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第21話 魔獣族


「どうだ? ラミアっぽい反応は見つかったか?」


「う~ん……。もう少し待って」


 白いワンピースを着たゴリラが目を閉じ魔法に意識を集中している。


 朝食を済ませて迷宮に向かった俺とリッカは、迷宮の出入口に設置されている魔道具を使い、六十階層から探索を始めると昼頃にはジョリー達がラミアを目撃したという六十三階層に到達したのだが、ラミアを見つけることは出来なかった。


 すると、リッカが「他の階層に移動してるのかもしれない」と言うので、ラミアを探しつつ魔石を採取しながら階層を進むことにしのだが、六十七階層に到達しても今だにラミアを見つけることが出来ずにいた。


 迷宮内には魔法に意識を集中しているリッカの息づかいだけが聞こえていた。


 昨日迷宮に来た時は軽く目を閉じて直ぐに移動を始めたが、今日は昨日よりも目を閉じている時間が長かった。それだけ、念入りに階層内を調べているんだろう。


「なあ、もう迷宮から出て違う場所に移動してるんじゃないか?」


「うん。でも、もしかしたら……、まだいるのかもしれないから……」


 目を開ける事なく答えたリッカは、空間魔法の一種であるサーチを使って階層内に存在している生き物達の生命反応を確認していた。


 この魔法は発動させると高い場所から階層内を見下ろしたように見え、通路や部屋に存在している生き物は光る点で示される。そして、もし生き物が気配を隠そうとしていたり瀕死の状態だったりすると、示される光点は小さくなり発する光は弱い反応になるんだそうだ。


 なので、気配を消す事に長けているラミアの光点は小さくて微かな光として反応するはずなのだが、ここまで進んできたどの階層でも、それらしき反応を捉える事が出来ずにいた。


「じゃあ、この階層で強そうな個体の反応は?」


 更に、リッカの話によるとサーチで示す光点が大きくて明るい反応の場合は、その生き物が周りよりも強い個体である場合が多いので、リッカからは「ラミアがもし気配を消さずに行動していたら、階層内のどの魔物よりも強いと思うの、だから他と違った反応も念のため確認しておきたい」と事前に相談されていた。


「う~ん……。光点が大きくて明るい反応は五体、いや七体ね」


 リッカが目を開くとゆっくりと息を吐き


「この中にラミアの子供がいれば良いんだけど……。とにかく行ってみましょ。こっちよ」


 急ぎ足で歩き始めたゴリラの後を着いていく。


 通路を進み角を曲がると、前を歩いていたゴリラが片手を上げた。


 俺はその場で立ち止まる。


 ゴリラはそのまま進むと右の部屋に入って行く。


 部屋からは慌ただしく魔物が動き出す物音と唸り声が聞こえて来た。


 そして、空気が張り詰めたような音が聞こえると、風に乗って部屋の入り口から冷気が流れて来た。


「ふん! ふん! ふん!」


 ゴリラの力強い息遣いが聞こえ、物が砕けて床に散らばる音も聞こえて来た。


 氷結魔法で魔物の足元を凍らせ動きを止めてからのぶん殴り攻撃が、昨日からのリッカの攻撃パターンとなっていた。


 俺は迷宮探索を続けるつもりはないので強くなる必要はないのだが、魔法も使えて身体能力も高いリッカを見ていると、ちょっと羨ましいな……と感じてしまう。


「入って来て大丈夫よー」


 室内ではリッカが床に散らばる骨を払いのけながら魔石を採取していた。部屋の奥にも砕けた骨と一緒に魔石が転がっていたので取りに行く。


 今回もリッカは魔物を派手に吹っ飛ばしたようだった。


 魔石をリッカに手渡すと


「この先の角を曲がった三つ目の部屋に大きめの反応が二つあるわ」


「よし、行ってみようって言いたいところだが……。少しは休まなくて大丈夫なのか?」


 リッカが首を傾げるので


「朝からここまでずっと戦いっぱなしだろ?」


「でも……。ラミアの子がいるかもしれないから……」


「目撃したのは半年くらい前だしジョリー夫妻が何度か探しに来たが見つからなかったんだろ、もう迷宮にはいないんじゃないか?」


「でも……。まだ迷宮内にいるかもしれないから……」


 別にリッカが悪い事をしている訳ではないのに、ドンドン委縮してしまっている。ただ、今日のリッカは何処か心に余裕がないというか、少し焦っているようにも感じられたので


「冷たい言い方になるかもしれないが、何でリッカはそこまでして見ず知らずのラミアの子供に対して頑張れるんだ?」


 リッカが少し俯き床を見ながら


「私のメイドがラミアなの……」


 メイドと執事がいるってのは聞いていたが、個体数の少ないラミアがリッカの身近に存在していたってのは驚きだな。


 すると、床を見つめたままリッカが

 

「だから、取り返しがつかなくなる前に出来ればラミアの子を保護してあげたいの」


 なるほどな……。ラミアの子が街中で遊んでて迷子になったんだったら、多分ここまで必死にはならなかったのかもしれないが、魔物が潜む迷宮内をずっとうろついているかもしれないって状況ならば、焦る気持ちも分からなくもないな。


 半人半蛇であるラミアは上半身は人で下半身が蛇の姿をしているが、普通に俺達と同じくらいの知性を持っているので、幼い頃から俺達のような生活様式に触れていれば物事の認識や行動の基準を共有する事が可能だ。


