、昔っから忘れた頃に何処からか魔物達がグリーンキャニオンの山や森を抜けてやって来る。去年は強い個体が結構混じってたから街のお偉いさん達が国に兵士を要請しようか迷ってな」
「あ~、そうだったね。そんで、うちらが魔物の撃退に悪戦苦闘してたら普段は滅多に戦闘に参加しない十年戦争を生き抜いて来た猛者達が動いてくれて、あっという間に魔物を全滅させてくれたんだっけね」
「初めから戦闘に参加してくれてたら三日もかからず半日くらいで殲滅出来てたんじゃないかと俺は思うんだが、爺さんや婆さんは腰が重いから困るな」
「ちょっと! エルフは耳が良いんだから聞こえてたらどうすんのよ!」
するとリッカが
「その、十年戦争の猛者って方はエルフなのですか?」
「近くで飲食店を営んでるエルフのミーちゃんと魔石屋の主人のジョセフさんよ」
昨日リッカとグリーンキャニオンの景色を眺めながら昼食を取った店のお姉さんか……。
見た目はお姉さんだったが年齢的にはお婆さんになるのかもしれないな、魔石屋の主人は魔族だったが、あの人も見た目はお爺さんってほど老けては見えなかった。
「魔物の襲撃が始まって三日目くらいには街を囲む防護壁にまで魔物が殺到し始めてさ、流石にそろそろ不味いかなって思ってたら猛者二人が防護壁の上から物凄い攻撃魔法で一気に魔物を殲滅してくれたのよね。ここだけの話しだけど、魔物よりも猛者二人に恐怖心を抱くくらいの凄まじい威力の魔法でさ、しばらくはミーちゃんとの会話が敬語になるくらいだったからね」
分かるな~。俺も始めはリッカの魔法を見て怯えていたもんな……。
「畏怖の念ってヤツだな。元々年上だった二人には人生の先輩として常に敬う気持ちは持っていたが、俺もあの日以来改めて爺さんと婆さんには畏まって敬うようになったな」
ジョリーが一瞬顎を引き
「だから、その呼び方は止めなって言ってるでしょ! ミーちゃんの笑いながら怒った姿は本当に怖いんだからね!」