 だが、もしラミアが俺達の文化や常識に触れるずに育ってしまうと、魔物や獣と同じくらいの知性しか育たずに、自分のテリトリーを侵害する相手を攻撃したり、捕食の為に俺達を襲うようになってしまう。


 そうなると、魅了や吸血といった特殊な能力を持ち、身体能力も高く魔法も使えるラミアは、国や地域から魔物認定されてしまい討伐対象として命を狙われる事となる。


 リッカが俯いたままこっちを見ると


「それと、小さい頃にメイドから種族的に色々と迫害されて来たって話しを聞いてたから……」


 視線をそらし下を向くリッカ。


 なるほどな、魔獣族の悲惨な過去も聞いていたのか……。


 一般的に魔獣族と言われている種族は体内で魔核を生成している。


 ケンタウロスならば【筋力増加】【体力増加】【射的増加】【打撃増加】といった魔核を、ラミアならば【筋力増加】【体力増加】【気配遮断】【毒無効】【魅了】といった魔核だ。


 なので、十年戦争が終結するまで多くの魔獣族がレア装備に必要な魔核を採取する為に殺害され滅んだ種族もいた。


 今では考えられない事だが、昔の人達の勝手な解釈によって魔獣族はずっと魔物だと思われていた。


 昔話に登場する英雄が倒した魔物の殆どが魔獣族であろう事は物語で語られる描写で察する事が出来るし、強くて凶暴な魔物を倒して名声を得ようとする者達が昔は少なからずいたが、戦利品として持ち帰った物の多くが魔核だったので、やはりその時に倒された魔物の殆どが魔獣族だった事も窺える。


 それと、親方から魔核の話しを聞いた時に、魔獣族に対して行っていた昔の人達の酷い仕打ちも色々と聞かされた。


 当時はまだ子供だったので、ただの怖い話しって感じでしか聞いていなかったが、ある程度大人になって色んな物事の分別がつくようになると、店に置いてあった装備品の魔核を見るたびに、生前の魔核の持ち主の事を考えてしまい胸が痛くなるのと同時に、とても悲しくていたたまれない気持ちを抱くようになっていた。


 魔物だと思われていた為に常に命を狙われ続けた魔獣族だったが、十年戦争の時に「魔獣族も他種族と共存する事が出来る」と各種族の国王に働きかけたある魔獣族の成果により、大戦終結後には「今後レア装備の作製を一切禁止する」と各種族の国王が宣言し、同時に魔獣族に対しての魔物認定も解除された。


 ただし、話し合いが不可能で交渉の余地のない魔獣族に対しては、こちらに危害を加えて来ない限りは、こちら側からは何もしないで放置する事となった。

 

 そして、大戦が終了してから八十年近く経つが、今だに魔獣族の個体数は他の種族と比べると圧倒的に少なかった。


 特に女子しか産まないラミアと容姿が半人半蜘蛛であるアラクネに関しては魔獣族の中でも圧倒的に個体数が少ない。


 なので、リッカはただでさえ個体数の少ないラミアの子供が将来魔物認定され討伐対象にならない為にも保護したいと考え焦っていたのかもしれないな。


 しかも、身内にラミアが存在していたなら尚更かもな。


 床を見つめ黙っているリッカに


「何でリッカが焦っているのかは理解出来たが、やはり休憩は取った方が良いと思う」


「うん……」


「いくらリッカが強くても飲まず食わずでずっと戦っていたら、いざって時に冷静な判断が出来ないかもしれない」


「うん……」


「だから、やっぱり一旦ここいらで休憩にしよう」


 俺は革袋から干し肉を取り出し


「食べるか?」


「ありがとうね。でも大丈夫」


 するとリッカは土魔法で机と椅子を作り出し


「お茶を用意するから少し待っててね」


 干し肉をかじりながら紅茶が出来上がるのを待っていると


「パンを持ってきたけどケビンも食べる?」


 ポケットからパンを取り出すリッカ。


「ありがとう。いただくよ」


 パンと干し肉をかじりながら


「今日は予定通り七十階層まで探索したら切り上げるんだよな?」


 リッカが水魔法でティーポットにお湯を注ぐと


「そうね、早くラミアの子供を見つけたいんだけど……」


 ティーポットからティーカップに紅茶を注ぎながら


「ジョリーに迷宮内の話しを伝えたいし、家に便りも出しときたいから……」


 紅茶の注がれたティーカップを俺の前に置くと


「予定通り七十階層まで探索したら帰りましょ」


「分かった。紅茶いただくよ」


「どうぞ、召し上がれ」


 紅茶の香りでここが迷宮内だということを忘れてしまいそうになる。そして、一口飲むと身体の芯からジワジワと心地良い温もりが広がって行く。すると、リッカが


「休憩にして正解かも、けっこう張り詰めてたみたいで紅茶を飲んだら身体が凄くラクになったわ!」


 ニコニコしながら紅茶を飲むリッカ。魔物との戦いはリッカに任せっきりで俺は戦いに全く参加してないのだが


「そっか、俺も紅茶を飲んだら少し身体がラクになった気がする。これなら食べたらすぐにでもラミアを探しながら魔石の採取を再開できそうだ」


 ティーカップを両手で持ちウンウン頷くリッカだったが、何かを思い出したのか一瞬目を見開き


「そうだ! デザートがあるんだけど……」


 ティーカップを置くとポケットからバナナを取り出し


「食べるよね?」


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